最初は仕事仲間に過ぎなかった総統閣下と副官は、愛の育みを通じ特別な関係になる。そんな回想をしている内に今日の宿、PEP運営のホテルに着いた二人はまたしても愛を育んだ。
ロンドンより愛をこめて。下
翌朝は早い朝だった。朝の5時半。これでも、会議までは1時間半しか猶予がない。まったく、何故イギリス人はここまで早起きなのか、やはりインドから奪った紅茶が効いているのか、改めてカフェインの恐ろしさを痛恨している。
「おはよう、アンちゃん♪」
「ああ、おはよう。エレ。」
まあ、後は着替えてホテルの朝食を食べるだけ。エレがもう身支度を済ませてくれている。ありがとう、エレ。私、エレが居ないとやっていけないな。
.........
ウオ...
トーストにソーセージ、ケチャップをかけたスクランブルエッグ。それに甘々ミルクティー。あまりにも英国過ぎる食事に思わず声が出た。
サクッ「うん、上も下もなく『英国』だな。」
モゴモゴ「トーストも、上も下もなく、無難だな。」
「食べながら喋んない。めっ。」
はは、朝から怒られてしまったな。
.........
「これはこれは総統閣下!」
「おや、フューラー自ら出迎えとは。」
豪勢なバッキンガム宮殿を背景に、ベンツから降りる私を門前にて出迎えた中年。彼こそイギリスファシスト連合(BUF)二代目フューラー、モズレー2世であった。
まだ覚め気味の意識を冷やしながら、差し出してきた彼の右手も強く握る。
「実りある会議に。」
「はは、そのつもりでわざわざウィーンから来たのですから。」
笑顔を作るフューラーであったが、その目からは隠しきれない虚ろさが溢れていた。中欧・英。この同盟は誰がどこから見ようとも対等ではない。英国の事実上傀儡化、それがこの会議の真なる内容である。英国のフューラーが今から話し合うのは国を売るかのようなそんな話。私がその立場なら、首を吊るかもな。
「...では、会議室までご案内しますよ。」
「御親切に、どうも。」
静まり返った広場、直立不動の近衛兵。妙な静けさが空間を飲み込む。キィーという扉を開く音も、まるで頭に劈くように聞こえる。何もない。何事もない。ただ会議場へ向かう廊下を歩くだけ。帰ったら愛しの白ワインでも...
「止まれ。」ガチャ
後頭部に金属が当たる。音だけだが、それが銃口だと理解するのに時間は要らなかった。おおよそ30人か。儀式的軍隊には似つかないM4カービンを構えた近衛兵が、フューラーをも含めた私たちを取り囲む。
「な、何のつもりだお前たち!」
「それは、私が答えよう。」
フューラーの叫びに答えるように、スーツ姿のイギリス人が近衛兵をかき分けてきた。英国王室皇太子...前々からファシズムを毛嫌いしているとは聞いていた。
「図りましたか、皇太子殿下。」
「ドイツ人よ、私はこの絶好の機会を逃さない。モズレーが大英帝国の民主主義を壊したその日から、我々王家の意思は固まっていた。ファシストと敵の親玉が我々の城に入ってくる。これほど最高のチャンスは無いだろう?」
「さあ、既に貴様らは2000人の崇高な軍隊に囲まれている!領民と帝国の為の政治が今ぞ返り咲くのだよ!」
「クーデター...か...まあ、備えが厳重で良かった。」
ガシャーン!!
「連邦軍だ!!銃を下せ!!」
厳重装備の屈強な軍人が、窓を突き破り怒号を上げる。その割れた窓から3人、5人、10人、休む間なく侵入する。
「バカな...屋敷外の近衛兵はどうした!!」
「既に再起不能だ。貴様らの警備隊が我々の正規軍に勝てる筈なかろう?」
「ハハ、英国覇権の時代は100年も前に終わっているだろう。完全なる滅亡、その引導を渡すのは私だったか!!」
「さあ、今この屋敷は5000人の連邦正規軍に囲まれている!」
「終わりだ!!王政主義者!!」
ただの王政主義者になった男は、跪き泣き崩れた。時折、支離滅裂な暴言を喚きながら床をたたく姿に先ほどまであった高貴さは無かった。
「ハハ、邪魔が入ってしまいましたな、フューラー。」
「案内の続きをお願いしますよ。」
既に屋敷内に近衛兵はいなかった。拘束されたのか、高貴さを失った元王族に幻滅したのか、既に宮殿内はもぬけの殻であった。
.........
会議は何の問題なく行われた。軍事、経済的同盟を結ぶこと、我が連邦軍を英国国内に無制限に配備すること。問題なく、英国の羽を捥いだ。
「では、お気をつけて...」
別れ際のフューラーの顔は、もはや笑顔を作れていなかった。私には分かる、彼はこのまま皇太子に殺されることを望んでいた。生まれた時より父親による栄光的英国覇権を見てきた彼にとって、最も望むことは英国が再び輝く事だっただろう。もし、皇太子のクーデターが成功していたら...英国が、少なくとも永遠の属国になることは無かった。
ハハ、それが戦争だ。一方が得て一方が失われる。悪は無く、正義のぶつかり合い。
ハハ、これでも敵の尊厳は尊重しているつもりだよ?
私の歩みを邪魔する者は滅するだけだ!
この世は最後に立っていた者が正義となる!!前例はアメリカだ!!
ロンドンより愛をこめて。完
今日は良く晴れていた。英国内に限らず、欧州全体で。
ウィーンへ向かう飛行機から、くっきりとしたヨーロッパ大陸が見えた。パリ、アムステルダム、ブリュッセル、ベルリン。いずれ連邦の都市となる。血で血を洗う事になるのか、平和的統合が実現するのか、それとも...私ですら、どのような道を歩むのか分からない。しかし、我々が屈することは無い。勝つか、死ぬか。それだけのこと。
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アンちゃんの横顔。とても可愛い。鋭い鼻先にぱっちりおめめ、そしてもちもちのほっぺ♡
「エ、エレェ...いい加減ほっぺツンツンするのやめてくれないか...」
「ダメ♡もうちょっとやらせて。」
ふふっ、嫌な顔するアンちゃんもかわいいよ♡
私は、目の前にアンちゃんが居れば何でもいい。世界を統一しようが、すべて失おうが、目の前にアンちゃんが居ればそれでいい。もし、アンちゃんが居なくなったら私はどうするのだろう。アンちゃんが死んだ後に私も追って死ぬ?想像ができない。きっとアンちゃんが死ぬような事があろうなら、私が代わりに死ぬ。それが罪を被ってか、銃弾を被ってか、どのみちアンちゃんが死ぬところなんて見たくないな。
だからさ、死なないでねアンちゃん。