………まぁそれからなんやかんやあって…オイラ達は今、オルクス大迷宮の攻略に乗り出していた。なんでも戦闘訓練らしい。
なんか昨日の夜に白崎が警告してきたが、どんな内容だったか。どんな話をされたかはこれっぽっちも覚えていやしない。
オイラ達はオルクス大迷宮の正面入り口がある広間に集まっていた。
誰もが少しばかりの緊張と未知への好奇心を表情に浮かべる中、オイラはは久方ぶりに感じる戦いの気配に少し機嫌を悪くしていた。
そりゃあオイラはプレイヤーとずっと殺りあって来たのだからアレのような戦闘はもうしたくない。
迷宮の入り口は博物館の入場ゲートのようなしっかりした入り口だった。迷宮感ぶち壊しだ。ハジメの憧れを返せ。
どこぞの役所のような受付口まであった。
制服を着た受付嬢が迷宮への出入りをチェックしている。ホントに七大迷宮の一つがこんなんでいいのか?
更に入り口付近には露店が所狭しと並んでいるからか、死ぬほど騒がしい。まだ朝なんだぞこんちくしょう。
オイラが迷宮の入り口周辺を興味無さそうに眺めている中、ハジメ達はお上りさん丸出しでキョロキョロしながらメルド団長の後をカルガモのヒナのようについて行く。オイラも道を知らないから同じようにヒナなのだが…。
迷宮の中は外のにぎやかさとは無縁だった。横幅5メートル以上ある通路は明かりもないのにうすぼんやりと発光しており、たいまつや明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。本によれば、緑鉱石と言う特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、迷宮内でも基本的に明るいそうだ。
一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると、高さ7,8メートルぐらいのドーム状の広間に出る。
と、その時、物珍しそうに辺りを見渡している一行の前に壁の隙間と言う隙間から灰色のパーフェクトボディな2足歩行のネズミが湧き出てこちらをぎょろりとした目で見やると異様な鳴き声を発しながら近づいて来た。
「よし、光輝たちが前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうから、準備しておけ!あれはラットマンと言う魔物だ。すばしっこいが、大した敵じゃない。冷静に行け!」
流石は経験豊富な騎士団長。その言葉通り、ラットマン達が速度を上げて飛び掛かってくる。正面に立つ八重樫の頬が引き攣っている。気持ちは分からなくもないがソレはしちゃダメだろ…と内心ジト目で八重樫を見た。
間合いに入ったラットマンを天之河、八重樫、坂上の三人で迎撃し、その間に、白崎、中村、谷口が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。クラスメイト達が何度も行ったフォーメーションだ。とはいえ、オイラとハジメは戦力外扱いを受けてはいるが。
天之河は純白に輝くバスタードソードを視認(オイラは普通に見えている。ていうか死ぬほど遅く見える)の難しい速度で振るってラットマンを切り裂く。
アイツの持つ剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで聖剣と言う名前だ。さながらゲームの勇者だな……ああ、アイツ勇者だったか。
聖剣には、光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるというぶっ壊れた武器なんだとか。勇者様様だな…いや、微塵もそんなことないか…。
坂上は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。坂上はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿はさながら無敵の肉壁ってところだ。
八重樫は、サムライガールらしく〝剣士〟の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどだ。オイラからしても流石の一言だ。
そうしていると後衛3人の詠唱が響き渡る。
「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ、螺炎」」」
同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。
「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。どうやら一階層の魔物では召喚組に対して力不足のみたいだ。
「ああ~、うん、よくやったぞ!次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」
アイツらの優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルドは肩を竦めた。
オイラも同じだ。あんな雑魚相手になに良い気になってるんだか…プレイヤー撃退仕切ってから喜べってもんだ。
「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」
オイラも思っていたことをメルドが注意した。
メルドの言葉に香織達後衛組は、やりすぎを自覚したのか思わず頬を赤らめてしまう。
その様を見ていたハジメは小さくため息をつく。
「……これ、私達必要ないんじゃ……」
「heh heh まあいいだろ。自分なりに行こうぜ」
そう言っている間に、オイラの番になったようで前に出る。アーティファクトなんか持ってないが、オイラにはそんなものは必要ない。装備だってつけてない。いつも通りの格好だ。
オイラは前衛組と交代で前に出されるようだ。メルドの指示で前線に出る。
前に出たオイラを、ラットマンはチラッと見ると、完全に格下だと思ったのか飛び掛かってくる。
ラットマンはオイラに到達しそうになると、地面を強く踏み、高く跳躍すると殺気を放ちながら右腕を振りかぶった。
そこで、オイラはスッと左腕を伸ばした。左目を蒼く光らせながら。
直後、空中でラットマンが停止した。
「ギッ?!ギャギャギャ!」
ラットマンは抵抗しようと、ワタワタと手足をばたつかせる。
だがそれは全て無駄に終わり、空を掴むだけだ。
オイラはブラスターを一体設置し、わざとチャージする。
ギュォォォオオオオオオオオオオ…ッと独特のチャージ音をブラスターが響かせる。
そして、ドォォォオオオオオオオオオン!と音を立てながらビームが発射され、ラットマンを一瞬で灰燼に変えた。
だがそれだけにとどまらず、後ろにいた別のラットマンも焼き尽くし、更には部屋の奥の壁の一部を灼き、少し融解させつつ、変色させる。
その光景に生徒たちが目を見開く中、焦ったようにもう一体のラットマンが走り寄ってくる。
オイラは、駆け寄ってきたラットマンに再び無言で重力操作を行い、左手を勢いよくギュッと握った。
するとラットマンの体が歪んでいき、バヂュンッ!と奇怪な音を立てながら潰れ、ラットマンが果てた。重力操作で圧殺したのだ。
潰れてグチャグチャに歪んだ死体から血が噴水のように溢れ出ている。
体が原型すら留めないほどに悲惨な事になっているが、しょうがないことだ。
その凄惨な光景に生徒たちがひっ、と声を漏らす。つくづく甘い連中だ。
そう考えながらオイラはは残ったラットマンたちに視線を向ける。
ラットマン達は一対一では絶対に勝てないと踏んだのか、四方向から同時にジリジリとすり寄ってくる。
そして今と見たのか、4匹は同時に駆け出した。
オイラに向けてラットマンの爪が振るわれる。
クラスメイトが後ろであっ!と声を漏らす。
アイツらが知っているオイラのステータスはオール1。たった一回。攻撃に当たってしまえば死んでしまう。
まあ本当のステータスが勇者なんか足元にも及ばない程だと知れば彼等は卒倒してしまうだろう。
そんなことを考えている間にラットマンの爪がオイラの眼前に迫る。
だが。
MISS
「え?もしかして大人しく当たるとでも思ったのか?」
オイラはショートカットでラットマンの包囲網から逃げ、極大ブラスター一体をラットマン達の頭上に設置して、4体とも一気に灼き尽くす。
クラスメイトは呆然とオイラを見ていた。
「さっさと行こうぜ」
オイラの無機質な声が大迷宮にこだました。
そのまま特に問題もなく交代をしながら戦闘を繰り返し、オイラ達は目的地の20階層にたどり着いた。
迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。
現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。ないんだがそれを抜きにしても普通なら迷宮内のトラップなどに注意を払う必要があり、ここまでスムーズに降りることはできない。オイラ達がそれをできているのは、騎士団員たちが罠を見破るフェアスコープと言う魔道具と己の経験を駆使して罠を見破っているからだ。
それにしても、とオイラは思う。この迷宮の魔物は恐ろしく弱い。こんな連中に勝って一流を名乗れるとは……よほど”オイラ“の元々居た世界が上位の世界かわかる。地球よりも恐らく上だろう。
二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段がある…と本で読んだ。
そこに行けば今日の訓練は終わりだ。まあ、そこからはまた地道に帰らなければならないのだが。神代の時代には転移魔法なんて便利なものがあったようだが今は存在しないらしい。
一行が少し弛緩した空気の中歩いていくと、先頭を歩いていた天之河達やメルド団長が立ち止まる。
オイラはそこでブラスターを3対召喚した。
「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」
メルド団長の忠告が飛んだ直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。擬態能力を持ったゴリラ型の魔物。ロックマウントだ。
「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!豪腕だぞ!」
飛びかかってきたロックマウントの豪腕を坂上が拳で弾き返す。天之河と八重樫が取り囲もうとするが、無数の鍾乳石のせいで足場が悪く思うように囲むことができていない。
坂上を抜けないと感じたロックマウントが後ろに下がって大きく息を吸い込むと、大口を開け、
「グガガガァァァァアアアアーーーー!!」
部屋全体を振動させるような強烈な咆哮が放った。
「ぐっ!?」
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
その咆哮を喰らった天之河、坂上、八重樫の体が硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法、威圧の咆哮。魔力を載せた咆哮で相手を麻痺させるものだ。
3人が硬直した瞬間、ロックマウントは突撃はせずにそのまま横に跳び、傍らにあった岩を持ち上げ白崎達後衛組に向かって投げつけた。それはそのまま前衛の頭上を越えて岩が後衛の白崎たちに迫る。
白崎達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けるが、次の瞬間、硬直する。
投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて白崎達へと迫る。
ルパンダイブだぁ〜…とオイラは適当な事を思った。ハジメが、おお…!と目を輝かせながら見ている。
ロックマウントから「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうだ。しかも、妙に目が血走って鼻息が荒い。白崎に中村に谷口が一斉にヒィ!と声を上げて魔法を中断させてしまう。
「戦闘中に余所見とは…随分余裕そうだな?」
オイラはブラスターの一体でダイブ中のロックマウントを灼き、白崎達は、「ご…ごめん……」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。そんな様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊ご都合解釈フル稼働正義感&欲望丸出しいざという時に何もできないクソ勇者だ。
「貴様……よくも香織達を……許さない!」
どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて!と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。
「万翔羽ばたき、天へと至れ――天翔閃!」
「あっ、こら、馬鹿者!」
メルドの声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。
その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。曲線を描く極太の斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁に直撃し、その壁を破壊し尽くしてようやく霧散する。
ふぅ~、と息を吐いてイケメンスマイルで白崎達の方に向き直るのだが、メルドの拳骨が炸裂した。
「へぶぅ!?」
「この馬鹿者が!気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」
天之河は叱られ、白崎たちは苦笑をしながら慰めていると、不意に白崎が天翔閃によって破壊された壁のほうに視線を向ける。
「あれ、何かな?キラキラしてる……」
白崎の視線を追って全員が視線を向ければ、そこには青白く発光する鉱物が、まるで花が咲くように壁から生えていた。
白崎を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。
「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな」
グランツ鉱石。あれは贈り物の類でかなり評価が高く、宝石の中でもトップ3に入るそうだ。
「きれい……なのか?…」
「…サンズ宝石とか興味ないもんね」
凄くどうでもよさそうにグランツ鉱石を眺めるオイラにハジメは苦笑を浮かべる。
「だったら俺らで回収しようぜ!」
その言葉でオイラはハッと顔を上げた。
「おい待て!安全確認もまだなんだぞ!」
メルドの声がビリビリと響くが、檜山は聞こえないふりをして崖をひょいひょいと登っていく
と、その時
「!団長!トラップです!」
「!?」
「っ!?止めろ!ブラスター!!」
フェアスコープでグランツ鉱石を確認していた兵士が叫ぶと同時にオイラはショートカットで檜山のところまで行こうとするが………………
間に合わなかった
部屋がピカっと光り、オイラ達はその場から姿を消した。