アニポケ世界で全国図鑑完成の旅(全1025)(ただしパッチールのフォルム違いは除く)   作:ビビリダマ

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5.サクラギ・コハル 12/1025

 

 

 

 ───私自身に、やりたい事はないけれど

 

 

 

    『ポケモン博士の娘』

 

 

 

 何処へいってもそのレッテルが付いてまわって

 

 虚無感、身勝手な期待、それに対する反発

 

 皆、勝手に私に大層なものを期待しないでほしい

 

 夢という言葉は苦手だ

 

 それが自分の全てになる程の激情なんて

 

 私にはわかんなかった

 

 おとうさん、おかあさん、ソウタ、ワンパチが居て

 

 学校の友達がいて、研究室の人達がいて

 

 そして、ゴウがいる

 

 それだけで私は満たされていたから

 

 それを全て擲ってまで叶えたい夢なんて

 

 やっぱり私には分からなかった

 

 分からなかった、筈だった

 

 

 

 

 

 ▲

 

 

 

 

 

「ゴウ?その、久しぶり。コハルだよ」 

 

 果たして今の私は、冷静であろうか。不意を突かれるとはまさにこのことであり、動揺が隠せない。

 

「びっくりしたよ、いきなり春休み中に退学届だして、旅に出ちゃうんだから。おとうさんもゴウが公認トレーナー資格取ったなんて聞いてなかったらしいしさ」

 

 彼女は、つっかえつっかえ、穏やかな、冷静なフリをしつつ、言葉を紡ぐ。

 

 そう、彼女、サクラギ・コハルは私の罪咎の大きな部分を占めている。

 

 彼女はゴウ君の幼馴染で、彼のただ一人の友達だった少女である為だ。

 

 彼女が心を込めて紡いでいる言葉の宛先は、既に私の身体の中には無く、どうしようもないくらいの罪悪感に襲われるのだ。

 

「すまん、すまん。いやぁ、公認トレーナー資格取るので春休み中、立て込んじゃっててさ。学校も旅に出る前に、そう言えばって感じで辞めちゃったから急になって」

 

 こんなところ、だろうか。彼らしさを保ちつつ、彼女を突き放すとしたら。

 

 酷い事、悪鬼羅刹だとどうか罵ってくれ。これ以上、私に関わっても、亡きゴウ君にとっても、コハルさんにとっても碌な事にならない。だってこの旅路は、本当に身勝手な罪滅ぼしでしかないのだ。そして、私は彼を奪った仇そのもの。

 

「……そっか、やっぱりあの日見たミュウを探しに?」

 

「うん、ホントはミュウを最初のポケモンにしたかったんだけど、冬休みにドキュメンタリー番組でさ、伝説のポケモンがいるような秘境を見ちゃったんだよ。どれもすっげぇ過酷でさ、流石にポケモンの力を借りないと物理的に不可能だって気付いたんだよ」

 

「だから、修行の旅に出たんだ。……ねぇ、ゴウ、やっぱりこんなの無茶だよ。ミュウだって大人の人が何百人もいても見つからないんだよ。そんなの将来、私のおとうさんの所で、皆んなでゆっくり調べればいいんだよ。私が先生に無理言って、退学届もまだ止めて貰ってる、だから───」

 

「すまん、コハル。もう決めた事なんだ。今までも、色々な運命だとか、奇跡だとかを語ってきたんだけど、この夢だけはホンモノだ。それは、あの日一緒にミュウを見た、君にしか分からないと思う」

 

 続く言の葉を切り裂いて、私は彼女の瞳を見る。

 

 側から聞いていた両親が、少し嗜めるような諭すような言葉をかけているが今は、今だけは努めて無視する。

 

 どうか、どうか諦めてくれ。君が求める彼は何処にも居ないのだ。

 

「やっぱり、そっか。いつかこんな日が来ちゃうんじゃないかなぁって思ってた。君はきっと、君にとっては窮屈な日常を置いて、広い世界に旅立っちゃう。でもその日常は、私にとっては何にも変えられない、かけがえの無いものだって気付いたんだ」

 

 彼女の瞳が、私の激情に堪える。

 

「私にも、やっとわかった。夢だとかやりたい事。身を焦がすような感情が」

 

 やめろ、その先の言葉を紡ぐな。

 

 だってそれはあまりにも───

 

「───ゴウ。あなたを連れ戻すよ。私が大好きなあの日常へ。うん、決めた。私はこの日常が大好きだからこそ、旅に出る。夢からの帰り道は、きっと私にしか分からないから」

 

 

 

 ツー、ツー

 

 無機質な音が、聞こえてくる。

 

 説得の余地なし、君が勝手にするなら、私も勝手にすると言わんばかりの言葉であった。

 

 ああ、(アルセウス)よ。今からでも、私の精神を破棄・唾棄して、ゴウ君の精神を返してください。

 

 

 ▲

 

 

 最悪の夜、最悪の目覚めであった。正直言って、闇に沈みきっていた私の心をマーシャドーに裁かれて終わると思っていたので、それだけは幸運だったのか。

 

 それとも、マーシャドーは私に死や悪夢といった逃避を許していないだけなのかは分からない。

 

 兎に角、私のせいでコハルさんが何もかもをかなぐり捨ててしまったのだ。

 

 そも、原作の新無印編に於いて、彼女は『やりたい事が無くても、夢が無くても、特別な気持ちが無くても大丈夫』、といった現代の情報社会や家庭環境の影響で夢を見られない子どもに寄り添うキャラクターであった筈。故に、私は私がいなくなったとて、彼女が日常を離れる事は無いと考えていたのだ。

 

 それが、どうしたらこんな事に。

 

 いや、今はそんなことよりどう隠遁するかだ。

 

 迷子メーカー(放送の都合)のサトシ君たちが来たら、一応の合流も考えたが、未だに彼らがニビシティに到着する気配は無い。

 

 思ったよりもトキワの森踏破に苦戦しているようだ。

 

 現在は旅に出てから5日目……待てよ、確か原作タケシ戦のとき、サトシはピカチュウと出会って二週間くらいとか言ってなかったか?

 

 最高に都合の良い解釈をしても、最短であと2日はこの街に来ない可能性が高い。

 

 なんてこった、立ち往生じゃないか。

 

 いや、流石にコハルさんとて、そんなにすぐ来られる訳は無い。

 

 そも、色々な資格や準備、心得が必要なのだ。

 

 そんな訳は───

 

「ゴウ、やっぱりまだいた。死にそうな顔して、どうしたの?」

 

 俯いている私に、最も覗き込んで欲しく無いものが覗き込んできた。

 

「うぇぁぢっ!」

 

「はははっ、驚いてくれたようで何よりだよ。ゴウ君」

 

 あぁ、サクラギ博士が送ったのか。いや待て、そんな事だけで説明出来る筈は無い。

 

「それじゃ、私も、ゴウの旅についていくから。……お父さん、行ってきます!」

 

「ああ、いってらっしゃい。良い旅を」

 

「へ、いや、サクラギ博士、テンポ感早過ぎません?!」

 

 そんな私の静止などつゆ知らず、博士は高笑いと共に車で行ってしまった。

 

「……」

 

 沈黙。

 

「……その〜、ポケモンとかはどうしたの?」

 

 おっかなびっくり、何とか口に出来たのは、そんな見え見えの適当な質問。

 

「ワンパチを連れてこよっかなぁ、とか思ったんだけど、私の都合でお家からから引き離すのはダメかなって。ソウジもきっと寂しがるし。でもポケモンセンターに寄るたびに転送してもらう予定だよ。だから、この前の春休み、君が誘ったのにコソコソ変な事しているせいで来なかったキタカミの里で出逢ったこの子にしようって」

 

 出てきたのは、金林檎、否、色違いのカミッチュであった。

 

 えっ、マメパトとかイーブイとかじゃないの?

 

「キタカミ名物の蜜入り林檎を食べようとしたら、私のだけこの子だったの。色違いだったから店員さんたちも見落としちゃったみたいで」

 

 頭をフル回転させるが、そんな原作エピソードは微塵も思い出せない。間違いなく、私が憑依したことによるとんでもバタフライエフェクトだろう。

 

「そ、そっか。いや〜色違いのカミッチュ、珍しいなー、興味深いなー」

 

「まったく調子いいんだから、まぁいいけど。もう朝ごはんは食べたの?」

 

「い、いや?まだだけど」

 

「じゃあ、取り敢えずご飯食べよ?ポケモンセンターで食べられるんだよね、私初めてだから、色々勝手教えてよ」

 

 いかん、すごい勢いで、日常的な動作に溶け込んでくる。

 

 ……これは遠からぬ未来、クチバシティに立ち寄ったとき、すごい自然な流れで帰宅させられるかもしれない。

 

 そんな事を恐れつつ、私はポツポツと、コハルさんから近況を聞き出した。

 

「いや、なんとなくさ、ポケモン博士の娘なのにポケモントレーナーの公認資格持ってないって事で何か噂される事が嫌で、一応、去年の夏くらいにこっそりとってたの。それがまさかこんな形で役に立っちゃうなんて」

 

 図鑑と共に提示された来歴

 

「学校は休学、間に合わなかったらまぁ退学でもいいけど、授業だけは出来る時間だけでも、リモートで受けようかなぁって。ゴウのお父さんとお母さんってシステムエンジニアだったでしょ?私が学校を捨ててでも旅に出るんだーってなったとき、この端末をくれたんだ。FAXとテレビ電話がくっついた凄いものなんたよ。だから、ゴウも一緒に受けるの」

 

「は、はい」

 

 学校関連。親や教師とも定期的に連絡が取れるような計らい。

 

「ポケモン全部捕まえて、育てるんでしょ?じゃあ手持ちが6匹しか持てないと何年かかっても終わらないじゃない。私も6枠全部"この子は!"って子で埋まらない限り、ゴウを手伝うよ。その代わり、時々でいいから家に帰ろ?」

 

 キチンと考えてきたであろう、私の心の折り方。

 

 その全てが、何匹もの蛇のように私に絡みついてくる。

 

 ゴウの記憶とも私の原作知識とも全く合致しないこの力強い在り方。

 

 私が彼女を突き離そうとした事は、とんだ藪蛇だったようだ。

 

 

 

 

 

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