「うぅぅぅぅぅうぅぅぅぅ…………」
「唸るなよ、何がそんなに恥ずかしいんだ?」
「恥ずかしいよ……自分の知らない所で一人歩きする噂ってすごく怖いんだよ?」
今、龍司とイリアがいるのは魔王であるイリアの私室。
そんなイリアがいるのは彼女のベッドの上。ベッドの上で布団に包まっている。
見れば分かるかもしれないが、イリアはスレイブを滅する事が出来なかったらしい。
「はぁ……」
そんなイリアを見て龍司はため息をつく。
先ほどからずっとこうなのである。
さすがの龍司でも呆れてしまうだろう。
「それで?何でアルセン峡谷にいたんだ?」
しかしイリアの機嫌など龍司はガン無視。話を変える。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅ…………」
しかし、その質問にイリアは答えない。おそらく、聞こえていないのだろう。
「はぁ…………さっさと、答えろ」
龍司は呆れながら、ステータスプレートを取り出してステータスを
変えたと同時に龍司は右手の人差し指を布団に向ける。
すると、布団がその場から浮き上がっていくではないか。
「えっ?うわ、うわっ!?りゅ、龍司!?」
イリアは自身が浮き上がっている事に気づき、同時にこの現象が龍司が起こした物だとわかった。
これは龍司のオリジナル魔法である「重力魔法」。
この魔法を掛ける条件はただ一つ。相手に人差し指を向け、そこに魔力を流し込むだけ。
それだけで、魔法を掛けた人物に掛かる重力を操る事が出来るのだ。
むろん自身にも掛ける事は出来、それによって空中戦をする事も可能だ。
「ご、ごめんって、龍司!?だから、下ろして!?」
そう言って懇願してきたので龍司は重力を少しずつ掛けていき、元の状態に戻す。
「こ、怖かった…………」
「おい、泣いてんじゃねぇよ」
「だ、だって!?龍司知ってるでしょ!?私、高所恐怖症なんだよ!?」
そう、イリアは高所恐怖症。しかも重度の、という言葉が前につく。
「ああ、知っててやった」
「ひどいよ、龍司!」
「お前が答えないからだ……それで?お前はアルセン峡谷で何をしていたんだ?」
「うぅぅ……わかったよ、言うよ」
そう言うとイリアは佇まいを直して龍司に向き直る。
「実はね……アルセン峡谷の奥の方で過激派魔族が暗躍しているんじゃないか?って話が出てきてたんだ」
「何……?」
龍司はその話を聞いて驚く。
「それはありえないだろう。奥の方には魔物共のボスがいるんだぞ?」
「うん、それはわかってる。確証もないけど……でも、嫌な予感もしてたから」
「………………………」
龍司は顎に手を置いて考える。
イリアの嫌な予感というのは案外バカに出来ない。イリアのその予感のおかげで九死に一生を得た時もあるのだ。
「だから、皆には内緒で一人で散策してたんだ……てへっ♪」
「最後にそのてへっを入れなければ俺もきちんと考えれたんだがなぁ」
シリアスな雰囲気を一言でぶち壊したイリアに対して迫る龍司。しかし、その眉間には青筋が浮き出ている。
その証拠ともいうべきか、手の指をポキポキと鳴らしている。
「ごめんなさい!?龍司のアイアンクローは本当に痛いから、勘弁してください!?」
ベッドの上で本気で土下座をする魔王。ある意味、シュールである。
「はぁ……お前は一人じゃないんだから、一人で何でもかんでもやろうとするのは止めろ」
「……………………」
「お前は俺とは違うだろ?今ではこの魔国の王として立派にやっている。あの頃の俺とは違うんだ」
「……………………………………して…………」
「?」
「どうして!?龍司は何でもかんでも一人でやろうとするの!?」
イリアは顔をあげて驚く龍司にベッドから立ち上がって詰め寄る。
「龍司はいつもそう!
「龍司は何も悪くない!悪いのは過激派魔族の《闇の声》に抗わずになされるがままに世界を破壊しようとした
「おい、イリア。落ち着け」
龍司はイリアを落ち着かせようとするがそれでも、イリアの口は動きを止めない。
「龍司は本当に……何も、悪くないのに…………」
そこまで言ってイリアは泣き始める。
「事情も何も……知らないのに……」
「はぁ…………あれは俺の意志でやった事だ。後悔はしていない」
「でもっ!!」
「もういい、眠っとけ」
龍司はそう言って自身のオリジナル魔法『睡眠魔法』をイリアに掛ける。
『睡眠魔法』……その名の通り、相手を眠りへと誘う魔法である。
「りゅう…………じ…………」
イリアは龍司の名前を呟いて、そのまま眠りにつく。
眠りについたイリアを龍司は抱きかかえてベッドの上へとそっと置く。
「大丈夫さ……俺は後悔していない。後悔なんて……あの時に死ぬほどしたしな」
龍司はそう言ってから部屋の中にあるソファに座る。
客室に行く事も考えたが、不安なまま眠りについたイリアの事が心配だったのである。
───────そうさ……あいつを殺したあの時から、俺はもう後悔しないって決めたんだ……。
そう、心の中で呟いて龍司は目を瞑る。
その脳裏には未だ見ぬ仲間達……彼女達の姿があった。
───────あいつらにも、会いたいしな……。
そう考えた所で、龍司は意識を手放した。