愛の重いヒロインしかいないエロゲ世界に転生した純愛主義者   作:十前

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アイビー先生の魔法教室

 翌日になって、俺はアイビーと外に出てきていた。

 

 昨日の話の通り順番に修行をしてもらうことになっている。今日はアイビー先生による魔法の授業だ。色々とごたついたわけだが、とりあえずまとまったので受け入れる。

 

 マグノリアもアイビーもノエルも、原作では非常に優秀だった三人である。実力的には俺より上だ。メンタル的に不安はあるが。

 ゲーム知識だけで実践の少ない俺からすれば学べることは多いだろう。

 関わることになった以上はきちんと聞こう。

 そう思っていたが。

 

「…………」

「…………」

 

 こうして面と向かって立ち尽くすこと数分。

 中々指導が始まらない。

 じっとしていたらおもむろにアイビーが口を開いた。

 

「あの、あたしで本当に大丈夫かな……」

「何が」

「あたしってほら、魔法に関しては天才じゃない?」

「自己評価が高くて結構だな」

「でも人に教えるのとかあまりしたことないから、ほんのちょびっとだけ苦手かもしれなくて。魔法って取り扱いは注意しないといけないし……」

 

 どうでもいい。

 

 めっちゃ、どうでもいい。

 

「とりあえずやってみないか。別にぐだぐだでも気にしないから」

「う、うん。キミがそう言うなら……」

 

 というわけで始まるアイビー先生の魔法の授業。

 

「まず……キミの得意魔法を知るところから始めたいかな」

「得意魔法か」

「生まれつき、何が得意って人によって差があるんだよね。あたしの氷魔法とか、ノエルちゃんは影魔法とか。キミは自分の得意魔法とか調べたことある?」

 

 原作でも、魔法はキャラ毎に覚えられる物とそうじゃない物が定められていた。アイビーは氷魔法が得意で、氷系統の魔法は最上位まで覚えることができる。

 

 では、カルマは?

 

「調べたかはわからない……けど」

「けど?」

「たぶん――身体強化だろうな」

 

 カルマのよく使う魔法といえば身体強化魔法だ。これによって体力が強化されて元々硬かったカルマがさらに硬くなってイライラした記憶がある。引き伸ばしゲーだと非難するプレイヤーと、これで数発多くカルマを殴れると喜ぶプレイヤーに別れていた。カルマだからね。

 

「わかるんだ? じゃあもう使えるわけ?」

「いや、使ったことはない」

「なんだ。じゃあ試してみよっか。身体強化の魔法は知ってる?」

「知ってるは知ってるんだが……」

「うん」

「使い方がわからない」

「……そうなの? 魔力使えばいいだけなんだけど」

 

 首を傾げられてしまった。

 俺がカルマとしての記憶を持ってない弊害が出ている。

 

「魔力がよくわからない」

「なんで? ちっちゃい頃髭の生えたおじいさんに教えてもらわなかった?」

 

 誰に教わるかは人によるだろ。

 

「少なくとも俺の記憶にはない」

「ふーん。……キミって結構やんちゃだったんだね」

 

 どうも授業をサボったと思われているらしい。なぜかアイビーの口元はニマニマしている。たしかにカルマならやんちゃどころかクソガキだった可能性は高いが。

 

「それならあたしでも教えられるか。手、出して」

「手?」

「自分の中の魔力がわかればすぐできるよ。ちっちゃい頃に聞くくらいだし」

 

 ほら出して? という風に緩く首を傾けて両手を差し出してくる。手をつなぐのはと少し躊躇ったが、俺が魔法初心者である以上はアイビー先生に従った方がいい。差し出された手に自分の手を乗せる。

 

「ふふ、お手してるみたい」

「……なんでもいいから進めてくれ」

「はーい」

 

 アイビーが手のひらをぎゅっと握ってきた。

 

「魔力を流してみるから、わかったら言ってね」

 

 言われて体内に集中してみる。そんな不思議な力がわかるものなんだろうか? 疑ってはいたが、よくよく集中してみると手のひらを始まりとして体の中で何か暖かい物が巡っている感覚がある。

 

「……これか?」

「わかんないけど、合ってたら魔法使えると思う。それ意識しながら魔法名何か唱えてみてよ」

「身体強化魔法を何か……」

 

 カルマがよく使っていた身体強化魔法を思い出す。

 

 身体強化魔法は『尻ア』だと微妙な立ち位置の魔法だった。効果は自身のステータス上昇。弱いわけじゃないが、自己強化するよりは味方バッファーの全体支援魔法でバフした方が効率が良い。それに1ターン使ってバフする割に、そこまでの見返りが出ないのも微妙だった理由である。

 

 一応、その中で覚えている身体強化魔法の一つを呟く。

 

「【フォース・ドライブ】」

 

 瞬間、全身に薄っすらと赤い光が纏わりついた。

 

 フォース・ドライブは筋力にバフのかかる魔法だ。原作では上がっても対して戦闘に影響は出なかったが、ここではどうだろうか。

 

「え。いきなりできるんだ。結構優秀じゃん。ちょっと試してみる? 【フロスト・ウォール】」

 

 氷の壁を立ててくれる。それに向かって思い切り振りかぶって――、

 

「ふん!」

「わ! 結構いいじゃん!」

 

 拳が分厚い氷の壁を貫通した。

 良い感じだ。本来なら〈迦具土〉を持っているので、氷の壁くらいなら豆腐のようにスライスできるだろう。序盤にしては十分な火力である。

 

「他のも試してみる? ちなみに魔力はたくさん籠めるとその分効果は上がるんだ」

「そうなのか――【ターボ・ドライブ】」

 

 スピードの上がる身体強化魔法を、大幅に魔力を込めるイメージで試してみる。

 ()()()()

 戦闘を考えるにあたって、できるなら欲しいと思っていた。

 二つの魔法が役立つのなら、俺の戦闘が大きく改善することになる。

 

 ターボ・ドライブの効力の程は動けばわかるだろう。じゃあ一旦ダッシュでもしてみようと足を踏み出して――

 

「あっ、動く時は気を付けて! いきなり動くと」

「えっ? ――うぉぁっ!」

 

 地面を蹴った瞬間、勢いよくぎゅんっと体が持っていかれた。

 突風に煽られたかのような速度で吹き飛んで、すぐ何かにぶつかった。そのまま回転しながら空中をふわっと飛んで、背中から地面に打ち付けられる。その後すぐに、何かが俺の腹にのしかかった。

 

「……ぐぇっ!」

 

 思わずうめき声が漏れる。腹の上に乗った何かはすぐに軽くなったが、地面に打った背中は痛い。柔らかい芝だったのが幸いか。ああ、やらかしたな。アイビーが言わんとしていたことがこれかとわかる。先生の言うことはちゃんと最後まで聞くべきだったのだ。

 

「……ちょ、ちょっと……っ! 手っ……!」

「へ?」

 

 まだ少しくらっとする頭が、体の上から聞こえる声を捉えた。

 ぼんやりと見上げると……吐息のかかるような距離にアイビーの顔が。

 

「……あれ?」

「あ、あれじゃないんですけどぉ……!?」

「ああそうか……アイビーにぶつかったのか。すまん」

「い、今は! 謝るのは! いいから!」

「いや、謝罪は大事だろ」

「大事だけど! ま、まず腰に回してる手をほどいてくれない!?」

「え」

 

 涙目のアイビーに言われて視線を滑らせる。

 気づいてなかったが、ぶつかった時に思わず手をまわしてしまっていたらしい。

 どうも、抱きしめるような形になってしまっている。

 

 俺は急いで手を放し、そのままおもむろに土下座を決めた。

 

 

 ◇

 

 

「え……っと、もういいから顔上げてくれない?」

「悪かった。責任を取って、今後一生、ダンジョンで暮らします」

「人生棒に振られてもあたし別に嬉しくないけど!」

 

 土下座する俺の前にアイビーが腰を屈める。

 

「顔上げて。ちょっと泥付いたくらいだし平気だってば。キミが下敷きだったし」

「……そうは言っても」

「あたしが最初に言わなかったのも悪いでしょ。いいから顔上げてよ」

 

 顔を上げるとアイビーと目が合う。まだ頬に赤みが残っている。

 なぜかアイビーと会うと謝り合う結果になるな。

 

「……じゃあ、一個聞いてもいい?」

「なんなりと」

「ほ……どういう……」

「ん?」

「ほっ……他の二人とどういう関係なの!」

 

 いきなり大声を出すから何かと思った。マグノリアとノエルの事が気になっているらしい。バッドエンド三人衆から他のヒロインの話が出るとちょっと緊張するが、現時点では普通に気になっただけだろう。

 

「マグノリアは勝手に押しかけてきて……ノエルも勝手に押しかけてきてるな……」

 

 微妙な顔をされる。

 

「……それ、どういう関係なの?」

「さあ……」

 

 俺にもよくわからない。たしかに、龍人種の姫様にメイドと、よくわからないパーティになっているとは思う。アイビーもそうだが。

 

「じゃああの二人だけ特別ってわけじゃないんだ」

「あいつらは勝手に来てるだけだ」

「……ふーん。そーなんだ」

 

 謎に口角が上がっている。

 ちなみにお前も勝手に来てたから、分類としては一緒だぞ。

 

「でもマグノリアちゃんは何かあると思ってたけどな」

「なんでだよ」

「だって、他のところで見た時の印象と全然違うし」

「他のところ?」

 

 アイビーは元からマグノリアを知ってたのか?

 

「喋ったことはないけど、どこかの貴族の人が集めたパーティで一回見たことあった気がして」

 

 パーティ。よく聞くな。

 

「どんな感じだった?」

「えーと……そうだなー……」

 

 アイビーが思い出すように口元に指を当てる。

 

「キミといる時みたいに笑ってなかったよ」

「…………」

「端っこに一人でいて……もっと暗い感じだった。最初違う子かと思ったもん」

 

 それを聞いて、脳内にぱらりと一枚の絵が浮かぶ。

 冷たく一人佇むマグノリア。

 

(たしかにあいつ、外では冷たいって描写があったな)

 

 マグノリアというヒロインは、主人公と絡んでいる時は自信満々で楽しそうに何度も何度も戦闘を挑んでくるヤバい奴だが、それ以外の場面では割と静かだ。心を許した相手以外に対してはかなり大人しい。特に――貴族に対しては敵意すらあった。

 

(敵意?)

 

 ……待てよ。

 マグノリアって貴族の事が嫌いだったはずだ。

 現時点であいつが貴族のパーティに参加してるのはちょっとおかしい。

 

 つまり――何か、今立ち上がっていないフラグがある。

 起こるべきイベントが一つ、まだ起きていないんだ。

 

「……マグノリアって、他に何か噂とか流れてるか?」

「噂? 龍人種のお姫様は人嫌いなんじゃないか、とかそのぐらい?」

 

 不思議そうな顔で教えてくれる。

 その言い方からすると、やはりまだ事件は起きていないのだ。

 

「急にどうしたの?」

「……いや、なんでもない。ありがとう」

 

 俺は原作の記憶を思い浮かべる。

 マグノリアが孤立を深めるきっかけとなった事件。

 そして貴族を嫌う原因となった事件。

 

 すなわち、『パーティぶち壊し事件』のことを。

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