ありふれてない職業で宇宙最強   作:ヘビーなしっぽ

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今作では、ハジメは、“くん”ではなく“ちゃん”です。


異世界召喚

眩い光の中、オイラは何かあったらすぐに動ける様に、周りに警戒を含んだ鋭い視線を向ける。

だが、特に何も起きず、数分して光が段々と晴れていった。

「むぐぅ…」

ふと腕の中から声がした。

見れば、抱き抱えていたハジメが少し苦しそうにペチペチとオイラの肩を叩いていた。

ハジメの温かい体温がオイラに伝わる。

「あー…すまん」

オイラはハジメをそっと地面に下ろす。

「……ん」

ハジメは少し名残惜しそうな顔をしつつ、素直にオイラから降りた。

更に少し経って、光がある程度収まり、周囲の状況を確認できるようになると、オイラは左目の輝きを納め、両手をパーカーのポケットに入れ、背筋を元通りに直した。

まずオイラ達の目に飛び込んできたのは巨大な壁画だ。

縦横10メートルはありそうなその壁画には後光を背負い、長い金髪をなびかせてうっすらと微笑む中世的な顔立ちの人物が描かれていた。

背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むようにその人物は両手を広げている。

美しい、又は素晴らしい壁画だ。と思うのだろう。常人なら。だがどうでもいい。あんなのただの壁の模様。オイラが小さい頃にコーヒーを零して作ってしまったシミと全くもって同義だ。

オイラは壁画から視線を外し。後ろを見た。

そこに先程下ろしたハジメが居ること確認してオイラはふう、と小さく息を吐いてから周囲に視線を向けた。

周囲には、あの教室にいた人間全員がここにいることが確認できた。教室内の動く障害物と数が一致する。

それを確認してからオイラは周囲に視線を配る。

どうやらオイラ達は巨大な広間にいるようだ。光沢を放つ白い石造りの建築物は同じ材質の模様がある柱に支えられ、ドームのようになっている。オイラ達がいるのはその最奥の台座のようになっている場所だ。

そしてオイラは初めて視線を下に向ける。

そこに台座を囲むように30人ほどの人間達が跪いていた。ソイツ等は一様に白い法衣のようなものを着ており、錫杖のようなものを置いている。

ジッとソイツ等を見つめていると、そのうちの一人、法衣を着た者たちの中でも特に豪奢な服を纏い、高さ30センチぐらいありそうな烏帽子を被った70代ぐらいの老人が進み出てきた。もっとも、老人と言うには覇気が強すぎたのだが。

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。私は聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

そう言ってイシュタルと名乗った老人は好々爺然とした微笑みを見せた。

 

 

その後、オイラ達はこんな場所では落ち着くこともできないだろうと言われ、いくつもの長テーブルと椅子が置かれた別の広間へと移動させられた。

本当なら混乱しているところなのだが、現実の認識が追い付いていないのとカリスマカンストの天之河がクラスメイト供を落ち着かせたおかげで大した混乱もなかった。もっとも、愛子先生が涙目だったが。

案内されたオイラ達は次々と席に着席していくが、オイラはは席にはつかない。

そのままハジメの後ろで立ったまま鋭い目でイシュタルを射抜く。

ここがどんな場所であろうと状況が分からない以上、動きが制限される状態になる必要はない。

ちなみに席順は天之河たちと愛子先生が上座、オイラ達はかなり後ろだ。

オイラ以外の全員が席に着席したところで絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドたちが入ってきて、クラスメイト達に飲み物を配っていく。

全員美少女、および美女であり、男共は思わずと言うようにメイドたちをガン見し、女共の目がゴキブリを見るような目になる。

オイラは一瞬だけソイツらに視線を向けるが、特に怪しい奴はいない事 ハニートラップであること を確認すると、再びイシュタルに視線を戻す。

ハジメが少しジトッとした目でこっちを見ているのが視界も端に映った。なんでそんな顔してるんだ…?

そしてメイドたちが去って行くと、イシュタルが口を開く。

「では、皆様方さぞ混乱していることでしょう。事情を一から説明する故、まずは私の話を最後まで聞いてくだされ」

そう言ってイシュタルが話し始めたのだが、その内容は何ともテンプレで、ファンタジーで、身勝手極まりない内容だった。

ここはトータスと言う異世界であり、ここには人間族、亜人族、魔人族の三つの種族が存在している。人間族は北一帯、魔人族は南一帯、亜人族は東の樹海の中で生きているらしい。

そして、人間族と魔人族は何百年も戦争を続けているらしい。

魔人族は数では人間族に負けているが、個人の資質では勝っている。

それによってある種の拮抗状態が保たれていたのだが、最近ある異常事態が多発しているらしい。それは魔人族が魔物を使役しているという事だ。

魔物とは野生動物が魔力を取り入れ変質した異形の事らしい。この世界の人間でも魔物の事は詳しくは分かっていないようだが、それぞれ固有魔法と言う魔法が使える害獣と言う認識らしい。

そうして、これまで本能のままに動くだけだった魔物を魔人族が大量に使役できるようになったことで人間族の数というアドバンテージが崩れ、人間族は滅びの危機を迎えているらしい。

「あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。恐らく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っているのです」

神託で伝えられた受け売りですが、とイシュタルは言葉を切り、オイラは目のハイライトを消す。

それに、オイラ達には微塵の関係すらも無い。なのに身勝手にも“戦え”…か。お巫山戯にも程があるってんだ。

「あなた方にはぜひその力を発揮し、エヒト様のご意思の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救っていただきたい」

イシュタルはどこか恍惚とした表情でそう言う。

恐らく神託を聞いた時の事でも思い出しているのだろう。

イシュタルによれば人間族の9割以上が創世神エヒトを崇める聖教協会の信徒らしく、神託を聞いたものは例外なく教会の高位につくことができるらしい。

オイラとハジメが、神の意志を疑わずどんな命令でも嬉々として従うこの世界の歪さに危機感を覚えていると、突然立ち上がり、猛然と抗議する人が現れた。愛子先生だ。

「ふざけないで下さい!つまりこの子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっとご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることは唯の誘拐ですよ!」

その瞬間オイラの目のハイライトが戻った。

ぷりぷりと怒る愛子先生。彼女は25歳の先生なのだが小柄な体とボブカットの髪に童顔。

これらのせいでどうしたって生徒であっても庇護欲が掻き立てられ、ほんわかしてしまう。

今回も多くの生徒が「ああ、また愛ちゃんが頑張ってるなぁ……」とほんわかしている。

オイラは、愛子先生の意見に、全くその通りだ。と思いつつ、愛子先生を見てほんわかしているクラスメイト供に、はぁ…と溜息を吐く。何ほんわかしてるんだ…できる状況じゃ無いだろ…と。そして、そのほんわかした空気もイシュタルの次の言葉に凍り付く。

「お気持ちはお察しします、ですが……現状あなた方の帰還は不可能です」

場に静寂が満ち、オイラとハジメ以外の誰もが何を言われたのか分からないという表情を浮かべる。

「ふ、不可能って……どういう事ですか!?喚べたのなら帰せるでしょう!?」

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな。あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」

「そ、そんな……」

愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。そして周囲も口々に騒ぎ始めた。

「嘘だろ?帰れないってなんだよ!」

「嫌よ!なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

パニックになるクラスメイト共を蔑んだ目で見ながら、オイラはハジメに声をかけた。

「ハジメ。お前から見てこの状況どう思う?」

「ん…そうだね…」

ハジメは元々こういう状況に慣れ…てはいないが、こう言う感じのが日常の一部だった事もあり、かなり落ち着き払っていた。

「最悪………ってわけでは無いよ。最悪なのは召喚者を奴隷として扱うパターンだから……」

ハジメの言葉にオイラも、確かに、と目を細める。

「それもそうか……確かに妙な事をされた形跡もないしな」

そう言ってから、ハジメの体を少し見て、何もされていないことを再確認すると、オイラは剣呑に目を細めながら再びイシュタルを睨みつける。

当のイシュタルは騒ぐ生徒たちを侮蔑の目で見ている。

大方、神に選ばれておいて何故喜べないのか。とでも思ってるのだろう。

「とりあえず、愛子教師に返事を保留にするように言って、答えを先延ばしにする。その隙に情報を集めるぞ」

「ん。……それからどうするか考えようか」

小さく頷いてオイラが口を開こうとした瞬間、バンっ、とテーブルを叩きながらクラス一のゴミが立ち上がる。

天之川だ。

机を叩く音に思わずと言うように生徒たちは天之河に視線を向ける。

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない!それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん?どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主様の願いを無碍にはしますまい」

「俺たちに大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっとこの世界のものと比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょう」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように俺が世界も皆も救って見せる!」

ギュッと握り拳を作りそう宣言する天之河。無駄に歯がキラリと光る。オイラは思わずため息を吐いた。

同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だったクラスメイト達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。

天之河を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな……俺も戦うぜ!」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないのよね……気に食わないけど……私も戦うわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

いつものメンバーが流れる様に天之河に賛同する。

後は当然の流れと言うようにクラスメイト達が賛同していき、愛子先生がオロオロとだめですよ~、と涙目で訴えるが、それら全てを否定する高圧的な声が響いた。

「大馬鹿野郎共が…」

瞬間、その場に尋常ではない圧がかかる。まるで猛獣と同じ檻に放り込まれたような本能的な恐怖にその場の全員の顔が青ざめ、一斉に口を塞ぐ。

そしてゆっくりと先程言葉を放った人物……オイラに視線を向ける。

オイラはいつも通り、笑顔を作り、パーカーのポケットに手を突っ込みながら、壁に背中を預けて立っていた。オイラは眼前の障害物共を睨みつける。

「heh、さっきから黙って聞いてりゃ……お前等は何をゴキブリとそう変わらないこと言ってるんだ?戦争をする。それがどう言う意味か。分かってんのか?まさかその場の勢いに任せて言った訳じゃなよな?」

本音を言ってしまえば、オイラからしたらここにいる奴等の大半はどうでもいい。

どこで死のうが、どんな目に遭おうが、行方不明になろうが知ったことではない。

だが、このままではハジメと、恩師である愛子先生に危険が及ぶだろう。

それだけは強要してはいけない。

だから仕方ないとはいえ、口出しをするしかない。

「なんだ……彼らを助けることに不満があるのか」

ゴミの薄っぺらいカスのような反論がオレに返ってきた。

「…は?不満?不満も何もそれ以前の問題だぜ。よくよく考えてみろ?これはオイラ達には関係無い。コイツ等とこの世界の問題なんだぜ?それなら、その問題を解決するのはコイツ等自身……違うか?」

「関係無いって……ここの人たちを見捨てるつもりかお前は!?」

天之河が噛み付いてくるが、オレは目のハイライトを消し、更に圧をかける。場が暗転し、部屋は、オレが元居た世界でいうエンカウント寸前の黒い世界が広がった。

「見捨てる?はっ。見捨てるもなにもそれが当然だろうが。お前等。話を戻そう。お前等はイシュタルに。なんて言われたのか。何を受け入れたのか。ちゃんと分かってんのか?お前等はこう言われた。人間族の味方として魔人族と戦争をし、その種をこの世から絶滅させろ……つまり魔人族を皆殺しにしろと言われたんだ。そんで、お前等はそれに同意した。この意味が分かるか?」 

その言葉に生徒達は一斉に息をのみ、顔を青ざめさせる。それを見て、さっき自分で戦争は嫌とか言ってた奴がいた事を思い出し、ため息を吐く。

「自分のしようとしたことを理解すらしていないのか。まるで自らの意見を正当化するサイコパスだな?自分が何をしようとして、それを行う為にどうすればいいのか。それの判断もつかずに動く人間ほど、醜く気持ちの悪く、その上惨めでくだらないものはない。そもそも、お前達が戦争に参加したところで何ができる?ここに至るまでの人生で、豚や魚を捌いたこともないような軟弱者供に、魔人族とは別物であれ、魔物を殺す。差し引いては、魔人族を殺すことなんかできるのか?」

オレが言うと、やはりカスは返事を返す。

「だけど俺たちは力を持っている。ならば彼らを救うためにその力を使うべきだろう」

天之河が食い下がる様に言う。だが、そんなの知ったことかとオイラは返答する。

「へえ?力がある?それじゃあ言うが、幼稚園児に拳銃を持たせ、今からアイツを殺せ。と言えばソイツは一流の殺し屋になれるか?それを成す為の力と理由を手に入れただけでその幼稚園児は自他共に認める一流の殺し屋になれるか?単純に必然的に、合理的に、普通に考えて、答えはNOだ。そうだろう?その力を持て余し、自分や、側にいるものを誤って殺すかのどちらかだ」

「そ、そんなことはしない!」

カスも返事を返すが、明らかに揺らいでいた。

「しない。じゃない。そうなると言っているんだ。それも分からない程お前の脳みそはちっぽけなのか?気構えだけでどうにかなると思うか?平和な世界でただただ無為に平和を貪る事しかしてないお前等に人を殺せるか?“人を殺す覚悟”を持てるか?それと同時に逆に“殺される覚悟”を持てるか?何の覚悟もないものが力を持ったところで、ただ惨事を。…いや、災を呼び起こすだけだ」

アイツらが起こした様に。という言葉をオレは飲み込んだ。

オレの過去の戦争の話なんて聞かせたところで何になるわけでもない。

「それに、どうやって相手を殺すのか。お前に分かるのか?剣で首を掻っ切るか?どこまで威力が出るかも分からない魔法とやらで頭を焼くか?槍で心臓を一突きか?窒息か?それとも毒でも吸わせて殺すのか?なぁ?」

オレはそこまで言うと、目のハイライトを元に戻した。

オイラの言葉で周囲の生徒たちの空気は一気に冷め切った。

オイラは、障害物から視線を外し、イシュタルを睨みつけた。

「ってことで、爺さん。結論が出るまで保留って事には出来ないのか?」

イシュタルは、剣呑に目を潜める。俺が何を言いたいか分かったみたいだ。惚けやがって、白々しいんだよ。

「ほう…保留ですか」

イシュタルは、呟く様に。けれども、オイラにしっかりと聞こえる声量で言った。

「ああ。ダメかい?」

「ふむ、それは厳しいですな」

イシュタルは、少し頬を吊り上げながら言った。…気持ちの悪い笑みだ。

「………へえ?理由を聞いてもいいかい?」

「まず、先程話した様に、既に一刻の猶予もないからですな。このまま保留と言われ続け、人間族が滅んでしまうと困りますからな」

…heh heh…。ボロ溢したな。困ります?嘘つくんじゃねえよ。

ま、コレを言ってやるのはもちっと先でいいか。

「そうかい」

それだけ言うと、イシュタルから視線を外した。

……今は情報が足りない。

イシュタルの話す“魔法”がどれほどの力があるのかも知らないし、魔人族についても、魔獣に着いても。差し引いては、この世界の全てが不確定要素に他ならない。

俺としては、返事を遅らせたくはあったが…。厳しそうだ。

だって見ろよ。ゴミがなんか言いたそうにウズウズしてるぜ?

障害物どもが怯んでいる。ハジメがこの隙に、とすかさず愛子先生の元に行こうとして……。

「皆大丈夫だ。そんな事になったりしない。俺たちなら必ずできる!」

天之河がそう言った瞬間、生徒たちは再び熱を取り戻したように顔色が戻っていく。

ハジメがむっとした……いや、は?何言ってんの?話聞いてなかったの?猿なの?と言いたげな表情で天之河を睨み付ける。

オイラは忌々しげに舌打ちをした。せめて返事を遅らせるとか、そういう空気を読んだ返事をしてほしいものだ。

そして言った。

「……そうかい。ここから先はお前等の勝手だ。好きにすればいい……。だが、これだけは言わせてもらおう。このまま今のやり方を続けていたら。何処かで辞めなければ。何処かで変わらなければ。誤いを正さなければ。正そうとしなければ…………お前等はいずれ。きっと近い将来本当にサイアクな目に合わされるぞ」

…だが、オイラの声なんてクラスメイトには届いていない。

結局、その後天之河に散々焚き付けられ、オイラが言ったことも忘れたのか戦争参加は決定事項となってしまった。

 

戦争に参加することが決まった後、オイラ達は聖教協会本山である神山の麓にあるハイリヒ王国の王城に移動することになった。

一行は、聖教協会の建物から外に出る。外は高山のようで雲海が広がっている。そのまま歩いていき、円形の柵に囲まれた白い台座に全員が乗る。そこには魔法陣が描かれていた。

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん、天道」

そうイシュタルが唱えた瞬間、魔法陣が輝きだし、滑らかに台座が動き出した。

そのまま地上に向かって斜めに下っていく。初めて見る魔法に生徒たちははしゃいでいるが、オイラは険しい表情で周囲を睨みつける。

雲海を抜けると眼下に山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町が見える。恐らくあれがハイリヒ王国の王都だろう。

雲海を抜けて天より降りたる神の使徒と言う構図そのままだ。

この世界は神の意志を中心に回っている。

それはいずれ、必ずこの王都に…いや、この世界に悲劇をもたらす。政治と宗教が密接に結びついていた戦前の日本のように。

そしてたどり着いた王宮でオイラ達を出迎えたのはこのハイリヒ王国の国王、エリヒド・S・B・ハイリヒ、王妃のルルリアナ、第一王子のランデル王子、王女のリリアーナだった。

ここで問題なのは国王であるエリヒドが玉座に座らず、立って待っていたことだ。そしてイシュタルが隣に進むと国王はその手を恭しく取り、軽く触れない程度のキスをする。それだけでこの国の力関係がどうなっているのか見当がつく。

だが、オイラもまさか司教の方が国王よりも上だとは思わなかった。軽く目を見開いてしまう。

その後、晩餐会が開かれたのだが、その際ランデル王子が白崎に積極的に話しかけてきていたりした。白崎はオイラを見ていたが興味ないのでフルシカトしたが。

更に王宮ではハジメたちの衣食住が保証され、訓練における教官たちの紹介もされた。オイラはそれら全てを無視していたのだが…まあ、そんな事は全てどうでもいい。今後の意向についてまずはハジメと話し合わなくては。

コンコンとハジメの部屋のドアをノックする。

「……誰?」

怪しむ様な声がドア越しに返ってくる。

「heh、オイラだよ。開けてくれるか?」

「サンズ?ん、分かった」

カチャリと錠が回る音がして、ハジメは中に入れてくれた。

「どうしたの?サンズ」

「いや、今後の事について話をしておくべきだと思ってな。愛子先生に相談する際にも情報は整理しておくべきだしな」

「そっか……うん、そうだね」

オイラは部屋の中のソファに座り込み、ハジメもオイラの横にゆっくり腰を下ろす。

高級そうなソファに及び腰になっているようだ。

「それで………今回の話、どう思う?」

「あー、怪しさしかないな。色々な面が不自然だ」

「…具体的にはどこ?」

「オイラ達を勇者とその仲間として喚んだ。その時点で神と言う存在が怪しい」

「…それってどういう「コンコン」え?……誰…?」

不意に再びドアがノックされ、ハジメが不思議そうに首を傾げ、オイラの方を見てきた。

オイラにも心当たりは無い。は?と首を傾げる。

ハジメは首を傾げながら立ち上がって声をかける。

「あ、あの?どなた…ですか?」

「ハジメちゃん?白崎です。サンズ君……いるよね?」

「八重樫だけど……今いいかしら?」

「え、えっと……し、白崎さんに八重樫さん…?ど、どうしたの?」

「えっと……サンズ君とちょっと話がしたくて部屋に行ったらここに行くのが見えたから……」

「私は香織の付き添いよ。私個人で話をしたかったのもあるけど」

ハジメがこっちを見てきた。入れてもいいか聞いているのだろう。

オイラは小さく頷く。厄介な奴らが来たな…。

ハジメはそれを確認すると、ゆっくりとドアを開けた。

そこにはやはり白崎と八重樫の二人がいた。

学校が誇る2大女神の訪問に思わずハジメが緊張を滲ませる。

「heh、タイミングバッチリだな。急に来たのは驚いたが…まあいい。お前らにも関係あるしな」

オイラが笑いながら言う。本当はコイツらに話す気なんて無かったんだが…。

二人は小さく首を傾げながら部屋の中に入る。

ハジメは小さくため息を吐いてそのまま戻ってきて、オイラの横に座る。白崎と八重樫はベッドに腰掛ける。

「…それで、サンズ。さっき私たちを召喚したから神が信用ならないって言ってたけど……どういう事?」

「え?」

「本当にどういう事?サンズ君」

ハジメの言葉に白崎と八重樫が驚いたように目を見開く中、オイラは小さく頷く。

「あー…さっきの老いぼれが言ってた事を思い出せ。オイラ達のいた世界は、ここよりも上位に世界であり、オイラ達はこの世界の人物よりも数十倍の力を持っている…って言ってたな」 

「う、うん。そうだけど……」

という白崎の言葉に、左目をウインクさせながら言う。

「だったらなぜ。オイラ達みたいな学生を引っ張ってきた?地球にはきちんとした訓練を積み、実績もある軍人が大量にいる。ソイツ等を持ってくればこと足りるだろ?」

オイラの言葉にハジメたちは、あ、と小さく声を漏らした。

言われてみればその通りだ。何の訓練もへったくれもしていない学生の自分達より、ちゃんと戦闘訓練をこなし、実戦も経験したであろう現役の軍人のほうが何倍…いや、何十倍も頼りになる。強さの質そのものがこちらより上であるならば生徒である必要もない。

だが、こういった状況に対する知識では図抜けたハジメは口を開く。

「えっと……私たちの中の誰かが勇者としての資質を持ってたからじゃない…?こういうのって誰でもいいってわけでもないと思うし……」

「heh、それもそうだ。だがそれは軍人を呼ばない理由にはならない。オイラ等を呼んだ後に、再度軍人を呼べばいい」

「それは……」

その言葉にハジメは口をつぐむ。

確かにその通りだ。別にほかの人間を呼んではいけないという訳ではないだろう。

ならば自分たちが必要な人材だとしても、他にもちゃんとした軍人を連れてきてもいい。

いや、世界を救うつもりならそう言った人材は絶対必要だ。

「ま、なんか理由があるのかもしれないがな。一度に転移させられる人数には限りがある〜とか、連続で使用できない〜っつー理由があるかもしれない。だが、アイツ等は、オイラ達が世界を救う存在となんの疑いもなく思っているらしい。戦ったことのない唯の学生が。だ。元居た世界から他の援軍が来る可能性は言われていない。つまりオイラ達だけで戦争をする事を神は許容している。これを見ると、エヒトにニンゲンを守ろうと言う気概を感じられない」 

オイラの言葉にハジメたちは思わず唸る。

今回の召喚のこの世界に対する意味に疑問を抱かざるをえない。

どうして神は世界に自分達だけを呼んだのだろうか。

他にも有用、いや、必要な人材はいただろうに。

異世界から勇者を呼ばなくてはいけないぐらいに切羽詰まっているのに、どうして打てる手をすべて打たないのか。

「もう一つは神についてだ」

「「「???」」」

オイラの言葉に3人揃って首を傾げた。

オイラはカリカリと頬を人差し指で掻いてから言う。

「…あー、つまりオイラ達を呼んだのは、創世神、エヒト。創世神って言うからには、この世界を創った神って訳だ。つまり、魔人族と人間族だって、元を辿れば、“エヒトが創った存在”なんだ。分かりやすくするために砕けた言い方をするぜ?それはつまり、親が仲裁もせず、逆に自ら進んで子供達の喧嘩をさらに激化させてる…って言ったところか」

その言葉にハジメ達は一斉に息をのむ。

よく考えればその通りだ。

これが世界を作ったのが別の神で人間族の神が別にいるのであればオイラだって気にしなかった。

だが、エヒトがこの世界を作った創世神だというなれば魔人族もそのエヒトが生み出したもの。

そして神自らそれを激化させている。おかしい点しかない。明らかに変だ。

「この世界に、もし、”神は争いには参加しない“というルールがあったとしても、それはもう言い訳としては使えない。オイラ達を呼んだんだからな。ま、魔人族という種族は、別の神が作った存在っていう可能性もある。断言出来ないけどな。…何にしても、今は情報が少なすぎる。…勝手に戦争参加を決めやがって…」

「あれ?確かサンズ君は……」

「…オイラは情報が足りない中で帰るためにどこに向かえばいいのか。どのくらいのペースで行けばいいのかすらわからない状態で、後先考えず好き勝手に走り、自分たちの言われたことの意味。それを選び、その後自分たちがどうなるのかも考えず、バカみたいにあっさり話に乗った無能供を咎めているだけだ。魔人族は人間族と争っているらしいが、なぜ戦争をすることになった?きっかけはなんだ?あいつ等は相手のことを何等知らないと言うのに、戦争に参加する。つまり、相手を傷つけ、命を奪うと決めた。こんなの本質的に言えば通り魔となんら変わりはない」

その言葉に白崎と八重樫は思わず視線を俯ける。やっと気付いたようだ。

突然呼び出され、何も分からないまま、相手の事を知らないまま相手を殺す選択をしたのだから。

「まあ、改めてそのことを自覚したのならそれでいいと思うぜ?今はこれからどうするのかを考えるべきだ」

「どうするって……やっぱり、光輝に相談して、答えを先延ばしにしてもらう?その間に「それなんだけど……」なに?ハジメちゃん」

「えっと……私の意見としては、下手に突っつかないで、このまましばらくは訓練と並行して情報収集したほうがいいと思う」

「どうして?ハジメちゃん」

オイラも続きを促すように小さく頷く。

「…ん、サンズには言ったけど、最悪の可能性として、奴隷にさせられるってのがあるけど…もう一つ最悪の状況があるんだ」

「それは?」

「このまま、身一つで国から放り出されること…だよ」

ハジメの言葉に白崎と八重樫は息を飲む。

「heh、ハジメ。どうしてそうなるかもって思った?」

オイラの言葉に続けてハジメは言う。

「うん。私たちは神の使徒、人間族を救う勇者として召喚された。だからこそ、この国の人たちはこんなに優遇してくれてる。だけど、もしも私たちがこの世界の事なんて知ったことじゃない。そんなのどうでもいいから帰せ、って意見で一致して、それを押し通してたら……あの人たち……少なくとも教会の人たち、もしくは神エヒトにとって私たちは神の使徒ではなくなる。そうなると教会には私たちを保護する理由が無くなる。今の待遇が悪化するならまだいい。だけど最悪、この国から追い出される。そうなったら…もうアウト。この大陸の9割が教会の信者っていうのが本当なら、私たちはほぼ確実に誰からの助けも得られずこの大陸で野垂れ死ぬ」

「野垂れ死ぬって……大げさじゃないかな?ハジメちゃん。ちゃんと助けを求めれば……」

「…確かに助けてくれる人はいるかもしれない。でも、今よりも格段に状況が悪くなることは確定だよ」

ハジメの言葉に白崎は恐怖を滲ませる。オイラも渋い顔をした。

「だとすると、あの場でのオイラ発言は不用心だったか……悪いことをした」

そう言いながらオイラがその場で頭を下げると八重樫は小さく首を横に振る。

「……いいえ。サンズ君の言っていた事は間違いではないわ。それはこの状況だとしても、自分で考えなくちゃいけないことだから」

「……ほかの奴等にも何か言っておくか?」

「それはそれでマズイわ。もしもサンズ君があの発言に関して撤回するようなことを言ったら、それこそサンズ君が言ったようなことが現実に起こるかもしれない。今はみんな戦争に参加するつもりだけど、だからこそ、サンズ君が差した釘は抜くわけにはいかないわ。みんなには悪いけど、情報が集まるまではこのことは伏せておきましょう。教会の人たちに不信感を与えるわけにもいかないし」

「……そうか」

「じゃあ……どうする?」

「………そうだな。当面はハジメが言った通り訓練と情報収集に集中するべきだと思うぜ。戦争に参加するかどうかは別として、この世界がどういう場所か、どこに何があるか、危険の度合いなども調べて、希望を言えば神に頼らない帰還方法を探す。それをやる為には、戦闘技術が必要になるかもしれない。最悪国を追い出されても、自衛ができるならまだどうにかなるかもしれないしな」

「そうだね……」

「現状、それが最善手ね………」

「heh、じゃあオイラ達は今から愛子先生の下に行ってこの事を伝えてくるぜ。現状は詳しいことが分かるまでは下手な動きはしない…ってことでいいな?」

「「「分かったよ(わ)」」」

3人が頷くのを見届けると、オイラはハジメを連れてそのままハジメの部屋から出ていく。

そして違和感を感じ取った。転移させられた時とは別の、ある意味物凄く安心できる違和感だ。

それから左右を確認し、ハジメに言う。

「……ハジメ。今から見る事は絶対に口外しないでくれ。いいな?」

ハジメの目を見つめながらオイラは言う。

「?…分かった。言わない」

「OK。絶対だからな?」

「ん、絶対」

ハジメがそこまで言うと、オイラはため息一つ吐いてから虚空に声をかける。

「heh heh……居るんだろ?博士」

そう言うと、グワァンと変な音がしてオイラの横に縦長のシルエットが浮かんだ。

「はは、流石だね。サンズ君」

「ま、アンタの行動パターンは一応全部把握しているつもりだからな」

「ならば、私が何をしにきたかわかっているかい?」

オイラの横に立つ影…W.D.ガスターは愉快そうに笑いながら言った。

ハジメが目を白黒させながらオイラと博士を見ていた。

「まあな」

「ほう?言ってみてくれるかい?」

「…はぁ……今のオイラ達の状況報告。この世界の実情やらその諸々………違うか?」

「君は本当に勘のいい子だね。全くもってその通りだよ」

そう言うとガスターはゴソゴソと懐を漁り、そこから分厚い書類がまとめられたファイルを取り出した。

「これがそうだよ。後で確認しておきなさい」

「heh、分かったよ。じゃ、また後でな」

「……ああ、そうそう。最後にこれだけ……君はこれから途方もない苦労をするだろう。頑張るんだよ。ああ、ハジメちゃん。サンズ君の事よろしく頼んだよ」

そう言うとガスターは虚空に溶けるように消えていった。

「はぁ…面倒なことになったもんだ」

「……が、ガスターおじさん…??」

ハジメが目を瞬かせながらオイラを見つめる。

「heh、まあ余計な詮索はしないほうがいいとだけ言っとくぜ」

そう呟きながらオイラは歩き出す。

異世界。そういうものがあることは自分は百も承知だった。

自分もそうだから。

だが、まさかこうして生きている内にまた味わう事になるとは思わなかった。しかも、今度は自分だけでなく、ハジメや、恩師の愛子先生まで。

この世界の生物が自分とどの程度までやれるか分からない。

今の自分は地球という平和な環境に適合してしまい、あの時に比べてどちらかと言えば弱体化している。

もしもクソガキと同格がいたら………

…いや、相手が何であろうと関係ない。あの時と何ら変わらない。オイラはやるべき事をやるだけだ

オイラはそこまで考えをまとめると、ハジメの手を取って歩き出した。

無論、愛子先生に報告に行く為に。

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