東方瞑想録   作:+ドライバー

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後悔と絶望の残滓

「剣術指南、ですか?」

 

明くる日の早朝。大寛は妖夢に連れられて白玉楼の中庭に出ていた。

妖夢は柔軟体操をしながらも話を続ける。

 

「毎日毎日幽々子様のお相手は大変かと思いまして。」

「それに、次またいつ問題に巻き込まれるか分かりませんから。

少しでも自衛の手段は身に付けていた方が良いでしょう?」

 

大寛も促されるまま、同じく体を動かす。

しばらく歩く以外の運動をしていなかった事もあってか、すっかり能力が衰えているのを感じる。

 

「まあ確かにそうかもしれませんね。」

「しかし…、お時間は良いのですか?お忙しいのでは。」

 

「問題ありません。」

「既に役回りは幽々子様が割り振って下さっていますから。」

 

心配無用と言った様子の妖夢は竹刀を取り出して手渡してくる。

普段腰に携えている刀から、てっきり真剣でも渡されるのではと内心戦々恐々としていた彼はそれを受け取ると、幼少期に木の枝を振り回していた頃の記憶を頼りにしてブンブンと同じ様に空を切ってみた。

 

「…何をしてるんですか。」

 

「ああ、すみません。つい。」

 

「はあ、そうですか。」

「言っておきますけど、そんな振り回すだけでは切れませんからね。」

 

「わ、分かってます!」

 

自身の行動に対して思っていたより真面目な反応が返って来た事が恥ずかしくなり赤面していると、感覚を頼りに刀を構えてみる。

自分の中では剣術など触れた事もなかったが、心の中では完璧だと自負していた。

しかし。

 

「うーん。少し違いますね。」

 

驕った自負は真っ向から叩き切られ、姿勢やら刃先やら何やら都度全てに修正が入る。

あまつさえ自信満々だった顔は再び恥で赤くなるが、それすら

「そんなに力まなくても良いですよ」

と言われる始末だった。

 

結局そのまま度々の修正を経て、ようやく形になったところで早速素振りを始める。

腰を入れて力は入れず、重心を頼りにして刀を振り下ろす。

特に疲れを感じる事という今の体質が、この状況ではかえって有難いものだった。

隣にいる妖夢も同じ様に竹刀を振っているが、集中具合が違うのか彼女は半人という点が影響しているのか少し息を切らしている。

 

「取り敢えず、今日はこのくらいにしておきましょう。」

 

休憩を挟みながらどれくらい素振りをしていたか分からないが、妖夢の一声で指南は思っていたよりあっさりと終了した。

 

「この程度で良いんですか?」

 

「初めてですし、数をこなせば良いと言うものでもありません。」

「"継続は力なり"ですから、明日もまた同じ時間に行いましょう。」

 

「宜しくお願いします。」

 

そうして一先ずはお開きとなった。

思っていたより早い時間に何をしようかと唸っていると、ふと気になった事があった。

 

自分と共に流れ着いて来た筈の遺品は今どうなっているのだろう。

以前の話では、一緒に保護保管されているとは聞いていたが…。

 

ふと気になった大寛は、忙しいであろう妖夢に気を遣い幽々子の下にやって来た。

死者が遺品。所謂、過去と邂逅するのは如何なものかと思っていたが、以外にも彼女はあっさりと彼の要件を聞き入れた。

 

「ああ、貴方の遺品ね。」

「案内するから、一緒に見に行ってみましょうか。」

 

そうして訪れた一室。

そこは物置らしく、至る所に丁寧に荷物が積まれていた。

その一角に目をやると、自身の荷物が安置されているのが目に入った。

 

「これが貴方の遺品よ。」

「こうして荷物と一緒に人が流れて来るなんて、初めて見たかもしれないわ。」

 

中身を確認し当時の持ち物をいざ目に入れると、あの時の自身の心情が振り返す感覚に襲われる。

中にあった携帯や財布。携帯は充電が切れてしまっており、財布の中身の紙幣なども若干まだ湿っている気がする。

幽々子はそれら全てを物珍しげに眺めており、大寛から了承を得て何円分か頂戴していた。どうやら外で出回った最新の紙幣は現状の幻想郷では出回っていない類の物らしい。

そして一冊の本が見つかると、二人は同時に臭い顔をした。

 

出て来たのは"自死の指南書"と書かれた書籍。

中を見る気はさらさら無かったが、幽々子はそれを持つと憂いた表情で口を開いた。

 

「こんな書籍が流通してしまう程、外の世界は疲れ切っているのかしらね…。」

 

「どうでしょうか。少なくとも、それが出版された頃はまだそうではなかったと思いますが。」

「兎に角、自分とは違う景色が見えてしまう時代だったとは思います。」

 

「貴方も、そうだったの?」

 

「ええ。」

 

只のもの好きが購入するような本ではあるが、当時の精神状態を鑑みるには十分すぎるほど重く、仄暗さを感じさせる物だ。

それを感じ取るだけでも、身も心もずっしりと重くなっていく。

 

それこそが久世大寛の体質。もとい、特異な能力とでも言うべきか。

生まれつき他者の感情を察してはこうして具合を悪くすることがままあった。

 

友も居た。大切にしてくれる親も居た。

ただ、それでも明確に違うと感じていた自分と周囲との価値観に苦心していたのだ。

それに加え“隣の芝は青い”とはよく言ったもの。金は稼げず、恋も知らず、学もない彼は周囲との差に絶望し、結果的に命を断つに至った。

今になって思い返せば、それは自分の自尊心の高さが招いた結果なのかもしれない。

ただ。ただ何かが違っていれば。

 

「…本当に、愚かだった。」

「寄り添うことも、寄り添われることも拒絶し、勝手に絶望して勝手に命を絶った。」

「"身の丈"を知らぬ痴れ者が招いた当然の結果ですよ。」

 

「大寛…。」

 

そう言う大寛を、幽々子は慈しみを込め優しくその体を抱きしめた。

それはただただ優しく、労りの一心であることは口にしなくとも感じられた。

優しい抱擁を受けた彼は、当時の面影を残したままの後悔と絶望の残滓を背後にして、彼女の胸中で涙を流す他なかった。

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