口の聞き方がなってねぇな。兄弟子に向かって   作:とろまぐろ

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気にくわねぇな

 

 

 

鬼の襲撃を先生と共に退けてから、もう二週間が経った。

…正直、あの時死んでてもおかしくなかった。だからこそ今、脳内に流れ込んだ未来の記憶を必死で整理している。

 

なぜ知識が俺に流れてきたのか?そんなこと知らねぇよ。考えたって分かるわけない。俺が気にすべきはそこじゃない。

 

問題は未来の俺がどう死んだか、だ。

 

未来の俺は上弦の壱に出会い、勝ち目がねぇと悟って命乞いしたらしい。で、鬼になって人を喰いまくって、穴埋めみたいな形で上弦にのし上がる。けど結局は馬鹿にしてた弟弟子に斬られて終わりだとよ。

 

笑えるな。いや、笑えるか。あの俺が弟弟子に負けて死ぬ? 冗談じゃねぇ。

 

そんな未来は御免だ。俺は絶対に生き延びる。

 

……生き汚い? 勝手に言え。

それどころか俺はその生き方を悪だとも思ってねぇ。

自分が一番大事なのは当たり前だろ。むしろ鬼殺隊の連中みたいに他人のために命を投げ出す方が異常者だ。

 

話を戻すか。

 

記憶の整理の方だが、すでに本来の歴史よりも少しずれてしまった。だがこれはまだ些細な差異でしかない。夜明けと共に鬼殺の剣士が来た事で俺と先生は鬼殺隊に誘われた。また鬼の後処理や、子供達にも精神的に助けてくれるそうだ。そしてもし入隊を希望するなら育ても紹介してくれるとも言っていた。

 

この後俺は知識通りに桑島先生の方にお世話になろうと考えている。そのあとは…まだ考えてないが、一つ明確なことがある。

 

結局、俺は俺だ。

 

死にたくないという軸は変わることなく存在している。ただ少し違うのは未来の俺と今の俺では捻くれ度合いが違うこと。それとこの知識がある事だ。

 

未来の俺の捻くれ度合いに関しちゃ先生の所での一件で、死を身近に感じて自分可愛さがより強くなった結果だろう。だいたい自分が一番大事なのは普通の事だ。

 

だから俺は決めた。

人間のまま生き延びる。桑島先生の所で雷の呼吸をもう一度鍛えて、誰よりも強くなって絶対に死なねぇ。

 

「獪岳」

 

色んな不安が頭を支配するなか声をかけてきたのは先生だった。

 

「前より少し変わったな…。好ましい変化だと私は思う。聡いお前の事だ。きっとお前の頭には様々な考えがあるのだろう。…それは私には分からないような事も多くあるに違いない。だがもう少し私達大人を頼りなさい。それとも私はそんなに頼りないか?」

 

「いえ。頼りにしてないわけじゃないですけど、俺は俺でやれることをやります」

 

頼るのは別に悪いことじゃない。だが頼り切る気もない。そんな俺の気配を悟ったのかは知らないが、先生は俺の頭に大きな手を乗せて言葉を続ける。

 

「南無阿弥陀仏…努力するのは良いことだ。それと私は鬼殺隊へ入る事を決意した。私はどうやら人より強く生まれたようだ。ともすれば我々に起きかけた悲劇を一人でも多く防ぎたいと思う」

 

給料も頂けるようなので沙代達にも変わらず生活させれるだろう。…暫くは少し寂しい思いをさせるかもしれないが。色を写さない白い瞳でそう続ける。

 

「俺は…俺も鬼殺隊に入ろうと思います。俺は死にたくない。また鬼に襲われた時に力が必要だから」

 

俺は何としてでも生き延びてみせる。

 

「そうか…私は子供が傷つくのが嫌いだ。だがお前が決めたのならとやかく言う気はない。…それとこの時より我々は師弟ではなく同志となった。先生は不要だ獪岳」

 

「いや俺はあなたを尊敬している。目が見えずとも誰かを助ける貴方を。だから先生と呼ぶのを変える気はないです。ただ、これからは少し親しみを込めて行冥先生と呼んでも良いですか?」

 

「あぁ…当然だとも!!頑張れ獪岳!聡く勇気あるお前ならきっと挫けまい」

 

少し口元に笑顔を浮かべて行冥先生は去っていく。行き先はきっと岩の呼吸の育てのもとだろう。

 

そんな行冥先生の背中を見ながら俺は少し唖然としていた。いつ振りだったか、こんなにもまっすぐに認められたのは。ましてや尊敬する大人にこう言ってもらえたのは初めての事かもしれない。

 

俺は行冥先生の言葉を噛み締める。

 

そんでもって俺はといえばこれから桑島先生への紹介状を書いてもらう予定だ。だが紹介状が貰えるまで少し時間があるのも事実。俺は未来で何かと食べる機会の多かった桃に齧り付く。

 

 

 

 

頭に糖分を送り、俺は記憶の整理を続ける。

 

今の俺は13歳だ。本来なら俺は18から20歳くらいの頃に育ての桑島先生のところに行くようだが、この数年の差異がどれほどのものかは分からねぇ。

 

最低でも5年ほど早く鬼殺を始めるとなると原作開始時点での経験値は相当な物になる筈だ。

 

ただその一方で、致命的な欠陥が一つある。

 

それは善逸と顔を合わせる機会がないと言うことだ。

 

少なくとも桑島先生のもとにいる間は間違いなく顔を合わせることはねぇだろう。その結果原作での俺と善逸の兄弟子と弟弟子という強い関係性が生まれるかすらわからないのが正直な現状。

 

まぁ善逸が桑島先生のところに来た時点でたまに顔を見せれば可能性はなくはない。

 

いや…そもそもだ。別に善逸との関係を深める必要はあんのか?結局俺とアイツの道が重なることはなかった。上手くいかないのが分かっているなら会う必要を感じねぇ。

 

そうだ、別に無理して会う必要はねぇんだ。

 

あんな不真面目で意味もなく喚くバカの為になぜこうも悩まなければならない。

 

『善逸、お前は儂の誇りじゃ』

 

ぐちゃり。

 

気づけば桃を握りつぶしていた。

 

気にくわねぇな。俺はアイツよりも真面目に鍛錬に取り組んだ。アイツよりも多くの技を使えた。アイツよりも…アイツよりも愚直に努力した筈なんだ。

 

なのに俺よりあの馬鹿の方が認められる事実が腑が煮え繰り返るほどに気にくわねぇ。

 

決めた。直近の目標を決めたぜ。

 

桑島先生に一番弟子だと、一番の誇りだと認めさせる。皮肉なことだが、この知識の中にある善逸がオレをすごい奴だと認めている。だがそれ以上の存在になる。

 

その為に必要なことはただ一つ。

 

俺の知識の中の善逸を超える。

 

だったらやるべきことは単純明快だ。

 

俺は柱になる。

 

それだけじゃない。俺は…単独で上弦の鬼を一体倒して見せる。

 

そうすりゃ桑島先生も…いやそれだけじゃねぇ。お館様も、他の柱も俺を一目置く存在となる。約100年振りの快挙を僅か1人で成し遂げればな。

 

さっき行冥先生が俺を認めてくれたように全員に俺を…獪岳という存在を認めさせてやる。

 

強欲?傲慢?

 

はっ!好きに言えよ。

 

やはりどこまで行っても俺は俺だ。死にたくはねぇが、誰よりも認められたい。この知識と柱並みの実力がありゃ、無理じゃない筈だ。

 

1000年続いた無惨による惨劇にも終わりがあった。なら不可能なんてものは存在しない筈だろ。

 

五体満足、単独での上弦撃破。

 

我妻善逸と時透無一郎はやってみせた。

 

ならできる筈だ、俺だってな!

 

 

 




短いですが、需要がありそうなので続きます。
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