「さて、あまり長居は出来そうにないし。そろそろ行きましょうか」
そう言って立ち上がりお尻の部分をパンパンと砂などを落としていくイリア。
「行くって……どこへ行くんだ?」
「どこへもなにも……一旦
魔国というのはこの世界において二大大国と呼ばれる一つだ。
魔国・カオス。それが魔国の名前でありカオスと呼ばれてはいるが混沌などではなくむしろ自然豊かな国である。
「そもそも、何でイリアはこんな所に来ていたんだ?」
そう、龍司はそこが疑問だった。
魔王イリアス・グラン・サタンがこんな場所に何の用があったのか……そこが龍司にはずっと気がかりだったのだ。
「ああ、その事なんだけどね……って、これ言ったら龍司また首突っ込むでしょ?」
「ああ、その為に聞いているんだ」
「そんな事言ってる人には教えてあげません……魔国に来たら話してあげるよ?」
もはや、脅迫に近いやり方だがこうしないと龍司はいつまでも聞いてくる事をイリアは知っている。
「仕方がないな……」
そう言って渋々といった感じで龍司は立ち上がる。
「さて、いざ!魔国・カオスへ!」
「はいはい……」
そしてイリアに連れられる形で峡谷を出て行く龍司であった……。
所変わって、こちらはクーデルベン王国。
「おお、よく帰ってきたな」
「王様」
エリオットは帰ってくるないなや、その場で片膝をつき右手を心臓の部分に置いて最大級の礼をしていた。
「何だ、エリオットよ……そういえば、人数が足りないように見えるが?」
と、マーベラスも気づいたのだろう。人数が足りない事に。
しかも、一人の女子が泣いておりその女子を何とか泣き止ませようと慰め続けている。
「だ、大丈夫だよ香織」
「遠坂君はきっと大丈夫だって」
「そうだよかおりん。龍司君だったらケロッとした顔で帰ってくるって」
どうやら泣いているのは香織らしい。
「すいませんでした……私の実力不足です」
「どういう事だ、説明せよ」
「はい……私が目を離してしまった隙に……リュージ殿が峡谷の底に落ちて、しまいました」
「何だとっ!?」
マーベラスは龍司が峡谷の底に落ちた事に驚愕する。
「エリオットよ、それは真か!?」
「はい……」
エリオットは悔しげにそう呟く。
「はんっ!あんな奴いなくなったって、何も関係ねぇだろ!?」
玉座の前だというのに大木はその態度は改めない。
「むしろ、あんな根暗いなくなって清々してんだろ!」
しかし、この国でそんな事しようものなら
「貴様ぁ!どの口がそんな事を言うか!?」
王であり最強の剣豪たるマーベラス王がそれを許さない。
「「「ひっ!?」」」
その威圧を離れているとはいえ肌で感じ取った大木達は悲鳴をあげそうになる。
「儂は誰一人欠かさずにお主達を帰すと決めていたのじゃ!それを何じゃ!自分達の仲間じゃろうが!」
ここまで怒っているマーベラスをクラスメイト達は見たことがない。
いや、エリオットは一度だけ見たことがある。
エリオットはその当時の事を思い出しながら歯を噛み締めていた。
──────あの時もこんな気分を味わった……リュージ殿……!
エリオットの心の中の言葉どおり、マーベラスが怒るのは今回も含めて二回目。そのどちらにも龍司が関わっているのだ。
「オーキよ!お主に部屋での謹慎処分を言い渡す!オーキと常に行動を共にしていたお主らもじゃ!」
「「「「なっ!?」」」」
「少しは反省しろ!連れていくがよい!」
「「はっ!」」
近衛兵達が大木達を連れて謁見の間を出て行く。
「おい!何しやがる!」
「離しやがれよ!」
「俺たちが何したってんだ!」
そんな事を叫び散らしながら連れていかれる大木達。
しかし、そんな大木達を遮るようにティアが立った。
「貴方達が……リュージ様を……?」
「だから、俺たちは何もしてねぇんだよ!全部そこの騎士団長のハッタリだろうが!」
「……っ!」
ティアは泣きそうになっている顔で大木の下に詰め寄ると
パァンッ!!
その頬を思いっきり右手で叩く。
「っ!?い、いきなり何しやがる!」
「貴方達なんかに!」
大木が文句を言おうとするのを遮るようにティアは大声で叫ぶ。
「貴方達なんかに!リュージ様の何がわかると言うんですか!貴方達なんかに……リュージ様の……何が……!」
そう言って、とうとう我慢が出来なかったのか泣きながら謁見の間を出て行くティア。
「連れていけ」
「「はっ」」
こうして、大木達は自室への謹慎が決まった。
香織は泣き止んだ後、自室のベッドに沈んでいた。
香織が泣き出したのは峡谷から出てからだ。
それから城に帰ってきて先ほどまでずっと泣きっぱなしだった。
それもそうだろう。自身の大切な幼なじみが……ほぼ、死んだような状況になってしまったのだ。
泣いてしまうのも仕方ない事だろう。
先ほどまでこの部屋には恵達がいて香織を慰め続けていた。
落ち着いてきた所で香織が皆に悪いと恵達を自室に帰したのだ。
そして落ち着いてきた所で香織は王様達の話の中にある疑問を持った。
「何で王様達……龍司の事を親しげにリュージって言ってたんだろ……」
降って湧いた疑問は止まる事を知らず更に疑問が出てくる。
「それにティアライア姫も龍司の事、リュージ様って……」
一体、どういう事なの?と顎に手を置いて考えてみる。
とんとんっ
「ん?」
何かが窓を叩く音が聞こえた。
香織がその音のする窓を見てみると……そこには、鳩がいた。鳩が嘴で窓を叩いていた音だったのだ。
「鳩?」
香織は訝しげに窓を開ける。
と、鳩が香織に近づく。
香織はそこで気がついた。その鳩が何かを背負っているのである。
見た目からして手紙のようだ。
「これを、私に?」
香織は恐る恐るといった感じで手紙を取る。
と、鳩がそこにいたのが嘘だったかのように消えた。
「えっ!?う、嘘消えちゃった!?」
香織は窓を開けて辺りを見てみる。しかし暗闇の空には鳩の姿など見えなかった。
「これ、一体何なんだろう……」
香織は封を破いてから中身を確認してみる。
そして最初の一文に香織は驚く。
『遠坂龍司より、乾香織へ』
「えっ!?りゅ、龍司からの手紙!?」
香織は龍司から手紙が来た事に驚いている。
それもそうだろう、今日の昼に消息を断った龍司から手紙が来たのだから。
「え、えっと…内容は……」
そこにはこう書かれてある。
『遠坂龍司より乾香織へ
今日の出来事で俺は死んでしまっていると思っているかもしれない。けれど心配はしなくてもいい。俺はちゃんと生きている。それにきちんと帰るから何も心配はしなくてもいい。
でも、帰るのに少し時間が掛かるかもしれないからそこの所は了承してくれると嬉しい。
マーベラスとティア、エリオットにも自分は生きているという事を伝えてほしい。お前が信用出来るという人物にも教えてもいい。でも、大木達だけはダメだ。あいつらは俺を峡谷に突き落とした張本人である可能性がある。だから、不用意に信じないようにしてほしい。
最後に……絶対に、皆で地球に帰ろうな』
それで手紙は締めくくられていた。
「龍司……」
香織は手紙を見た後、また涙を流していた。しかし今度の涙は悲しみから来る涙ではない。嬉しさから来る涙だと香織は思った。
なぜなら……また、龍司に会えるのだから……。
そしてそこまで考えて香織は顔を赤らめる。
龍司にまた会えると考えただけでこんなにも嬉しいなんて、と香織は思う。
──────ううぅぅぅぅぅ、やっぱりこの感情って……そういう事だよね?
そして、気づいた。自身のこの感情から来る言葉は間違いなく……恋、だと。