東方瞑想録   作:+ドライバー

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出現

大寛の体から魂が既に無くなっている?

幽々子の口から飛び出した言葉は理解しがたく、また事実だとしても受け入れがたい事だった。

静寂に耐えかねた聖は、明らかに動揺した様子で詰め寄る。

 

「どういう事ですか…!? 彼の魂が既にないとは!」

「では今の彼は何だと言うのですか!?」

 

対する幽々子の表情は変わらない。

まるで何かを張り付けたように、表情一つ変わらない。ピクリとも動かない。

その不気味な様相に、思わず聖もたじろぐ。

 

「先ほども申した通りでございます。」

「今の彼が何者なのか。それは“私にも理解しかねる”。」

 

睨み合う両者の間。ゆっくりと境界が開く。

様子を見ていたのか、そこから現れたのは八雲紫だ。

彼女は

「そこまで」

と言って仲裁に入ると、二人の顔を見比べて口を開いた。

 

「事態が急変したわ。」

 

興奮した聖とは対照的に、冷たく突き放すような幽々子。その両者とも、新しく来た客人を見つめる。

 

。。。

 

「む…?」

 

閻魔の説教から解放された霊夢と妖夢。両者はようやく里に戻ってくることができた。が、そこで漸く里の異変に気付くことができた。

日常的に里に来ている霊夢にはすぐに何が起きているかを察し、近くに駆け寄ってきた者が口を開く者に何が起きたのかを問いただす。

彼女はそこで里から失踪者が出たこと。守矢神社の巫女が調査に名乗りを上げたことを知った。

 

失踪者の居宅を尋ねるが室内は驚くほど綺麗で、親族も起床するまで一切異常には気付かなかったと話す。

 

「どういう事…? 急に姿を消すなんて。」

 

「重篤者に限る話と言うところも気になるわね。」

 

粗方聞き込みをした二人は、里の一角で情報を整理していた。

 

・失踪したものは危篤状態にある者

・室内に荒らされた痕跡や妖怪の気配は無く、里の外にも変化はない

・親族は起床するまでその異常に気が付かなかった

・失踪者は合計で20人。それが“一晩で”姿を消した

 

「紅魔館周辺での幽霊?とも関係しているかもしれないわね。」

 

「ううむ。それもあり得るわね。」

「…ともかく、私も調査をしないと。」

 

「私も手伝うわよ。乗りかかった船ってやつだし。」

 

そうこう話している間。また少女が一人里にやって来ているのに気付いた。

霧雨魔理沙だ。彼女は何かを手にしてそこら中をキョロキョロと見渡している。

そうして霊夢たちを見かけると、小走りで向かってくるのだった。

 

「よお! 妖夢も一緒とは、珍しいな。」

 

「魔理沙。どうしたの?」

 

彼女は紅魔館で受け取ったと話す一つの櫛を取り出した。

記名は無いが装飾が施されたそれを見た二人は、誰かの物品かもしれないと声をそろえる。

状況をイマイチ掴みかねている魔理沙に改めて説明すると、新しく一人増えた面子で住宅を回ることになるのだった。

 

結果として、櫛は失踪者本人の持ち物で間違いなかった。

持ち物が戻って来た。それは一見して嬉しい事ではあるが、同時に“もう被害者が戻ってこない”事を暗に示すには十分すぎる物だ。この一件を通して、里はより深い不安と混乱に落ちてしまう事になるのだった。

 

。。。

 

「…ねえ。」

 

「? どうしました?」

 

遠ざかっていく守矢神社を見ながら、尚も掴まれて離されない襟を解く気力も尽きた頃、鈴仙は早苗に対して声をかけた。

守矢の二柱は詳細を知らず、参拝する者の中から聞いたことは有れども彼女たちより詳細な情報は持っていなかった。

それよりも引き回されて見るに堪えない姿の兎の方にばかり目が行ってしまっているようであった。

 

致し方無いと二人に

「今日は遅くなるかもしれません」

とだけ告げて後にする。

 

「アンタだけ保護者に要件伝えて調査しようとしてるけどさ。」

「私も仕事があるんだけど。」

 

「保護者じゃありませんよ!」

「お二人とも、私が使えるべき御柱なのだから!」

 

「ちっ…近いって! 分かったから!」

 

ズイと顔を寄せて話す早苗に引きながら口を開く鈴仙。とはいえ、どうやら話は聞いていないらしい。相変わらず襟は掴まれたままだし、話してくれる様子もない。

後でどう永琳に言い訳しようかとばかり考えながら、今はこのブレーキの無いスポーツカーに乗るほかないと腹をくくるしかないのだった。

 

妖怪の山を下りた先は魔法の森。噂の根城になっているであろう場所だ。

調査をするならばまずはそこからだろう。

 

「でも、先に霊夢たちが調査してるんじゃないの?」

 

「あれから少し経ってますしね。改めて、と言う部分もあります。」

 

じゃれ合いながら山を下りて森に着く。相変わらずジメっとした嫌な空気が充満しているこの森は、現人神でありながら人間である早苗は勿論のこと妖獣である鈴仙にとっても決して居心地が良いものではない。

とは言えああも堂々と宣言してしまった手前、此処まで来て何もせずに帰るわけにもいかない。

鈴仙の波長を操る能力を用いた上で森の中を調査していく。

 

「ん…。」

 

前に進もうとする早苗を引き留める。どうやら彼女は何かの波長を感じ取ることができたようだ。

唇に指を添え、静かにするように指示する。

耳を澄ます鈴仙の目は、確かに赤く光っている。何かを感じ取っている証拠とでも言うべきか。

 

「何か居るわ。間違いない。」

 

彼女が指さす方向は、丁度進行方向を指していた。

 

注意深く慎重に、されども素早く移動する。草を、葉を掻き分け、くれぐれも慎重に。

辿り着いた場所。少しばかり開けた空間に、誰かが倒れている。

 

人間だ。服装からして人里の者ではない。

「保護しなきゃ」

と意気込む早苗制止する鈴仙は、感じ取った波長が眼前のそれから発せられるものでは無いことを示した。

 

『何かおかしい。決定的に…。』

『でも、この違和感は―――』

 

直後、背後から一閃の風が吹く。

済んでのところで異変に気付いた早苗は鈴仙を突き飛ばし、それが功を奏したのか風は二人の間を凪いで行く。

鎌鼬?

そう見紛うにしては、その風はあまりにもどす黒く淀んでいる。

 

咄嗟に風の流れてきた方向を確認した方向へ目をやり、そして愕然とした。

まるで腐ったように生気を失った木々はくたばった様に葉を散り散りにさせ、枝の先からはドロドロと何かを垂らし、それに触れた地面も徐々にその色を黒く染めて行っている。

 

「漸ク…見付ケラレタ…。」

 

声が森の中に木霊する。

その声は間違いなく、先ほどの風から聞こえるものだった。

 

波長を感じ取る鈴仙と現人神として神力を持つ早苗。

その両者は同時に、されども瞬時に、その風が先ほどまで倒れていた人間に集っているのを感じ取った。

だが感じ取ったそれは、幻想郷に遍く全てとも違う異様な感覚。

まるで“穢れ”が姿形を持ったような不気味さ。

 

背筋が凍る。

どうしようもなく悪寒がする。

 

そうして風が止んだ瞬間。

空は暗く、今にも落ちてきそうな色に姿を変えた。

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