アルセン峡谷の入り口にたどり着いた所で馬車は一旦止まる。
ここからは道が狭すぎて馬車では通れないからだ。
「さて、それではこれから私たちはアルセン峡谷に入る」
そう言ってクラスメイト達の前に出てきたのはクーデルベン王国の騎士団長、エリオット・グランベルンだ。
爽やかな金髪に目を見張るようなイケメン顔。俗に言うモテる奴だ。
その証拠にエリオットに婚約を持ちかける貴族などは多い。
本人はそんな物には目をくれずにひたすら訓練に精を出しているが。
「皆さん、生き残るにはチームワークが鍵です。決して独り善がりな行動をしないように」
そう言っているエリオットだが大木達はエリオットの話を全くといっていい程、聞いていない。
「それでは、出発するぞ」
エリオットを先頭にして龍司達はアルセン峡谷へと入っていく。
アルセン峡谷はその名の通り峡谷である。しかも峡谷の底は龍司達が歩いている場所からは全く見えない。誤って落ちたりすれば死は確定だろう。
といっても馬車が通れないほど道が狭いだけでそれ以外はあまり危険な事はない。落ちるという事もほとんどありえないだろう。それこそ事故などが起こらなければだが。
唯一脅威となるのはここを根城にしている魔物達のボスと出会ってしまった場合だ。
魔物達のボスというのは例外なく強い。それこそボス討伐用の専用装備でもしないかぎり今の龍司でも敵わない。
しかし、以前の自分のステータスに戻しさえすれば苦戦はすれど負ける事はない、と龍司は自負している。
「早速来たぞ!皆、警戒しろ!」
龍司達の前に現れた魔物。アリをでかくしたような魔物だ。それが二匹いる。
魔物達がやってきている方向からはそれ以上の大群がやってきている。
「はっ!警戒なんて必要ねぇ!」
「そうそう!俺たちは最強なんだよ!」
と、大木とその取り巻き達がエリオットの忠告も聞かずに魔物に襲いかかる。
「おい、お前たち!」
「はっはぁ!雑魚はどきやがれってんだ!」
エリオットの制止の声も聞かずに大木は自身の持っている剣でアリの魔物達はどんどん切り裂いていく。
他の取り巻き達もそれに調子づいてかどんどん魔物達を倒していく。
「ああ、もう!皆、行くぞ!」
エリオットの掛け声で戦わずに警戒していたクラスメイト達が動き出す。
「……ふっ!」
と、大木の隣まで行って魔物を切り伏せる女子がいた。
小さい容姿が特徴的でクールな性格をしているこのクラスのロリ担当と言われている、
龍司は彼女の職業などに関しては聞いていないがそれでも日本刀を持って敵を切り裂いていっている所から見ると戦闘職のどれかを選んだのだろう。
「邪魔してんじゃねぇ佐々木!」
大木は佐々木を邪魔と言ってからどんどん魔物を切り伏せていく。
「……はっ!」
そんな大木のイビりも聞かずに佐々木は敵を切り伏せていく。
そしてすべての魔物を倒した。
魔法で支援をする人達は一瞬で終わらせられたので何も出来なかった。
そして、それは大木達をさらに調子づかせた。
「おいおい、雑魚すぎるぜ。こんなんだったら過激派魔族ってのも楽勝なんじゃねぇの?」
「そうだよね」
「案外、すんなりと終わらせれるかもしれねぇな」
「「「「はははははははっ!」」」」
ここは既に峡谷内で魔物達がどこから現れるのかも分からない場所なのにこの余裕は何なのだろうか?
「お前たち!これは訓練じゃないんだ!慢心は捨てろ!」
そんなエリオットの言葉に大木達は「余裕だっての」と言って聞く耳持っていない。
実際、大木とその取り巻きは訓練中も殆ど教官の言うことなど一切聞かなかった。
それでも強いのはひとえにチートのおかげという事だろう。
しかし、それでもチームプレイをしなければどこかで限界が来てしまう物だ。
それからも数回魔物と遭遇するが大木達が独り善がりな事をしてずんずん進んでいく。
ちなみに龍司は先ほどから全然戦闘に参加していない。
龍司が魔法を掛けようとしても味方が激しく動き回る戦場で付与術を掛ける事自体が難しいのだ。
しかも大木達は独り善がりな行動を取っている為、余計に邪魔なのだ。
それ故に龍司は先ほどから魔法を使っていない。
「……リュージ殿リュージ殿」
「ん?」
と、最前線を歩いていた筈のエリオットが龍司の元にやってきた。
「あの男達をどうにかしてくれませんか?ハッキリ言って独断専行が目立ちすぎます」
「あぁ~その事なぁ……」
龍司にとってはどうでもいい事だがエリオットが悩んでいるのだ。
龍司としても何とかしてやりたいと思っているが
「いや、俺が何を言ってもあいつら話は全然聞かないんだよ」
「……リュージ殿が本当のLvの事を話されれば?」
この言葉からわかる通り、エリオットは龍司の事を知っている。
ちなみに龍司が召喚された頃にはエリオットは既に騎士団に入団にしており、龍司が最後に確認した際には騎士団の中でも一目置かれる程の実力を持っていた。
「いや、そんな事言っても絶対に何か言ってくる。もしくは嫉妬で俺を亡き者にしようとするかもな」
「まさか、そんな……」
「……………………」
ある訳ない、と言おうとしたエリオットは真剣に考える龍司の顔を見て言葉を飲み込んだ。
「まさか、あり得ると?」
「……可能性を否定しきれないんだよなぁ……」
龍司は頭を抱える。
大木は香織に話掛ける男子全員を脅している。
曰く「香織に近づいてんじゃねぇ!」らしい。
「はぁ……」
「リュージ殿も苦労していらしたんですね……」
「ああ、面倒くさかったよ……」
集団の最後尾でそんな事を呟き合っている龍司とエリオット。
それを見ていた香織は不思議に思っていた。
────何で騎士団長と親しげに話してるんだろう?
香織の記憶には龍司が騎士団長と親しげにしていた記憶はない。
それがなぜあんな互いを信頼しあったかのような会話が出来るのだろうか?
「ねぇかおりん」
と、恵が香織に話しかけてくる。
「何、恵?」
「遠坂君さぁ……何であんなに騎士団長さんと親しげに会話出来てるの?」
それに関しては自身も疑問に思っていたので恵の言葉に自分も、と返す。
「私もわかんないんだよねぇ。いつあんなに親しげになったのか」
「なるほど。ずっと遠坂君の事を見ているかおりんの言う事なら間違いないかな?」
「ちちち、ちょっと!?いつも見てるってどういう事?」
香織は少しだけ顔を赤くして恵を問い詰める。
「隠さなくってもわかってるよ?かおりんの遠坂君を見つめる視線が恋する乙女のそれになってる事くらい」
「ええっ!?」
「むろん、クラスメイト皆。大木達を除いてね」
「ええぇぇぇぇぇ!!!??」
そんな風に知られていたのかと知り、驚く香織。
「というか、あれで気づかないのって鈍感な遠坂君位だよねぇ?あ、あとはバカな大木位か」
「し、知られてたんだ……」
今更ながらに知った驚愕の真実に思わず顔を両手で隠す香織。しかし隠しきれていない部分は赤みがかかっている。
「いやぁ、逆にあれでバレてないと思うっていうのは凄いと思うよ?」
「ううぅぅぅぅぅ……恥ずかしい……」
さらに真っ赤になっていく香織。
「ま、話を元に戻すけど……本当に、いつ親しくなったんだろうね?」
「うん……わかんないんだよねぇ……」
龍司はいつ騎士団長と親しくなったのか……そんな疑問が二人の中で答えが出ぬまま、一行は先へと進む。
相当奥地までやってきた一行。
「よし、ここまでくればいいだろう……皆!戻るぞ!」
と、帰還を促すエリオット。
「あぁっ!?俺たちはまだいけんだよ!」
しかし、大木はそんなエリオットの指示を聞かない。
「バカを言うな!これ以上奥地までいけば魔物達のボスに出くわしてしまう可能性がある!騎士団長として、これ以上の進軍は許可出来ない!」
「行けるっつってんだろ!?何だ、騎士団長様!?自分の地位が脅かされてるから怖ぇのか?」
「そんな事は言っていない!いくらステータスが高くても現状ではボスに勝てる可能性は満に一つもないんだ!」
エリオットはそう言って帰還させようとするが
「はっ!だったらここのボスとやらを殺して証明してやるぜ!俺が最強だって事をな!行くぞ、おめぇら!」
と、大木は取り巻き達を連れてどんどん奥地に向かっていく。
「おい、待て!くそ!」
エリオットは追いすがろうとして一旦立ち止まる。
「皆は入り口に戻ってくれ。私はあいつらを連れ戻してくる。道は一本道だったからわかる筈だ」
そう言って走って大木達を追いかけるエリオット。
そんな姿を見ていた龍司は頭を掻きながらエリオットが走っていった方向に歩いていく。
「龍司?何してんの?」
と、こっそりいこうとしたら香織に気づかれた。
「ああ、ちょっくら援護に行こうと思ってな」
「龍司がいく事ないよ」
「いや、何か嫌な予感がしてな……」
龍司自身、本当ならあんな奴等無視して帰ろうと思っていたのだが……何となく嫌な予感がするのだ。
そして、自分のこれまでの経験上、こんな感じがした時はロクな事が起きない。
「だったら、私も行くよ!」
と言って香織も付いていこうとするが
「ダメだ。お前、MP結構消費してるだろ?」
「そ、そうだけど……」
小さな傷などをずっと治癒していた為、香織のMPは結構消費している。
その点、ずっと戦闘に参加していない龍司はMPは全快の状態だ。
「大丈夫さ。あいつらと合流したらさっさと帰ってくるからさ」
そう言って龍司はエリオットの後を追っていく。
─────龍司……。
そんな龍司の背中を眺める香織。
なぜだか香織には龍司が自分と離れてしまうのではないか……そんな気持ちに襲われていた。
そしてそれは……現実の物になってしまう。