ありふれてない職業で宇宙最強   作:ヘビーなしっぽ

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奈落の奥深く。そこに彼は眠る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……あ“〜………くそ……体が動かねぇ………」

オレは今。硬い地面の感触をしっかりと味わいながら地面に横たえていた。

理由は当然。あの後、落下している途中に壁から出ていた鉄砲水に打たれて、壁に思いっきり衝突し、壁際に体を擦り付けながら落ちてきたのだ。無論下に水なんていう落下の衝撃を防ぐものなどなく、落ちて来た衝撃のままに地面に衝突したからもう体力も残っちゃいない。

「くそっ、魔力も練り上げられねぇ……マズイ………」

ハジメに護衛用のオートモードブラスターを数体くっつけさせたことと、壁にぶつかった瞬間、その威力を軽減するのにほとんどの魔力を消費したためもうほとんど魔力は残ってない。

ちなみに、落下途中に魔力がなんとか回復してくれたお陰で、かなり勢いを殺せたのだが、焼け石に水だったようだ。

地面にぶつかった衝撃で身体中にヒビが入り、頭蓋骨が割れている。両目とも真っ赤に充血しているだろう。ついでに鉄砲水が口内を蹂躙し、声帯を終わらせたのだから更に始末が悪い。

「せめて…これくらいは……っ!」

オレは地面に手をついた。

「錬っ……成っ………」

オレは残り僅かな魔力を全て注ぎ込み、自分を囲む形で壁を作った。

「っ……畜……生……………が…」

オレは安堵したのか、一気に眠気が襲ってきた。

だが、この眠気が唯の眠気では無く、死に誘うものであることをオレは知っている。

「っ……駄目だ………コードが…改変できねェ…」

薄れゆく意識の中、オレは何かが近寄ってくる音を聞いた。

 

 

 

 

 

「……?サ……ンズ…………………?」

南雲始芽は血に濡れそぶり、地面に倒れ伏したまま動かなくなった最愛の人を眺めていた。

目が覚めたときには川にいて、濡れた服を乾かし、冷えた体を温めているときにハジメは気づいた。

自分の周囲にサンズの固有魔法。ガスターブラスターが浮遊していることに。

そのことからハジメは、まだサンズが生きている事を悟り、すぐに服を着て階層内を探していたのだ。

その時に物凄い蹴りを放つ兎に出会し、左腕を砕かれ、必死に逃げた。

その最中にハジメは蹴り兎さえも圧倒する爪熊と出会した。

ハジメは、蹴り兎と爪熊が睨み合っている(蹴り兎はただただ怯えて足がすくんでいただけだった)最中にハジメは逃げ出し、九死に一生を得たばかりなのだ。

そんな中、弱々しいサンズの声を聞いたハジメは急いで声の聞こえた方向に向かった。

だが、時すでにお遅し。ハジメが走り寄っている間にサンズは力尽きてしまった。

勿論サンズはピクリとも動かなければ、呼吸、心臓ともに止まっている。

傍に浮遊していたブラスターは苦しそうに顔を歪めると、呻くように身を捩り、虚空に溶ける様に消えた。

「サン……ズ…?………なに…してるの?………危ない…よ…?…こんな、、…所で…寝てた………ら…」

ハジメは呆然とした表情で少しずつサンズの方へ歩み寄って行く……が、それを阻止する存在が在った。

ドドドドドドドドッ!!とものすごい勢いでこちらに走り寄ってくる音を聞き、ハジメはハッと我に帰った。

だが、悲しいかな。また一歩遅かった。

何かしようと行動を起こす前にゴウっと風が鳴るような音がして、ハジメは歩いていたら方向の反対側の壁際に勢いよく叩きつけられた。

「かひゅっ!」

叩きつけられた衝撃で肺の中の空気を全て吐き出してしまい、苦しそうに咳き込むハジメは、揺らぐ視界でなんとか焦点を爪熊に合わせる。

すると、爪熊は何かを咀嚼していた。

ハジメは理解できない事態に困惑しながらも、異様な音を聞きつけ、蹴り兎に文字通り砕かれた左腕を見た。

正確には元々左腕があった部分を…。

そこは大量の血が溢れ出ていた。ビチャビチャバチャバチャという生々しい音と、ぐちゃぐちゃという爪熊がナニカを咀嚼する音だけが響く。ハジメは顔を引き攣らせながら、何度も腕があった場所を手で触れようとする。脳が、心が、現実を理解することを拒んでいるのだろう。

しかし、腕を襲う凄まじい激痛がハジメを現実に引き戻す。

「あ、……ああああああああああああああああああああああああ!!!」

ハジメの絶叫が迷宮内に木霊した。ハジメの左腕は肘から先がスッパリと切断されていたのだ。爪熊が放った風の刃で。

ハジメの腕を喰い終わった爪熊は顔を涙と鼻水とよだれでべたべたにして痛みにもがくハジメに視線を向ける。

………が、元々ハジメが居た場所にハジメは居なかった。

爪熊がキョロキョロと辺りを見渡すと、壁際に骸骨を抱き抱えたハジメが居た。

爪熊が、ハジメの腕に夢中になっている間に、ハジメは左腕の痛みに耐えながら、サンズの死体を抱き抱え、壁際まで移動していたのだ。

「グァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!」

爪熊はハジメを見つけると、猛スピードでハジメに突進してきた。

ハジメは無くなった左腕の脇でサンズも腕を挟み込み、右手を後ろの壁に付けて移動を始めた。

「錬成!錬成!錬成!錬成!錬成!」

サンズを穴に引っ張り込みながら、後ろに後退しつつ、錬成を駆使する。

「グゥガアアアアアアアアアア!」

爪熊は怒りの声を上げながら、ハジメ壁を壊しながら追走する。

「ああああああああああああ!錬成!錬成!錬成!錬成!錬成!錬成!錬成!」

ハジメは爪熊から少しでも逃れようと練成を連続で使い、奥の方へと進んでいく。左腕の事もすでに頭からは抜けており、今はサンズと共にここから逃げる。それだけの為に突き動かされていた。

どれぐらい進んだかハジメにはもう分からない。だが、いまだ遠くからは壁を引っ掻く音が聞こえるから止まるわけにはいかない。出血多量で意識を失いそうなるがそれでも必死に進もうとする。しかし、

「練成……練成……練成……れん……せぇ……」

その間に魔力が尽きたようで、もう壁は練成されない。そのままハジメはずるりと倒れ伏すが、必死に首を動かして隣に転がるサンズを見やる。

以前サンズはピクリともしない。それどころか、こうして触ってみて分かる。分かってしまった。サンズの目が完全に光を失っていることに。

「サ……ンズ………」

ハジメはそう呟くと同時に意識を闇の中に落とす。その寸前、ハジメは頬に水滴を感じていた。

 

 

 

頬に水滴が当たり、口に流れ込む感触にハジメは意識を取り戻す。

(あれ……?私……生きて……)

疑問に思いながら目を覚まして体を起こそうとして、低い天井に頭をぶつけて呻きながらうずくまる。

そして反射的にハジメは天井を練成で広げようと手を伸ばすが、左腕はひじから先が無い。それを見てハジメは息をのむが、少しすると左腕を幻肢痛が襲い、思わず切断面を抑えるが、そこは盛り上がった肉で塞がっている。

「ど、どうして……」

ハジメが疑問に思っていると、再び水滴が頬や口元に当たり、それを飲み込むと体に活力が戻ってくる。

「まさか……これが……?…そうだ!サンズ!」

ハジメは慌てて右手で周囲を探ると、すぐに手は骨に触れた。どうやら何とか連れてくることができたようだ。

ハジメはすぐさまサンズの体を揺する。

「サンズ!しっかりして!目を開けて!お願い!」

ハジメはそう言いながら揺するが、サンズは何も声を発しない。それどころか呼吸音も聞こえない。

ハジメは顔を青くしながら必死にサンズを揺すり、体に触れていく。

左側の頭蓋骨に穴が空き、全身にヒビが入り、所々折れたり砕けたりしている。

その事実にハジメは過呼吸気味となり、目の焦点が合わなくなってくる。世界が音を立てて崩壊を起こす音が聞こえてくる。だが、そこでまた水滴が頬に当たる。

その感触でハジメははっとし、焦点が定まる。

「そうだ……この水……!」

恐らくだが自分の傷はこの水のおかげで治ったと思われる。だとしたら、息の止まってしまった最愛の人もこの水で助かるのではなかろうか。

ハジメは急いで水滴がたれるところに手を差し出して水滴を受け止める。幾らか受け止めたところですかさずサンズの口元に持って行って飲ませようとするが、サンズの口は堅く閉ざされている。ハジメは左ひじを使って口をこじ開けて飲ませようとするが、水がこぼれてしまう。

「ダメ……もっと必要………水源を探そう…」

ハジメは幻肢痛に耐えながら右手を水滴が流れる方へ突き出し錬成を行う。そのままどんどん練成して奥に進んでいく。普通なら魔力が尽きてしまうが、この水は魔力も回復するようで、それで回復しながら進んでいく。

流れる水の量が増えてきて、さらに奥に進んでいけば、ついに水源にたどり着く。

「これ……は……」

そこにはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう。

ハジメは一瞬、幻肢痛もサンズの事も忘れて見蕩れてしまった。だが、すぐに思い出すと鉱石の周りの石壁を練成で取り除き、最後には右手でもって石壁から引き剥がす。

ハジメは手の中の鉱石をしげしげと眺めた後、そのまま直接口をつけて水をすする。

ほんのりと甘い水が喉の奥にあった塊を押し流した。

すると、体の内に感じていた鈍痛や靄がかかったようだった頭がクリアになり倦怠感も治まっていく。

やはりこれがハジメの回復の原因だったようだ。これならばサンズを助けられるかもしれない。ハジメの目に僅かながら希望が宿る。

なお、まだハジメは知らない事だが、実はこの石、神結晶と呼ばれる伝説の鉱物だったりする。

神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りに蓄積、その魔力そのものが結晶化したものだ。確認されている限りでは三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて魔力を蓄積し、蓄積した魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

その液体は神水と呼ばれ、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、不死の霊薬とも言われている。

ちなみにだがハジメが見つけた神結晶。これは自然にできたものではなく、とある黒い練成師が自作して、それをある少女が奈落に落としてしまったものである可能性が高い。

ハジメは外套で神結晶を包んで神水を漏らさないようにすると急いでサンズの元に戻る。

戻ってきたとき、サンズは変わらずその場に横たわっていた。ハジメは窪みを作ってそこに神結晶を置くと外套を脱ぎ、サンズの口元に持っていくとそのまま外套を絞ってしみ込んだ神水を絞り出し、サンズの口に垂らしていく。

「サンズ!お願いしっかりして!これで助かるから!絶対に助けるから!」

ハジメはそう言いながら神水を飲ませようとするが、サンズは微動だにしない。

「サンズ……起きてよ……私を……一人にしないでよ……」

必死に神水を絞っていくが、仮にサンズの口の中に入っても飲み込むことはなく、傷も癒えない。意識を取り戻さない。絶望の淵に立ち、心が折れそうなのを必死に保ちながら絞るが、ついに外套から神水が出てこなくなる。

「サンズ…サンズ……サンズ……」

ハジメの手から外套が落ち、その手でサンズの首元に触れるが、そこからは何も返ってこない。元から冷たかった最愛の人の首がさらに冷たく感じる。

それがトドメだった。今まで必死に目を背け、わずかな希望に縋り続けてきたがもう限界だった。もう目をそらすことはできない。

サンズは……今まで自らを導き、ここまで連れてきてくれた最愛の人…W.D.サンズは………………死んだのだ。

「サン……ズ……」

ハジメはその場で崩れ落ち、光を失った目で項垂れる。ハジメの心は完全に折れてしまった。

 

 

 

南雲始芽にとって、W.D.サンズはどういう存在かと問われたら、彼女はよどみなく恋人だと断言する。

彼らは幼少期の頃に出会い、まるで本当の兄弟のように時を共にし、今まで歩んできた。

幼い頃のサンズはあまり外へ外出するような性格ではなく、いつも部屋で本を読んだり、親…W.D.ガスターの研究を見ていたりとインドアな子供だった。

だが時々、ハジメがサンズと共に外で遊ぶときはいつもサンズは常にハジメを気にかけていた。ハジメはそのサンズの後ろをカルガモのヒナのようについて回っていた。

そして、何かあった時、サンズはいつもハジメを守ってきた。それは小学校に上がってからも、中学校に上がってからも。いじめっ子や怖い犬。そう言った恐ろしい物に対し、サンズは常に一歩も引かなかった。一歩も引かず、後ろに隠れるハジメを守り続けた。ときにはブラスターで相手を威圧したり、睨み合いで勝利したり……その背中は、ハジメにとってはまさにテレビの中のヒーローその物だった。

その中でも更に大きかった事件がある。

ハジメは、幼い頃から容姿端麗。そんな彼女は、幼い時、男子に絶大な人気を誇っていた。

だが、そんな他の女子達からしたら、彼女は気に食わない存在であった。

だからこそ、かなりハードなイジメを受けた。

トイレの便器に頭から突っ込まれたり、机や椅子をボンド塗れにされたり、時には上履きに大量の画鋲やカミソリを入れられたり、教科書を破り捨てられたり。

しかし、それでも彼女は元気に振る舞い続けた。彼女が憧れていたW.D.サンズは、この程度で怒りを発露させたりしないからだ。

だが、それがいけなかった。

いじめっ子達は、そんなハジメの態度がもっと気に食わなかったらしい。

とある日の帰り道、ハジメはいじめっ子たちがけしかけた数人の上級生に人目の付かない路地裏に無理矢理連れられてしまったのだ。

勿論抵抗はしたが、非力なハジメが数人の上級生相手に敵うはずなく、なす術なく連れ込まれてしまった。

男達は、泣き喚くハジメを舐め回すような視線を向けながら手を掛けようとした。

ハジメが、これからされるであろう事を想像してぎゅっときつく瞼を閉じた時だった。

「……heh heh。楽しそうな事してんじゃねぇかこの社会のクソゴミ供が」

そんな声が聞こえたかと思うと、男達の呻き声と、ギュオオオオオオオオ!という謎のチャージ音が響き、次の瞬間、ゴォォォォォォオオオオ!という轟音が響き渡り、音が全て消えた。

ハジメが恐る恐る目を開けると、映ったのは、壁に体をめり込ませながら、全身からプスプス…と煙を出す男達だった。

「サン……ズ?」

ハジメは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でサンズを見た。

「…………すまんハジメ。無事…なわけないよな。本当にすまん。こいつらを寄越した糞女をぶっ飛ばすのに時間がかかっちまった」

サンズは言いながら、ハジメの体を抱きしめたまま何度も何度も謝り続けていた。

ちなみにこの事件は、ガスターが全力で証拠という証拠を隠滅したのだった。

それ以降、ハジメはサンズの背中に憧れ、魅せられ、羨望し、そして恋をした。

それと同時に心のどこかで情けないと思っていた。いつも恋人の背中に隠れてばかりだったから。一緒にいないときはそれなりに立ち向かえたのだが、彼がいたらいつも隠れてしまっていた。それがハジメにはサンズの足を引っ張っているようでたまらなく悔しい事だった。

だからこの世界に来た時、ハジメは異世界や先への恐怖を抱きながらも心の片隅で喜んでいた。これでやっと恋人を助ける事ができるのだと。

 

……だが、その時は………永遠に来なくなった。

 

 

 

 

 

ハジメは、今、手足を縮めて胎児のように丸まってサンズの横にいた。

ハジメの心が折れた日から四日が経っていた。

その間、ハジメはほとんど動かず、神結晶を置いたくぼみに溜まった神水のみを口にして生きながらえていた。

しかし、神水は服用している服用者を生かし続けるが、それで腹が膨れるわけではない。死なないだけでハジメは壮絶な飢餓感と幻肢痛による地獄を味わっていた。

 

(どうして私がこんな目に?)

 

ここ数日それしか考え付かない。

その間何度も何度も、意識を失うように眠りについては、飢餓感と痛みに目を覚まし、そのたびに現実から逃げるようにサンズの体を揺さぶり、神水を飲ませ、呼吸の有無を見る。そして死を幾度も叩きつけられ、苦痛から逃れる為に再び神水を飲んで、また苦痛に苦しみ、現実をぶつけられる。

それを何度も繰り返していくうちにいつしか、ハジメは神水を飲むのを止めていた。無意識の内に、苦痛を終わらせ、親友に会いに行く方法を実践したのだ。

(こんな苦痛がずっと続くなら……いっそ……そうすれば……サンズに会える……)

そう内心呟きながら意識を闇へと落とす。

 

それから更に三日が経った。

一度は落ち着いた飢餓感だったが、再び今度は更に激しくなって襲い来る。幻肢痛は治まらず、ハジメの心を削っていく。

(まだ……死なない……あぁ、早く、早く……………やだ……死にたくない……)

死を望みながら無意識に生に縋る。矛盾した考えが交互に過る。ハジメは既に、正常な思考が出来なくなっていた。うわごとのようにサンズの名前を口にするようになった。

それから更に三日が過ぎる。その間ハジメは本当に神水を口にしていない。既に前に飲んだ神水の効力はなくなり、このままでは二日と保たずに死ぬだろう。食料どころか水も摂っていないのだ。

 

しかし八日目、そこからハジメの精神に変化が現れ始めていた。

幾度も幾度も幾度も幾度も死と生を交互に願いながら、地獄に耐えていたハジメの心に、ふつふつと暗く澱んだものが湧き上がってきたのだ。

(どうして私が苦しまなきゃならないの…?…私が何をしたの…?)

(サンズが死んだ……どうして死んだ……?)

(なぜこんな目に遭ってる…?…なにが原因?……何がサンズを殺した……?)

そんなどす黒い思考が滲みだし、ハジメの心を侵食していく。ハジメの心がどす黒く染まっていく。

ああ、そうだ。誰がサンズを殺した?誰のせいで自分はこんな目に遭っている?分かっている。クラスメイトの誰かだ。誰がそうした?許さない。絶対に許さない。サンズはいつも自分を押し殺すようなことはしなかった。常に自分の心に従っていた。ならば………

だが、脳裏に焼き付いた背がその浸食を阻む。確かにサンズは怠けてばかりだが、怒るときは怒り、対立する時は見事に対立した。でも、優先するのはいつもハジメの身だった。

自分はサンズではない。だが、自分はそんなサンズの背に憧れた。だからハジメは自分に問う。

(私は……‥私は………)

 

9日目。ハジメは自分はどうしたいのか、どうすればいいのか、何をすればいいのか強く自分に問う。

(私は何を望んでる?)

(私は生を、サンズと一緒に帰ることを望んでいる。サンズの仇を取ることを望んでいる)

(それを成すにはどうすればいい?)

(私は……私は……)

 

そして10日目。

 

ハジメはじっと静かに横たわるサンズの体を眺めていた。その目には悲壮も、諦めもない。

そしておもむろに手を伸ばすとサンズがいつも着ている青いパーカーを苦労しつつ脱がした。

「ごめん、サンズ……一緒に帰りたいけど、流石に一緒じゃ帰ることなんてできそうにない。だから……せめてこれを形見として持っていくことにするね」

ハジメはパーカーを羽織った。

そして手をついて練成を行うとサンズの周囲の地面を穴に練成する。

穴の中に横たわるサンズを見つめ、ハジメは一回瞑目すると、

 

「さようなら……サンズ……」

 

そう呟いて練成で地面を元の形に戻し、恋人を埋める。

完全に埋まったことを確認すると、ハジメは随分と溜まった神水を口に含んで活力を取り戻す。

そしてハジメは顔を上げる。その目に宿るのは奈落の底の闇と絶望、苦痛と本能、そしてそれらの中であっても色あせなかった憧憬の気持ちが鍛え上げた強靭な意志。

「私は帰る……絶対に……そしてサンズの敵を討つ。誰だろうと必ず見つけ出す……それを邪魔するならなんだろうと、誰であろうと……殺す」

その意志と共にハジメは横穴から這い出ていく。





 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 奈落の底の一角。もうそこから人の気配が消えて随分と経つ。すでにハジメはその階層を後にしていた。サンズを埋葬した穴もすでに練成で完全に塞がれている。
その穴があった箇所。穴も何もないその壁から何かが聞こえてくる。ミシ…!バキ!ゴキッ…!ゴバッ!
そしてその音が止んだ次の瞬間、奈落そのものを揺るがすような轟音と共に壁が吹き飛ばされる。壁の一角ではない。壁そのものが、だ。空間は揺らめき、サンズが埋葬された箇所が大きく陥没し、およそ半径20m程の大穴が空いた。その中に巨大な影が見える。その影は巨大な目玉をギョロッギョロッと動かし左右をみると、階層を揺らす叫びを上げた。
「ゴァガアアアアァァァアァァアアァァアアアアアアアァァァァアアアア!!!!」
奈落そのものを。いや、世界そのものを揺るがさんばかりの咆哮を上げる。その瞬間、その階層の魔物……否、奈落に住まう全ての魔物…否。この世界に巣食う魔物が一斉に怯え、一匹残らず錯乱したように暴れ回る。














生ける最悪の再誕だ。
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