「やあ、リュージ久しぶりだね!二年ぶりかな?」
スレイブは先ほどまで追いかけられていた事実がなかったかのように陽気な感じで龍司に近づく。
「ああ、向こうでも二年は経ってたから多分な」
しかし、龍司の中には一つだけ疑問が残っている。
それは……召喚された時間と送還された時間は二年近く違っていた筈なのに元の世界に帰ってみると召喚された時間の数秒後に戻されていたのだ。
これについて龍司は一つの仮説を立てている。
──────恐らくだが、俺の同意を取っていなかったからではないだろうか……。
龍司にはこれ以外の要因が見つけられなかった。
この世界には召喚の魔法があるように送還の魔法もきちんと存在している。
龍司が宰相によって送還された際にもその送還魔法が使われている。
しかしだ。この魔法には双方の同意が無ければいけない。
だが、龍司はこの送還に同意はしていなかった。
それでも宰相が強引に魔法を発動させてしまったため、送還する時間軸が狂ってしまったのではないかと考えていた。
まあ、今となってはどうでもいいと思っているのだが。
「スレイブゥゥゥゥゥゥ……まぁさぁかぁ……逃げられるとは思っていないよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
しかし、スレイブの肩に手を乗せていい笑顔をしているイリアを見て龍司は顔を強張らせる。
「そんな事は思ってないよ?」
そう言ってスレイブは全力で肩に置かれた手を払い、全速力でその場を後にする。
「逃がすかと言っているだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そう叫んでイリアもスレイブの後を追う。
あのままでは、今日一日はずっとあの調子だろう。実際に前にもこんな状況になったのだがその時も陽がくれるまで続いていた。
「本当、あの二人は変わらないな……」
と、龍司の隣に短い金髪で見るだけでもガタイがいい男がやってきた。
身長は2メートル程だろう。そして特徴的なのは口元だ。
魔族はイリアやスレイブという者達を見ればわかるのだが魔族と人間族にはあまり違いはない。違いがあるとすれば魔力の質が違うという所と肌の色が若干違うという所位だろう。
しかし、彼にはまた違う特徴がある。それは犬歯が普通の人間族や魔族より鋭く伸びている。
これらからわかるかもしれないが……彼は吸血鬼。ヴァンパイア族だ。
「変わらないから、いいんじゃないか」
「そうかもしれんな。あいつらを見ていると……この城でお前たち勇者パーティと過ごしていた時間を思い出していた」
「そうだな。スレイブがからかって……それにキレたイリアが追いかけ回して……」
「はは、それで俺たちでそれを見ながら大爆笑してな」
そんな話をしながら笑顔になる二人。
「久しぶりだな、ダン」
「ああ、久しぶりだリュージ」
ダン・ヴァンデンハルツ。ヴァンパイア族を統べる領主であり魔王に使える将軍の一人で剛腕将軍と呼ばれている。二つ名は瞬神のダン。
そのガタイからは想像もつかない速度を持つ事からつけられた二つ名だ。
「それにしても、帰ってきていたんだな」
「ああ、つい先日にな……それでちょっとした不注意をしちまって、イリアに助けられて……ここに来たって訳」
「お前みたいな奴でも不注意という物をするのだな」
心外だな、と言わんばかりに顔をしかめる龍司。
「俺だってあのままだったら不注意なんてしなかったさ。だけど……今の俺のステータスと二年間のブランクを考えればわかると思うが?」
そう言うと龍司は自身の表のステータスをダンに見せる。
「…………リュージよ、これは何だ?Lvが低すぎるぞ。それに職業も変わっている」
「それに関しては新しい職業を与えられてな。今の目標は職業を兼業する事だな」
「そのような事、出来るのか?」
「ああ、多分な」
龍司は女神の言った事を思い出していた。
『相性がいいチート』
彼女は確かにそう言ったのだ。
しかし、今の状態では一緒に使う事などは出来ない。
しかし、女神の言うことが本当であるのなら兼業も出来るのではないかと思っているのだ。
龍司がたどり着いていない場所にその方法があるのか、それとも単純にLvが低いからなのか……それはわからないがそれでもその方法を求める事を当面の目標に据えていた。
もちろん、過激派魔族の討伐の事も忘れてはいない。
「それで?他の将軍達もいるのか?」
「ああ、全員集まっていてな。過激派の奴らに不穏な動きがあるのだ」
「不穏な動き?」
それについては龍司も初耳だったからか聞き返す。
「ああ、何をしようとしているのかはわからないが……何でも部隊を無数に分けてそれぞれの思惑に従わせているらしいのだ」
「部隊を分散……?」
そんな事をすれば統率出来る者が無数に生まれる事になり連携などがバラバラになるのではないだろうか。
そんな風に考えて龍司は気づいた。
「分かったよ、ダン」
「何がだ?」
「過激派の奴ら……俺たちを撹乱するつもりなんだ」
「撹乱だと?」
「そうだ」
龍司の考えた結果がこれだ。
「そもそも、俺たちは上の命令に従って戦う兵士そのものだ。その兵士を纏める奴の上にもそいつらに命令する奴らがいてそれらを構築する事によって連携を可能にしている」
「ああ、そうだな」
「でも、その命令する奴がいなければ……兵士達は自分勝手するようになり、行動パターンが読めなくなってしまう」
「っ、それは確かに……」
「あいつらはそれを狙っているんだ。そしてそれに戸惑っている隙に本当の目的を達成させる」
「なるほど……次の会議ではその辺の事も進言しておこう」
「ああ、頼むよ。でも、これは考えられる可能性の話だからその辺も踏まえろよ」
「ああ、済まんなリュージ。俺たちの世界の問題なのだが」
「いいさ、乗りかかった船だしな」
そう言って龍司はイリアの後を追うように歩き出す。
イリアの口からなぜアルセン峡谷にいたのか聞かなければいけないからだ。
─────何かしらの目的はあったんだろうがな……。
そんな事を考えながら龍司はあの二人がいるであろう場所を虱潰しに探す事にした。