クラスメイトの皆と別れた龍司は一人、慣れ親しんだ道を通ってある部屋に向かっていた。
「ここも久しぶりだな……」
そう言って龍司が扉を開けると……龍司の目の前に本棚がずらりと並んでいた。
龍司がやってきたのは城の中にある図書館。
世界中の本があるとさえ言われている程の蔵書数を誇っている。
「さて……ここには
そう言って一冊一冊を確かめていく龍司。
記憶を頼りにして魔法の事が説明されている本がある棚を重点的に探していく。
そして……見つけた。
「これか……付与術の極意」
本の表紙には付与術の極意と書かれていた。
早速テーブルに座り、内容を読んでみる。
内容に関しては簡単に言えば付与術師が使える付与術の事が書かれていた。
「なるほどな……
呪加という付与術は攻撃力などを上げる魔法ではなく下げる魔法……主に敵に対して使われる魔法であるという。
そして付与術師は付与術を与える対象を視線で決定するという事もわかった。
逆に言えば付与術を掛けたい対象との間に障害物があれば付与術は掛けられない。
「これは……大規模戦闘とかには不向きな魔法って事か……」
その後も龍司は本を読み進めていき、最後のページまで見終わったと同時にパタンと本を閉じる。
「よし、大体は把握した……しかし、こうなるとどうしようか……」
龍司の脳内では仮想敵との戦闘シミュレーションを行っている。
クラスメイトと一緒に戦う際と昔の仲間と一緒に戦う際とを比べてみる。
「……結果は分かりきっているが……」
龍司の言葉どおり、昔の仲間達と一緒に戦った際の方が戦い易かった。
というのも龍司は仲間達の行動などが2年間一緒に戦い抜いてきたのでわかっているが……今回は今まで戦闘のせの字も知らなかったクラスメイト達である。
「……最初数回は様子見で何もしないってのも手だな……」
龍司はそう呟いてから本を元の場所に戻し、他の本を見ていく。様々な戦術パターンを頭の中で構築しながら。
香織SIDE
龍司が去ってから私たちはそれぞれの訓練を開始する。
しかし、皆先ほどの龍司の言葉が頭から離れていなかったみたいで……かくいう、私もさっきからずっと考えてる。
『あまり調子にのってると……すぐさま、あの世行きだからな?』
龍司があんな事言うなんて思わなかった。
そりゃ大木の拳を止めた事でも十分に驚いたけど……それ以上の衝撃だった。
だってあの言い方は……まるで、そうやって死んだ人を見たような言い方だったから……。
「かおりん、大丈夫?」
「……ああ、ごめん恵。何?」
「いや、大丈夫かなって……結構思いつめた顔をしてたから……」
一緒に訓練していた恵が私を心配してか話しかけてきてくれる。
「うん、大丈夫……でも、ないかな……あはは……」
「そりゃかおりんは遠坂君と幼なじみだから衝撃を受けたと思うけど……でも、あたしは遠坂君は変わってないと思うよ?」
「うん、そこはわかってる」
そこに関してはいつも龍司に文句を言ってくる大木達以外の男子や女子は気づいている。
龍司は注意してくれたのだ。ゲーム感覚でやっていたりしたら……本当の意味でゲームオーバーになってしまうぞ、と……。
「遠坂君、すごいよね……こんな状況なのに……」
「うん……昔から、龍司は凄かったんだ……」
そう、龍司はずっと優しかった。
今でこそ、私はここまで勝気になっちゃってるけど……でも、昔は今とは正反対でむしろ温厚な感じだった。
私がここまで勝気になったのだって龍司が要因……だといえば要因だ。
あれは小学校の5年生位だったか。私はずっと幼なじみである龍司の背中にひっついていた。
昔は人見知りだったから学校にいけば龍司位しか知っている人がいなかったから……。
でも、ある光景を見て私は……今まで、龍司にずっと甘えていたのだと実感した。
龍司が裏庭の方に呼び出されていって……そこで暴力を受けていたのだ。
殴る蹴るの繰り返し……私は「止めて!」と言いたかった。
でも、私は足を止めた。止めてしまった。
龍司は殴られながら……私を視線で捉えて目で語りかけてきたのだ。
自分は大丈夫だから……お前が危険な事に巻き込まれる必要はないと……。
そんな光景を見たあの時から……私は弱い自分は捨てようと決めた……今までは龍司に守られてばかりだったから……今度は私が龍司を守ろうと……。
「うん、恵頑張ろう」
「そうだね。頑張って……皆で帰りたいもんね」
そして私と恵は訓練を再開する。
龍司に守られてばっかりはもう……嫌、だから。
SIDE OUT
龍司達が召喚されてから一週間が経った。
龍司は特に訓練などに参加せずにひたすら知識の吸収に尽くした。
それに関して大木達はずっと龍司を怒ろうとするのだが龍司はそんなものに付き合ってられないといわんばかりのスルーっぷりを見せていた。
しかし、それでも龍司は夜更かしなどをしながら本を読んでいたので大分眠かった。
皆が訓練で汗を流しているのを見ながら欠伸をしている。
「……実戦か……」
龍司の呟きが訓練に精を出しているクラスメイト達の声にかき消される。
そう、数日後にはこの城の数キロ先にある「アルセン峡谷」に向かう事になっている。
この世界には魔物も存在しており、アルセン峡谷にも魔物達は巣を作っている。
巣のボスはどれも桁外れの力を持っているのだがその配下達はそこまで強くはないという事で肩慣らしと実戦の空気を感じてもらおうとアルセン峡谷へと向かう事になった。
そんな事を考えながら龍司はクラスメイト達の訓練を見続けていた。
大木は直線的にしか動かずにむしろ他のクラスメイト達の邪魔になっていた。
大木の取り巻き達も同様だ。
「……この実戦訓練、一波乱ありそうで怖いな……」
そう呟いた龍司はもしも何かあった場合は……と、決意を固めていた。
その決意が試される場面は……すぐそこまで迫っていた。
数日後、龍司達の姿は城にはなく馬車の中にあった。
これからアルセン峡谷に向かうのである。
男子達は男子達で、女子は女子で集まって馬車に乗っているのだが
「おい、香織」
「何、龍司?」
「俺は何で女子の馬車の方に乗っているんだ?」
「それはもちろん、他の男子より信用が出来るから。ね、皆?」
と、香織の言葉に馬車に乗っていた女子全員が首を縦に振る。
「いや、だからってな……」
「大丈夫、龍司は私が絶対に守り抜いてみせるから。ね?」
と、ウインクしてくる香織。
正直言って香織に守ってもらう程龍司は弱くはない。逆に龍司は強すぎてそんじょそこらの敵では本気を出す事はないだろう。
しかし、今の龍司のステータスでは何も出来ないだろう。
龍司自身も少しずつLvアップはしてきているがそれでもまだまだ低い。
ステータス的には龍司はクラスメイト達の中でも最弱なのだ。
「香織、無茶しなくてもいいんだぞ?」
と、龍司は香織の頭を撫でる。
「……何で、今してほしい事がわかったのかな?」
「ん?何を当たり前の事を言ってくるんだ?何年幼なじみやってると思ってるんだ?」
龍司と香織の付き合いは長い。それゆえに相手が何を欲しているかが龍司には何となくわかった。
ちなみに今回は余裕がないので強気で守ると言った。でも、勇気が足りないから勇気をください、といった感じだ。
龍司はこんな状態の香織には必ず頭を撫でてあげた。そうする事で香織は落ち着くのだという。
そして香織は体育座りをして膝に顔を押し付ける。
まるで今の顔を見られたくないかのようだ。現に香織の顔は真っ赤になっている。
─────ううぅぅ~~~!!龍司、何だかいつもより優しい……。
「……?」
もちろん、そんな事を思っている事など龍司は知る由もない。
この男、大事なところで鈍感だ。