月と樹と写輪眼 ─もう一人のうちは─   作:琴葉つきね

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木ノ葉の片隅、うちは居住区で暮らす、うちは一族の少女 ―ミズノ。
幼馴染のうちはイタチ、イタチの弟サスケ、自身の姉イズミと共に過ごす穏やかな日々は、やがて訪れる“夜”によって大きく揺らいでいく。
これは、生き残ったもう一人のうちはの少女、ミズノの物語。


第一章 木漏れ日の下で、幼き日の記憶

川辺に響く手裏剣の音。

陽の光にきらめく水面の向こうで、三人の子供たちは必死に的を狙っていた。

 

その対面岸に立つ、優しく微笑む姿。

 

うちはイタチ。

 

天才と呼ばれる少年は里や家族、仲間を思う優しい心の持ち主だった。

 

そして、その弟サスケ、幼馴染の二人の姉妹。

まだ誰も知らなかった。

 

この四人で過ごす穏やかな時間は、永遠ではないことを──。

 

 

 

 

木の葉隠れの里の郊外にある川辺。

眩しい日差しの中、木々の間から手裏剣の音が響いていた。

 

川の向こう岸には異なる角度で複数の的が並べられている。

イタチは横一列に並ぶ弟のサスケ、うちはイズミ、イズミの妹のミズノへ穏やかな声で手裏剣の指導していた。

 

 

風が吹くたびに木々が揺れ、木漏れ日が四人の姿を照らしている。

 

サスケは兄の言葉に真剣な表情で頷き、イズミとミズノもそれぞれ真剣な面持ちでイタチを見つめていた。

 

まずはイタチが三人に手本を見せる。

イタチが投げた手裏剣は全ての的の中心に正確に刺さった。

 

「すごい!!イタチお兄様!」

 

キラキラした瞳でミズノはイタチを見つめている。

 

そのミズノの姿を見て、サスケは面白くなさそうな表情をしていた。

 

「次は私だね!」

 

イズミが手裏剣を投げると、全ての的に手裏剣が刺さる。

 

「なかなかやるな、イズミ」

 

「お姉様!すごい!!」

 

イタチはミズノの姉を見つめる熱意のこもった眼差しに、柔らかな微笑みを浮かべた。

 

四人の修練は続く。

 

イタチの表情はとても真剣で、とても穏やかだった。

 

「サスケ、次はお前だ。俺やイズミの動きをよく見ていたか?」

 

「見てなくたって余裕だよ!全部の的に当ててやる!」

 

サスケは息巻く。

そして手裏剣を投げた。

 

サスケが投げた手裏剣は一つのみ的に刺さり、他は全て外れてしまう。

 

「くそっ……!!」

 

イタチはサスケに静かな眼差しを向けた。

 

「サスケ、集中しろ」

 

サスケは悔しそうな表情を浮かべたまま、後ろへと下がる。

 

「次は……私だね」 

 

今度はミズノが手裏剣を投げると、全ての的に命中した。

 

「やった!!」

 

ミズノの様子を見たサスケは驚いた表情を浮かべ、自分だけ成功しなかった不甲斐なさに拳を静かに握りしめる。

 

そして──ミズノに格好悪いところを見られたと落ち込んでいるのだった。

 

 

ミズノは落ち込んでいるサスケの様子に気がつくと、励ますように語りかける。

 

「サスケ!大丈夫だよ!

私の方が2歳も年上でお姉さんなんだからサスケより上手くて当たり前だよ!」

 

「なんだよ!二歳しか変わらないだろ!……偉そうに姉さん面するなよ!」

 

ミズノは少しムッとしたが、それでも言葉を続けた。

 

「サスケは絶対にできる!強いんだから!次は絶対に成功する!」

 

サスケはその言葉を聞いて頬を染め、グッと歯を噛み締める。

 

二人のやりとりを静かに見守っていたイタチは、ゆっくりとサスケの方へ歩み寄った。

 

そっとサスケの肩に手を置く。

 

「焦るなサスケ。お前には冷静さが必要だ」

 

イタチは手裏剣を取り出し、サスケに渡した。

 

「落ち着いて呼吸を整えてやってみろ」

 

風が吹き抜け、木々が揺れる音が川辺に響く。

 

イタチの表情には、弟を信じて見守る優しさがあった。

 

ミズノはそんな彼の姿を見ながら、胸が高鳴っている。

 

(イタチお兄様、優しいな……)

 

彼女は三つ歳上のイタチへ憧れと、恋心を抱いていた。

 

「サスケー!!頑張ってー!!」

 

笑顔で手を振るミズノの姿を見て、サスケは照れくさそうにしている。

 

「お前に応援されなくても、次は絶対に成功してやる!!」

 

大声で気合を入れた。

 

サスケは深呼吸して集中し、手裏剣を投げる。

 

──すると今度は全ての的へ手裏剣が命中。

 

「やった!!サスケ!!」

 

ミズノは笑顔でサスケに駆け寄り、勢いよく抱きついた。

 

「な、なんだよ!くっつくなよ!!」

 

サスケは顔を真っ赤にしてミズノを引き離す。

 

「さすがは私の弟弟子だね!」

 

にっこり自慢げに笑うミズノ。

 

「誰がお前の弟弟子だよ!」

 

二人の賑やかな様子を見ていたイタチとイズミは顔を見合わせて微笑みあっていた。

 

(イタチお兄様とお姉様、仲いいな……)

 

二人の様子に気がついたミズノは、少しだけ悲しそうな笑みを浮かべる。ミズノの表情と視線に気がついたサスケは、複雑な感情を滲ませていた。

 

しばらくするとイタチは、微かな物悲しさを湛えた眼差しでサスケとミズノの方を見る。

 

そして再びイズミの方へ視線を向けた。

 

「今日はここまでだ」

 

ミズノ達はその声で空を見上げ、夕暮れが近づいていることに気がつく。

 

イタチはサスケとミズノの方へ近づき、いつものように二人の額を順番に“トン”と指で小突いた。

 

「また今度だ……」

 

二人を見つめる眼差しは優しかったが、その表情には何か深い悲しみが垣間見える。

 

「みんな気をつけて帰れ。俺は今から少し用がある」

 

夕暮れの中、静かに去っていくイタチの背中は何か重い影を背負っているようだった。

 

「イタチお兄様!!また今度みんなで修行しようね!」

 

ミズノが声をかけると、イタチは静かに立ち止まる。

ゆっくりと振り返り、柔らかな笑みを浮かべた。

 

「……ああ、だが俺は任務でしばらく忙しくなる。

約束はできないが、きっとまた」

 

言い終えると、長い髪を風になびかせながら再び歩き出す。

 

ミズノはなぜかその背中を見て胸騒ぎがした。

 

「イタチお兄様、任務頑張ってね!サスケの事は私がしっかり面倒みておくからね!」

 

「なっ……!お前に面倒見てもらう必要なんてない!」

 

サスケは顔を赤くして叫んでいたが、イタチは歩みを止める事なくそのまま去って行った。

 

ミズノはサスケと別れた後の帰り道、姉のイズミに疑問を投げかける。

 

「ねえ、お姉様。イタチお兄様……なんか変じゃなかった?」

 

イズミは頷いた。

 

「そうだね……イタチ君は優秀な人だから……。私達にはわからない、なにか難しいことを考えてるんだと思う。

任務も忙しくて、きっと少し疲れてるんじゃないかな」

 

「そっか、お兄様ってすごいね。……最近忙しそうだけど、お兄様の任務が終わったら、私もっとみんなで修行したいな。みんなで強くなりたい。私四人でいるのが楽しいの!みんなのことが大好きなんだ!」

 

「うん!!私もだよ!!」

 

イズミとミズノは笑い合いながら、家へと向かって歩いて行くのだった。

 

 

けれど、その日を最後に三年もの間──ミズノはまともにイタチに会うことはできなかった。

 

たまに顔を合わせる事があっても、少しの挨拶程度。

 

しかし、姉のイズミとイタチはその間も二人で会っている様子だった。

 

(二人は恋人なんだ……)

 

ミズノは幼心にうっすらと悲しみを馳せる。

 

そんな中、サスケとミズノは兄や姉を超え、強くなるという目標を掲げて二人で修行をして過ごす事が増えていった。

 

 

──ある日。

 

川辺で修行をしていたサスケとミズノは、木陰で休憩していた。

 

「ねぇ、サスケ。イタチお兄様は家に帰ってきてるの?」

 

サスケは兄の名を聞き、僅かな苛立ちを隠せない。

 

しかし、寂しそうな表情を浮かべる。

 

「……兄さんは任務が忙しいらしくて、帰ってきてもすぐにまたどこかに行く。

修行をつけてもらいたくて頼んでも、いつも額をこづかれて、また今度だって誤魔化される……」

 

「そうなんだ……サスケもあんまり会えないなんて、お兄様本当にすごく忙しいんだね……」

 

イタチに会えない事を悲しんでいる様子の彼女の姿に、サスケは胸がちくりと痛む。けれどすぐに小さく息を吸い、力強く立ち上がる。

 

「俺は兄さんより、強くなる!驚かせてやるんだ、絶対」

 

「サスケ……うん、私も強くなりたい。お姉様よりもお兄様よりも!二人を驚かせよう!!お兄様と一緒に修行できなくても、サスケには私がいるよ!一緒に頑張ろうね!」

 

ミズノはにっこりと微笑んだ。

 

サスケは耳が熱くなるのを感じ、素早く目を背ける。

 

そして、再び修行を開始したのだった。

 

 

──その夜、イズミとミズノの家の大きな木の上に、イタチは月明かりに照らされながら佇んでいた。

 

「イズミ……ミズノ……」

 

暗い表情で2人の家を見つめる。

 

写輪眼が月明かりに赤く輝いていた。

 

そして深いため息をつく。

 

(もう決して、あの頃に戻ることはできない)

 

闇の中で、イタチの表情には深い悲しみ、そして決意が刻まれていた。

 

二階の部屋で休もうとしていたミズノは、ふとイタチのチャクラを感じ、急いで窓を開ける。

 

眉を寄せ、目の前の木に目を凝らした。

 

「イタチお兄様?そこに……いるの?」

 

すると、イタチが木の間からゆっくりと姿を現す。

 

月明かりに照らされた表情には、深い影が宿っていた。

 

「ミズノ……まだ起きていたのか」

 

「お兄様!!どうしてここに?任務が終わったの?」

 

久しぶりに会えた喜びで、ミズノはとても嬉しそうだ。

 

そんなミズノの様子に、イタチの表情が少しだけ柔らかくなる。

 

「ミズノ、サスケと仲良くしてくれているようだな……これからも仲良くしてやってくれ」

 

ミズノは驚いた表情を見せながらも、イタチの言葉に頷いた。

 

「うん!もちろん!私とサスケは姉さんと弟みたいなものだから。安心して!」

 

イタチは再び影を宿した目でミズノを見つめる。

 

「ありがとう……ミズノ、もう休め」

 

その言葉と共に、イタチの姿は夜の闇の中へと消えていった。

 

「イタチお兄様……どうしたんだろう。なんだか悲しそうだった」

 

ミズノは布団に入った後も、しばらくイタチの事を考えていた。

 

(また四人で一緒に修行出来るといいな……)

 

 

そんなことを思いながら夢の中へと落ちていく。

 

 

 

──うちは一族の運命がイタチによって変わろうとしていることを、この時は知る由もなかった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
第1章はミズノの幼い日常を通して、イタチやサスケとの絆を描きました。
次章からは、彼女の運命が大きく動き出していきます。
もし楽しんでいただけましたら、感想や評価をいただけると励みになります!
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