「さて。それじゃ俺は行くかな」
「龍司、本当に行っちゃうの?」
「ああ、いい加減に迎えに行ってあげないとな」
龍司は既に旅支度を済ませ、魔国の入り口にて魔王に見送ってもらっている最中だった。
ちなみに龍司の今の服装は学校の制服ではなく、以前召喚された際に龍司が好んで使用していた服である。
冒険者が着ているようなラフな恰好の上に蒼いローブを纏っている。
そしてなぜ、龍司は魔国を出立するのかという話になるのだが。
先日の会議にて、話す内容はすべて話してしまったしでこれからどうしようか?と考えていた矢先、アスラから
「そういえば、
と言われて龍司は思い出したのである。
自身が送還される際に、警戒されるだろうからという理由で自分が寝泊まりしていた部屋に置いてきた龍司の相棒である二振りの剣の事をだ。
しかし、ただの剣ではない。
この二振りの剣、双方共に自我を持っており、最初は双方共龍司を認めいなかったのだが……その後、紆余曲折を経て無事、主と認められるようになったのだ。
そして、龍司は確か二振りの剣に関してはこう書いていた。
『俺が本当に送還されたら、こいつらの事は竜族に任せてくれ』と。
そう、この世界にも竜族は存在している。しかし、争いには滅多に介入しない温厚な種族なのだ。
それ故に竜族に管理を任せておけば、万が一にも戦いに使用されるという事はなくなるのだ。
といっても二振り共自我が芽生えている為、今の所自身を握ってもいいと言っているのは龍司だけなのだが。
「あいつらの事だから、俺の存在を感知してるかもしれねぇしな。早く行ってやらないとどやされる」
「あはは。何だか容易に想像出きるね……それじゃ、一旦はここでお別れだね」
「そうだな。とりあえず、感謝してる」
「いいよ。当然の事をしただけだし。それよりも……大丈夫、だよね?」
「?何がだ?」
「今度は……一人になったりしないよね?」
こいつは何を心配しているんだ、と龍司はこめかみを抑える。
実際、過去に何度も自分の意思ではあるが一人になった事があるのであまり強い事は言えないのだが。
「大丈夫だ。そもそも、危ないのはそっちだって同じだろ?今度、ある程度検討がついた過激派魔族のアジトにマーベラス館と一緒に襲撃をかけるんだろう?」
「ええ。向こうが召喚した龍司のクラスメイトも着々と実力をつけてるみたいでね」
「しかし、あいつらに殺し合いを見せる事になるとはな……」
龍司はもう体感的には四年前に殺し合いを経験しているし、
しかし、クラスメイト達はついこの間まで平和な世界で暮らしてきたごく普通の人間なのだ。
大丈夫なのかと危惧してしまうのは当然というものだった。
「大丈夫よ。今回は私たちもきちんとバックアップするしね」
「ま、エリオットやお前、アスラ達が行くのなら大丈夫なんだろうな。ただ、嫌な予感が拭えないんだよな……」
「……わかった、充分に注意しとく」
イリアも知っている。こう言う時の龍司の嫌な予感というのは得てして最悪の結果となってしまう可能性がある事に。
「悪い結果にならない事を祈ってるよ。じゃあな」
そう言って気楽そうな感じで龍司は魔国を後にした。
さてと。竜族の住んでいる場所は大体は知っている。知っているのだが……
「はぁ、またこの山を登るのか……」
龍司が見つめる先にある山。天へと登ろうといわんばかりに標高が高い山。名前を「テンゲン山」。
このテンゲン山の頂上に竜族はひっそりと住んでいる。
しかし、そこに行くまでが途轍もなく危険なのだ。
道中出てくる魔物はもちろん、酸素との戦いでもある。
酸素というのは標高が高くなるにつれて徐々に薄くなっていく。
それに応じて魔物達も状況に対応して低酸素状態でも何分でも戦えるように体の構造が変化しているのだが、龍司は普通の人間。
低酸素状態では満足に戦う事は出来ない。
それ故に龍司はこの魔法を作った。
職業を
「コートよ、全てを隠し全てを闇へと回帰せよ。『
そう呟くと龍司の羽織っているコートが闇色に輝き、その光が収束していく。
そして龍司はうん、と一度頷くと意気揚々と歩いていく。
道中、何度も魔物と出会うが
それこそがこの魔法の特徴。この魔法を使用した瞬間から、龍司の周りを黒いオーラが立ちこめ、魔物や人の視界から龍司を完全にシャットダウンするのだ。
ならば、隠遁魔法などいらないと思うかもしれないが欠点が一つ。
この魔法、常に晒される視線に自動で反応してしまう為制御が利かないのだ。
そのせいで常時発動状態。魔力消費が半端ない状態になるのである。
それに代わって作られたのが隠遁魔法。隠遁魔法はあくまで気配を消して限りなく見つから無いようにする事。魔力消費はあまり多くないのだ。
しかし、ここの魔物は気配に敏感で隠遁魔法では抜けきれない。
それ故にこの魔法を使っているのだ。
「さてと……ひとっ走りするかっ」
そう言って龍司は走る。目指すのは頂上。竜族の住む《
恵SIDE
今日は魔族の人たちと合同で過激派魔族のアジトらしき場所を攻める。
その為にこれまで訓練だってしてきたんだ。
あのアリスっちも結構本気で訓練に励んでたし。
大丈夫、きっと上手くいく!
「さて。それじゃ、早速それぞれ顔合わせをしておこうか」
そう言って騎士団長が張ってある天幕の中に入っていくので私たちもそれに次いで入っていく。
そこには上座と呼ばれる司令官が座る席には女性。彼女を守るように数人の男性が周りを囲んでいる。
きっとこの人が魔王なのだろう。
「やあ。私が今代の魔王であるイリアス・グラン・サタンだ。長いからイリアや好きに呼んでくれても構わないよ」
「魔王さま、上の人間としてそこまでフレンドリーさはどうかと」
と、魔王さまの隣にいる髪をぼさぼさにしている男性がそう進言する。
近くにいるだけでわかる。この人、強い……!
「いいじゃないか。何事もリラックスが大事だ」
「はぁ……まあ、それに関しちゃ俺も同意見だがな」
何だかんだで結構ゆるいんだね。
「結構ゆるそうだね、魔王さまって」
隣にいたかおりんがそう小さく呟いてくる。
「こんなんで大丈夫なのかよ、魔族ってのはよ。やっぱ俺一人で充分だな」
と、この間謹慎が解けた大木がそんな事を大きな声で言う。
「そうだよな。大木君さえいれば大丈夫だよ」
「そうそう。魔族の力を借りなくたって」
取り巻き達も言いたい放題ねぇ……。
「あ、そうだ魔王様~。今日の夕飯って何だっけ?」
「今日は確か……」
魔王様達は全然聞いてないしね。多分、本当に興味がないのだろう。
「魔族なんざいらないっての。おら、行くぞ」
そう言って大木達はさっさと出て行く。
「ちょっと大木!あんたいい加減にしなさいよ!?」
「ああ?お前には関係ないだろうが、天羽」
「っ!?」
その時、私には確かに感じられた。大木の奴、明らかに私に……殺気を放っていた。
何で……?
そのまま大木達は出て行ったけど……。
「………………………」
魔王様とその側近である魔族の人達は大木を見逃すまいと瞳をすっと細めて観察し続けていた。
まるで、警戒するかのように……。
い、いったい……何が、どうなってるの……?
SIDE OUT