「さて…、どうしたものかしらね。」
朝方の博麗神社にて、霊夢は一人頭を抱えていた。
大寛が見たという異常なもの。それを調査するよう紫から言いつけられたは良いものの、どう調査したものかと唸っているのだ。
『取り合えず、里に下りて聞き込みでもしてみるか。』
そう思って支度をしていると、いつもの顔が神社へやって来た。
「よう、霊夢。」
「あら、おはよう魔理沙。」
「というか、今日は随分と早いわね。悪いけど、朝餉は出してやれないわよ。」
「そんなのハナから期待してないぜ。」
「それより聞いたか?今人里で奇妙な噂が出回っているらしいんだ。」
「その“噂”とやらなんてとっくの昔に聞いてるわ。」
「森から人の声が聞こえるってでしょ?」
「お、なんだよ知ってたのか。」
今のところ里に被害は出ていないが、人々はすっかり怯えてしまっているらしい。
身支度をしている霊夢は、丁度昨晩あったことを魔理沙に話す。
大寛が見たもの、紫から言いつけられたこと。
それを聞いて魔理沙は既に大きい瞳をさらに大きくし、ひと際輝かせて言った。
「間違いない!これは異変だろ!」
「アンタもそう言うわけ?」
「ンだよ、ノリ気じゃないな。」
「何だって良いってだけよ。もし異変なら、いつも通り元凶を仕留めるだけ。」
「取り敢えず、人里まで聞き込みに行きましょ。」
そう言って二人は神社を後にした。
。。。
“森の奥から声がする“
確かに里の人々は皆一様に同じことを話していた。
ただ具体的なものは無く、どうしたものかと話し合っていた二人に、一人少女が近付いてきた。
「あら?霊夢に魔理沙じゃない。」
「鈴仙。来てたの?」
「ええ。贔屓にしてくれているお婆さんの具合が悪いって言うから、薬の補充と様子を見に来たの。」
「それよりどうしたのよ。そんなトコでうんうん唸っちゃって。」
「いやなに。里に出回っている噂について調査をな。」
「お前は何か聞いてないか?」
そう聞かれると鈴仙は顎に手を当て何かを考え、同じような話は聞いていること。
そして、迷いの竹林ではそういった現象には会っていないとも話した。
霊夢が凝視してきてい視線に気付くと、不機嫌な目で睨み返す。
「私が里に手出しするわけないでしょ。そんな不利益になること。」
「それに、またアンタたちにとっちめられるなんて…真っ平ごめんだわ。」
「それもそうか。アンタはそういう質じゃないもんね。」
「何か変わったことがあったら教えて頂戴。」
そうして会話は終わり、竹林へ向かって行く鈴仙を見送った後に元々宛てにしていた少女のもとへ向かう。
少女は里の一角で笑顔を振りまき、いそいそと周囲の人々へ何かしらを説いている。
こちらへ気付いたのか、少々驚いた顔をするとすぐに満面の笑みでこちらに手を振った。
「おはようございます。霊夢さん、魔理沙さん。」
「よお早苗。集客は上々の様だな。」
「もう。信仰を集めるのは集客とは言わないんです!」
「それよりも、お二人が一緒に里に来ているのは何だか珍しいですね。」
「ああ、それなんだけど…。」
霊夢が事の次第を話すと、早苗はすぐにピンときたようで話をしだした。
彼女が言うには、どうやら声の主は森の深部から聞こえてくること。そこまで大人数ではないが、不安に思って厄除けとして信仰しだす人も出てきているらしい。
信者が増えていることを加奈子や諏訪湖は喜んでいるようだが、ここまで不安がっている人々が増えてきていることを不審がっている様子だと難しい顔をする。
森から聞こえる謎の声。その正体を確かめるべく、二人は早苗のもとを後にするのだった。
。。。
「ところで、アンタ此処に住んでるんでしょ?」
「何か見たり聞いたりしてないの?」
「そう言われたってなあ…。」
「もしそんなもの目にしてたら、私だって放ってはおかないぜ。」
人里の近くの森と言えば魔理沙やアリスが居を構えている場所でもある。そんな魔理沙が“噂”と言っている以上結果は明白であった。
周囲を見渡しわいわいと騒ぎながら奥へ奥へと進んでいく。
特に変わった様子もなく、ただいたずらに時間だけが過ぎていく。
森は普段から静かな場所だが、今日は普段以上に静かに思える。きっとそう思うのは異変に関しての調査に集中しているからだろうと自分を納得させつつ、歩く足は先ほどより重く感じた。
無言の時間が続いているが、おそらく隣の魔理沙も集中しているのだろう。勝手知る森で、まるで初めて来たと言わんばかりにキョロキョロと見まわしている。
「ん…?」
魔理沙が声を上げ駆け出し、少し先の場所でしゃがみ込む。
彼女が持ち上げた物は、一つのスマートフォンだった。
「おい、これ見てみろよ。」
「こんなトコに文鎮…?」
「誰かが落としたのかもしれんな。」
上下に揺すったりボタンを押しているうちに液晶が灯る。そこには誰かは分からないが男性の写真が映っていた。
霊夢はそれを見て大寛の持ち物では思ったが、そこに映っていた顔は彼とは違う顔だ。何か言う間に颯爽とスマホをしまう魔理沙。こうなればテコでも動かないのは誰が相手でも同じことだ。
その後森の端まで到達する。此処から先は中有の道だ。
隣の魔女が少し休んでいこうと提案したため仕方なく屋台に行こうと向こうを見たが、今日は随分と閑散としている。
中有の道と言えば普段は屋台が立ち並び死者や生者が交じり合って和気藹々としている場所であるが、今日はと言えば人はまばらで活気がない。
二人そろってそんな様子を眺めていると屋台で買い物をしていた人物がこちらに気づき声をかけてきた。
「やあ。お宅らも買い物に来たのかい。」
「三途の船渡。またサボり?」
小野塚小町。この先にある三途の川で舟渡をしている“死神”だ。
普段サボっては上司である四季映姫に説教を受けている姿を何度も目にしていたため、今回もどうせそんなトコだろうと指摘する。
死神とは思えないような声で「うっ」と一瞬呻いた束の間、すぐに眉を吊り上げ睨みを利かせた。
「いつもそうだと思わないでほしいね。…事実だけど。」
「…違う違う。それよりもさ!」
そう言って大きく身振り手振りをしながら状況を話し始める小町。
どうやら地獄や三途の川では幽霊が少なくなっていることが問題になっているらしい。地霊殿でも、同様の問題を抱えているらしく、彼女はその調査を行うよう上司の閻魔直々の命を受けたらしい。
二人も同様に調査に来たと話す。
「じゃあ、そっちもまだ手探りってことかい?」
「そういう事だな。しかし死者の魂が一斉に姿を消すとは…。」
「大結界異変の時みたく花が咲いてる様子もない。」
「ともかく、地下での事情は概ね把握したわ。」
「何かあったらまた知らせて頂戴。」
小町はそれに頷くと踵を返して行った。
二人は無言のまま帰宅し、行こうとしていた地霊殿が宛て外れということで再度頭を悩ませることとなるのだった。