「幽霊の数が減ってきてるって聞いたけど、アンタんトコは大丈夫なの?」
人里にて妖夢と遭遇した霊夢は、茶屋の外にある長椅子に腰かける。
幽霊の減少は以前に小町が口にしていたが、冥界で異常が無いのか気になっていた霊夢は、ついに妖夢を捕まえて問うことに成功した。
「確かにそう言われると…少なくなっている様な…?」
「様なって、そんなんで大丈夫なの?」
「仕方ないでしょ。幽々子様のお世話にプラスして、今は彼の修行も手伝ってるんだから。」
「自分の仕事だってあるし…アンタみたいに暇じゃないのよ。こっちは。」
「ほーん。修行なんてしてるの?」
「剣術に精神修行に、バタバタしてるわよ。」
「結構なことで。」
食べ終わった団子の串を咥え揺らして遊んでいると、珍しい人物が目に入る。
顎に手を当て野菜と睨めっこをしている人物は、紅魔館のメイド“十六夜咲夜”だ。
此方に気づいていない様子の彼女に近づくと、視界の端に入った紅白の服に目線を向けた。
「珍しいわね。こんな昼間に買い物?」
「巫女に剣士なんて、そっちこそ珍しい組み合わせなのではなくて?」
咥えられた串を見て露骨に嫌な表情を見せ奪ったかと思うと、直後に串は簪のように後頭部に刺さっていた。思わず唸って引き抜こうとする間抜けな姿を横目に、咲夜は妖夢の方に声をかけた。
「で、二人して何の用?今忙しいのだけれど。」
「用があるのは霊夢の方ですけど…そちらでは、何か変わった様子はありませんか?」
「変わった様子…ねえ。」
顎に手を当てしばし考えるそぶりを見せると、思い返せばと言った表情で掌を打った。
「そう言えば最近、妙な客が多くて困ってるわ。」
「今のとこ門番だけで事足りてるから、誰も気にしてないけどね。」
「紅魔館に客人なんて、珍しいですね。」
「でしょう?」
「ただ、普通の人間や妖怪とは一味違うようなの。」
咲夜が言うに、その珍客の特徴と言えば現実味の無い半透明な姿で掴み処の無い存在なのだとか。
弾幕が通用せず、勝負にも乗らない。幸いなことに、紅魔館の門番が使用する氣に対しては滅法弱いため彼女に任せきりになっているようだ。咲夜の使用するナイフも効かないわけでは無いが、今は明確な対抗策になる美鈴が出ずっぱりになっているらしい。
「アイツは門番以外の仕事が出来て張り切ってるけど、任せきりになるのは不安があるわね。」
「…それ、もしかして幽霊だったりしません?」
半透明で掴み処が無い上に物理的な干渉が利き辛い。それは幽霊の特徴と一致している。
もしや幽霊の行き場が何かの拍子に狂ってしまったのではと考察する妖夢に、咲夜はなるほどと再び掌を打つ。
対応を頼む咲夜であったが、それを冥界の。それも一従者が決定できるものではないと話す妖夢に、すぐ横で話を聞いていた霊夢が口を開く。
「それを聞くなら、直接管理してるトコに行った方が良いんじゃない?」
「うーん…。」
霊夢の言う管理をしている所というのは閻魔が居る地獄は“是非曲直庁”だ。
とは言え映姫と会うのを良しと思わないのか、妖夢は腕を組んで唸っている。
片や咲夜はと言うと、話を聞かずに野菜をいくつか購入すると、しれっとした表情で投げやりに二人を見た。
「もしそうするなら、今回は貴女たちに任せるわ。」
「私は仕事があって忙しいの。なる早でお願いね。」
「私だって仕事がありますよ。そこの暇人と同じにしないでください。」
「さっきから暇人暇人うるさいわね。」
咲夜は面倒ごとに巻き込まれるのは御免被ると言いたげな表情でその場から瞬時に姿を消し、霊夢はキッと妖夢を睨むと「どうするのか」と詰め寄る。
妖夢も負けじと睨み返し、静寂だけが辺りを包んでいた。が、じきにその静寂に耐えかねた妖夢は観念した様子で力なく首を縦に振った。
「うむ。」
結果的に折れた妖夢に力強く頷くと、先に行っていると言って飛んで行こうとする霊夢の足が掴まれる。体勢を崩しかけ転びそうになるが、済んでのところで片足を地面につけた。
「と言うか、そもそも貴女一人で行ったら良いじゃない?」
「…。」
「一人より二人いた方が説教も短くなるでしょ?」
「道連れにしようとしてるの!? 勘弁してよ!」
やいのやいのと言い合う二人の周りに徐々に人だかりができ始めると、双方まずいと思ったのかそそくさと里の外に向かおうとする。
しかしそんな人ごみの中、たった一人の声で二人は後ろ髪を強く引かれるのだった。
「人里の中で大々的に声を荒げて言い合いとは。随分な身の上ですね。」
「うっ。」
「げっ。」
声を出した人物。それは紛れもなく四季映姫ご本人であった。
本当は聞きたくないと思っていた声が突如として聞こえてきたものだから、反射的にツカツカと速足でその場を離れようと歩を早くする。何人かが霊夢に慌てた様子で声をかけようとするが、それに気付かず先を急ぐ。
背後から射殺すような尋常ではない気配を放っているのは間違いなく二人が会いたがらない説教を趣味にしている様な人物だ。捕まってしまえば質問どころではない。
。。。
「つい逃げてきてしまった…。」
「全く、相変わらず神出鬼没な奴。」
「そう思いますか?」
「「ウワァーーーッ!」」
だいぶ離れたつもりであったがすぐ後ろをついてきていた地獄の門官は相変わらず眉を吊り上げて二人の間に立っていた。
背を向ける二人の後ろ襟を掴み不敵な笑みを浮かべる映姫は、そのまま引きずりながらどこかへ姿を消す。
悲痛な声が徐々に小さくなっていくのだった。