アニポケ世界で全国図鑑完成の旅(全1025)(ただしパッチールのフォルム違いは除く) 作:ビビリダマ
「いけっ、イワーク!」
モンスターボールの閃光が収まると、そこには威風堂々とした重厚な岩蛇が、蟠を巻きながら佇んでいる。
……ダメだ、今の私には全く勝ち筋が見えない。普通に考えたら、レベリングだとか技構成の見直しだとかを徹底して対策してギリギリ勝てるかどうか、といった具合だろうか。
そんな相手に、コハルさんは、巻き込まれたことへの困惑はありつつも、相手を恐れている、或いは絶望している様子は無かった。
「じゃぁ、お願い!カミッチュ!」
対面は、草タイプを持つカミッチュが有利。ただ、そんな程度で勝てるのならばそもそもジムリーダーなど務まっていないだろう。余談だが、ジムリーダーレベルになると余程ニッチなポケモンでない限り、他地方のポケモンも知っていることはタケシさんの様子から窺い知れる。
「カミッチュ、『タネマシンガン』!」
コハルさんが技の指示を出すことは出来た事に、少し安堵する。誰であれ、初めての対人ポケモンバトルでは戸惑うもの。見てるこちらも勝手に緊張してしまう。
選択したのは草技のタネマシンガン、まぁ無難に相性で攻めるのが上策だろう。
「イワーク、かわして『りゅうのいぶき』!」
カミッチュの特性の『かんろなみつ』で回避率が下がっているにも関わらず、イワークは避けてみせた。……このアニポケ殺法の「かわせ!」コマンドの使用は良くわからない、いや、それとも単にあのイワークがよく鍛えられているだけなのか。
「いぶきに向かって突っ込んで『まもる』からの『まとわりつく』!」
カミッチュは、イワークの『りゅうのいぶき』を弾きながら、瞬く間にイワークの節へ纏わりつき、ダメージを与え始める。
「なっ、ならばイワーク、『しめつける』だ!」
イワークも負けじと、節と節を締めてカミッチュを圧迫しようとする、が。
「カミッチュ!『タネマシンガン』の勢いで脱出して!」
逃す事でも守る事でもなく、あくまで攻撃を加えながら危機を脱した。
イワークとの素早さの差を技の勢いで克服したのだ。
つまり既に彼女は、ポケモンの特徴や技から適切なものを選択して、4つの技枠を考慮しながら即座に判断出来ている。
「イワーク、『ロックカット』だ」
「カミッチュ、『まとわりつく』!」
タケシもいよいよ後がなくなり、乾坤一擲の勝負に出る。何が何でも攻撃を当てるため、素早さを上げてきたのだ。アニポケ世界の素早さや体躯はこういった回避要素にも関係してくるので、ゲームの知識だけで無双するのは殊更難しいだろう。
対してコハルは回避は不可能と判断したのか、接近を選択し、ダメージレースを持ちかけた。
無論、こうなれば攻撃を当てるための手であるロックカットは無駄な一手となり、形勢はさらにコハルに傾く。
「くっ、イワーク、全力で『しめつける』だ。」
「『まもる』……効果が切れたら、イワークの節の隙間に潜りこんで追撃を防いで『タネマシンガン』」
「なっ、これでは『たいあたり』が自分の身体に……、────降参だ」
イワークはさらに一ラウンド分ダメージを稼がれて、予後の追撃すら防ぐ策を打たれた。
まさしく完勝。
成程、才能とはこういうことを言うんだな。
「……素晴らしいバトルだった、コハル。勝利の証のグレーバッチ、どうか受け取ってくれ」
「は、はぁ。えっと、その、今のバトルは……」
「ただ、君に出来ることを示したんだ。すべてのポケモンを集めるゴウとの旅では、きっと強いポケモンや競争相手のトレーナーとどうしても戦わないといけないこともあるだろう。そういう時、君のその資質はきっと役に立つ。……過ぎた老婆心であることは承知の上だ。もちろん、ポケモンバトルの道を強要するつもりは微塵も無い」
「私に、バトルの資質が?」
「ああ、君の指示には迷いが無いし、相手と自分の特徴、状況やルールをよく見ている。普通はタイプ相性すら知らないんだぞ?」
そりゃ……学校で習ったから知ってますけど……と小声で照れ隠しのようなことをつぶやいた後、はっとしたかのようにある言葉を紡いだ。
「いや、待ってください。それならゴウだって相性くらい熟知してますし、わたしなんかよりもよっぽどポケモンに詳しいです。なんで素養が無いなんて……」
「ゴウは確かにポケモンについてよく知ってるし、野良のトレーナーバトルや普通の野生のポケモンに後れを取ることは無いだろう。でも、彼の夢は前人未踏の挑戦、ポケモンリーグで言えば、チャンピオンを目指すことと同じだ。俺が言ったのは、あくまでその夢基準でのバトルの素養は全くない、ということなんだ。でも、そんなこと気にならなくなるくらいゴウも多くの才能に恵まれている」
「────!」
違う、その才は私の物ではなく、亡きゴウくんのものだ。私は彼の資質・努力を横領してこの世界にやってきただけの屑に過ぎない。
いや、もうそんな言い訳に意味は無い。やることはどの道、変わらないのだから。
だから、今、私がするべきことはただ一つ。
「その、コハル、タケシさんの言った通りらしいからさ、バトル、お願いしちゃっても、いいか……?」
罪の上塗りだ。
この世の終わりのような自身への殺意を捻じ伏せて、私は恥も外聞もなく、そんなことを宣った。
「……ゴウったら、そんな軽く言ってくれちゃって、それがどれだけ大変なことかわかってないんだから。……しょうがないな、うん、大丈夫。やってみるよ」
こうなるんだったら、学校でバトル学とか取っておくべきだったなぁ、だとかぼやきつつコハルさんはすっかりその気になっている。
ああ、私はまた、私が私であるせいで、誰かの人生を捻じ曲げたのだ。
「うんうん、ああ、春だなぁ、青いなぁ」
こうしてまた、私の内面以外で綺麗に話が纏まったのだ。
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その晩、教えてもらったお礼がしたいということで、私とコハルさんはタケシさんの家で家事の手伝いに励んでいた。
「なるほど、それでポケモンブリーダーになりたくても旅に出られないと」
「そうだ、だから夢追い人はつい応援したくなってしまうんだ。色々厳しいことを言ったり、急にバトルをさせてすまなかったな」
「いえいえ────」
確か、父親のムノーがひとしきり子供だけこさえた後にポケモントレーナー目指して旅に出て、母がそんな状況で大人数の子供たちの育児に耐え切れなくなって蒸発。おまけに父は夢破れ、家族に合わせる顔が無いとして、帰宅せず影から見守っている。……なんとも惨い話だ。誰も幸せになっていない。いや、女性を不幸にするといった観点なら、私も似たようなものか。
「────ゴウ、お前は何かとても重い悩みを抱えているな。ポケモンをすべて集めたい、っていうのもその悩みに起因するものなんだろ?」
コハルが子供たちと遊んでいて、こちらを向いていない時、タケシはふと、私にそう問いかけた。
「お見通し、でしたか」
「ああ、俺は弟、妹たちをずっと見てきたからかな。何となくわかるんだ、そういうの」
真剣な表情でタケシは、そう私を見つめる。
「……なんて言えばいいのでしょうか、‘’私‘’が‘’私‘’であることが許せない、とでもいいでしょうか。何をしてももう帰ってこないものに対する身勝手な贖罪、上手く説明できませんがこんなところです」
口調も、一人称も10歳の少年であることを辞めて、青年である『私』として彼と向き合う。
「……そうか、多分きっと説明したくても出来ない、とっても孤独なことなんだろう。俺なんかに出来ることはありはしないかもしれないが、少なくとも俺は『君』を知っている。君が捕まえたポケモンたちだってそうだ。『君』は一人じゃない。みんな手伝ってくれるさ」
「‘’私’’が一人でなくなることで、’’彼’’はどんどん置いていかれ、一人になるというのに?」
私が私として生きるということは、ゴウ君が生きるはずだった時間、感情を奪うことに等しい。
「……悪いことをしたと思うなら、謝ればいい。それも出来ないときは、どうか幸せにしてあげるんだ。『彼』とやらが大切だった人達や『彼』の思いを」
「……」
頬を熱いものが伝う、感情が溢れる。私は、タケシさんの深い気遣いに最上の感謝を込めて深く頷いた。