愛の重いヒロインしかいないエロゲ世界に転生した純愛主義者   作:十前

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今回の勝者は――

 アイビーが失格となり、この謎バトルの挑戦者は残すところ一人となった。

 

「さ、最後はわたし……ですね」

 

 ノエルが側にやってきて呟いた。足音が無さすぎて怖い。

 こちらはもうだいぶぐったりしてるのだが、ノエルはぐっと両手の拳を握りしめて真っ直ぐな視線を向けてくる。

 

「あ、安心してください……お眠りさせるのは、得意ですから……!」

 

 あんまり安心はできない。

 そのお眠りは、未来永劫目覚めない方のお眠りじゃないのか。

 

「……何するか、先に聞かせてくれる?」

「はい。えっと、眠る時は……暗くて静かな所がいいと思うんです」

「……そうだね」

「なのでそういう空間を、わたしの魔法で作ります」

 

 ……なるほど。それはノエルの得意な魔法なら作れるかもしれない。

 原作でもここでも、ノエルがなぜ何も無いところから現れるのか。

 なぜ誰にも気づかれず隠れることができているのか。

 

 それは──ノエルが特殊な魔法属性を持っているから。

 

 俺に向けて両手を翳す。

 その手をなぞるように、ノエルの影が伸びて俺を丸く包む。

 

「──【シャドウ・コフィン】」

 

 影魔法。

 『尻ア』世界では一部の奴しか扱えない特殊な魔法だ。

 

 するすると伸びた影がベッドごと俺を包んで暗闇に閉じ込める。シャドウ・コフィンは原作だと対象一体の動きを数ターン止める魔法だった。受けてみてまず、中はこうなってるのかという感動が浮かぶ。

 

 一面の闇。

 わずかの光もない沈み込むような黒な空間。

 

 外との繋がりは見えない。手を伸ばしてみると俺を中心に壁が出来ているのがわかる。たしかにこれは棺桶(コフィン)だ。そしてノエルの言った通り、暗くて静かなところである。

 

 しかし、

 

「いや……これは違くない?」

 

 視界には何も映らない。

 呟いた声は何の反響もなく暗闇に吸い込まれていく。

 たしかに暗くて静かな所だけど、暗すぎるし静かすぎる。寝れねえよ。

 

「おーい、ノエルー? 出してくれるー?」

 

 壁に向けて言って耳に手を当て返答を待つ。何秒待っても返答、無し。

 すぐに最悪な可能性が思い当たった。

 

「……もしかして、声届いてない?」

 

 本来寝るために使われる魔法じゃないから、中との通話なんて考慮されてるわけがない。だとしたらヤバい。ここ――どうやって出るの?

 

 暗闇にある壁は殴ってみてもびくともしない。当たり前だが武器もない。壊す手段は取れないからノエルに解除してもらうしかない……けど。

 

「いつ解除されるんだ……?」

 

 ヤバさで口が変に釣り上がった。寝たと判断されたら俺は何時間ここに閉じこめられるんだ? ヤバくない? マジで危機じゃない?

 

「ノエルー! 助けてくれぇぇぇ!」

 

 ぶわっと汗が出てきたので慌てて壁をばんばん叩く。音もないので叩けてるのかもわからなくてクラクラしてきた。あれ? 俺はどっち向いてんだっけ? 上と下がわからなくなる。きーんとした耳鳴りが広がっていく。平衡感覚も飛んでいきそうだ。どうなってる? あれこれ何がどうなってんだっけぇ……? いよいよヤバい──そう焦りが脳を支配した瞬間、パッと闇が溶けて光が見えた。

 

「あ、ご主人様……!」

「の……ノエル……!」

 

 初めて目に入ったのは心配を目に浮かべたノエルの顔。

 胸にぶわっと安堵が広がる。良かった出られた。泣き笑いのような顔を浮かべた俺に、困ったような顔でノエルが言った。

 

「その……ごめんなさい。起こすことを考えてませんでした……」

 

 俺は微笑んで頷き、ノエルの前でゆっくり指を立てた。

 

「ノエル、失格です」

 

 

 ◇

 

 

 

「──えー、では今回の『ドキドキ☆カルマ様寝かしつけ争奪戦』の勝者は残念ながら無しということで」

 

 リビングでシーラが今回の勝負の結論を告げた。いつの間にそんな名称になったんだ。

 椅子に座って、床に正座している三人を見下ろす。表情は見えないが、なんとなく反省の気配が漂っている。

 

「では本日の報酬であるカルマ様から一言、どうぞ」

「もうちょっと、他人の気持ちを考えられる人になってください」

「ありがとうございました。では皆さま、これにてお開きで」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 中央で正座をしていたアイビーがガバッと顔を上げた。

 

「勝者なしって何!? じゃあカルマはどうなるの!? このままじゃ一人じゃん!」

 

 俺はそれで結構なんだが。

 シーラがぽんと胸を叩く。

 

「ご安心ください。カルマ様にはこの美少女メイドがついてますので」

「えっと、それのどこがご安心なのかな……?」

 

 真っ当な疑問を浮かべているアイビーに対して、マグノリアが呆れた目を向ける。

 

「勝負はついたのだ。言い訳は無駄だぞ金髪」

「そ、そりゃアンタは昨日一緒にいたから許せるかもしれないけど!」

 

 その横でノエルも、

 

「はい……わたし達は失格を反省するのみ、ですから」

「アンタもメイドなんだからここいるんでしょ! ――って、あれ……?」

 

 アイビーがはたと何かに気づいたようにこっちを見てくる。

 

「あ、あたしだけ何もなくない……?」

「……いや別に何もないわけでは……」

「そっか……あ、あたしだけまた一人だったんだ……」

「言っておくが、俺は誰の事も歓迎した覚えはないぞ」

 

 そんな悲しげな顔をされても困る。何が困るってちょっと可哀想だと思ってしまう自分がいてつらい。そもそも最初から追い出せば良かったのにここまで付き合ってしまってるのだから、やっぱり最後まで面倒を見なければいけないのでは、という気になる。

 

 まためんどくさい事になりそうだなと思っていたらシーラが口を開いた。

 

「カルマ様、順番にするのはどうでしょうか」

「……順番?」

「はい。マグノリア様とは昨日修行してましたから、この後はアイビー様とノエルでやればいいのでは」

「……まあ……それでいいなら?」

 

 少し考えてみたが、断って面倒なことになるよりは順番を受け入れた方がまだ妥協できる気がする。マグノリアとノエルに目を向けてみると二人とも頷いていた。

 

「私は明日からは予定があるからな。構わない」

「わたしも、それで平気です」

「い、いいの? あたしだけ置いて皆でどこか行ったりしない?」

「しねえよ」

 

 されたことあるような口ぶりだが触れないでおく。

 なんとなくアイビーに同情しながらも、ひとまず話がまとまったことにほっとした。明日からはマグノリアの代わりに他二人が順番に修行をしてくれるようだ。というかこんな簡単に解決するなら最初からこれでよかっただろ。

 

「……で、明日はどっちなんだ?」

「!」

 

 アイビーがぴんと手を上げる。

 ノエルに目を向けるとゆっくりと頷いていた。構わないようだ。アイビーが昂ったような顔で胸元に手を当てていた。

 

「……じゃ、じゃあ明日ね! 明日になったら無視するとか絶対止めてよ!」

 

 普段は自信満々なのに、どうして変なタイミングで卑屈になってしまうのか。

 諸々決まったので、解散した後に俺は寝室に引きこもった。

 

 ああ……! ようやくまともな睡眠がとれる!

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