愛の重いヒロインしかいないエロゲ世界に転生した純愛主義者 作:十前
『パーティぶち壊し事件』。
そんな風にいかにも原作で見たかのように言うが、実際の所、俺はこの事件について具体的なところは知らない。
なぜかと言えば、この事件は本編開始前に起きた事件だからだ。
原作におけるマグノリアとの関係は、主人公が決闘を挑まれるところから始まる。そこから何度か決闘を繰り返すと正式にルートが開始するのだが――そこで、一つの違和感に気づく。
ルートに入って少しすると、たまに周囲の生徒がマグノリアを見てはひそひそと何か囁くのが目に入り始めるのだ。
自分以外の生徒と、マグノリアの間にある明らかな壁。
垣間見える不穏な空気。
主人公とマグノリアを避ける態度。
特にその気配は――貴族の生徒から漂っている。
何が起きたのかをクラスメイトに問い詰めると、一つの噂について聞くことになる。
それは、入学前にマグノリアが貴族を半殺しにしたという物騒な事件の話。
『入学式前のパーティで、とある貴族がマグノリアから理不尽に攻撃されたらしい』
原因は不明。動機も不明。
でも事実として広まっている。
それゆえ彼女はいつ誰を傷つけるかわからない刃物のような印象を持たれていた。彼女自身もその噂を払拭するようなことは無かったし、それどころか事実だから仕方ないと首を振っていた。だから学園の中ではしばらく孤立していたのだ。
と、それで終わりなら当然嫌な余韻を残すだけのだが……。
もちろん、それをよしとしないのが主人公だ。
『尻ア』の主人公はシンプルに正義の人間。悩みを抱えたヒロインがいたら真っすぐ解決に向かおうとする。そしてそれを達成するだけの実力もある。
なので最終的には原因となった敵をぶっ飛ばして、周囲もなんやかんやで受け入れて、マグノリアは救われることになる。
(……それでフラグが立つんだよな)
エロゲだったから、別にそれでいい。ヒロインの悩みを解決して、フラグが立って、それからしっぽりいちゃいちゃすればいいのだ。
でもここは今、現実。
何の因果か俺がルートに入ってしまっている以上、マグノリアが事件を起こせば、孤立する彼女のフォローを俺がせざるを得なくなるのは目に見えている。その後はフラグが立ち、国滅ドラゴンに変貌していくのを見守るしかないのだろう。
そのきっかけが目の前にあるのに、見過ごすことはできない。
(バッドエンドに繋がるシナリオは全部ぶっ壊すべきだ)
イベントそのものを無くせば、今後あるはずのフラグも立たないはず。
俺のためにもマグノリアのためにも、『パーティぶち壊し事件』をぶち壊すのだ。
◇
アイビーの魔法修行を終えて翌朝。
今日はノエルと共に外に出てきている。一応、修行の先生はノエルということになっていた。しかし一体何をするのか。隠密の授業とかできるんだろうか。
「……ご主人様、昨日はアイビー様と魔法の授業……でしたよね」
「ああ。かなりためになったな」
「身体強化、お似合いだと思います……」
「……俺、身体強化なんてノエルに喋ったっけ?」
ノエルは無言で微笑んでいる。ということは昨日も見ていたらしい。全く気付かなかった。ゆらりと歩くノエルの雰囲気は、なんとなく幽霊めいているような気もする。
(本当はマグノリアのことを調べたいが……)
『パーティぶち壊し事件』がある事を考えると、できればマグノリアの動向を追っていたい。修行を順番にしたのは間違いだっただろうか。本編だと既に終わった話だから抜けてしまっていた。この前、マグノリアがパーティの事を口に出した時点で気づくべきだったか。
とはいえ、気づいていたところで出来ることは少ない。マグノリアに行くなと言っても聞かないだろう。得意じゃない場所に行っているのは、それなりの理由があるからだ。俺が割って入ろうにも、悪評が広まっているせいかパーティのお誘いは全くない。忍び込むにも場所が不明だ。
(明日会って話を聞くしかないか)
そんなことを考えながらしばし無言でとことこ歩く。ノエルは「着いてきてください」とだけ言って、ずっと前を歩いていた。目的地はどこなんだよ。
「着きました」
「……ん?」
丁度そう思った矢先、ノエルが不意に立ち止まる。
見晴らしの悪い木々を抜けた先。よくわからない場所だが、幾つかの木の先に見える建物は原作でも少し見覚えがある。
ここ、もしかして――。
「……女子寮?」
「はい、正解です」
「えぇ!?」
なんてところに連れて来てんの!?
「おいノエル、お前なんで……!」
「声、抑えてくださいね。気づかれたら大変なので……」
「当たり前だろうがぁ……!」
建物の中に入っているわけではないが、当然女子寮なんて男子禁制。この付近に男子がいるだけでも学園の化け物のような先生方に引きずられるのは避けられない。
なんでわざわざこんな場所に……!
「あそこ、見えますか」
ノエルが顔を寄せてきて、女子寮の端を指で示す。
丁度そこのドアが開くところだった。
その中から出てきた生徒の顔を見て――目を瞠る。
「……マグノリア?」
「はい、マグノリア様です」
特徴的な角を見間違えるはずもない。
どういうことかと説明を求めてノエルに顔を向けると、控えめな微笑みを返された。
「今日の修行は……マグノリア様の尾行です」