愛の重いヒロインしかいないエロゲ世界に転生した純愛主義者   作:十前

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まず、安眠とは……何か(グッスリ)

 突如開催が決定した寝かしつけ勝負とかいう謎のバトル。

 ふと部屋の鏡を見たら俺はすごい胡乱な眼をしていた。

 眠たさに加えてこの混沌とした状況。

 誰か俺を救ってくれ。

 

 シーラがぴっと指を立ててバッドエンド三人衆組に説明する。

 

「ルールは簡単。カルマ様を最も安らかに寝かしつけられた方の勝利です」

 

 ふむふむと頷いている三人。

 安らかにという言い方はなんか死が彷彿とするな。

 

「ちなみに勝者はカルマ様と二人きりで修行する権利を得ることができます!」

 

 その言葉にシーラ以外の全員がぴたっと止まる。

 待て。勝負はいいがなんで俺が報酬になってんだ……!

 

「おい待てシーラ。なんで俺が報酬に――」

「さーではカルマ様の許可も得られたところで誰から始めひゃっ! なんですかカルマ様!」

「待てって言ってんだろうがぁぁぁ……」

「やん、カルマ様そんな大胆な……」

「腕引っ張ってるだけだろ!」

 

 大胆なのはお前だよ。主人の権利を勝手に報酬にしやがって。

 

「えーよくないですかハーレムですよハーレム。取り合ってもらえたら嬉しいじゃないですか」

「給料ゼロにするぞ」

「えっそれはダメ――待って待って待ってください! はいはい今の取り消しまーす! 他人の権利ダメ絶対! カルマ様万歳! カルマ様最高!」

 

 必死にシーラが叫んでいる。今後も給料を盾にすれば上手いこと働いてくれるのか。

 

「とりあえず報酬は変えてくれ。もうちょっとまともなのがあるだろ」

「あのでもカルマ様。皆様はやる気みたいですが」

「え?」

 

 シーラの視線を追っていくと、そこには獣の如く目を光らせているマグノリアとアイビーがいる。そして横合いから、ノエルがすぅ……っと顔を近づけてきた。

 

「シーラ先輩……メイドに二言はないですよね」

「えっ……あっ……その……ない、ですかね……」

「ふふ、よかったです……では、勝負をするということで」

 

 怖えよ。体感温度が一気に五度ぐらい下がった気がする。そんなに近くで喋らなくたっていいだろ。というかメイドは別に二言あってもいいし。

 がくがくと顔を震わせたシーラが混乱したような顔で謝ってくる。

 

「すすすすみませんカルマ様。私、思わず頷いてしまいました」

「……そうだね」

 

 まぁいいか。このまま普通に過ごしていたら三人同時に修行に連れていかれる、という流れもあったかもしれない。このバトルの勝者だけに権利が与えられるなら一人で済むから人数減ってるし。

 

 さてじゃあ誰から始まるのか。そう思って顔を上げると、見計らったかのようにマグノリアが足を踏み出してきた。

 

「――なら、私が先に始めさせてもらうぞ!」

 

 一番安眠とは程遠そうな奴が来た。

 

「私はあらゆる箇所で眠ることができるよう鍛錬しているのだ。カルマを眠らせることなど造作もない」

 

 だいぶ不安な口上だ。別に過酷な場所で寝たいわけじゃないんだが。

 ベッドの脇に立ったマグノリアが、突如俺の体の下に手を差し込んだ。

 

「眠りなど簡単だ。――カルマ、失礼するぞ!」

「え――おわぁぁっ!」

 

 なぜかお姫様抱っこで持ち上げられて思わず叫んだ。

 

「くたびれるまで運動すれば体は自然と眠りを求める! ダンジョンに行くぞ!」

「お、おいちょっと待て待て待てえええええええ!」

 

 マグノリアは俺を抱えたまま軽々と窓を飛び越え、森の奥へと走り出した。

 

 

 ◇

 

 

 本当にダンジョン前まで連れてこられてしまった。

 

 マグノリア輸送によるパワー運搬は寝不足の三半規管に大きなダメージを与え、俺はグロッキー状態と化した。ダンジョンどころではないし安眠の前に永眠してしまう。

 

 この勝負、判定は当然。

 

「……えーマグノリア、失格です」

「ははは! カルマは厳しいな!」

 

 寝かしつけの前提から間違ってそうなので失格を伝えたが、マグノリアはなぜか楽しそうである。

 

「……回復したら家に戻るからな」

「そうだな、すまない。少しはしゃいでしまったようだ。カルマといると、どうも歯止めが利かなくなってしまう」

 

 木陰で休んでいたらある程度回復してきた。一応、運ぶ時にマグノリアが俺を気にする素振りはあったから、想定よりだいぶ俺の三半規管が弱かったようだ。ひ弱な種族なのである。

 目を閉じて体調が落ち着くのを待っていると、ふとマグノリアが隣に座ってきて口を開いた。

 

「カルマ、一つ聞いてもいいだろうか」

「なんだ?」

「貴族の集まるパーティに出たことはあるか?」

「……えぇ?」

 

 ずいぶんと唐突だ。急に不思議なことを尋ねてくる。

 たしかに、形だけは俺も貴族だが。

 

「無いな」

「そうか」

「何かあるのか?」

「何もない」

 

 嘘じゃん。

 

「何もない奴が脈絡もなく聞く話題じゃないだろ」

「うむそうだな。あるといえばある」

 

 不意に原作のマグノリアが脳裏に浮かぶ。マグノリアはお姫様だが、戦闘など直接的な関わりを好んでいた。迂遠で遠回しな貴族同士の関わりはイメージに無い。

 

「実は以前から何度かパーティに誘われて出ているのだが、過ごし方がよくわからないのだ」

「……ご飯でも食べるとか」

「ずっと食べていたら眉を顰められてしまった。あまりよくないらしい。ならなぜあんなに大量の食事を並べているのだ」

「それはお前の言う通りだな」

 

 マグノリアが首を傾げているので頷いた。まぁたしかに貴族はあまりガツガツ飯を食ってるイメージはないが、めちゃくちゃ料理を並べている印象はある。

 

「カルマは誘われないのか?」

「無いだろうなぁ」

 

 俺ことカルマ・レイブンは周囲の悪評がとんでもない事になっているはずだ。普通の貴族がわざわざ俺のような奴を誘おうとは思わないだろう。原作でもカルマに取り巻きとかはいなかった。ただただ一人でヘイトタンクを買っていた漢気のあるカスなのだ。

 マグノリアがむうと口を引き結ぶ。

 

「やはりだめか。変装しても無理か?」

「バレて捕まるわ」

 

 そんな危ない橋を渡るわけない。『尻ア』の貴族はねちっこいのだ。わざわざ敵に回すのはアホである。主人公は敵に回してたけど。

 そもそも、俺を連れていってまで行かなくてもいいんじゃないか。

 

「嫌ならサボってもいいと思うが」

「立場があるからな。あまり無下にもできん」

 

 たしかにと腕を組む。マグノリアは龍人種のお姫様で、学園の中では唯一無二の肩書きを持っている。言い換えれば、マグノリアの行動は龍人種全体の行動として判断されかねない立場でもある。

 

 龍人種はこの世界だとフィジカルは強いが、閉鎖的であるせいかあまり種族の立場としては強くない。だから正当な理由が無いとパーティの誘いは断れないのだろう。そしてマグノリアはきっと、正当な理由をでっちあげるのは得意ではない。

 

 出たくない社交の場に無理やり出されるのは辛いだろうな。

 性格が全然合わない奴らの飲み会に出ても楽しくないし。

 

 何かを期待して話してくれたとは思うが、俺から言えることはあまりない。過去の俺(カルマ)なら芯から貴族だったかもしれないが、今の俺は一般人の感性しかないのだ。だから貴族視点から何か助言することはない。

 ただ一般人の視点で少しだけアドバイスするくらいか。

 

「一応言っておくと、あまり変な取引はしない方がいいぞ」

「……なっ」

 

 目を丸くしてびっくりしているマグノリア。反応が分かりやすい。図星のようだ。

 

「か、カルマはなんでもお見通しなのだな」

 

 そういうわけじゃない。シナリオでよく騙されてたのを思い出しただけで。

 ……そういえば原作でもパーティでなんかあったような。

 

「怪しい奴に話しかけられたら大声で助け呼べよ」

「わっ……私は子供ではないぞ!」

「そうだといいけどな」

 

 マグノリアは強いが、あまり大人には見えない。強い奴がいるらしい、という曖昧なボールを投げるだけで犬のようにすっ飛んでいくのが簡単に想像できる。

 四足歩行のマグノリアが走る様子を想像してたら、隣の本人が勢いよく立ち上がった。

 

「も、もういい! そろそろ帰るぞ! 金髪達もそろそろ待ちきれなくなっているところだろうからな!」

「はは、そうだな」

 

 ぷりぷりしながら歩きだしてしまう。子ども扱いをしてちょっと機嫌を損ねてしまっただろうか。

 

 丁度俺も回復したから、帰るのにはいいタイミングだ。俺も立ち上がって今度はゆっくり歩いて帰る。

 

(……でもこれ、帰ったらアイビーかノエルの番になるのか)

 

 ずっと座ってた方がよかったかもしれない。

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