「ふふっ、儂が変わると思っておるのか?」
「いんや、変わらないって思う」
「その通りじゃ。儂はいつまでも儂なのじゃ」
これだけで話が通じる所からみて、龍司とマーベラスは相当親しいというのがわかる。
「あ、そうだ」
龍司は今思い出したといった感じでそう言うと一瞬でマーベラスの近くまで移動して
「ふんっ!」
「ぶべらっ!?」
マーベラスの顔面を思いっきりグーで殴った。
「い、いきなり何するんじゃ!?」
「何するんじゃ、だと……?心当たりがあるだろ?」
「……………………」
殴られた頬を擦りながら龍司と目を合わせないようにするマーベラス。
どうやら心当たりはあるようだ。
「今度はアイアンクローで記憶を搾り出してやろうか?」
龍司が手の骨をポキポキと鳴らしながらマーベラスの頭をロックオンする。
「ちょっと待て!わかった、すまんかった!笑ってすまんかった!」
どうやら観念したらしい。
「わかればいいんだよ」
「うぅ……というか、他の者はなぜ儂を守ろうとしないのじゃ!?」
そう、先ほどからずっとマーベラスの近衛兵がマーベラスの側にいるのだが……まったく龍司を止める気がないのだ。
「リュージ様、もっとしていただいても結構です」
「思う存分やっちゃってください」
「お主ら、ヒドいなっ!?」
どうやら近衛兵にも見捨てられたらしい。
この近衛兵の態度に龍司はある事を思い出した。
それは目の前の国王の……悪癖の事だ。
「お前……まだ夜な夜な城を抜け出したりしてるのか?」
そう、この国王。龍司がいた頃に夜中にこっそりと城を抜け出して町に繰り出し、夜遊びに興じていたのだ。
「失礼じゃな!今では1ヶ月に一回の頻度でしか夜遊びはしとらんわい!」
1ヶ月に一回でも十分ダメだろう。
「夜遊び自体をすんな!」
「ぐがっ!?」
制裁を加えるようにもう一発殴る龍司。
「い、いいじゃろ!?それにそんな儂を見ていたからこそ、お主の隠遁魔法が完成したのじゃから!」
「ぐっ……」
こう言われると何も言えない龍司。
マーベラスの言う通り、龍司の隠遁という魔法。夜中にこっそり抜け出そうとするマーベラスを偶然見かけてその挙動を見て思いついた魔法なのである。
このような不適切な理由であることから、仲間内にしかこの魔法を思いついた理由を話していない。
ちなみにその時の仲間の反応は
「「「「龍司(君)、とうとう男の子として目覚めたんだね!」」」」
なぜか龍司が男の子として機能していないと見られていたといわんばかりの言動だったので龍司は一人ずつ殴っておいたが。もちろんパーでだ。
「そ、それはともかく……あの宰相はどうしたんだ?」
と、龍司が一番聞こうと思っていた事をマーベラスに問いかける。
「ふむ……あ奴は既に牢獄の中。二十四時間監視をつけとるから逃げ出す心配もないからの」
「そうか……」
宰相の末路を聞いて安堵する龍司。
強制的に地球に戻ってきて最初に気がかりだったのが仲間達の事だったのだ。
自分程ではないが強大な力を持つ仲間達……そんなあいつらでさえもあの宰相は自分の地位を守る為だけに帰すかもしれなかったのだから。
「大丈夫じゃ。お主の仲間達もお主がいなくなった数日は泣き崩れておったが……今はそれぞれこの世界を楽しんでおるよ」
「ああ、あいつらの笑顔が今でも思い浮かべれるよ……」
龍司の脳裏を過るのはかつて苦楽を共にした仲間達。
今ではどうしているのだろうか……と、共に謝らなければいけないという気持ちが龍司の中に甦ってきた。
────勝手に帰ってしまってすまない、という事ともう一つ……それは……。
「ところで、リュージよ」
龍司が考え事をしているとマーベラスが思考を中断させるかのように口を挟む。
「お主、これからどうするのじゃ?正直言ってお主のやるべきことは皆無なのじゃが……」
「俺も過激派魔族の討伐に参加するさ」
龍司は仕方がないといった感じで頭を掻きながらそう言う。
「しかしじゃな……お主はもう十分に戦い抜いた。あんなにつらい思いをまたお主にやらせるとなると……」
「あんたが気に病む必要はないさ。俺が必要な事だと思ったからやった。今回もそれと同じだ。過激派魔族がまだ残ってるのは俺が統率者を倒した後に帰ってしまった事が原因だろうしな」
「………………」
「沈黙は肯定なり、だぜ?」
「……そうじゃな。あ奴等はお主がいなくなったのをいい事にまた活動を始めおった」
「俺という抑止力がいなくなったから、だな」
龍司は過激派魔族の統率者を倒した。統率者はその名の通り、過激派魔族の頂点に立っていた魔族の事だ。
もちろん魔族の中でもトップクラスの実力を持っている。
そんな統率者を倒した龍司がいなくなれば……後は今の通りだ。
「まあ、俺が勇者パーティの一員だった遠坂龍司だと知っているのはどれくらいかは知らないが……ま、明日からはまたよろしくな」
そう言って気楽な感じで謁見の間を出て行く龍司。
出て行った瞬間に龍司の気配が消えた事から隠遁魔法を使ったのだろう、とマーベラスは思っていた。
「リュージよ……済まない……」
マーベラスは近衛兵しかいないその玉座で静かに……泣いた。
果たしてその涙には……どのような意味があるのだろうか。
そして、翌日。
この日、龍司を除くクラスメイト全員にステータスプレートが渡された。
ちなみに龍司は以前から持っていたのだがそこに関しては一番最初に渡されたと偽造しておいた。
その際に表のステータスにしておくのを龍司は忘れていない。
もし、本来のステータスを見れば「お前のステータスはおかしい」と大木辺りが絶対に絡んでくるからだ。
と、龍司の予想通り大木は絡んできた。
「おう根暗。お前のステータス、ちょっと見せてみろよ」
そう言って強引に龍司の手からステータスプレートを奪い取る大木。
別段、隠すような事でもないのでそのまま静観していると龍司のステータスを見た大木が盛大に笑い出した。
「ぎゃはははははははは!!!なんだ根暗!このステータス!激弱じゃねぇか!!」
と、それが波紋を呼んだのか他のクラスメイト達にも龍司のステータスプレートが渡っていく。
一部の男子はそれを見て大木と同じように笑っていた。
「弱っ!激弱っ!」
「まんま無能じゃねぇか!」
「付与術ってのもクソ魔法なんじゃねぇの!?」
それに引き換え、笑わなかった男子生徒達は
「なあ遠坂。この付与術って具体的にはどんなのなんだ?」
と、聞いてきたりする程だ。
どうやらステータスの低さの事は気にならないらしくむしろ付与術の方に興味が出ているらしい。
「ああ、付与術ってのはそのまんま。味方かあるいは自分自身に付与魔法を掛ける事が出来る職業の事だ」
「その付与魔法ってどんななの?」
と、一人の女の子が手をあげていた。
茶色の髪をストレートに腰の部分まで伸ばしており崩れないようにカチューシャをつけている。
同じクラスで香織と親しかった友人、
「付与魔法っていうのは例えば一種のブーストだ。例えば攻撃力付与はその魔法を掛けた人物の攻撃力を一定時間強化する。他の魔法も同じ。一定時間が過ぎればその魔法の効果も切れる」
「へぇ……じゃあ危なくなったりしたらその付与魔法を使って逃げる事だって出来るって事だね」
「まあ、他にも
「カースド?」
「そっちに関してはまだわからないけどな……」
「でも、龍司がいてくれるなら皆は安心して戦えるって事だね!」
香織が俺の話を聞いてそう結論づけた。
しかし、大木は
「ああ?根暗でクズな遠坂なんていても意味はねぇだろ?お前は後ろの方でビクビクしてりゃいいんだよ」
と、龍司の戦闘参加を容認しなかった。
「大木!」
「いいんだよ、香織」
「でも、龍司!悔しくないの!?」
香織は龍司の為に怒っているのに当の本人がそれをどうでもいいと言っているのだ。香織がここまで憤るのも当然だろう。
「子供の癇癪に関わる気はないからな」
「んだと、根暗がぁ!!」
そう叫んで龍司に殴りかかろうとする大木。
「龍司!」
香織が龍司の名前を叫んで盾になろうとするが間に合わない。
しかし、龍司はそんな大木を見ながらゆっくりと右手をあげると……なんと、殴ってきた大木の手を右手だけで受け止めた。
「なっ!?こ、この……!」
大木はその行為に驚き、急いで引こうとするが龍司の手ががっちりと大木の手を掴んでいるので引けない。
「……なあ、大木?」
と、そんな中、龍司はゆっくりと喋った。
「異世界に来て浮かれてるのか、それとも恐怖で誰かをイビらないとやっていけないかは知らないが……」
龍司は自分でも知らない無意識の部分で自身のオリジナル魔法「威圧」を使っていた。
「威圧」……魔力を波のように相手にぶつけて、その波の中に自身の闘気を上乗せし、相手を怯ませる魔法である。
この威圧を使うことによって相手が自身よりも格上か格下かを判別出きるので結構重宝してきていた。
そして、次の言葉を聞いた瞬間……この場にいた全員がこう思った。
「あまり調子にのってると……すぐさま、あの世行き確定だからな?」
龍司は……遠坂龍司は……自分達の死さえも考えているという恐怖と……それを知らせる優しさを持っているという事に……。