愛の重いヒロインしかいないエロゲ世界に転生した純愛主義者   作:十前

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もうちょっとまともな転生先がよかった

 思い返せば、俺の女運はずっと最悪だった。

 

 遡ること幼稚園時代。近所に住んでいたみづきちゃん。

 可愛かったけど、お馬さんごっこの馬かおままごとの犬役にしかさせてくれなかった。エサを食べさせるフリして「もぐもぐごっくん、かわいいねー♡」とかされてた。性癖が歪まなかった俺はすごい。ここまではまだいい。

 

 小学校時代。

 隣の席だったクソでかい企業のお嬢様。仲良くなったら学校で自分以外と話すなと言われてしまった。俺はその子としか会話できず、他の友人ゼロ。最終的に会社が倒産したらしくお嬢様は引っ越した。もうこの辺からだいぶヤバい。

 

 中学校時代。

 クラスでも人気だった明るいギャル。貰ったバレンタインチョコになんかヤバそうな粉末が入ってた。

 

 高校時代。

 オタクトークで仲良くなったぼっちでおとなしい感じの女子。メンヘラだった。LINEの友達みんな消された。付き合ってもないのに。

 

 大学時代。

 男子だけのサークルに入ったのに、クラッシャー到来。なんと小学校時代のお嬢様だった。小学校時代の再来だった。サークルはクラッシュされた。友人は全滅した。俺はすべての連絡先を消して引っ越して逃げた。

 

 我ながら酷い女運だ。前に興味本位で占いをしてもらった時も「これ、女性関係のトラブルなかったですか?」「よく無事でしたね」とか言われた。ははは(笑)。笑えないっす(笑)。

 

(ずっとやべー女に振り回される人生だったな……)

 

 なぜ今、こんなことを思い出してるのかというと。

 

 社会人時代。

 つまり今。

 見知らぬ女に腹を刺されてるから。

 

「……■■君、どーして私のこと思い出してくれなかったのかな?」

 

 俺の住むマンションの部屋の前。霞んだ視界の中、見知らぬ女が血の滴る包丁を持って立っていた。仕事帰りに誰か部屋の前にいると思ったらいきなり刺されたのだ。

 

「私はずっと覚えてたのに」

 

 腹からは血がだくだく流れている。助けを呼ばなければと思うのに、体は思うように動かない。もう手遅れなんだろう。嘘だろと言いたい。最後の最後までやばい女に殺されるのか。

 

「このまま忘れられるくらいなら、こうやって君の体に刻み込むしかないよね」

 

 というかこいつは一体誰なんだ。なんで俺の名前を知っているんだ。

 女が血の付いた顔も気にせずに俺の前にかがむ。

 

(……あれ? こいつこの前、営業先にいた……)

 

 多少見覚えのある顔だと思ったら、数か月前に営業先にいた女性社員だ。同じ年齢ですね、などと少し会話した記憶がある。……でも。

 

「思い出した?」

 

 知らないです。こちとら女性との関与は最小限まで抑えてるんだ。顔も名前も務めて覚えないようにしている。というかそもそも数分しか喋ってないんだし思い出せなくてもしょうがなくないか。

 答えない俺に、女の目が失望したように細められる。

 

「そう……残念。あんなに一緒に遊んだのにね。……()()()()()

 

 目を瞠る。その呼び名で記憶が思い起こされた。

 まさかお前は――。

 

「うん。私――みづきだよ」

 

(いや何年経ってんだわかるわけねえだろ……!)

 

 幼稚園時代の記憶が鮮やかによみがえ……らなかった。思い出せるわけないだろ。というかそっちはよく俺がわかったな。

 

(なんでこうなったんだろうな……)

 

 どろっとぼやけていく曖昧な意識が過去を探る。

 なんでとは言うが、思い当たる所はあった。

 というか、ずっとわかっていた俺の弱点。

 

 見て見ぬフリができない。

 

 どうしてやべー女ばかり寄ってくるのか。

 こんだけ女運が悪いのに、どうしてそれに関わってしまうのか。

 

 体が勝手に動くのである。

 

 彼女たちにもメンがヘラる原因はある。お嬢様も、ギャルも、大人しいあの子も、ふとした瞬間に寂しそうだったり、辛そうだったり、疲れた顔をしていた。

 

 表情に暗い背景が滲んでて、孤独な姿を見せつけられて、全てを諦めたような虚ろな目と目があったら――体、動かない?

 

 学習しない馬鹿なのは承知の上。

 

 まだかろうじて動く腕を震わせながら持ち上げて、彼女の頬についた血を拭う。

 はは。汚しただけになったな。

 

「……ごめんな」

 

 えづくみたいに声をこぼした。まだかろうじてぼやけた輪郭を写す視界が、彼女の驚いたような顔を捉える。びっくりさせたらしい。

 

 そう驚くなよ。罵られるとでも思ったんだろうか。まぁ最後なんだから恨みつらみ妬み嫉みなんでもぶつけりゃいいという考えもある。でもみづきちゃんはこれからまだ生きていくわけだしさ。呪いとか背負わない方がいいって。絶対。

 

 というか俺、最期に俺殺した奴を心配して終わるのか、ウケるな。

 

 いつの間にかもう何も見えない。

 

(来世とかあるんだろうか)

 

 あるなら──そうだな。

 

 恋愛、したい。

 

 普通に恋人、欲しい。

 

 純愛と呼べるものを見つけたい。

 

 こんな目にあってもなお、心の片隅で純愛というものを求めている。男の子だからね。女子は側にいたけど、純愛とは程遠かったし。周りの人間関係が全部壊れて、振り回されて体力と精神を削られるのはちょっと俺の思う純愛とは違うよね。

 

 お互いがお互いを気遣ってこそ、純愛じゃないのか。

 一方的じゃない双方向への愛こそ、純愛と呼べるんじゃないのか。

 

 俺は普通の女の子に会いたい。

 独占欲が強すぎたり情緒が不安定じゃない女の子に会いたい。

 贅沢は言わないけど、可愛くて優しくて気遣いが丁寧だとなお良い。

 

 そういうことで神様。

 何卒よろしくお願い申し上げます。

 俺をどうか、どうか普通の女の子と出会わせてください――!

 

 

 ◇

 

 

「――はっ!」

 

 ぱっと起きて最初に目に飛び込んできたのは可愛らしい白髪メイドの顔だった。

 

 あどけない顔立ちなのに、どことなく品がある。髪は今までに見たことないくらい綺麗な白色で、大きく開かれた目は深い青だ。服装はそういうコンセプトの喫茶店でしか見ないようなメイド服。そんな美少女に見下ろされているこの状況は、一体何?

 

「…………」

「…………」

 

 見つめ合うこと、数秒。

 

「どうされたのですか? 無言で見つめられると照れてしまうのですが」

「……おお」

 

 無表情で言われた冗談にむくりと起き上がって周囲を見渡す。俺はベッドに寝かされていたらしい。部屋は洋風の出で立ちで、綺麗に整頓されている。ここはどこだ? 俺はどうしてこんなところに? 刺されて死んだはずじゃなかったのか?

 

「カルマ様、今日はずいぶんお寝坊さんでしたね。かわいい寝ぐせがついています。ほら」

「……え?」

 

 ぽつりと言われた名前に振り替える。

 この場には俺と白髪メイドの彼女しかいない。

 彼女の言った――カルマ様という名前は、間違いなく俺に告げられている。

 

 メイドがほっそりした指で示している先。

 ぼんやりと、なんとなく嫌な予感を感じながら部屋の隅にある鏡の前に立って。

 

「――おいおい、マジか」

 

 ああ、夢でも見てるのか? 鏡には最悪な顔面が映っていた。金髪でそこそこ整った顔立ち。でもなんとなくいけ好かない顔面。とあるゲームで見ると必ず不快になる顔ランキング不動のベスト一位。見覚えがある。

 

 ――まさか。

 

「お、俺の名前は、もしかして──カルマ・レイヴンか?」

「はい、そうですが? お寝ぼけ中ですか?」

 

 独り言のようにつぶやいた言葉が、白髪メイドに不思議そうに首肯される。

 

(嘘だろ)

 

 今にも絶望で崩れ落ちそうな膝を奮い立たせて、窓の外の景色を眺めた。まず目に飛び込むのはまるで城のような巨大な学園。そして歩いているのは見覚えのある学生服を着た学生達。嫌な予感がぞわっと背筋を這って口がひきつった。――俺は、この光景をあるゲームの中で見たことがある。

 

「……こ、この学園の名前は、〈リステリア魔法学園〉か?」

「はい、そうですが」

 

(冗談じゃない。なんで――)

 

「大事な、大事なことを聞かせてくれるか。そう。本当に大事なことなんだけど」

「はい?」

 

 一縷の望みをかけ、不思議そうにこちらを眺めるメイドに懇願するように尋ねる。

 

「俺――今からあそこに入学しようとしてる?」

 

 メイドが少し首をひねってすぐに答える。

 

「当たり前ですけど。……何言ってんですか?」

 

 今度こそ俺の膝は崩れ落ちた。

 

(一体、なぜだぁぁぁぁぁ――!)

 

 俺はこの世界を知っている。日本で流行ったR18ゲーム。『シャドウズ・リリス・アカデミア』。通称『尻ア』。カルマはそこに出てくる悪役貴族だ。何が気に入らないのかいかなる時も主人公の邪魔に勤しむ雑魚キャラ咬ませ犬。それも最悪だが、そんなのは二の次。

 

 俺にとって一番最悪なのは――この世界のヒロインが愛の重すぎる奴らしかいないということなのだから。

 

「なんで――なんで転生先がやべー女ばっかのエロゲなんだぁぁぁあああ!」

 

 先行きが非常に不穏すぎる未来を嘆いて、俺の悲鳴が部屋に響き渡った。

 

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