月と樹と写輪眼 ─もう一人のうちは─   作:琴葉つきね

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いつもお読みいただきありがとうございます。

最強の敵・うちはマダラとの死闘を描きました。
戦場の熱気と、その後に吹く夜風の冷たさを、少しでも一緒に感じていただけたら嬉しいです。


第三十章 戦友の盃

皆、言葉を失っていた。

 

 

彼がいた場所にはただ塵だけが残り、乾いた風が無情にもその上を撫でている。

 

 

「……ようやく塵になったか」

 

 

静寂を破ったのは、マダラの声。

 

「何も成し遂げられず、ただ足掻いて消えた無様な男だ」

 

ナルトの瞳が真っ直ぐマダラを射抜いた。

 

「勝手に決めつけんじゃねェ!!」

 

腹の底からの叫びが燃え上がる。

 

「命をかけて仲間を守ったオビトは……俺にはかっこよくしか見えねーよ!!!」

 

その激情を浴びてもマダラは眉一つ動かさず、冷淡な目で見下ろしていた。

 

 

 

 

その傍らで、カカシは立ち尽くしていた。

 

視線はオビトが消えた場所へ落ちたまま。

 

お人よしで、遅刻ばかりで。

 

強がりで、仲間思いで──

 

(俺はまた、何も……)

 

拳が震える。

 

「……カカシ先生」

 

呼吸の仕方すら忘れたカカシに、暖かな声が寄り添った。

カカシが虚ろな瞳を向けると、ミズノの頬には乾き切らない涙の跡。

 

「大丈夫です……彼の想いは消えてない」

 

カカシはハッと目を開いた。

 

そして、そっと自分の左目に触れる。

 

「ああ……そうだな……」

 

ミズノは微かに微笑み、立ち上がった。

 

一歩前へ出たミズノは赤い月の下、宙に浮かぶマダラの姿を見上げる。

 

オビトの言葉が風に乗り、耳の奥に流れ込む。

 

 

『光は一つじゃなかった』

 

 

ミズノは目を閉じた。

 

過去に囚われているマダラには決して見えない、繋がれていく火の意志。

 

 

終わらせない──

 

 

開かれた二つの万華鏡が大きな力を帯びた。

 

ミズノの全身から光が溢れ出す。

 

その圧倒的なチャクラに、その場の視線が全て奪われた。

 

光が大きく形を成していく。

 

鎧を纏い、槍を掲げ、天を衝くように立ち上がる翠緑の巨人。

 

背から広がった巨大な枝には、無数の葉が羽のように風に揺れていた。その翼の付け根からは四本の腕が展開されている。

 

うちはと千手。

 

二つの血が一つの形となった、完全体の須佐能乎。

 

マダラの瞳が微かに細められる。

 

「柱間……」

 

思わず漏れ落ちた、その名前。

 

マダラは嘲笑するように口元を歪めた。

 

「何をしようと同じことだ。未来は変わらん」

 

「……あなたにはわからない」

 

マダラの傲慢を真っ向から切り裂くほどに、静かで鋭いミズノの声。

 

ミズノの須佐能乎が槍を構え、動き始める。

 

大地を強く踏みしめ、歩みを進めるたびに衝撃が戦場の土を吹き飛ばしていく。

 

その猛烈な風圧を受けながら、ナルトは拳を握り直し、サスケの須佐能乎は弓を構えた。

 

「行くぞ……!!」

 

先陣を切ったのはナルト。

ナルトは影分身し、尾獣達のチャクラを引き出す。

 

──仙法・超尾獣螺旋手裏剣!!

 

大きないくつもの光の渦がマダラへと降り注ぐ。

 

──炎遁・加具土命!

 

黒炎を纏った巨矢が、空間を切り裂きマダラを狙う。

 

更に空気を断ち切る轟音と共に、翠緑の巨人が掲げた槍がマダラへと一直線に向かってくる。

 

──輪墓!!

 

マダラは自身の影で、それぞれの一撃を受け止めていく。

 

凄まじい衝撃波。

 

「くっ……!」

 

マダラは大きく体勢を崩して地へと落ちた。

 

しかしすぐに彼は求道玉を槍に変え、隙を見せているサクラへと放つ。

 

──神威!

 

サクラの前で、空間が渦を巻いた。

オビトから託された左目の力が、マダラの攻撃を時空間へと抉り取る。

 

カカシが作り出した間をぬい、サクラが渾身のチャクラを込めた拳を振り上げた。

 

(私もいるんだ……!!)

 

「しゃーんなろーッ!!!」

 

大地から跳ね上がった巨大な岩塊があられのように降り注ぎ、マダラの重心が大きく崩れる。

 

その隙にミズノは自らの親指を噛み切り、その手を地へと叩きつけた。

 

現れたのは、漆黒の毛並みを持つ巨猿の猿鬼。

 

赤い瞳が戦場を見渡し、鼻先をひくつかせた。

 

「今日は随分と賑やかじゃねーか」

 

「うん……今日は一緒に行くよ、猿鬼」

 

ミズノが力強く言うと、猿鬼は低く笑った。

 

「おう、任せとけ!」

 

猿鬼の巨体を激しい炎が包み込む。

 

荒れ狂う暴風と共に、その炎がミズノの操る須佐能乎の槍へと螺旋状に絡みついていく。

 

お互いの力が融合し、“炎の槍”へと変貌を遂げた。

 

──口寄せの術!!

 

ミズノの口寄せに呼応するようにナルト、サスケ、サクラの声が重なった。

 

三人は同時に地へと手をつく。

白煙と共に現れたのは、伝説の三竦み。

 

カツユが即座に無数の分裂体を散らし、全員へのチャクラ供給と回復が始まる。

 

ナルトを乗せたガマ吉が飛び、サスケの指示でアオダが這う。猿鬼がミズノと共に駆けていく。

 

繋がれてきた意志と力が、そしてチャクラが一つに溶け合い、マダラへと叩きつけられた。

 

大気が焼け焦げる音。

 

衝突の瞬間、白い閃光が戦場を焼き尽くすように膨れ上がり、地面が波打つ。

熱風が全身を叩き、砂埃が視界を奪っていった。

 

凄まじい熱量と破壊。

 

やがて、煙が晴れていく。

 

抉れた大地の中央に──マダラは立っていた。

 

半壊したその肉体は、瞬く間に再生していく。

裂けた皮膚も砕けた骨も元の形を取り戻す。

 

サクラの表情が強張った。

 

「……嘘、でしょ……」

 

あれだけの攻撃を受けても──。

 

サスケは小さく舌打ちをし、ミズノは唇を引き結ぶ。

 

「無駄だ……」

 

マダラの声には怒りすらない。

 

「なぜわからない?現実という地獄よりも、幻術の世界がどれほど救いなのかを……」

 

「違う!!」

 

ナルトは即座に声を叩きつけた。

 

「お前がやってることは救いなんかじゃねェ!!

全部ぶっ壊して、自分のわがままを突き通してるだけだ!!」

 

マダラの眉がピクリと動く。

 

「わがままだと……?痛みも、苦しみもない世界を否定する理由がどこにある」

 

マダラの言葉が、戦場の空気を重く包んでいった。

 

痛みのない世界。

苦しみのない世界。

 

その響きが一瞬、誘惑のように広がる。

 

「あなた……本当はわかってる」

 

重苦しい空気の中に、ミズノの声が静かに浮かび上がった。

 

マダラの視線がミズノへと移る。

 

「力を手に入れても、世界を幻術へ取り込んでも……何も満たされてない」

 

「……」

 

「あなたが本当に欲しいものは”この世界じゃない”から。

あなたは傷つくのが怖いの。だから一人になろうとしてる」

 

ミズノの声を聞きながら、サスケは息を詰めた。

 

サスケは無意識に両手を握りしめる。

 

その掌の中に、ミズノの言葉が小さな棘のように握り込まれている気がした。

 

 

「……小娘が……知ったような口を……」

 

 

ナルトに叩きつけられた言葉が、ミズノの静かな言葉の刃によってマダラに押し込まれている。

 

マダラは奥歯を噛み締めた。

 

(俺は、恐れてなどいない……!)

 

しかし、その否定が己の中でなぜか響かない。

 

封じ込めていたはずのものが、染み出すように広がっていった。

 

柱間と出会い、互いの夢と正体を知った。

 

自分が本当に守りたかったものは何だったのか。

 

 

その問いにはもう、答えられない──

 

 

「ぐっ……!?」

 

呻き声と共に、マダラの身体が徐々に膨張し始めた。

 

精神の亀裂が十尾の制御を内側から蝕み、押さえ込まれていたチャクラが堰を切ったように吹き出していく。

 

その綻びを逃さず、ナルトは九喇嘛の力と共にマダラから溢れている十尾のチャクラの塊に食らいついた。

 

サスケは迷いを振り切るように、素早く須佐能乎の腕で十尾のチャクラを掴み取る。

 

 

「ぐああああ!!」

 

 

マダラは血を吐くような形相で抵抗した。

しかし、ミズノが無数の大樹の蔓を伸ばして十尾のチャクラを縛り上げる。

 

力が大きな一つとなり、マダラの身体からズルズルと巨大な十尾の力が引きずり出されていく──。

 

断末魔のような叫びと共に、ついに十尾のチャクラがマダラの肉体から完全に引き剥がされた。

 

六道の力を失ったマダラは力なく崩れ落ち、冷えた地へと伏していく。

 

自由を取り戻した十尾が、咆哮を上げた。

 

その絶大な力を前に、腕を伸ばしたナルトとサスケが視線を合わせる。

 

そして、力強く頷き合った。

 

それぞれ六道仙人から託された“陽”と“陰”が引き寄せられていく。

 

 

──六道・地爆天星!!

 

 

二人の力が十尾の巨体を封じ込める。

 

──ブチッ、ブチッ

 

音を立てて、吸収されていた尾獣達が一体ずつ引き剥がされていった。

 

抗う十尾を岩塊が幾重にも覆い尽くし、巨大な球体へと圧縮されていく。

 

轟音と共に、それは天へと昇る。

 

ミズノ達は息を呑んで見上げている。

 

やがて、全ての引力が収束していった。

 

夜空に浮かぶ新たな星のように、巨大な球体となった封印が天高く鎮座していた。

 

 

──静寂

 

 

「……終わった……の?」

 

静まり返った戦場に、サクラの震える声がぽつりと落ちる。

 

「ああ……やっとね……」

 

カカシが深く息を吐き出し、安堵と共に空を見上げていた。

 

ナルトは膝に手をついて大きく息を吐き、サスケは静かに目を伏せる。

 

ミズノが須佐能乎を消し去ると、背後にいた猿鬼がそっと口を開いた。

 

「やったな……“ミズノ”」

 

猿鬼はしっかりと彼女の名を呼ぶ。

 

「!……うん、ありがとう。猿鬼」

 

少し驚いた様子のミズノに猿鬼は歯を見せて笑うと、三竦みと共に消え去っていった。

 

激闘の熱が引き、夜風が彼らの頬を冷やす。

 

ようやく手にした勝利の重みを噛み締めていたその時、目の前の空間が陽炎のようにゆらりと歪み、眩い光が溢れ出した。

 

光が幾筋もの柱となって降り注ぐ。

 

その内の一つから、錫杖を構え宙に浮かぶ一人の老人の姿が現れた。

 

六道仙人、ハゴロモ。

 

そして、彼が操る人知を超えた力によって導き寄せられるように、光の中から次々と見知った姿が降り立つ。

 

穢土転生された四人の英雄たち。

 

「よくやったね、みんな」

 

四代目火影・波風ミナトが微笑み、穏やかな声を発する。

 

「新たな時代たちが成し遂げてくれた……」

 

三代目火影・猿飛ヒルゼンが目を細めた。

 

二代目火影・千手扉間は腕を組み、僅かに口角を上げていた。鋭くも労うような視線を向けている。

 

初代火影・千手柱間が一歩前へ出た。

 

しかし、すぐに彼の視線は地に伏している友へと向けられる。

 

「……」

 

神の如き力を振るったその男は、今や見る影もなく荒野に横たわっている。

 

その無防備な姿が、ほんの僅かに動いた瞬間──

 

サスケは刀の柄に手をかけ、マダラにとどめを刺そうと踏み出した。

 

「待て、サスケ」 

 

どこか哀愁を帯びた声と同時に、六道仙人・ハゴロモの手が伸びる。

 

サスケが足を止め、視線だけをハゴロモへ向けた。

 

「マダラは一度人柱力となった。尾獣達が抜けた今、助からん」

 

「そんなものを利用するからああなる」

 

「……サスケ……ナルト。

お前たちの前任者の最後だ。見ておくといい」

 

ハゴロモの言葉に、サスケは無言で刀を鞘へ納める。

 

そして、その最期へと目を向けた。

 

 

 

 

──赤い月が、二人を照らしている。

 

柱間はマダラの傍らに歩み寄り、静かに腰を下ろした。

 

「柱間……か……」

 

マダラの声はひどく掠れ、風の音にかき消されそうなほど弱々しい。

 

「うむ……」

 

マダラの焦点の合わない瞳が虚空を彷徨い、声の主を捉える。

 

柱間は、彼を深い悲しみの宿る瞳で見つめていた。

 

「お前も俺も……望んでも……届かない……ものだな」

 

「そう簡単にいくか!

俺たちの生きてる間に出来ることは知れている。だから託して行かねばな……先の者がやってくれる」

 

「相変わらず……甘い、な……お前はいつも楽観的だった……」

 

 

己だけが全てを救えると信じ、誰の手も取らずに突き進んだ孤独の果て──。

 

 

マダラはゆっくりと霞む視界を動かす。

 

そこには、真っ直ぐに自分を見据える若き忍達がいた。

 

彼はミズノの姿を縫い止める。

脳裏には、彼女に突きつけられた言葉が反芻していた。

 

 

彼女はうちはの誇りと、千手の意志が結ばれた存在。

そして、分かち合う仲間達がいる。

 

 

かつて自分が信じきれずに手放した“夢”が彼女の中に確かに息づいていた。

 

「柱間……お前のその甘さが……正しかったのかもしれんな……」

 

マダラは、自嘲するように零した。

 

「俺の夢は……ついえた……。

だが……お前の夢は……繋がっている」

 

「急ぎすぎたな……俺たちは届かなくてもよかったのだ。

後ろをついてきて、託せるものを育てておくことが大切だった」

 

マダラの瞼が重力に従うように落ちる。

 

「……それなら俺は……最初から無理だったってことだ。

後ろに立たれるのが嫌いだったからな……」

 

柱間は、ふっと微笑みながら言葉を紡ぐ。

 

「マダラ……昔、お前が言っていたな。

互いに死なぬ方法があるとすれば、敵同士腹の中を見せ合って……兄弟の杯を酌み交わすしかないと」

 

「……」

 

「……互いにもう死ぬ。今なら……ただ“戦友として”酒を酌み交わせる」

 

 

「“戦友”か……それなら……俺たちも……」

 

 

 

最期の言葉を言い切らず、彼の意識は完全に消え去った。

 

 

 

友のそばで永遠の眠りにつく──。

 

 

 

柱間は静かに、彼の最期を見つめていた。




第三十章、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
マダラとの死闘という大きな区切りを迎えましたが、物語はまだまだ続きます。
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