東方瞑想録   作:+ドライバー

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地獄と里と館と

「全く…人の顔を見て逃げ出すとは、失礼とは思わんのですか。」

「片や博麗の巫女。白玉楼の従者に至っては言語道断です。」

 

「「すみません…。」」

 

映姫に捕まった二人はそのまま地獄へと連行され、図らずも是非曲直庁にたどり着くことができた。とはいえ、要件があった当の閻魔は相変わらず吊り上がった目で正座する二人を睨みつけている。

バツが悪いとは思っているが反省はしていない様子を見て、映姫は特段大きなため息を吐くと、彼女らが求めている質問への回答へ話題を移した。

 

「幻想郷に起きている異変に関して調査しているようですね。」

 

「ええ。アンタなら何か知ってるんじゃないかと思ってね。」

 

「紅魔館の従者から聞いた話では、周辺で幽霊に似た何かが目撃されているそうです。」

「住人らも原因は不明だと言っていましたが…関係があるのは間違いないかと。」

 

二人の言を聞いて頷くと、外の方に目をやり

「確かにその通りかもしれない」

と呟く。

どうやら地霊殿の方でも度々話題が上がってきており、死体が転がっている事が少なくなって地獄跡の温度管理にも影響が出始めているようだ。

 

死人が少ない。という事自体を悪しく言うつもりはないが、地獄の寒冷化は直ちに影響はなくともいずれ地上にも影響を及ぼす可能性がある。

水質や農作物。最悪の場合は幻想郷に生きる全ての存在の存続に関わる事態になりかねないと話す映姫。

 

「何か策は無いわけ?」

 

「調査中であるため、今は何とも…。」

「もしお話であった紅魔館の周辺に居る存在が霊や死体であれば、それを戻すことで解決にはなるかもしれません。」

「ただ…疑問に思うことが。」

 

幽霊と死体。

幽霊とは言わば魂そのものであり、ほぼ必ずこの是非曲直庁に辿り着き裁きを受ける。

しかしその数も、あまつさえ死体の数すら減っていると言う。

仮に紅魔館の周辺で出現している存在が魂であるというのであれば、肉体は何処に行ったのか?

死体であれば、魂は何処に行ったのか?

 

映姫はゆっくりと振り返り二人を見る。

目を見るだけで現状に困惑しているのは明白だった。

 

「これは…何かしらの“異変”と言って差し支えないでしょう。」

 

。。。

 

「…?」

 

普段通り布教のため人里に降りてきた早苗は、ざわざわと騒ぐ人々の集団に目を向けていた。しかし、その声色は色めきだった楽し気な様子はない。

気になっている彼女の肩に、誰かが手を置いた。

身体を跳ねさせて後ろを振り向くと、そこに居たのは永遠亭の薬師見習いだ。

 

「鈴仙さん。」

「あれ、どうしたんですか?」

 

「アンタ今来たトコ?結構話題になっているわよ。」

「なんでも“失踪者”が出たって。」

 

「失踪者?」

 

鈴仙も詳しく事情は知らないと前置きしつつ事情を説明する。

先週まで重篤状態にあった複数人が、今朝になって突然“全員”姿を消したとのこと。歩けるような状態でもない者が何処に行ったのか…という事で騒然としているらしい。

現状は夜間に妖怪が来て連れ去ったと言われているが、その話を打破する“幻想の巫女”は今現在不在の様だ。

 

「贔屓にしてくれていたお婆様も、姿を消してしまったらしくて…。」

 

早苗は少しの間眉間に手を当てて何事かを思案しているようだったが、やがて意を決した顔つきで群衆に向けて歩みを進めた。

 

『忽然と姿を消した人間。その正体が妖怪…?』

『確かにその線はあり得るけれども…、一切の抵抗なく、ご家族にも悟られずに連れ去るという芸当が可能なのかしら?』

『これは神隠しにも似ているけれど―――』

 

後ろで見ていた鈴仙はその背に向けて声を投げる。何をするかそれとなく理解してしまったからだ。が、こうなってしまっては守矢の暴走機関車を止める術は無い。

 

「皆さん!」

 

早苗が声を張り上げると、一斉に視線が彼女に向けられる。中には博麗の巫女でないことに残念がっている者も居るようだが、それにはあえて目を向けずに続けた。

 

「此度の名状しがたい状況、大変心配なことと存じます!」

「ですが、この守矢神社の風祝“東風谷早苗”の名に懸けて!」

「かならずやこの状況を打破して見せましょう!!!」

 

あまりに突然な宣誓ではあったが、状況が状況なだけに声が裏返るほど力強く宣言する彼女に向けられる目は、先ほどまでの様子とは違う。

余程心配だったのか、周囲の者たちも神に拝むように手を合わせ跪く者まで現れる始末。まさしく現人神とはよく言ったものだと思いつつ、関わるまいと民家の影に隠れていた鈴仙はそこからその姿を見ていた。

 

『ははあ、相変わらず突飛で目立ちたがりな奴ねぇ。』

 

踵を返す早苗はフンフンと鼻息荒く、肩で風を切って歩いて来た。

 

鈴仙の元に。

 

「え、なんでこっちに来てるわけ?」

 

「なんでって。一緒にやるんですよ、異変解決。」

 

「……は?」

 

まさか面倒ごとが自ら歩いて来るとは思いもしなかった鈴仙は面食らっていたが、彼女の言っていることを咀嚼している内にその不味さに気付いた。

吐き出すように腹底から情けない悲鳴を上げその場から逃げようとするが、がっしりと掴まれた腕は離されることは無い。

 

「さあ!まずは加奈子様達に相談に行きますよ!」

 

「イヤ――!離してよ!ちょっと――!!」

 

無理やり引きずる音と共に木霊する声は守矢神社に着くまで止むことはなかったという。

 

。。。

 

紅魔館の中にある大図書館。そこには非常に貴重な書物が山のように眠っているという。

貴重な物には鼠が食いつくとは言うが―――

 

「書物に食いつく鼠は、随分大きいのね。」

 

「誰が鼠だ!誰が!」

 

「狙うのが本だって言うなら、紙魚ってとこかしら。」

 

「おい、コラ!」

 

人里から戻って来た咲夜を迎えたのは何時もの窃盗犯だ。その場で拘束された魔理沙は別室に拘束され、盗もうとしていた書物も元に戻された。

何とか拘束を外そうと藻掻いていた彼女だったが、疲れてきたのかやがて抵抗をやめた。

 

「毎度毎度…良くもまあ、そんな堂々と入って来るものね。」

 

「まあな。門番が居ないようなモンなのは今に始まった事じゃないだろ?」

 

「それもそうか。」

 

頬に手を当てて困ったようにため息を吐く。当の門番と言えば、日夜問わず周辺の哨戒やら異常者の対応に追われているようだ。そのため、門番不在の状態が生まれてしまう状況が起きてしまうに至っている。

魔理沙も周辺の状況が気になっている様子だ。何事か起きているのは確実だろうと、しつこく質問をしてきた。

そのしつこさに根負けしたのか、ついに咲夜も観念して状況を説明することになった。

 

「半透明で弾幕の効かない相手…ねえ。」

 

「どう?周辺の掃除をしてくれるなら、自由にしてあげても良いけど。」

 

「私を良いように使おうってのか?」

 

黙って突きつけられるナイフに臆せず睨み付ける。どうやら拒否権は無いらしい。

ため息をつく頃にはパッと外に放り出されていた。

文句の一つでも言ってやろうと後ろを振り返るが、既にそこには誰も居らず。

 

「全く、人使いの荒い奴だぜ。」

 

そう愚痴をたれながら空に高く飛んで行くのだった。

仕方あるまいと空を飛ぶ。門番とやらは急に警備の心に目覚めたのか、そこかしこに戦闘痕が残っているのが確認できる。ただそれは奇妙なもので、館周辺や勿論のこと木々すら傷をつけずに獲物を仕留めているようである。

流石は庭師も兼任していると言ったところ。草木に対しては一層労っているとでも言うべきか。

 

『どれ、ちゃちゃっと済ませて帰るとするか。』

 

そう言って周辺を飛び回ってはいるが、特に変わった様子は無い。と言うよりも、既に掃除されて行っているため出番がないと言う方が正しいか。

ひと段落したようで、木陰に座り込んだ門番の元へ向かって行く。

 

「よ。お疲れさん。」

 

「おや、貴女も居たのですか?」

 

「生憎、メイドに捕まってバイトに来た所だ。」

 

紅美鈴。先も言った通りここ紅魔館で門番をしている。とはいえ、普段の仕事ぶりと言うのは丁度目の前に居る少女が“窃盗常習犯”と呼ばれている時点で察することができるだろう。

美鈴は魔理沙のことを見ると心底呆れた表情を浮かべた。

 

「よくもまあ、そんなに何度も侵入して…飽きませんか?」

 

「全くだな。知識の宝庫は活かさにゃ失礼だろ?」

 

「それは誰に?」

 

「偉大な先人様にだ。」

 

そう軽口を何度か交わすと、ふと美鈴は思い出したように懐から何かを取り出し差し出した。

いかにも高級そうな装飾が凝らしてある女性用の櫛。持ち主は不明だが、突然そんなものを突き出されたのだから魔理沙は困惑した様子で口を開いた。

 

「……良い櫛、だな?」

「お前の私物?」

 

「そんな訳ないでしょう? 私のはこんなに凝った装飾の無い普通のやつです。」

「…ではなく、奴らを倒した時に落ちてまして…何か心当たりがないかと思ったんですが。」

 

「うーん…、分からんな。」

 

「取り敢えず」と言いながら押し付けられそれを受け取ると、櫛を一通り見てみる。

魔力の一切を感じさせないそれにマジックアイテムとしての価値は見いだせないが、中々どうして価値が無いとも言い切れないその物品の雰囲気。

里の人間の私物?と考えながら、一先ず里に戻ることとするのだった。

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