「リュージ様……リュージ様……」
龍司に抱きついている美少女、ティアは龍司に抱きついたまま龍司の名前を呟き続ける。
まるで、そこに龍司がいるのを確認しているかのようだ。
────それもそうだよな。俺はいきなり消えたようなもんなんだから。
龍司はそう考えながらすすり泣き続けるティアの頭を撫でる。
「んぅ……」
と、誰かが声を上げた。
「ティア、とりあえず離れてくれ」
「で、でも……」
「大丈夫だ。俺は確かにここに存在しているから……それと、俺とは初対面という形にしてくれ」
「な、なぜなのですかっ!?」
ティアは訳がわからないといった感じだ。
「面倒ごとに巻き込まれるのはごめんなんだよ」
「リュージ様……わかりました」
そう言ってティアは入ってきた扉に向かう。恐らくはその先にいる兵士達に龍司の言った事を伝えに行ったのだろう。
────ふぅ、これで一先ずは安心か……。
そう思った所で、他のクラスメイト達が起き上がる。
と、そこまで考えた所で香織が龍司の姿を見つけてやってくる。
「ね、ねぇ龍司。あんた、神って名乗る奴にあった?」
「ああ、あったぞ。それで何かチートを与えてあげるって言われた」
嘘は言っていない。龍司は神である彼女と初めて出会った時にそう言われたのだ。
「やっぱりそうだったんだ……あたしも会ったんだよね。何て言ってたかな……
どうやら香織はパーティーの中でも重要な回復要員らしい。
と言ってもこの世界ではHPという概念などはなく、傷を治したりする事を回復魔法と呼んでいる。
神から与えられたという事はそれ相応の魔法を使う事が出来るのだろう。
「それよりも……ここどこなの?教室じゃない事だけは確かだけど……」
「そうだな……少なくとも日本にいない事だけは確かだ」
こんな中にあっても龍司は冷静だ。
その時、ローブを羽織った人物達が数人やってきた。
「よくぞ来てくれました。異世界の方達。ここはあなた達の世界とは違う世界「サリア」の二大大国の一角「クーデルベン王国」でございます」
「はぁ?さっきの神とかも頭がおかしいと思ってたがあんたらも相当おかしんだな」
龍司を除くクラスメイト全員の気持ちを代弁した大木の言葉。
「とんでもございません。私達は危機に直面しているのです。ですからあなた方を召喚したのです」
「ふざけんな!さっさと戻しやがれ!」
大木はキレているようで誰の話を聞こうともしない。
「ちょっと!少しは話を聞いてあげなさいよ!」
「乾……ちっ……」
大木は舌打ちして引き下がる。どうやら惚れている香織には頭が上がらないらしい。
「それで?俺たちはどうすればいいんだ?」
「とにかく国王様と面会を。そこで本題に入らせてもらいます」
どうやら目の前の男性はティアとの約束を守ってくれているらしい。
その証拠に龍司とすれ違った際に
「……この借りは大きいですよ」
と呟いてきた。
「……そうだな。今度、俺のオリジナル魔法のどれかを教えてやるよ」
「それは楽しみです」
そう言って男性は未だに現状を把握しきれていないクラスメイト達の方に向かい、今と同じ事を言っていく。
「私は王国宮廷魔導士のグレンと申します。今は何卒われらについてきてください」
そう言われて他のクラスメイト達もおずおずと立ち上がりついていく。
そして龍司達が案内されたのは謁見の間。上座に座っているのは王冠を被っている初老の男性。
「ようこそ来てくださった、異世界の方々。私はこの国の王、マーベラス・S・クーデルベンだ」
マーベラス・スプライト・クーデルベン。それがこのクーデルベン王国の王の名前だ。
「それで、何だ?俺たちに何をしてもらおうってんだ?ふざけた内容だったらさっさと帰してもらうぞ」
「済まないな。そなた達に頼みたいのは……過激派魔族の討伐だ」
────過激派魔族?あいつら、まだ暗躍してやがるのか。
龍司はマーベラスの言葉を聞きながらそう思った。
「過激派魔族というのは名前の通り、我ら人間を殺し隷属させる事こそ、自分達の為すべき事だと宣って私の国の民達を殺戮し続ける者達の事だ」
「そいつらをぶっつぶせばいいのか?だったら魔族の長を殺せばいいだけじゃねぇか。どうせ魔王とかもいるんだろ」
「テンプレだね」
「そいつを倒せばいいんだな」
大木の取り巻きやクラスメイト達がそんな事を言っていく。
「何か勘違いしているようだから言っておくが過激派魔族以外の魔族を殺したりしてはいかん」
しかし、そのマーベラスの言葉に大木達は一気にまくし立てる。
「んだとっ!?一緒の魔族だろうが!」
「そうだそうだ!」
「他の奴等も同じような事考えてるに決まってる!」
─────それがそうでもないんだよなぁ……。
龍司はそんな事を考えていた。
というのも魔族の長である魔王は存在している。
しかし、
そんな彼女に反発しているのが過激派魔族である。
「あなた方にはこれから訓練をしてもらい、過激派魔族達との戦いに備えてもらいたい……こんな事しか出来ない私たちを、怒ってくれて構わない」
そう言って、マーベラスは顔を伏せた。これ以上言うことは何もないらしい。
しかし、龍司は見逃さなかった。
────あいつ、俺を見て笑いが堪えきれなかったな……。
そんな事を思い、後で一発ぶん殴ると決意し案内された部屋に向かった。
それから時は過ぎ……今は夜。
龍司は案内された部屋のベッドの中で寝息を立てる振りをしている。
要は寝たフリである。
────そろそろ、か。
龍司は起き上がってステータスプレートを見る。
そこには今のステータスが表示されており、それを一回転させる。
すると、龍司のLvは元のLvに戻った。
「よし……『隠遁』」
龍司はそう言うと龍司の周りを特殊な膜が覆う。
『隠遁』……龍司がある人物の行動を見た際に閃いた魔法で龍司自身の存在感を限りなく小さくする魔法である。
限りなく小さくという事なので見つかりはするが並大抵の実力では今の龍司を見つける事は出来ない。
今の龍司を見つける事が出来るのは龍司のかつての仲間ぐらいだろう。いや、もう一人いたか。
そんな事を思いながら龍司は堂々と自分達が先ほどまでいた謁見の間にやってきた。
そこには未だにマーベラスが座っていた。
「遅かったじゃないか、リュージ」
龍司がまるでそこにいるのかがわかっているかのような言い方である。
「全く……あんたは変わってないな。世界最強の剣豪さんよ」
マーベラス・スプライト・クーデルベン……かつての二つ名は「剣聖」……名実共に世界最強の剣豪であり……仲間ではない中で唯一隠遁を使用した龍司を見つけれる人物である。