研究、異世界について。   作:カラスが怖い

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初めまして、初投稿です。
小説を書くのは生まれて初めてですが、拙いなりに頑張ります。
誤字脱字等の指摘、感想等いただけますと幸いです。


経緯

「いやあ、風間君は欠勤も遅刻もしないし、シフトもたくさん出してくれるから助かってるよ。いつもありがとうね」

「とんでもないです」

「ただ、もう少しだけ愛想よくできないかい?」

「申し訳ないです、以後気を付けます」

「ああいや、別に怒ってるわけじゃなくてだね...そんなに肩肘張らなくてもいいんだよ?」

「努力します」

「あぁ、う──ん、まあ、無理はしないようにね」

「わかりました」

 金が要る。

 俺、風間 良平は、バイトに明け暮れる日々を送っていた。病気で働けない母と頭がよくて将来有望な妹のため、一年前に事故で死んでしまった父に代わり、俺が家族を支えていく。父が遺してくれた貯金もあるが、妹をいい大学に入れるためには心許ない。俺がもっと働いて、家族を少しでも安心させてやらないと。そのためだったら、どんなに辛くても苦じゃない。日も沈んで来た頃、バイトからの帰り道に俺はそんなことを考えていた。

「(もう少し給料のいいバイトを見つけないとな)」

 俺の帰りを待つ家族の元へ歩く足を早めようとしたその時、一枚のビラが目に留まった。

「研究助手の募集......?」

 ────────────────────────────────────────────

 

妹に帰りが遅くなる連絡を入れて、ビルの階段を上っていく。無骨なコンクリートの壁には窓があるが小さく、薄暗い。蛍光灯の中には切れかかっているものもあり、怪しい雰囲気が漂っていた。

「本当にこんなところにあるのか?」

街中で目にした助手募集のビラ、研究所の場所はビラが貼ってあった建物の3階。条件は体力があることだけ。怪しさしかないが、それを吹き飛ばすくらいの魅力があった。給料があまりにも高い。相場の5倍はあるその待遇は、その怪しさに足を踏み入れるには十分すぎる理由になった。なにか犯罪の片棒でも担がされるかもしれないが、これで家族にいい思いをさせられるのならば安いものだった。とにかく金が要る。そのためだったらなんだってする。俺は決意を固めて扉の前に立った。

「ここか......」

コンコンコン、と三回扉を叩くが返事はない。ドアノブに手を伸ばすとギイと音を立てながら少し扉が動いた。

「鍵はかかってないみたいだな」

そのまま扉を開けて中へと入る。

「誰かいないですかー?」

未だ返事はない。あたりを見回すと部屋はひどく散らかっていた。机の上から床の隅まで紙が散らばっていて、足の踏み場もないような状況。そして、部屋のところどころに目を引く機械もようなものがある。その中でもひと際異彩を放つのが、部屋の一番奥にある大きな箱のようなもの。ガラス張りになっていて人ひとりが入れそうな大きさをしている。そんな風に部屋を観察していると、静かな部屋の紙の山がモゾリ、と動いた。中からはうめき声のような音が聞こえる。恐る恐る近づいてみる。

「んぅ...なんだい...出前は頼んでいないはずだが......」

紙がバサバサと音を立てながら、中から頭が出てきた。無造作に伸びた長い黒髪が目を引き付ける、気だるげな女性が現れた。大きく欠伸をしながら目をこすり、こちらへと向き直る。

「まぁちょうどお腹もすいてきたところだったし有難い。いくらだい?今財布を...」

「...あの」

「あれ、財布はどこだ。今日は醤油ラーメンの気分だな...って、おやぁ?誰だい君は」

「下の、助手募集の張り紙を見てきたんですけど」

「......なんだい、出前じゃなかったのか。残念だよ」

......本当に大丈夫だろうか。

 

────────────────────────────────────────────

 

「いやぁ、助かるよ。前の助手はすぐに辞めてしまってね」

雑に片づけられた机には紅茶のカップが二つ。暖かい香りを立ち昇らせる明るいオレンジ色の液体は、部屋の中で妙な存在感を放っていた。

「紅茶は好きかい?」

「いや、あまり飲まないですね」

「そうかい、残念だよ」

「どうぞ、遠慮はいらないよ」

そう促されて目の前のカップに手を付けて、一口。甘い香りが鼻を突き抜け、優しくも渋みのある味わいが口いっぱいに広がった。

「おいしい...」

「そうかい、それはよかった」

机の向かいで口をほころばせる女性。深い青の瞳が特徴的だ。日本人ではないのだろうか。突然紅茶を淹れると言い出した時は、こんながさつそうな人が?などと思っていたが、いざ口をつけると、印象ががらりと変わった。何より、見た目で判断しようとした自分を恥じた。

「それで?助手になりたいのかい?」

本題に入ろう、と言わんとする表情で言葉を投げかけてきた。

「はい、先ほどこの下でビラを見まして、ぜひ働かせていただきたいと考えました」

「ああ、いい、いい。そういう堅苦しいのはなしにしてくれ。性に合わないんだ」

「わかりました」

「わかってないように見えるが...まあいいか。」

「君、名前は何と言う?」

「風間良平といいます」

「ふむ、私は天草 冷という。よろしく頼むよ、風間君」

「よろしくお願いします」

もうここで働く前提のような言い方だが、一旦気にせず話を聞いた。

「年齢は?かなり若そうに見えるが」

「17歳です」

「17ということは...今は高校生かい?」

「まあ、一応そうですね」

「なんだい一応って、学校にはあまり行っていないのかい」

「はい、ほとんど行ってないですね」

「それはもったいない。研究者の端くれとして、若者には勉学を大事にしてほしいがねぇ」

「学校に行っている暇はありません。それに、もうすぐやめるつもりです」

「それはまたどうして、何か事情でもあるのかい?」

「お金が必要なんです」

「ああそれでここに。確かに給料は高めに書いてたと思うが。働きによってはいくらでも渡せるよ」

...そんなお金があるようにも見えないが。やはりなにか怪しい仕事なのだろうか。

「仕事内容は何ですか」

「おっ、風間君。今怪しいなあとか、お金なさそうだなあとか思っただろう」

「...思ってないです」

「いやいやいいんだよ別に。心の中でなんと思えど君の自由さ。しかし、あまり詮索してこないのはいただけないね。研究に携わりたいと思うのなら好奇心がないと。」

「すみません」

「謝らなくていい。これから身に着けていけばいいものだ」

「それで、仕事内容についてだけど」

天草さんは話を続ける。

「私はとあるものについて研究していてね。君には私の身の回りの世話や、実地調査の付き添いをしてもらいたい」

身の回りの世話に、実地調査か。フィールドワークの多い分野なのだろうか。体力には自信があるし、掃除や料理もやりなれている。

「何について研究しているのですか?」

「いいね、よくぞ聞いてくれた。わざわざぼかした甲斐があるってものだよ」

「私はね、異世界について研究しているんだ」

は?異世界?

「なにを言っているのかわからないという顔だね。異世界というのは、こことは異なる人間、生物、価値観がある我々の住むこの地球とは全く異なる世界さ。そんな無数にあふれる世界を私が異世界と名付けて呼んでいる」

異世界?空想上の話か?UFOの研究とかそういうものだろうか?

「空想やおとぎ話ではないよ。確かに存在する。私はその異世界の構造や成り立ちを調べているんだ」

...なんだかさっきから心を読まれているような気がする。

「それで、どうだい。やってくれるかい?」

正直胡散臭さしかない。給料が正しく支払われるという保証もない。だが、なんとなく、この人は信じても大丈夫だという、妙な説得力があった。

「わかりました、やります」

「そうかい!そうかい!うれしいねぇ。部屋が散らかって煩わしいと思っていたころだったんだ。そうと決まれば早速最初の仕事をしようか」

「部屋の片づけですか?」

「それは帰ってきてからお願いしようか。まずは異世界に行こう!大丈夫、こちらの時間では30分もしないうちに帰ってこられる」

え?今から?

「善は急げさ。習ったうえで慣れるのが一番だよ」

「あの、ちょっと、待っ」

「さあ!行くぞ!」

そうして無理やり腕を掴まれて引っ張られる。向かう先は部屋の奥の大きな箱。ちょっ、力つよっ。

「入って入って!」

「いや、あの、いきなり」

「よし、この世界でいいか。なに、私も一緒に行く。何も心配はいらない」

そういって人の話を全く聞かない彼女は俺を箱の中に押し込み、何か端末を操作している。

「よし、準備ができた。向こうについてもその場を離れるなよ。はぐれてしまってはいけないからね」

瞬間、目の前が光に包まれる。なにもかもがわからない。今何が起きている?異世界に向かっているのか?奇妙な浮遊感を覚えていると、急に強烈な眠気に襲われる。まぶしい光の中で、俺はその眠気に抗えず、そのまま意識を手放した。

 

────────────────────────────────────────────

 

何だか優しい雰囲気に目を覚ます。体を起こして、ぼやけた目であたりを見回すと、そこは森の中だった。しかし、正方形の木の葉に虹色の木の実、この世のものとは思えない植物の数々に動揺する。すると、草陰の中から何かが飛び出してくる。それは顔めがけて飛んできて、襲い掛かっているようにさえ見えた。避けることもできずにぶつかると、ポヨン、とかわいらしい音と柔らかい感触に気が抜ける。顔にへばりついた小さな物体をはがすと、ゼリー状で透き通った青い体に赤くてつぶらな瞳のようなものが付いた、小さな生き物だった。

「これは...スライム...?」

まるで子供のころに遊んだゲームの世界から飛び出してきたような形状のものに、どこか懐かしさすら覚えてしまう。どうやらこちらに敵意はないようで、丸い瞳を細めて頬にすり寄ってくる。ひんやりとしていて気持ちいい。しかし、その冷たさが、脳をはっきりとさせて、目の前に広がる現実を否応なく認識させる。

「ここが、異世界?」

たくさん気になることがある。あの人、天草冷が来たら説明してもらわないと。この状況、目の前の生き物、周りの植物。すべてが非現実的で、頭が混乱する。しかし、本当に天草さんは来るのか?一緒にとは言っていたが、どうにも疑わしい。だけど、意外と頭の中は、べたついてきた顔をどうしようとか、どうでもいいことを考えていた。




読んでいただきありがとうございました。
難しいですね、これ。
失踪しないように頑張りますので、感想お待ちしております。
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