月と樹と写輪眼 ─もう一人のうちは─   作:琴葉つきね

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いつもお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
嵐のような展開ですが、最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです!


第二十三章 救いの紫電

──「随分と手こずっているようね、サスケ君」

 

 

 

 

その独特な湿り気を帯びた声が、戦場の轟音を切り裂くようにして届いた。

 

その後ろには水月、香燐の姿もある。

 

ナルトたちが弾かれたように振り返った。

 

「大蛇丸……! なんでお前がここにいるんだってばよ!?」

 

「そう噛みつかないでちょうだい、ナルト君。

今はそれどころじゃないでしょう。私は彼女を助けにきたのよ」

 

「!!」

 

彼の口から出た言葉に、衝撃が走る。

 

大蛇丸は瞳を細め、喉の奥でククッと小さな音を鳴らす。

 

 

──その時、降り注いでいた攻撃の雨がピタリと止んだ。

 

 

岩上に佇むマダラが腕を組んで彼らを見下ろす。

 

威圧感を解くことなく、這い出てきた蛇を観察している。

 

その余裕こそが実力の差を物語っていた。

 

大蛇丸はマダラの視線を受け止めながら、静かに語り始める。

 

「マダラが使った術は、霊化の術や私の術に似ているけど……本質が少し違う」

 

彼は視線を外さぬまま告げた。

 

「“死者の魂”が他人の肉体を乗っ取り、魂を塗り替える術よ」

 

「……!?」

 

淡々とした口調が場の空気に沈んでいく。

 

「だけど、彼女の強い精神力と、受け継いだ初代の力が──魂の侵食を拒んだ」

 

大蛇丸はサスケへと視線を移す。

 

「マダラは彼女を支配しているけど、居座っているだけ。……でも、時間の問題よ。あのマダラに抗うには限界がある」

 

「ダラダラと長い説明はいい……何をするつもりだ」

 

サスケが眉間に皺を寄せる。

 

「フフ……焦っても良い結果にはならないわよ。サスケ君」

 

大蛇丸はニヤリと笑い、サスケの方へ一歩踏み出す。

 

「引き剥がせる方法がある。ただし……代償は大きい」

 

「……なんだ」

 

「この中の誰かを生贄にしたくはないでしょ?

なら、彼を“本体”に戻すしかない……。

彼は自分の身体で完全に復活する」

 

大蛇丸は値踏みするように、周りに視線を走らせた。

 

「世界を滅ぼすかもしれない彼を復活させてでも……彼女は救う価値があるのかしら?」

 

その問いが皆に重くのしかかる。

 

「……全員聞け」

 

割り込んだのはシカマルだった。

 

彼は冷静に、そしてあまりに無慈悲な計算を口にする。

 

「マダラは今でさえ手がつけられねぇ化物だ。

……たった一人の命と天秤にかけられるようなもんじゃねぇ。

悪いが……ここでミズノごとやるのが最善の選択だ」

 

「シカマル! !あんた何言ってんのよ!」

 

いのが大声で叫ぶ。

 

「ミズノさんを見殺しにするつもり!?」

 

「……分かってる!分かってるが、もしここで全滅したら元も子もねーだろ!」

 

「……っ」

 

いのは口を結び、言葉を失った。

 

「シカマル……」

 

チョウジが震える声で友の名を呼ぶ。

 

「俺だって……言いたくて言ってるわけじゃねぇよ」

 

シカマルは苦しげに顔を歪める。

 

「でも、俺たちは忍だ。感情に流されず、冷静に動かなきゃならねーんだ」

 

「……」

 

 

シカマルの言葉はきっと正しい──

 

 

忍として、冷静な判断が必要だとチョウジも理解していた。

 

ヒナタは三人の様子を見つめ、瞳を揺らしながら口元を両手で覆っていた。

 

 

──世界の命運か、一人の命か

 

 

その選択の重さと残酷さに息が詰まる。

 

正解を求め、視線と迷いが交差していた。

 

 

 

その沈黙を──叩き割る声が響き渡る。

 

 

 

「ミズノは仲間だ!価値とかそんなもん関係ねェ!!」

 

 

ナルトだった。

皆の迷いを掻き消すように、力強く叫ぶ。

 

「マダラがどうなろうと、みんなでぶっ飛ばせばいいだけだ!!

仲間は一人も見殺しになんかしねェ!」

 

その真っ直ぐさが、冷えた空気に光を差した。

 

「……ナルト君の言うとおりです!!僕たちが力を合わせれば、必ずマダラを倒せます!!」

 

リーが拳を突き上げながら続く。

 

チョウジは胸に手を当て、ほっと息をついた。

 

シカマルはどこか安堵したように頭を掻きながら、短く息を吐く。

 

「はぁ……。そう言うと思ったぜ」

 

大蛇丸は小さく笑った。

 

「暑苦しいけど……覚悟があるならいいわ」

 

大蛇丸は再びマダラを見上げる。

 

高みから見下ろしている彼は、こちらの作戦会議すらも余興として楽しんでいるようだった。

 

「あの子の精神世界に入り込む。

私が内側でマダラを抑え込んでいる間に、彼女の身体から彼が抜け出さなければいけない状況を作る……」

 

 

──その時

 

 

乾いた音を立てて、サスケの刃が鞘を離れる。

 

鋭く、迷いのない軌道。

 

切っ先は一瞬で距離を詰め、大蛇丸の喉元に突きつけられた。

 

大蛇丸は動じない。

うっすらと笑みを浮かべ、切っ先を見据えている。

 

その場の全員が息をのむ中、サクラはサスケから目を離すことができなかった。

 

 

(サスケ君の……顔……)

 

 

彼の横顔に浮かぶのは、全て彼女のためだけの感情。

 

「……」

 

湧き上がる危うさを押さえ込む。

 

唇を噛み締め、ただ彼を見つめていた。

 

「あんたに……マダラを押さえ込む力があるのか」

 

サスケの声は冷徹で鋭い。

 

「……奴を引きずり出した後、あんたがミズノから出てくる保証はどこにある」

 

刃がわずかに進み、薄皮を捉える。

 

「おい!サスケ……!!」

 

ナルトがサスケを制すと、大蛇丸は両手を顔の横へと手放した。

 

「今、あなたを敵に回すほど私は愚かじゃないわ」

 

サスケの視線は大蛇丸を縫い止め、離さない。

 

「それに……私をみくびらないでちょうだい。」

 

刀を握るサスケの手に、微かな力が込められる。

 

しかし、次に進むことはない。

 

 

やがて──

 

 

刀はゆっくりと下ろされた。

鞘に収められる音が、はっきりと響く。

 

「どうやって奴を引きずり出す」

 

「サスケくんの覚悟があるなら……出来るわよ。ほぼ確実にね」

 

大蛇丸は手を下ろし、サスケへ歪んだ激励を送った。

 

「彼女の身体をあなたの千鳥で貫き、そのまま体内に電流を流し続ける。そうすれば神経経路が麻痺し、回復する為のチャクラを練ることが出来ないはずよ」

 

大蛇丸が告げた内容は、あまりに残酷だった。

 

「そんな……」

 

チョウジが震える声で呟く。

 

彼は悲痛な表情を浮かべている。

 

「そんなの、酷すぎるよ!もしかしたら……死んじゃうかもしれない!!」

 

「……さっきシカマル君が言ってたように、感情で動いてる場合じゃないよ」

 

冷静に口を挟んだのは、サイだった。

 

「確かにミズノさんが命を落とす可能性はゼロじゃない。

でもこのままじゃ、マダラに完全に支配されてミズノさんは……消える」

 

彼は無表情だが、その視線はしっかりと戦況を見据えている。

 

「サスケ君にかけるしかない」

 

その言葉と共に、視線がサスケへと集まっていった。

 

「サスケ、お前は……」

「俺がやる」

 

ナルトの声に被せるように決意を言い放つ。

 

「………」

 

ナルトは彼の鋭い眼光と強い決意に、口を閉じて目を伏せた。

 

その様子を見届けた大蛇丸は、じっとりとした笑みを浮かべている。

 

「……決まりね。時間がない、すぐに動くわよ」

 

顎を限界まで開く。

粘液にぬれた塊を二つ、ゴロリと吐き出した。

 

一つは喚き散らすゼツ。そしてもう一つは紛れもなく”あの肉体”だった。

 

「このゼツは私が戻るためのもの。水月、重吾、香燐、私が戻るまでゼツを見張ってなさい」

 

「はいはい……で、こっちはもしかしなくても……マダラだよね?カブトが穢土転生で使ったんじゃなかったの?」

 

水月が肉体を覗き込むと、大蛇丸は皮肉たっぷりに口元を歪めた。

 

「カブトはずいぶんと得意げだったけど、彼が使ったのは私が作った“精巧なスペア”に過ぎないわ」

 

「スペア……?」

 

「ええ……カブトはそれを見つけ出し、本物だと信じ込んでいたみたいだけど」

 

大蛇丸は足元の肉体を見下ろした。

 

「こっちが正真正銘、私が隠し続けていた“うちはマダラ”のオリジナルよ」

 

「……性格悪ッ」

 

「何か言った?……褒め言葉かしら?」

 

二人のやり取りの後ろで、香燐は反発の色を隠せない。

 

「チッ……!なんでウチがこんなキモい奴見てなきゃなんねーんだよ」

 

「香燐、サスケのためだ」

 

重吾の声色は重い責任を帯びている。

 

その声に香燐は視線を落とす。

 

「……わかったよ!ったく……!」

 

彼女は悪態を吐き捨てながらも、二人と同じ位置につく。

 

 

瞬間──脱皮した巨大な白蛇が、滑るように地面を疾走し獲物へ向かう。

 

 

マダラは瞬時に印を結んだ。

 

胸郭が大きく膨らみ、口からほとばしる灼熱の奔流。

 

圧倒的な炎の流れが、白蛇を跡形もなく焼き尽くそうと迫る。

 

しかし、その業火が大蛇丸を焼くことはない。

 

「邪魔はさせねェッ!!」

 

ナルトが白蛇の前に立ち塞がり、溢れ出す九尾のチャクラを展開しながら、炎の直撃を真正面から受け止めていた。

 

凄まじい熱量が空気を焼き焦がそうとしていく。

 

ナルトは足を踏ん張り歯を食いしばる。

しかし、その圧力と熱にチャクラの壁が耐えきれなくなっていく。

 

 

「超倍加の術!!」

 

熱波を遮るように、ナルトの隣に巨大な影が並び立つ。

 

チョウジは巨大な肉体を盾にし、側面からの炎をナルトのチャクラと共に、その身を挺して防ぎ止める。

 

「チョウジ……!」

 

「僕たちもいる! みんなでやるって言ってたじゃないか!」

 

さらに、マダラが炎の勢いを強めようとするが、その動きがピタリと止まる。 

 

地面を這う黒い影が、火光に揺らめくマダラの影と繋がった。

 

「マダラ相手に数秒も保たねーぞ!急げ!!」

 

シカマルが印を結びながら額に汗を浮かべて叫ぶ。

 

「超獣戯画(ちょうじゅうぎが)!」

 

火遁が途切れた一瞬の隙、サイの巻物から放たれた何匹もの墨の鳥達がマダラの視界を塞いでいく。

 

 

彼らの力が重なり合い、道をこじ開けている。

 

 

生じた一瞬の拘束。

 

白蛇はその隙間を縫うように、マダラの足元へと到達していた。

 

蛇は大きな口を開き、右足に牙を突き立てる。

 

ミズノの身体が微かに震えた。

 

牙から流れ込む大蛇丸のチャクラが、猛毒のようにミズノの身体を侵食し、精神世界への回路を強引に開く。

 

「鬱陶しい……虫ケラが……」

 

蛇の毒を受けてなお、支配者の声色。

 

直後──ミズノの身体がわずかに硬直し、彼女の右目が不気味な金色に染まっていった。

 

しかし、攻撃の手が緩むことはない。

 

わずかな鈍さがあるも、繰り返される攻撃を食い止めながら仲間達は大蛇丸の合図を待つのだった。

 

 

 

 

──精神世界

 

 

 

 

そこは果てしない闇。

 

『……空気が重いわね』

 

内側へ入り込んだ大蛇丸は、深く眉をひそめる。

 

闇の中央には、身体の半分が闇に飲み込まれている彼女の姿があった。

 

その目の前に立つのは、うちはマダラ。

 

ただ傍にいるだけで精神が削り取られていく。

 

『蛇ごときが……俺を縛れると思っているのか』

 

大蛇丸に視線を向け、嘲るような声は恐ろしいほど平坦だった。

 

『大蛇丸!?』

 

マダラの視線を追ったミズノの驚嘆の声。

 

『いくらあなたでも、 そろそろ限界でしょう。

だから……私が手伝いに来たのよ』

 

大蛇丸の身体から無数の蛇が溢れ出し、マダラを絡め取ろうとまっすぐ伸びていく。

 

しかし──彼の姿は霧のように消え、蛇たちは虚空を噛む。

 

『……お前の術など、どうにでもなる』

 

この精神世界において、彼の力は絶対的だった。

嘲笑うようにマダラは大蛇丸の後ろに立っている。

 

大蛇丸の喉が、わずかに上下した。

 

『助けなくていい……!』

 

ミズノのかすれた声が割り込む。

身体半分を闇に沈めたまま、大蛇丸を見つめた。

 

『どうして危険だとわかっててここに来たの……!?

少しでも抑え込めているうちに、外から私ごとマダラを……!早く!』

 

その言葉は自分を差し出す覚悟。

 

マダラは面白そうに口角を上げ、チャクラを練り上げた。

 

『くっ……』

 

ミズノの身体がさらに深く闇に沈んだ。

 

 

その瞬間──

 

 

『自己犠牲は勝手だけど……外でサスケ君達があなたを助けようとしているのよ。あなたのために命を張ってるのに、自分は諦めて手放すつもり?』

 

大蛇丸は突き放すように、けれど強く告げた。

 

ミズノの瞳が大きく揺れる。

その言葉が、鋭い棘となって心を刺した。

 

 

本当は──ただ怖かった。

 

 

圧倒的なマダラの力。

抗っても踏みにじられる底なしの絶望感。

心が折れ、楽になろうとしていた自分を、“みんなを守りたい”という言葉で飾っていただけだったのだ。

 

(私は……口ばっかりだ……)

 

脳裏に浮かぶのは、血の滲むような記憶。

 

託された姉・イズミの眼。その眼と共に受け取った最期の願い。そして二人の想いを紡いだ力。

 

白くなるまで握りしめた拳が、静かに震える。

 

ミズノが成し遂げたい切なる願いと覚悟。

 

 

イタチに未来を生きて欲しい。サスケと共に──。

 

 

恐怖に負けて自分の信念を裏切り、姉との想いと彼らへの願いすらも手放そうとした。

 

自分の弱さがたまらなく許せなかった。

 

悔しさで、魂が震える。

溢れ出した感情が、恐怖で凍りついていた心を熱く溶かしていく。

 

マダラはそんな彼女の姿を鼻で笑いとばした。

 

『無意味で、不確かなものに縋るからお前たちは弱いのだ』

 

『……違う』

 

ミズノの瞳に、強い意志の光が戻った。

 

『不確かだからこそ……その為に強くなる!!』

 

彼女の背後で大樹が根を下ろした。

 

闇が振動し、勢いよく伸びた何本もの太い枝が一気にマダラの両足と両手を貫く。

 

 

『!!貴様……!』

 

 

完全に心を折ったはず──その慢心が、決定的な隙を生んだ。

 

マダラの顔が驚愕に歪む。

 

大蛇丸の瞳が、微かに見開かれた。

 

『いいタイミングね……』

 

素早く地を這い、白蛇がマダラへ一気に巻き付いた。

 

大蛇丸はマダラの拘束を強めながら、外で待つ“彼”へと意識を飛ばす。

 

『サスケ君!!』

 

ミズノの口から発せられる、切迫した声。

 

 

刹那──

 

 

左手に響き渡る甲高い鳴き声。

眩い雷光を纏いながら、サスケは素早く地を蹴り踏み込む。

 

躊躇なく──左手がミズノの身体を貫いた。

 

 

彼女を取り戻すための一撃。

 

 

肉を穿つ、重く鈍い感触。

サスケの左手が、背中まで深々と貫通していた。

 

ミズノの唇から鮮血が滴る。

 

マダラは表情一つ変えず即座にチャクラを練り、身体の修復を試みた。

 

だが──チャクラが練れない。

 

「……何?」

 

マダラの声に疑念が混じる。

 

サスケの左手から、体内の経絡系へ高圧の電流が流し込まれていた。

 

視界を染めるほどの紫電。

ミズノの全身の神経系を持続的に麻痺させている。

 

印を結ぼうとする手も、チャクラも、全てが雷鳴にかき消され遮断される。

 

痙攣する喉から、マダラの怒気が絞り出された。

 

「小僧(ガキ)が……」

 

身体は強張ったまま、指一本動かせない。

マダラは不愉快そうに顔を歪めた。

 

 

強い不快感──

 

 

自由の効かない肉体、泥沼のような拘束。

これ以上留まれば、完全なる復活の機会を失いかねない。

 

彼がこのような不自由な檻に甘んじるはずがなかった。

 

「使う価値すらなかったな……。お前はもう用済みだ」

 

 

次の瞬間──ミズノの身体から黒い塊が飛び出す。

 

 

それは行き場を求めて彷徨うことなく、横たえられた“自分の肉体”へと一直線に向かう。

 

黒い塊は乾いた砂が水を吸うように、その肉体へと吸い込まれていった。

 

直後、戦場全体を揺らすかの様な鼓動。

 

その肌に血の気が戻っていく。

筋肉が隆起し、かつての最強の忍としての威容を取り戻していった。

 

 

しかし、サスケの視界にその姿は入っていなかった。

 

彼の腕の中にはマダラが抜け、自分の左手を受けたまま力なく崩れ落ちてきたミズノの身体がある。

 

流れ出る赤い血が、サスケの手をぬらしていく。

 

ミズノの瞳が確かめるようにサスケを捉えた。

 

「サス……ケ……ありがとう……」

 

感謝の言葉を囁き、それを最後に彼女は意識を手放した。

 

しかし、微かだが確かな心音が脈打っている。

 

 

──安堵している暇など一秒もない。

 

 

サスケは貫通していた左手を引き抜いた。

 

栓を失った傷口から鮮血が溢れ出し、サスケを赤く染め上げていく。

 

支えを失ったミズノの身体を抱き上げた。

 

その身体は、恐ろしいほど急速に冷たくなっていく。

 

サスケは奥歯を噛み締め、地を蹴り上げる。

素早く後方に控えていたサクラの元へと滑り込んだ。

 

サスケが膝をつき、ミズノを地面に横たえるよりも早くサクラは動いた。

 

サクラは両手に最大限の緻密なチャクラを練り上げ、ミズノの傷口にかざす。

 

傷口は急所を避けている。

しかし出血が多く、電流を受け続けた神経経路が重症だ。

 

「絶対に死なせないから……!!」

 

サクラの声が震える。

 

彼女の額には汗が滲み、掌からは眩いほどの光が放たれていた。

 

「サクラ!私も手伝うわ!!」

 

いのもサクラと共に処置にあたる。

 

サクラたちが決死の救命を始めたその背後で、もう一つの”復活”が静かに行われていた。

 

水月と重悟がゼツの口を開け、その口の中に白蛇が入り込む。

蛇は泥のように、その身体へと浸透していった。

 

やがて、金色の瞳が開かれる。

 

「……うまくいったようね」

 

大蛇丸は首をコキリと鳴らした。

 

そして一同は、サクラたちの方を見やる。

視線の先では命の天秤が大きく傾きかけていた。

 

「サクラ!!ミズノさんの血が止まらない……!!」

「分かってる! 手を止めないで!!」

 

二人の医療忍術をもってしても、大量の出血と雷遁による神経系のダメージが深刻すぎた。

 

その傍らでサスケは立ち尽くしている。

 

見つめる視線、握りしめる拳。

 

そして──凍りつく彼の表情。

 

それを見ていた香燐は唇を噛み締めた。

 

(……なんだよ……ウチの時はあんな顔しなかったくせに)

 

ミズノのために世界の終わりのような表情をしている。

 

その姿に、胸の奥が焼けつくように痛んだ。

 

 

──嫉妬と羨望。

 

 

いっそこのまま──と黒い感情が頭をもたげる。

 

けれど、それ以上にサスケの今の姿を見たくなかった。

 

「……くそッ!!」

 

香燐は乱暴に地面を蹴った。

 

「ウチの腕を噛ませろ!!」

 

香燐は叫び、腕をまくりながらサクラの横へ並び立つ。

 

「……!噛ませるってどういう……」

 

「つべこべいうんじゃねーよ!さっさとしろ!そいつ死んじまうぞ!!」

 

香燐は、無数の噛み跡が残る自分の腕を突き出した。

 

サクラは一瞬動きを止めたが、すぐにその意図を理解し力強く頷いた。

 

「……ありがとう!」

 

「勘違いすんなよ!別にこの女とお前らのためじゃねーからな!」

 

香燐は顔を背ける。

 

(サスケがあんな顔してんの……見てらんないだけだ……!)

 

サクラはミズノの頭を持ち上げ、香燐の腕に噛み付かせた。

 

膨大な生命エネルギーがミズノの中に流れ込む。

 

香燐のチャクラと、サクラ達の精密な医療技術。

 

 

その光景を大蛇丸は興味深そうに眺めていた。

 

「フフ……女というのは複雑ね」

 

三人の懸命な処置により、ミズノの顔色が戻り始める。

 

 

しかし──安堵の時間など与えられない。

 

 

その場に、空気が弾けるような圧力が膨れ上がったからだ。

 

「やはり、自分の身体が一番馴染むな」

 

低く、腹の底に響く声。

 

視線を向ければ、そこには完全に生を取り戻したうちはマダラが立っていた。

 

彼は狂喜の笑みを浮かべている。

 

最悪の絶望が今、再びここに君臨した。

 

皆がその圧に身体を震わせる中、二人の忍がマダラを見据えながら前へと歩み出す。

 

「……足を引っ張るなよ」

 

サスケが短く告げ、一歩前へ出る。

その横顔には恐れはない。

 

「それはこっちのセリフだ……!!」

 

ナルトもまた、一歩踏み出す。

 

最強の二人が並び立つ。

 

戦場に、新たな戦いの狼煙(のろし)が上がろうとしていた。

         

 

 

 

──同時刻、崩れ落ちた岸壁の向こう側

 

マダラ復活の瞬間、戦場全体を揺らすチャクラの波動が広がった。

うちはオビトは空気の歪みを感じ取り、空を仰ぐ。

 

「予想外なことばかり起きるな……」

 

オビトの呟きの目の前には、息を切らせたカカシと、ガイの姿があった。

 

「今の気配は……まさか……」

 

カカシの写輪眼が、嫌な予感に揺らぐ。

オビトはかつての友へと冷えた視線を向け、静かに構え直した。

オビトの眼に暗い光が灯る。

 

 

「……そろそろ終わらせようか──カカシ。俺は忙しいんでな」

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます!サスケたちの覚悟が、皆さんの心に届いていれば嬉しいです。
これからもお付き合いいただけましたら幸いです!

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