月と樹と写輪眼 ─もう一人のうちは─   作:琴葉つきね

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最終章です。
ほぼオリジナルですが、読んでいただけたら嬉しいです!!


最終章 祈り

ミズノの言葉が空気を変え、その場に集まっている誰もが静まり返っている。

 

それぞれが命を削る死闘を経て、この朝を迎えていた。

彼らの間に落ちた沈黙が、ミズノの語ろうとしていることの重みを自然と予感させているのだった──

 

 

 

 

「私は、命を落とした人達を生き返らせることが出来る」

 

ミズノの確かな響きを持った声が届くと、ざわめきが広がった。

 

忍達が顔を見合わせ、戸惑いを交わし合う。

 

「でも……条件があります」

 

ミズノは僅かに視線を落とす。

 

「一つは、私が“死の瞬間”をこの目で見ていること。もう一つはその人の“身体”が残っていること」

 

一瞬、喉の奥で言葉を押し込めた。

 

「……だけど、その瞬間を見届けられなかった人達もいます。

ごめんなさい……」

 

深く頭を下げるミズノに言葉を見つけられず、皆ただ見守ることしかできない。

 

「でも、少しでも皆の悲しみを無くしたいんです」

 

彼女の想いは、全員の胸の中へ静かに染み込んでいく。

 

「それから……」

 

ミズノは意を決したように背筋を伸ばし、瞳を上げた。

 

「私は、うちは一族を復興させたい」

 

はっきりと告げられたその言葉に、一部の者達の眉がわずかに動く。

 

中でも、一際鋭い視線が彼女を射抜き、口を開いた。

 

「うちはミズノ」

 

雷影の視線をミズノは正面から受け止める。彼女の顔に恐れはなかった。

 

「奴らのしでかした事は消えんぞ」

 

雷影の目がミズノを捉え、離さない。

 

「はい……罪は消えません」

 

凛とした、芯のある声色。

 

「どんな理由があろうと、犯した過ちがなくなるわけじゃない。それは私もサスケもわかっています」

 

その言葉に、サスケの瞳が小さく揺れた。

雷影は表情を変えぬまま、鋭い眼差しで先を促している。

 

「でも、知ってほしいんです。どうしてうちはが……サスケが深い闇に落ちてしまったのか」

 

「何?」

 

「二代目火影・扉間様の時代から始まった、警務部隊という名の隔離。

里はうちはを疑い、常に監視し続けていた。

三代目の時代には、私達の居住区に無数の監視カメラが仕掛けられ、常に見張られていたんです」

 

「……」

 

カカシが静かに目を伏せる。沈黙が、すでに知っていたその重みを物語っていた。

 

彼女の口から語られた痛ましい事実。

 

木ノ葉の仲間達はおろか、他里の忍ですら目を伏せ、ただミズノの声に耳を傾けていた。

 

「不遇な扱いを受け続け、追い詰められていた一族の勢いは止まらず、里との衝突は避けられないところまできていた。

警務部隊の隊長だったサスケの父であるフガク様は、犠牲を最小限に抑える為に……上層部を直接制圧する無血のクーデターを計画しました」

 

静まり返った場に、風の音だけが吹き抜けていく。

 

「クーデター計画を知った木ノ葉の上層部は、里と世界の平和の為……一人の忍にある任務を命じた」

 

その一言に、場の空気が凍り始める。

 

 

「うちはイタチに……一族を皆殺しにしろと」

 

 

「……!?」

 

 

頭を打つような衝撃が、瞬時に満ちていった。

 

「あの事件が里からの命令だったと言うのか!?なぜお前がそれを知っている!」

 

声を上げた木ノ葉の忍へ、ミズノが悲しげな瞳を向ける。

 

「奴を庇うための嘘じゃないだろうな……」

 

「一族が滅んだあの夜から、私はヒルゼン様に匿われていた。そして……すべての真実を知ったんです」

 

木ノ葉の忍達の間に、否定しきれない動揺が走った。

 

「そんな話……信じられるわけがない!里が……そんなことするはずがない!!」

 

それでも認めきれず、別の方向からも怒号が飛ぶ。

 

問い詰める空気が一層険しくなったその時──

落ち着いた声が場に響いた。

 

「彼女は真実を明らかにし、一族を光へ導こうとしている」

 

静かな圧のあるその声に、ミズノへ怒号を浴びせていた忍達の視線が集まる。

 

「風影様……」

 

風影・我愛羅の瞳が遠い日を思い出すように細められた。

 

愛を知らず、己の存在を否定されながら憎しみに支配され、日々生きた小さな自分。しかし光を見せてくれた友がいた。

 

我愛羅は“その友”をしばらく見つめたのち、視線をミズノへと戻す。

 

「……話の続きを聞こう」

 

我愛羅の言葉に声を荒げた忍たちは無言で一歩退き、口を引き結んだ。

 

「ありがとう……」

 

ミズノは全ての視線を受け止めながら、そっと胸を上下させる。

 

 

 

──今、私が語らなければ“彼”はずっと罪人のまま。

 

 

 

僅かに振り向き、サスケと視線を交わす。

 

サスケは悲しみと微かな怒りを滲ませた表情で、物言いたげにミズノを見つめていた。

 

(大丈夫……)

 

安心させるようにミズノは微笑み、再び前へと向き直る。

 

既に真実を知っていた者と知らなかった者とが、それぞれの表情で息を呑んでいた。

 

 

ミズノは一度、瞼を閉じる。

 

深く息を吸い込み、ゆっくりと赤い瞳を見開いた。

 

 

──寂滅陣

 

 

空間が歪み、黒い円陣が地へ滲み広がる。

微かな風と共に、地へと横たわる“彼”の姿が現れた。

 

 

あまりに安らかで、眠っているようなその姿。

 

 

「なに!?」

 

「どういうこと……!?」

 

「なぜうちはイタチの身体がここに……」

 

瞬時に漏れた、驚嘆の声達。

 

背後でサスケが呼吸を乱す気配がする。

 

彼らの戸惑いに揺らぐことなく、ミズノは足を進めイタチのそばで膝をついた。

 

「私は、サスケとイタチお兄様の戦いを見てた。全てが終わった後……お兄様を私の空間の中で安置していたの」

 

「……!」

 

サスケの身体は強張り、声を出そうとしても形を成さず、足はまるで地に縫い付けられたかのように動けない。

ミズノが自分達の戦いの場にいた事はカブトから聞いていた。しかし、目の前で起こっていることに思考が追いつかない。

 

「イタチお兄様は、里と一族の二重スパイだった。

里はサスケの命と引き換えに、一族を滅ぼせとイタチお兄様を脅迫したんです。

イタチお兄様にとって、サスケは何よりも大切な存在……だから自ら汚名を被り、愛する弟にすら憎まれる道を選んだ」

 

次々と明かされる事実に、誰しもが呼吸を忘れたようだった。

声を発するものは誰もいない。それほどまでにミズノの訴えは皆に衝撃を与えていた。

 

「……暁に属したのも、組織を内部から見張れという里からの命令だった」

 

ミズノの目の前で話を聞いていた綱手の喉が上下する。

里が抱えていたあまりにも深すぎる闇。

先代達が一族と一人の忍に背負わせたもの。

 

火影として、忍として、彼女と同じ血を引くものとして──

 

己の不甲斐なさに、胸の奥が音を立てて軋む。

綱手の握りしめた拳が、白く色を変えていた。

 

ミズノは一人ひとりの目を見渡していく。

 

「そして、その全ての真実をうちはオビトから聞かされたサスケは、里への復讐に身を染めました。

でも……サスケを操ろうとしていたオビトですら、マダラに利用されていた……これが全ての真実です」

 

場が水を打ったように静まり返っている。

 

「私は……イタチお兄様を生き返らせたい」

 

静寂を破ったその声には、決して折れない決意が宿っていた。

 

ミズノは視線を下げたまま、ゆっくりと立ち上がる。

 

「マダラも、オビトも……彼らが犯した罪はあまりにも大きく、決して許されることじゃない」

 

ミズノは辺りを貫くような声で続けていく。

 

「だけど、彼らを狂わせたのは……悲劇を繰り返したこの忍の世界です。その悲劇は憎しみと悲しみの連鎖によるもの。

だから、私はこの力を使いたい。これからの忍の世界は温かいものであってほしいから」

 

彼女は顔を上げ、視線をナルトへと向けた。

 

(きっとナルト君の存在がそうしてくれるって……信じてる)

 

ミズノと視線が重なったナルトは、僅かに顔を曇らせ問いかける。

 

「ミズノ……そんな力使って、その……お前は大丈夫なのか?」

 

神の如き力が、何の代償もなしに振るえるはずがないことを目の当たりにしてきたナルトは本能で悟っていた。

 

ミズノの表情にうっすらと影が差す。

 

 

それでも──

 

 

「……大丈夫」

 

一拍遅れてミズノは答えた。

 

「チャクラの消費が激しいから、身体と瞳力の回復に時間がかかるだけ。この力は特別だから……心配しないで、ナルト君」

 

 

本当のことは言わない。

 

 

サスケとイタチ、皆が笑って生きられる未来のために──

 

 

そして、ミズノは言葉を失っているヒナタとリーに顔を向け、優しく声をかけた。

 

「ネジ君も……大丈夫だよ」

 

ヒナタは大きく目を見開く。その目には涙が溢れ、震える両手で口元を押さえる。リーは涙を堪え、声も出せないまま小さく何度も頷いていた。

 

薄く緩んだ空気の中で、ナルトがぼそりと呟く。

 

「すげーよ、ミズノ……」

 

サクラが神妙な面持ちで頷く。

 

「うん……本当に。ミズノさん……ありがとう……」

 

ミズノは、ふっと穏やかに目を細めた。

 

すると、しばらくミズノを見つめ、深い思考に沈んでいた綱手が口を開いた。

 

「お前がもし倒れても、私が治してやる。安心しろ」

 

「綱手様……ありがとうございます」

 

深く、深く頭を下げた後、ミズノはサクラのもとへ歩み寄る。

 

「サクラちゃん、これはイズミお姉様の目を移植した時、保管してた私の目……。イタチお兄様にこの目を移植してほしい。

お兄様が目覚めても、私には術を使うだけのチャクラはないと思うから……サクラちゃんにお願いしたいの」

 

小さな嘘を紡ぎながら、そっと懐から薬液に浸された自分の瞳を取り出し、サクラへ差し出した。

 

「それから、イタチお兄様は病気なの……すぐに治療をお願い……」

 

サクラはミズノの祈るような顔を見つめながら、手をしっかりと伸ばしてミズノの想いを受け取る。

 

「もちろん。任せて」

 

微笑み合う二人。

 

サクラへ託し終えると、ミズノはサスケの正面へと立った。

 

「……サスケには、きっとこれから厳しい道が待ってる」

 

サスケは微動だにせずミズノを見つめ、彼女の言葉を受け止めている。

 

「でも、全部終わったら……今度こそ、あなたを想ってくれている人たちを大切にして」

 

ミズノはサスケへ真っ直ぐに視線を注ぐと、声を微かにひそめた。

 

「……イタチお兄様と仲良くね」

 

互いの耳にしか届かなかったその響きに、サスケの心臓が嫌な音を立てた。

 

イタチが最後に自分へ告げた言葉と同じ、そしてあまりにも柔らかく透き通った声。

 

 

まるで、これから彼女は──

 

 

「ミズノ、お前……」

 

何かを察したサスケが声を上げるが、ミズノは柔らかく笑った。

 

「約束だよ」

 

彼女はサスケの声が続く前に、静かに背を向けて歩み出す。

 

 

仲間達から数歩離れた場所。

彼らを背に、ミズノは一人空を見上げて深く息を吸う。

 

 

 

 

澄み渡った夜明けの空を、雲が流れていく。

 

目を閉じると、今日までの日々が瞼の裏を駆け巡っていった。

風を受け、髪をなびかせるミズノの心は静かに凪いでいる。

 

これから自分が向かう場所を、手放すものを知っている。

 

それでも──もう恐れはなかった。

 

(託された想いも、紡いできた願いも、今やっと果たせる。これが……私に宿った力の答え)

 

その答えを今、解き放つ。

 

自分の意志で選んだ、最後の祈り。

 

地にしっかりと足をつけ、深く息を吐く。

 

静かに瞼を開けると、瞳には万華鏡の紋様が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

──朧咲耶(おぼろさくや)

 

 

 

 

大気が大きく震える。

 

雲を割り、空から光を宿した“木の枝”が無数に降り注ぎ始めた。

 

それは命を灯す神木の枝。

 

金色の輝きを放ちながら神々しさを纏い、確かな力で降りてくる。枝は戦火に焼かれ、崩れた地へと伸び、次々と瓦礫を抱きしめるように包み込んだ。

 

まるで時を巻き戻すかのように、辺りが元の形と色を取り戻していく。

 

その光景は眩いほど美しく、誰もが瞬きを惜しむように目を奪われていた。

 

 

そして、大地を癒した枝から音もなく黄金の葉が舞い降りる。

 

 

命を散らした者たちの元へ、一枚また一枚と落ちていく。

 

 

葉の光が全身へと溶け込んだその時──

 

 

永遠の眠りについていた者たちがゆっくりと目を開いた。

 

 

「本当に……生き返ってる……!」

 

 

誰かが叫ぶ。

 

その波は次々に広がっていった。

 

自然が再び芽吹き、命が甦る。

 

それはまさに神の業。

 

その奇跡の端で、ミズノの左目がズキリと痛んだ。

 

血の涙が伝う。視界は霞み、身体からチャクラが削がれていった。

 

(お兄様は……)

 

ミズノは震える手で左目をおさえ、“彼”の方を見やる。

 

 

 

刹那──

 

 

 

「これは……」

 

 

 

低い声が耳を打った瞬間、サスケは弾かれたように振り向いた。

 

 

イタチが──兄が、ゆっくりと地に足をつけている。

彼の身体に、確かに命が戻っている。

 

 

「兄……さん……」

 

サスケの絞り出した声が震えていた。

 

「サスケ……なのか?なぜ俺は……」

 

 

(……よかった、やっと……)

 

 

その姿を見届けた瞬間、ミズノが膝から崩れ落ちた。

 

地に手を突き、苦しそうに呼吸を乱す。

 

「ミズノ!」

 

気がついたナルトとサクラ、ヒナタやリーが駆け寄ろうとする。

 

 

「動かないで!!」

 

 

彼女の叫びが走った。

 

必死さを帯びたその声に、サスケがミズノへ顔を向け、仲間達は足を止めた。

 

ふらりと顔を上げたミズノは、霞む視界に鞭を打ち、息を吹き返したイタチをしっかりと捉える。

 

彼の確かな命の息遣いを、己の瞳の奥底に深く刻み込むように──

 

 

「イタチお兄様……」

 

 

冷えた頬に、熱いものが流れ落ちていく。

 

ずっと、ずっと願っていた彼の未来。

 

誰よりも優しい彼が、光の差す明日を生きていける。

 

 

 

──もう、思い残すことはない。

 

 

 

「っ……」

 

 

突如、ミズノの口から血が溢れ出した。

 

地面に滴り落ちた赤が、まるで合図のように陣を描き始めた。

 

ミズノの足元から複雑な紋様が赤く発光し、地を這うように広がっていく。

 

「あの紋様……!!封印術か!?」

 

カカシの声に、皆が大きく息を呑む。

 

陣の中心に太く、禍々しい大樹が根を張った。

 

瞬く間に幹が伸び、うねるようにミズノを包み込んでいく。

 

「ミズノ!!!」

 

サスケが叫び、手を伸ばして駆け出す。

 

しかし、大樹はもうミズノの身体をほとんど飲み込んでいた。

 

サスケに見えたのは、幹の間からうっすらと覗く彼女の切なくも優しい涙に濡れた微笑み。

 

 

 

彼の伸ばした手は届かず──彼女の笑顔は大樹の中へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

──白い花が一つ、枝先から落ちる。

 

 

 

 

それはまるで、別れの印のようにサスケの足元へふわりと舞い降りた。

 

 

 

ミズノは、そこにいる。

 

 

 

彼女は世界に“希望”と“未来”を遺した。

 

大樹に咲いた、天を仰ぐ白い花。

 

大きく風が吹き、花びらがまるで雪のように舞う。

 

 

 

 

けれど、それはもう奇跡には見えなかった。

 

 

 

 

──闇の中でイタチは立っていた。

 

目覚めたばかりの身体はまだぎこちない。

 

この世から消えたはずの自分が、再び“ここ”にいる。

 

失われている視界に、世界の色は届かない。

 

 

ただ感じるのは、皆の絶望に満ちた沈黙。

大地と空気の揺れが収まり、強く吹いている暖かい風。

 

 

 

──そして、鼻をかすめる甘く優しい香り。

 

 

 

香りの先で、誰かが崩れ落ちる音がした。

 

 

 

やがて、静寂を一粒の涙が破る。

 

 

「ミズノさん……」

 

こらえきれなくなった涙と共に、ヒナタの声が零れた。

 

「どうして……教えてくれなかったの……?」

 

彼女の震える声が、しんとした空気を揺らす。仲間達は唇を噛み、俯いたまま拳を固く握っていた。

 

「くそっ……なんでだよ……!!ミズノ……!」

 

ナルトの苦しげに掠れた声。

 

綱手も、影達も、一同は言葉を失い、悲痛な沈黙に沈んでいる。

 

 

サスケは地に膝をつき、イタチはただその場に佇んでいた。

 

 

それぞれが、胸の奥に言葉にならない想いを抱えたまま。

 

 

 

 

皆の見上げる先に、純白の花を咲かせた白木蓮が儚くも気高く息づいていた──




お読みいただきありがとうございました!
拙い文ではありましたが、ここまで書けたのさは読んでくださった皆様と、ナルトの世界観をお借りできたからです!!

この章で私の書きたかったことが伝わっていれば嬉しく思います。
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