月と樹と写輪眼 ─もう一人のうちは─ 作:琴葉つきね
今回は、あのの夜の物語。
ミズノの目に映った光景と、彼女が託された思いを描きます。
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木の葉隠れの里、うちは一族の居住区域。
深い闇に包まれた夜。
辺りには不気味な静けさが漂っていた。
イタチは月光に照らされた一族の街並みを見下ろしていた。
彼の写輪眼が赤く輝いている。
風が吹き、彼の黒髪が月明かりに揺れた。
イタチは深く息を吐き、微かに震える手を見つめている。
そしてその姿は、夜の闇の中に溶けていった──。
ふと、大きな物音で夜中に目が覚めたミズノ。
「何の音……?」
隣の部屋で寝ているイズミを起こしに行く。
「ねぇ、お姉様!!起きて!外からすごい音が聞こえたの!」
イズミが気だるそうに目を覚ます。
「え?すごい音……?お母様が起きてるんじゃない?」
「ううん。外から聞こえたの。何か嫌な予感がする……」
イズミとミズノは母の寝室に向かったが、誰もいなかった。家中を探しても、見つからない。
「お母様、一体どこにいっちゃったの……」
イズミが呟く。
──すると、外から叫び声が聞こえた。
イズミとミズノは見つめ合う。
「ミズノ、外に出るよ……」
「うん……」
イズミはミズノに後ろに隠れながらついてくるよう指示し、玄関のドアをゆっくりと開けた。
──外の様子を見て二人は言葉を失う。
「え……?お母様?みんな……?」
家の前で血を流し、生き絶えた母。
そして、逃げ惑う人々の姿。
2人は状況を飲み込めず、動けない。
すると、頭上から音もなく誰かが目の前に降り立った。
その手には血に染まった刀を持っている。
「イタチ君!?」
「イタチお兄様!?」
イズミとミズノが、同時に彼の名を呼ぶ。
「……」
月明かりに浮かぶ表情から、彼の気持ちは読み取れない。
「これは……まさかイタチ君が……?」
イズミは彼が持っている血に染まった刀を見つめながら問う。
「お姉様……!!イタチお兄様がこんな事するわけない!!襲ってきた誰かと戦ってたんだよね?私達のこと、助けにきてくれたんだよね?このままじゃみんなが殺されちゃう……一族を守らないと!!私達も一緒に戦う!」
イズミとミズノの眼が赤く光を放つ。
イタチは何も答えず、静かに二人を見据えている。
「一族を……守る……か」
すると一瞬で移動し、万華鏡写輪眼で二人を見つめた。
「……!!」
イズミとミズノは、イタチの幻術の世界へとおちていく。
イタチは意識を失った2人を瞬時に支え、静かに地面へ横たえさせた。
「許せ……イズミ、ミズノ……」
そして再び刀を握りしめ、闇の中へと消えて行くのだった。
──どのくらいの時間がたっただろうか。
ミズノの瞼が開き、ゆっくりと意識が戻ってくる。
「うっ……頭が、痛い……私……?」
痛む頭を抑えながら横を見ると、イズミが横たわっている。その身体はぴくりとも動かない。
「お姉様!!」
ミズノはイズミの身体を揺すりながら必死に呼びかけ続ける。
「う……」
イズミが苦しげな表情で言葉を発した。
「お姉様!!よかった……!待ってて今……」
すると、イズミは印を結ぼうとするミズノの手を掴みながら、息も絶え絶えに口を開く。
「その力は……使っちゃだめ……」
「大丈夫……!!お姉様を助けたいの……!」
すると、何を思ったのか──イズミは震える手で自分の両目をえぐりだし、ミズノに差し出しだす。
その瞳を見てミズノは、はっと息を呑んだ。
「万華鏡……写輪眼……!?」
イズミの手の上で、花の弁の模様が四つ浮かぶ瞳が赤い光を放っている。
「前にね……イタチ君とシスイさんの会話を聞いちゃったんだ。最も親しい人の死が、万華鏡写輪眼を開眼させるって……」
イズミは荒い呼吸を繰り返す。
「あの優しかったイタチ君が……お母様の命を奪った。
私たちの仲間も、そして私とミズノの事も……ミズノ、あなたもきっとこの後……だから、託すの」
「どういうこと?わからないよ……お姉様……!!」
ミズノはイズミから眼を受け取るも、理由がわからない。涙がとめどなく溢れ出てくる。
「万華鏡写輪眼は……力を使うと視力を失っていくみたいなの……でも……誰かの万華鏡写輪眼を移植すれば、永遠の万華鏡写輪眼を手に入れられるって……」
ミズノは大きく首を振る。
「永遠の万華鏡写輪眼なんて……そんなものいらない!!
いらないから……お姉様お願い、そばにいて……!!いやだよ!!」
イズミは、手探りで泣いているミズノの顔を探し当て、涙を指で拭きとった。
「ミズノならイタチ君を……助けてあげられる気がするの。私にはもう、出来ない。イタチ君はきっと一人で苦しんでる。その目を移植して。ずっと……ミズノの側にいられるから……」
イズミの瞼が塞がっていく──。
「イタチ君を……助けて……」
「お姉様……!!!」
イズミから身体の力が抜け、パタリと地面に手が落ちた。
「うっ……ううっ……」
ミズノは嗚咽を漏らす。
姉のそばから離れられず、泣き続けた。
──流す涙も枯れ果てた頃、ミズノは血で染まった両手を静かに広げる。
しばらくイズミの万華鏡写輪眼を見つめていた。
そして、顔を上げる。
彼女の瞳には、姉と似た模様の花の弁が四つ。
静かに、けれど確かに──万華鏡写輪眼が宿っていた。
ミズノが眼に手を当てると、緑色の光が発光する。そして自分の眼と引き換えに、姉の眼を移植した。
痛みなのか、悲しみなのか──再び涙が溢れて止まらない。
(お姉様の言うとおり、イタチお兄様は何かに苦しんでいる。だから様子がおかしかったんだ……お兄様は理由もなく、こんな事をする人じゃない)
ミズノは、ゆっくりと瞼を開いた。
ぼやけた視界が鮮明になっていく──。
あたりは静寂が支配し、血の匂いが漂っていた。
「!!サスケは……」
不安がよぎる。
しかし、ミズノには絶対的な確信があった。
「お兄様がサスケを傷つけるわけない。今はとにかく助けを呼ばないと……火影様のところへ……!!」
ミズノは素早く地を蹴り、駆け出していった。
ミズノが火影の元へ向かっている頃──。
イタチは、自分の父と母を手にかけた。
その光景を見たサスケに、万華鏡写輪眼開眼の秘密を告げる。そしていつか同じ眼を持って、自分の前に来いと復讐の念を抱かせたのだった。
息を切らしたミズノは火影室前に到着し、中に入ろうとドアに手をかけようとしていた。
すると中からヒルゼンとダンゾウの話し声が聞こえた。中に入るのを躊躇っていると、“イタチ”という言葉が聞こえてくる。
ミズノは隠れて二人の会話を聞くことにした。
──衝撃的な事実が、耳を打つ。
イタチはうちはと木ノ葉の二重スパイとして動いていた。そして、うちは一族はクーデターを計画していた。
彼は里と忍界の平和の為に、木の葉の上層部から命じられ、任務としてうちは一族を抹殺──。
これは極秘情報であり、真実を知るのは、現在木の葉上層部の三代目火影・猿飛ヒルゼン、志村ダンゾウ、相談役の水戸門ホムラとうたたねコハルの四人。
さらには暁という謎の犯罪者集団へスパイとして潜入させ、内部から見張らせる。
そして許せないことに、ダンゾウはサスケを、イタチとの”交渉材料”だと言い放っていた。
ミズノは身体の震えが止まらない。
(お兄様に全部押し付けて、しかも犯罪者集団のスパイなんて……どうしてお兄様がみんなに恨まれ、里を抜けて犯罪者にならないといけないの?それに、サスケを……利用するなんて……そんなの……)
ミズノは一人声を押し殺し、涙を流していた。
──火影室から遠く離れた場所で、里を見下ろすように立っている一つの影。
月光に反射して赤く輝く瞳。
その影は暁のマントをはためかせ、夜明けが近づく空に消えて行った──。
ミズノはダンゾウが火影室から去った後、ヒルゼンの前へ姿を現す。
「ミズノ!?なぜ……!?まさか、今の話を全て聞いていたのか?」
「どうして……ですか?こんな方法しか、なかったんですか?」
ミズノは泣き腫らした瞳で、ヒルゼンを見つめ続けている。
ヒルゼンは深いため息をつく。そして大きく息を吸った。
「お前達一族も守りたかった……しかし、里を守る為の苦渋の選択だったのじゃ。イタチにしか頼めず、弟のサスケを人質にしてしまった……すまぬ……」
ミズノは何も受け止められず、目を背ける。
「サスケは生きているんですね……」
それだけが、彼女の救いだった。
「ああ……サスケを守るよう、イタチから頼まれている。サスケは必ず、わしが守ろう。ミズノ……お前には酷な事だとわかっているが、里の為に犠牲になったイタチの覚悟を蔑ろにしないよう、この事は決して……他言無用じゃ」
「……」
ミズノは受け入れたくなかった。
しかし、力も、強さも、経験も──今の自分には何も足りていない。
里を相手にする事も、大切な人を助けることすらもできないとわかっていた。
「わかりました。絶対に誰にも話しません。火影様……あなたが私を弟子にしてくれるなら」
ヒルゼンは困惑の表情を浮かべるも、短く息を吐いた。
「わかった。お前にできる限りのことはしよう。しかし……」
ヒルゼンはミズノをしっかりと見据えて警告する。
「木ノ葉の上層部にとって、サスケは“人質”であり、イタチとの”交渉対象”じゃ。だが、お前にはイタチのような存在がいない。生きていると知られた瞬間に、確実に狙われる。お前の……命を守る方法を考えねばならん」
ミズノは全く怯まなかった。
「たとえ狙われたとしても……絶対に生き残ってみせる」
ヒルゼンは目を瞑りながら俯き、しばらく考え込んでいる。
──すると策を思いついたのか、静かに顔を上げた。
「術で姿を変え、名前を“やかぜラン”と名乗り、里の前で行き倒れているように演じるのじゃ。そこからは……わしがなんとかする」
──次の日、ミズノが姿を変えた“やかぜラン”は里の門の前で倒れているところを木ノ葉の忍に保護された。
彼女はとある小さな村の生まれで、村を山賊達に襲われ両親を殺された孤児。
一人村から逃げ、木の葉の里の前で力尽きていた。子供の為、里で保護し育てていくとヒルゼンは上層部等と話し合い、なんとか皆を納得させた。
──忍術アカデミー入学式 。
大勢の人々の中を一人、黒いフードの影に金色の髪と翡翠の眼差しを潜ませた少女が歩いていく。
(お兄様を救う為なら、完璧に“やかぜラン”を演じてみせる)
ミズノは強い思いを胸に、再びアカデミーへ入学したのだった。
あの夜の喪失の果てに残されたものは、深い悲しみと癒えることのない痛み。
しかし彼女の瞳の奥には、強い決意が芽生えていた──。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ミズノの物語は、まだ始まったばかりです。
次回も読んでいただけたら嬉しいです!