愛の重いヒロインしかいないエロゲ世界に転生した純愛主義者   作:十前

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なんでここにドラゴンが?

 ぱっと目が覚めると、見覚えのある部屋に寝ていた。

 

「……あれ?」

 

 ……家だ。

 転生した時と同じベッドに仰向けになっている。

 

「むにゃぁ……」

「えっなに――おわぁ!」

 

 耳元で声が聞こえたと思ったら、シーラがベッドの中で気持ちよさそうに眠っていた。おい待て。こいつなんで隣で寝てるんだ? ここ俺のベッドだよね? 赤ちゃんみたいな寝顔しやがって。抗議の意味を込めて頬をつんつん突いてみる。

 

「うぅんかるまさまぁ……そこはちがうあなですよぉ……」

 

 俺は何をどこのどの穴と間違えてんだ。まず頬は穴じゃねえだろ。

 

(てか俺どうなったんだっけ……)

 

 むくりと体を起こすと、上裸で肩に包帯が巻かれていた。触れると痛みが走る。そっと手で抑えながらぼんやりと記憶を探った。

 

 ……そうだ。そういえば『黒の守衛』を倒してそのまま倒れてしまったのだ。

 でもダンジョンで寝ていたはずがなんでこんなところに。

 と思ってたら今度は反対側から声がした。

 

「ようやく起きたか」

「ん!?」

 

 振り向くと腕を枕にしてベッドで堂々と寝ているマグノリアを発見。

 

「な――なんでここに!」

「まぁ落ち着けカルマ。なんでここに! という顔だな」

「いや今そう言っただろうが!」

 

 それには答えず不敵な笑みを浮かべる。

 

「答えを聞いて感謝するんだぞ。なぜなら――私がお前をここまで運んできたからだ!」

「え?」

「〈西の洞窟〉に倒れているお前を見つけて、慌てて運んできたのだ! あんな劣悪な環境では風邪だけでは済まないかもしれないからな! メイドを叩き起こし、看病もしたのだ!」

 

 ふふーん、と得意げな顔をする龍人種のお姫様。たしかに俺は怪我もしてたし、放置していたら危なかっただろう。意識を無くした後に運んでくれたようだ。それ自体は非常にありがたいが。

 

「じゃあ……なんで布団の中に入ってんだ」

「それはもちろん……」

「もちろん?」

「お前の体を堪能するためだ!」

「は?」

 

 急にマグノリアが起き上がってぎゅうっと手を握りしめてきた。

 目がきらきら輝いてテンションがMAXである。

 

「見ていたぞあの触手との戦闘! 私が駆け付けた時にはもう終いだったがあの立ち回りのキレ! お前は一体何を謙遜していたのだ? 触手の攻撃をかいくぐる紙一重の見切り! 命のかかった状況での刹那の判断! 全霊極まる最後の一刀も――なんと素晴らしい才能ではないか! やはり私の目に狂いはなかった!」

「あ、はい」

 

 ベッドの上で急に身を乗り出してきたので体を引く。なんだこのテンション。寝起きにこれはカロリーが高い。マグノリアの目はじっと俺を見つめてくる。

 

「カルマ……もっともっと、お前のことが知りたい」

「え?」

「夜通し観察していたが、まだ足りん」

 

 マグノリアがぺたぺた体を触ってきて、びっくりしてずざざざと後ろに下がった。

 

「な、何触ってんだ!」

「む。なぜ逃げる」

「いや普通触らせるもんじゃない……っておい! にじり寄ってくるな!」

「いいじゃないか減るものではないし。代わりに私のも見ていいから」

「代わりになってねえよ……おいボタンを開けるな! 自分の体を大事にしろ!」

 

 服を脱ごうとするマグノリアを全力で止めたら、なぜか不満げな顔を向けられる。

 

「なぜ止めるのだ。私の体も鍛えているのだぞ。むきむきだ」

「体を交換条件に使うな!」

 

 むんと力こぶを作るように細腕を曲げるのを見て微妙な顔になる。やっぱりこれ、教育が悪いよなぁ……。原作の記憶だと、マグノリアは箱入りであるせいか、あまり異性との関わりについて学んできてない。ちゃんと教育は必要なのだ。

 

「とにかく! 運んでくれたことはありがとう! 助かった! 俺はもう平気だから!」

「うむ。そのようだな。それだけ声が出るなら体調も問題ないだろう」

「じゃあこの辺でお引き取りを……」

「いや……待ってくれ」

 

 丁重にお帰りいただこうかと思ったら、マグノリアが静かに顔を上げた。

 

「カルマ。最後に一つだけいいだろうか」

 

 静かな熱を帯びる薄紫の瞳に見据えられる。

 ……な、なに?

 

「やはり昨日の戦闘でわかった。お前は、私の求めていた人間だ」

 

 こ、これは――っ!

 

 聞き覚えのある台詞に、脳内で反射的にBGMが流れ始めた。原作プレイ中、俺はそのバッドエンドの多さから、マグノリアルートは何度も詰み状況に陥った。何度も何度もやり直したのだ。だから知っている。パブロフの犬みたいに条件反射で幻聴が聞こえてくる。この台詞はまさか。

 

「こう言うと困らせてしまうかもしれないが、これからの日々を、時々私と過ごしてくれないだろうか? ……不思議なんだ。私はずっと、こんな風に思ったことはなかったのに」

 

(ち、違う。それを言うべき相手は俺じゃ……!)

 

 そう思うのに、純粋な視線に圧されて声が詰まる。マグノリアの乙女な視線の攻撃力に、待て、という声が出てこない。自信を湛えていた表情が少し崩れて、まるで年相応の少女のように恥ずかしそうに肩を竦めていた。照れるような微笑み。あどけない素顔の眼差し。

 

(ま、まずい、これ――!)

 

 瞳に淡い熱を浮かべて、桜色の唇が小さく開く。

 

「お前といるとなぜだか……胸が高鳴るのだ」

 

 脳内で絶望のフラグがばさぁっと立ち上がる音がした。

 

(これ――マグノリアルート確定時の台詞じゃねえかぁぁぁあああああ……!)

 

 更新された過去一番の最悪に、俺は呻き声を漏らしてベッドに倒れた。

 

 

 ◇

 

 

 マグノリアが帰ってからも、俺は現実逃避で虚空を見続けていた。

 

(嘘だろ……)

 

 原作で何度も聞いた、マグノリアルートが確定した時の台詞。

 

 本来はこんなベッドの上でなされる会話じゃない。原作ならマグノリアとの決闘イベントを数回こなして実力を認められてから行われるイベント中の台詞だ。決闘して汗まみれで二人して横並びに倒れて、それから言われるのだ。絵的には少年マンガのワンシーンのような感じである。それがなぜこんな素敵なラブコメみたいな雰囲気で言われなきゃならない。

 

 空気でいたい俺の理想ががらんがらんと崩れていくのを感じる。

 呆然としていたら、隣で目をこすりながらポンコツメイドが体を起こした。

 

「ふわ……あら、カルマ様もお目覚めですか――ってどうされたのですか? 世の中に絶望して死んだ魚のような目をされてますね」

「シーラ……」

 

 お前はそんな悲しい魚を見たことがあるのか?

 

「……ちなみにお前はなんでそこで寝てたんだ?」

「ええとですね。マグノリア様と看病をしていたのですが、ふとマグノリア様がベッドに入られて……ずっと立っているのは疲れるだろうお前も入ってよいと……なのでマグノリア様の許可は得ています。あ、カルマ様のベッド、ふかふかですごく寝心地が良かったです」

 

 非常に満足気なお顔で突っ込む気力も出なかった。良かったね。

 

「そうだカルマ様、とりあえず服を着られてはいかがでしょうか。替えのシャツをお持ちしますね」

 

 何事もなかったかのようにぱたぱたと去っていく。

 と思ったら怪訝そうな顔でぱたぱた戻ってきた。

 

「あのあのあのあのカルマ様」

「なんだそんな慌てて」

「私が寝てる間に料理とか作りましたか?」

「え?」

「なぜか食卓に料理が並んでるんですが」

 

 料理? さっきまで倒れてたし現実逃避してたのに料理なんて作ってるわけない。マグノリアでも無いだろう。あいつなら得意げに『お前に料理を用意してやったぞ!』とか言いそうだ。

 

(まさか勝手に料理が出来るなんてそんなことあるわけ……)

 

 と部屋を出たら、確かに食卓に豪勢な食事が並んでいる。全ての料理がキラキラと光っているようだ。メインの大皿に幾つもの料理。そのすべてが完璧な彩りで配置されている。そんなことあった。

 

「なんか貴族みたいな食事だな……」

「カルマ様は貴族ですけどね」

 

 それはそうだが、うちでこんな料理を作る奴はいない。俺とシーラは庶民派なのだ。

 見た目はめちゃくちゃ美味そうだが、これは食べていいんだろうか。そういうポルターガイストか何かじゃないだろうな。

 

 しかも気づいたが、部屋の異変は料理だけじゃない。

 ゆっくりとリビングを水平に視線を滑らせ……呟く。

 

「なんか家……綺麗じゃね?」

 

 全体的にぴかぴかしている。昨日までは少し埃っぽかったような室内があら不思議。全体的になんとなく光沢を放ってるような気がしてくる。試しに窓枠に指を滑らせてみるが、当然のように埃はつかない。

 

「言われてみるとそうですね」

 

 シーラも首を傾げながらうろうろと室内を歩き回る。

 

(なんかこの状況……見たことあるな)

 

 そうしている内に、薄っすらと心当たりを思い出してくる。

 

 原作でも似たようなシーンがあったはずだ。あれはたしかに主人公が風邪をひいたタイミングでのシーン。高熱で朦朧とした意識の中で、誰かが自分の看病をしてくれる夢を見た。しかし熱が引いた後、自宅は普段よりも綺麗になり、食卓には豪華な料理が並んでいる。看病されたのは夢ではなく現実だったのだ。

 

 そしてその犯人とは。

 完璧な家事スキルを持ち、気づかれずに侵入するだけの隠密能力を持つヒロイン。

 

 心当たりなんて一人しかいない。

 大きく溜息を吐いてから、天に向けて呟く。

 

「――ノエル。隠れてるなら出てきてくれ」

「ひゃあっ」

 

 口にした瞬間、さっきまで誰もいなかったはずの部屋の隅に少女が現れる。

 心当たりは大当たり。

 

 肩を竦めて目を丸くした、ノエル・ルナライトが現れた。

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