東方瞑想録   作:+ドライバー

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逃走と保護

「はぁっ……はぁっ……!」

 

暗闇の中を走る。走る。走る。

此処は何処だろうか?

そんな疑問は浮かんだ傍から後ろに流れていく。

 

彼は確かに聞いた。聞いてしまった。

異変の正体が自分である。それはあくまでも幽々子の推測ではあったが、紛れもない事実だろうという嫌な自覚が大寛にはあった。

彼が来てから幻想郷の様子はおかしくなっているというのは紫の言葉であったが、原因が自分であると言われるのは、今の彼にとっては辛く、なにより申し訳ないことだった。

 

外の世界にて自分の死を選んだ大寛はきっと多大な迷惑をかけた。

我が身可愛さで楽になった結果がこれなのであれば、なぜこんなことをしてしまったのかという後悔だけが後ろ髪を引く。

足を止め、呼吸を整える。

一体どこまで来てしまったのかを今一度思考を整理する。

冷静になった頭で整理した現状に、徐々に顔が青ざめていく。

 

つい感情的になって外に飛び出してきてしまったが、いっそのこと幽々子か妖夢に首を切ってもらった方が良かったのではないか。

なんなら、今すぐにでも踵を返して戻るべきなのでは。

色々な思考が錯綜して眩暈がする。ふらふらとしながらたどり着いたのは少しばかり大きな湖だった。

先に出会った“何か”が脳裏にチラつくせいで水場には近付きたいとは思わなかったが、喉が渇いていたこともあってかそのままの足取りで向かっていった。

 

「そこのお方。お待ちください。」

 

背後から声が聞こえる。

先の不安に駆られていたこともあってか、口に含んでいた水は腹底の声と共に吐き出された。

急いで背後を振り返る。そこに立っていたのは船員服とでも言うのか、セーラー服にマリンキャップを被った少女だ。

 

「最近水場には凶悪な妖怪が出没するらしいんです。」

「危険ですから、離れてください。」

 

彼女はオロオロする大寛に颯爽と近づくと、その腕を引いて水から遠ざけた。

彼女が言うには、ここから少し行った場所に彼女が住まう場所があるらしい。また、水はそこで飲ませてくれるらしかった。

道中で聞いた話では、彼女の名前は村紗水蜜。船幽霊という存在で、普段通っているお気に入りの水場に凶悪な妖怪が出没したと聞き視察に来たとのこと。

初めは彼をその妖怪だと思い、尾行して水中にでも引きずり込んでやろうと思っていたようだが、あまりに覚束ない足取りを見てそうではないと判断したらしい。

 

「貴方も喪に臥した方だとは…。数少ない仲間を見つけられてラッキーですね。」

「今晩くらいは泊まっていってください。」

 

話を聞くに、彼女は普段“命蓮寺”というお寺にて修行を行っているらしい。大寛も里に出入りしている頃に名前ぐらいは耳にしていた。

巷では妖怪寺などと囃されているが、実際は人間も属しているようで、妖怪の衝動を修行によって落ち着かせ、いずれは人との共存を目指している。この幻想郷においては比較的異質な理念を掲げている組織の様だ。

そんな理念を真面目に聞いていると、少々驚いたようで村紗は大寛を見た。

 

「そんなに真面目に教えを聞いてくれる人は珍しいですね…。」

「なんだか新鮮ですけど、そんな真面目な貴方なら聖も気に入ってくれるでしょう。」

 

そうこうしている内に、彼女の言う寺に到着する。

厳かな雰囲気の中に感じる異様な気配は、妖怪寺と言われる所以なのだろうか。

その命蓮寺の正門。誰かが立っているのが見えた。

 

「まあ。村紗、そちらのお方は…?」

 

「目的地で見つけた人です。どうやら宿無しらしく…今晩だけでも、と。」

 

そう話を聞いた女性は心底心配している様子で大寛を見た。

思い返せばこうも暖かい目線を受けたのは久しぶりな気がする。と、思いながらも名乗ろうとするが、憔悴していたこともあってか上手く声が出せない。

様子を見ていた女性は村紗に水を持って来るよう頼むと、先にと自己紹介を始めた。

 

「初めまして、ですね。私は“聖白蓮”。」

「ここ命蓮寺で住職をしている者です。以後よしなに。」

 

受け取った水を飲むと少し気分も落ち着いたのか、何とか声は出せるようになった。

久世大寛の名を上げると、聖は納得したように頷く。どうやら外の世界からの人間と言うことで、里を経由して彼女らも話は聞いていたらしい。

夜分遅い時間ではあったが、客間に通され住職と話す場が設けられた。

 

「外の世界から来たということは、今までさぞ苦労しましたでしょう?」

「見たところ、人の身ではないように見受けられますが…。」

 

外の世界で自死したこと、博麗の巫女と連れの魔法使いから空を飛ぶことを教わったこと、白玉楼で生活しながら剣術や精神修行で技と心を磨いていたが上手くいかずに悩んでいたこと。

彼が自分の身の上を話すと、いっそう仏教人らしく強張った顔つきになっていく。

怪訝な目と言うわけではなく、単にこちらの身の上を憐れんでいるようにも見える。

やがて眼に涙を溜めた彼女は「よよよ」と、まるで漫画でしか見ないような泣き声を上げながら客間で夜を明かすよう提案してくれたのだった。

 

。。。。。

 

翌朝、あわただしく廊下を走る音に起こされ目を覚ます。そういえば、昨夜は命蓮寺で眠らせていただいていたのだ。

起きてからすぐに外に行く準備を始める。いまだ白玉楼に戻るかどうか決めかねているのは、こんな状況でも何処か事態を甘く見ている自分のせいだろう。

 

そうこうしている内に帰り支度をしている音を聞いたのか余程慌てていたのか、ノックもなしに聖が部屋に入ってきたため、思わず悲鳴を上げる。

彼女は深く頭を下げていたが、女性が多いこの寺では仕方があるまいと水に流すことにした。

 

「もし宜しければ、ここで修行を積んで行っていただくのはいかがでしょう?」

 

寺での修行と言えばおそらく禅を組むことかと思っていたが、どうやら彼女が言うにはそれとは別の修行法があるらしい。

後ろめたさがある彼にとってはうってつけとのことだが…、一宿一飯の恩も果たせぬままそそくさと帰ろうとするしかできない身である以上、これ以上恩を頂くことは出来ないと返す。

 

「貴方の様な迷える方が後ろめたさを克服して健やかになっていただけることこそ、私たちへの礼になるのです。」

 

などと言い出す始末。

何たる善人っぷりに、もはや後光すら見え始めている。

その後何度か問答を繰り返し、段々と増えていく向こうの人数に気圧され最終的には首を縦に振るのだった。

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