東方瞑想録   作:+ドライバー

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空を飛べない亡霊

紫との邂逅を果たした後、彼女を通じて寺子屋では学べない幻想郷の様々を耳にした。幻想郷のルールやら何やらはそこで聞くが良いらしい。

彼女から地図を手渡され、大寛はとある場所に向かって歩を進めていた。

地図とは言ったものの、それは大雑把に書き殴られた分かりづらい一枚の紙片。幽々子や妖夢から補足してもらい、やっとの思いで場所が分かる程度の地図になった。

曰く幻想郷にとって要となる場所となっているらしい。

 

「此処を直進して、階段を…。」

 

などと独り言を言いながら歩いていると、僅かに風が揺らいで頭上を誰かが通って行くのが陰で分かった。

見上げた先にいるのは白黒のヒラヒラした服を着込み、箒に跨った少女。ぱっと見"魔女"のような印象を受ける。

彼女もこちらを見ていたのだろう。彼と目が合うとニヤリと不敵な笑みを浮かべ、真っ直ぐ此方に向かってくると眼前で止まった。

 

「よお、見ない顔だな。」

 

金髪の少女は眼前まで迫るや否や、喧嘩腰の様な口調で話しかけてきた。

不思議そうな顔で顔や服を見ていると、訝しげに口を尖らせて此方の反応を指差した。

 

「人の顔と服ばっか見てないで、自己紹介くらいしたらどうだ。」

 

「え、ああ。久世大寛です。」

 

「お前が大寛か。話は紫から聞いてるぜ。」

「私は"霧雨魔理沙"。魔女をしてる。」

 

「なるほど、魔女の方。それらしい格好をされていると思っていました。」

 

「はは。様になってんだろ?」

 

此処にくる前に幽々子から彼女の名前を聞いていた事もあり、特に驚きは無かった。

霧雨魔理沙。これから向かう博麗神社の巫女、博麗霊夢の友人で“非常にお喋りな小娘”と彼女は言っていた。

 

『なるほどよく喋る。幽々子様から聞いていた通りだ。』

 

「今、すごい失礼な事考えてんだろ。」

 

「…まさか。思い過ごしですよ。」

 

「ふぅん。まあ良い。」

「それよりお前、神社に用があるんだろ?折角だし案内してやるぜ。」

 

そう言う魔理沙は箒に跨り直すと

「付いてきな」

とだけ言ってビュンと先に飛んで行ってしまった。

そうは言われても空を飛ぶ手段を持たない大寛にとって、遥かに遅い速度で走って行くのがやっとであった。

 

。。。

 

ようやく神社に着いた頃にはすっかり息も絶え絶えと言った様子で、鳥居を潜ると同時に膝から崩れ落ちる。

その様子を見ていた魔理沙が駆け寄り、大層驚愕した様子で声をかけた。

 

「お前空飛べないのか!?幽霊だろ!」

 

「そ、そんなこと言っても…!」

「飛び方なんて、分かりませんよ…!」

 

その様子を境内から見ていた巫女は冷静に彼へお茶を手渡す。

怪しんでいるわけではないが、明らかに変な人を見る目に困惑するが、確かに飛んで移動していた妖夢や魔理沙を見るにこの世界は空を飛ぶ事が当たり前なのだろう。

 

一息吐いてこちらが落ち着いた頃合いを見て、巫女は口を開いた。

 

「私は"博麗霊夢"。この神社で巫女をしてる。」

「アンタが紫の言ってた外の世界の人?」

「話だけは聞いてるわよ。何でも”からかい甲斐のある奴が来た”って聞いてるわ。」

 

「からかい甲斐のある奴…。」

 

そう良いながら尚不思議そうな目で大寛のことを見ると、不意に先ほどまでの様子を見ていた。

どうやら魔理沙の口ぶりから察するに、空を飛べない有様を謎に感じている様子だった。

 

「空を飛べない亡霊なんて初めてみたわ。アンタの住んでるトコの幽々子や妖夢だって飛べるって言うのに。」

「外の世界ってトコがミソなのかしらね。」

 

「そう考えると、同じ亡霊ですし飛べないって事はないと思うんですかね。」

 

「さあ。なら試しにやってみたら?」

「ずうっとジャンプし続ける感じよ。ほら、やってみて。」

 

「え、こうですか?」

 

勢いよくジャンプし、その姿勢を維持してみる。

そうしてみると確かに体は勢いをつけて宙に浮いていっていた。の、だが。

空中でジタバタと藻掻く彼の様子を見て何となく察しがついた魔理沙が声をかける。

 

「おい、そろそろ降りても良いんじゃないか?」

 

「え、どうやって降りてるんです?」

 

「どうやって…って、そりゃお前。」

「…どう説明したら良いんだ!?」

 

幻想郷で空を飛ぶ方法。

それは当たり前の移動手段であるためか、飛ぶ方法、移動する方法、そして降りる方法を教える事の出来る人物はそう多くない。

何故なら皆"当たり前の感覚"でそれをしているからだ。

 

まさかこんな考えなし、際限なしに止まり方も知らないまま飛ぶなどと言う愚行を犯すとは思わなかったのか、流石の巫女も慌てて境内から飛び出して来た。

焦る魔理沙と霊夢を眺め、随分と勢いよく上昇したまま冷静な大寛。

顎に手を当て考える素振りをしながら徐々に遠くなって行く大寛を見つめ、二人は顔を見合わせた。

 

「…変に落ち着いてるな、アイツ。」

 

「一回死んでるんでしょ?すっかり肝も据わってるみたいね。」

 

「こんな成仏の方法なんて見た事ないぞ。」

「仕方ない。迎えに行ってくる。」

 

かくして地上から見てバスケットボール程度のサイズになった辺りで、ようやく大寛は魔理沙によって救助されるのだった。

それからと言うもの二人からの指導もあり何とか空を飛ぶ事が可能になったが、飛ぶは良いものの着地が上手くいかず、様子を見に来た紫の目の前に落下した際に神社の石畳を破壊してしまい、三人から冷ややかな目で見られる羽目になってしまうのだった。

この出来事を彼は後に

『あの時の彼女らの冷え切った目線は、私の幻想郷における霊涯で指折りの忘れられない出来事だろう』

と日記に書き綴っている。

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