白銀の鎧とハイスクールd×d   作:Ks5118

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第五話 レッツレッスン3! 地獄の訓練

 一誠 side

 

 朝の空気はひんやりとしていて気持ちがいい。

 

 リアス部長の別荘を出た俺たちは、森の中を歩いていた。

 

「ふぁぁ……」

 

 思わず欠伸が漏れる。

 

「まだ眠いの?」

 

 アーシアが少し心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

 

「いや、眠いっていうより緊張してるんだよ」

 

 頭を掻きながら苦笑する。

 

「今日から本格的な修行だろ? 昨日、モードレッドさんの笑顔見てたら余計にな」

 

「あはは……」

 

 アーシアも困ったように笑う。

 

 隣を歩く木場も肩を竦めた。

 

「確かに、あの笑顔は少し迫力があったね」

 

「少しどころじゃねぇって!」

 

「絶対しごかれるぞ、俺!」

 

 俺が大袈裟に騒ぐと、木場は小さく笑った。

 

「でも、それだけ期待されてるってことじゃないかな」

 

「そう考えれば悪くないよ」

 

「木場は余裕そうでいいよなぁ」

 

「そんなことないよ」

 

「僕だって剣士として教えてもらえる機会なんて滅多にないから、少し緊張してる」

 

 その横では、小猫ちゃんが相変わらず無表情のまま歩いていた。

 

「……木場先輩でも緊張するんですね」

 

「もちろん」

 

「相手は練矢さんの眷属だからね」

 

「きっと僕なんかより、ずっと経験豊富だ」

 

 そう言って前を見る木場の表情には、剣士としての期待が浮かんでいた。

 

 俺も自然と前を向く。

 

 すると、木々の向こうに巨大な紫色の姿が見えてきた。

 

「おっ」

 

「見えてきたぞ」

 

 キャッスルドラン。

 

 昨日見ても思ったけど、やっぱり何度見ても圧巻だ。

 

 城そのものに頭と四肢、それに小さな翼が生えたような姿。

 

 あれが生きてるドラゴンだなんて、未だに信じられない。

 

「相変わらずすげぇな……」

 

 思わず呟くと、リアス部長が小さく笑った。

 

「ふふっ」

 

「私も初めて見た時は驚いたわ」

 

 朱乃さんも優雅に微笑む。

 

「こんな立派なドラゴンがいるなんて、滅多にありませんものね」

 

 その時だった。

 

 キャッスルドランがゆっくりと首を持ち上げる。

 

「グルルル……」

 

 低く、それでいて穏やかな鳴き声が森へ響いた。

 

 俺たちに気付いたんだろう。

 

「なんか歓迎されてるみたいだな」

 

 俺が笑うと、リアス部長が頷いた。

 

「ええ」

 

「練矢がここを拠点にしている以上、私たちもお客様ということなのでしょう」

 

 キャッスルドランの口元が僅かに動く。

 

 まるで頷いたようだった。

 

 そのまま正面の大きな門がゆっくりと開いていく。

 

「行きましょう」

 

 リアス部長を先頭に、俺たちは城の中へ入っていった。

 

 昨日と同じ訓練場。

 

 広大な石造りの空間には、すでに練矢先輩たちが待っていた。

 

 練矢先輩は壁にもたれ掛かるように腕を組み、静かに俺たちを見る。

 

 その隣にはモードレッドさん。

 

 ラムさんとレムさん。

 

 咲夜さん。

 

 そして猫猫さんが並んでいる。

 

 全員の姿を確認すると、練矢先輩はゆっくりと口を開いた。

 

「揃ったな」

 

 短い一言。

 

 それだけで場の空気が引き締まる。

 

 俺たちも自然と背筋を伸ばした。

 

 練矢先輩は一人一人の顔を見渡し、小さく頷く。

 

「今日から修行を始める」

 

「昨日も言ったが、俺たちはお前たちを強くするためにここにいる」

 

「だが、一つだけ勘違いするな」

 

 静かな声が訓練場に響く。

 

「強くしてもらうと思うな」

 

「強くなるのは、お前たち自身だ」

 

 その言葉に、誰も口を開かなかった。

 

 俺も思わず息を呑む。

 

 練矢先輩は続ける。

 

「俺たちは、その手助けをするだけだ」

 

「だから甘やかすつもりはない」

 

「覚悟だけはしておけ」

 

 その瞬間。

 

「よしっ!」

 

 勢いよく前へ飛び出したのはモードレッドさんだった。

 

「堅苦しい話はここまで!」

 

「今日からよろしくな!」

 

 ニカッと笑うその姿は、昨日と変わらず豪快そのものだった。

 

「安心しろ!」

 

「ちゃんと加減はしてやる!」

 

 俺は思わず苦笑する。

 

「その台詞が一番不安なんですけど……」

 

「はははっ!」

 

 モードレッドさんは豪快に笑った。

 

「いい反応だ!」

 

「嫌いじゃねぇ!」

 

 その笑い声に、張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。

 

 すると今度は、咲夜さんが静かに一歩前へ出た。

 

「それでは、本日の内容をご説明いたします」

 

 先ほどまでの空気とは一変し、訓練場は再び静寂に包まれる。

 

「まずは皆様の現在の実力を確認いたします」

 

「その上で、それぞれに合った修行を始めます」

 

 リアス部長が一歩前へ出た。

 

「担当ごとに、ということかしら?」

 

「はい」

 

 咲夜さんは静かに頷く。

 

「まずは、リアス様と朱乃様」

 

「お二人からお願いいたします」

 

 その一言に、リアス部長は少しだけ首を傾げた。

 

「私たちから?」

 

「はい」

 

 咲夜さんは真っ直ぐリアス部長を見つめる。

 

「まず確認したいことがあります」

 

 訓練場の空気が、再び静かに張り詰めていった。

 

 一誠side out

 

 リアス side

 

 咲夜に促され、私は訓練場の中央へと歩み出る。

 

 その向かいでは咲夜が静かに佇み、紅い瞳でこちらを見つめていた。

 

 その姿に隙はない。

 

 ただ立っているだけ。

 

 それなのに、どこへ攻撃を仕掛けても届かないような不思議な感覚があった。

 

「では、リアス様」

 

「まずは、いつも通り魔力を放ってください」

 

「いつも通りで構わないのね?」

 

「はい」

 

「相手は?」

 

「訓練用の岩で結構です」

 

 咲夜が指し示した先には、人の背丈を優に超える大岩が置かれていた。

 

 私は右手を前へ突き出す。

 

 紅色の魔力が掌へ集まり始める。

 

 周囲の空気が震え、兵藤達も息を呑む気配が伝わってきた。

 

 十分な魔力が集まったところで、私は腕を振る。

 

「はっ!」

 

 紅い魔力弾が一直線に飛び、大岩へ命中した。

 

 轟音。

 

 大岩は一瞬で消し飛び、その余波で周囲の地面まで大きく抉れていく。

 

 爆風が訓練場を吹き抜け、砂煙が舞い上がった。

 

「す、すげぇ……」

 

 兵藤君の声が聞こえる。

 

 私は静かに息を吐いた。

 

 これが私の『消滅の魔力』。

 

 グレモリー家が代々受け継ぐ力。

 

 魔力そのものなら、私は誰にも負けるつもりはない。

 

 煙が晴れるのを待っていた咲夜が、小さく口を開いた。

 

「……なるほど」

 

「さすがはリアス様です」

 

 私は微笑む。

 

「ありがとう」

 

 だが、その次の言葉は予想外だった。

 

「ですが」

 

「非常にもったいないですね」

 

 ……もったいない? 

 

 私は思わず眉をひそめる。

 

「どういうことかしら?」

 

 咲夜は壊れた地面へ視線を向ける。

 

「リアス様」

 

「あの岩を破壊するために必要だった魔力は、今の半分程度で十分でした」

 

 私は首を横に振る。

 

「そんなはずはないわ」

 

「私の魔力は……」

 

「強大です」

 

 咲夜は私の言葉を遮ることなく頷いた。

 

「それは疑っておりません」

 

「ですが、強大であることと、使いこなせていることは別です」

 

 その一言に、私は言葉を失う。

 

 咲夜は静かに続けた。

 

「今の一撃」

 

「必要以上の魔力が周囲へ漏れています」

 

「岩だけではなく、地面まで抉れているのがその証拠です」

 

 私は視線を落とす。

 

 確かに。

 

 狙った岩だけではなく、その周囲まで大きく壊れている。

 

 今まで、それを気にしたことは一度もなかった。

 

「威力が高いから壊れた」

 

「そう思っておりましたか?」

 

 私は黙ったまま頷く。

 

 咲夜は静かに首を横へ振った。

 

「違います」

 

「それは制御しきれなかった魔力が暴れただけです」

 

「……っ」

 

 その言葉が胸に刺さる。

 

 私はこれまで、自分の魔力に疑問を抱いたことなどなかった。

 

 グレモリー家の後継者として生まれ、周囲からも高い魔力を持つと言われ続けてきた。

 

 だからこそ、自分の戦い方が間違っているなど考えたこともない。

 

「リアス様」

 

「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」

 

「……何かしら」

 

「もし、今と同じ威力を半分の魔力で放てるとしたら」

 

「その方が強いと思いませんか?」

 

 私は思わず顔を上げた。

 

 半分の魔力で。

 

 同じ威力を。

 

 そんなことが、本当に可能なの……? 

 

 その時だった。

 

「咲夜」

 

 後ろから練矢の落ち着いた声が聞こえた。

 

「実演してやれ」

 

「承知しました」

 

 咲夜は静かに一礼すると、訓練場の中央へ歩き出る。

 

 その右手に集まり始めた魔力は、私のものとは比べ物にならないほど小さい。

 

 まるで小石ほどしかない黒い球体。

 

 兵藤君が思わず首を傾げる。

 

「あれだけですか?」

 

 だが、練矢は何も答えない。

 

 ただ静かに見つめているだけだった。

 

 咲夜はその小さな魔力球を、先ほどとは別の大岩へ向けて放つ。

 

 次の瞬間。

 

 ドォンッ!! 

 

 大岩だけが、一瞬で粉々に砕け散った。

 

 しかし。

 

 周囲の地面には、ほとんど傷一つ付いていない。

 

 その場にいた全員が言葉を失った。

 

 私は、その光景から目を離すことができないまま、訓練場は静まり返っていた。

 

 誰一人として言葉を発しない。

 

 咲夜が放った一撃は、私達の想像を遥かに超えていた。

 

 兵藤君が呆然と砕け散った岩を見つめる。

 

「……すげぇ」

 

「魔力は部長の方が何倍もあったはずなのに……」

 

 木場も静かに頷く。

 

「ええ……」

 

「無駄がまったくありませんでした」

 

 私は砕けた岩へ視線を向けたまま動けなかった。

 

 確かに威力は私の攻撃と変わらない。

 

 それどころか、一点だけを正確に破壊している分、咲夜の方が洗練されているようにも見える。

 

 咲夜はこちらへ向き直ると、穏やかな口調で話し始めた。

 

「リアス様」

 

「今の一撃で使用した魔力は、先程リアス様がお使いになった量の十分の一にも届きません」

 

「……十分の一?」

 

 思わず聞き返してしまう。

 

「はい」

 

「ですが、威力だけを見れば大差はございません」

 

 咲夜は右手をゆっくりと下ろした。

 

「これが魔力の圧縮です」

 

「魔力をただ放出するのではなく、一点へ極限まで凝縮する」

 

「そうすることで、少ない魔力でも高い威力を生み出せます」

 

 私は拳を握り締めた。

 

 そんな戦い方があるなんて、考えたこともなかった。

 

「リアス様は素晴らしい才能をお持ちです」

 

「魔力量だけなら、私など到底及びません」

 

「ですが」

 

 咲夜の視線が真っ直ぐ私を射抜く。

 

「その才能に甘えております」

 

 その言葉に胸が締め付けられる。

 

 否定したかった。

 

 けれど、先程の光景を見せられた今では、その言葉を口にすることはできなかった。

 

「魔力が多いからこそ、多少無駄にしても問題ない」

 

「心のどこかで、そのように考えてはいませんでしたか?」

 

「……」

 

 図星だった。

 

 私は今まで、自分の魔力が底を尽くことなど考えたことがない。

 

 だから細かな制御よりも、威力を優先してきた。

 

 それが当然だと思っていた。

 

 その時、不意に後ろから足音が聞こえた。

 

 練矢だった。

 

 私の隣まで歩いて来ると、砕けた岩を見つめながら静かに口を開く。

 

「リアス」

 

 私は顔を上げる。

 

「お前は力を持っている」

 

「それは間違いない」

 

 その言葉に少しだけ胸を撫で下ろす。

 

 しかし。

 

「だからこそ、使い方を覚えろ」

 

「強い力ほど、雑に扱えば自分の首を絞める」

 

 練矢は私を見ることなく続ける。

 

「戦いは魔力比べじゃない」

 

「最後まで立っていた方が勝つ」

 

「百の魔力を一度で使い切るより、十で百の威力を出せる奴の方が強い」

 

 その言葉は静かだった。

 

 怒鳴るわけでもない。

 

 責めるわけでもない。

 

 それでも、不思議と胸に響く。

 

「俺も昔、同じ失敗をした」

 

 その一言に私は驚いた。

 

「練矢も……?」

 

「ああ」

 

「力があるから押し切れる」

 

「そう思っていた時期があった」

 

 練矢は小さく息を吐く。

 

「だが、それで勝てるほど戦場は甘くない」

 

「力を制御できない奴は、いつか必ず足元を掬われる」

 

 私は目を閉じた。

 

 練矢は千年以上を生きてきた。

 

 その言葉には、私では到底想像もできないほどの重みがあった。

 

 やがて私はゆっくりと頭を下げる。

 

「……お願いします」

 

「私に、その圧縮を教えてください」

 

 咲夜は静かに微笑み、一礼した。

 

「承知いたしました」

 

「では、本日から基礎からやり直しましょう」

 

「まずは魔力を放つことを忘れていただきます」

 

「え?」

 

 思わず顔を上げる。

 

「放たない……?」

 

「はい」

 

「まずは魔力を体内で留め、圧縮する感覚を覚えていただきます」

 

「放つのは、その後です」

 

 私は苦笑した。

 

 どうやら思っていた以上に、長い道のりになりそうだ。

 

 だが、不思議と嫌な気持ちはなかった。

 

 ライザーに勝つため。

 

 そして、自分自身がもっと強くなるため。

 

 今の私は、この修行を受け入れる覚悟ができていた。

 

 一方その頃。

 

 訓練場の反対側では、モードレッドが拳を鳴らしながら兵藤と木場を見て、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「さてと」

 

「リアス達が終わるまで暇だし、あたし達は軽く体を動かすか!」

 

 兵藤の表情が一気に引きつる。

 

「軽く……ですよね?」

 

「もちろん!」

 

 モードレッドは満面の笑みで親指を立てた。

 

「安心しろ!」

 

「最初は本当に軽くだ!」

 

 その笑顔を見た木場は苦笑し、兵藤は嫌な予感しかしなかった。

 

 こうして、それぞれの修行が本格的に幕を開けようとしていた。

 

 リアスside out

 

 一誠 side

 

 修行が始まって数日。

 

 ……結論から言おう。

 

「もう無理です!」

 

 俺は訓練場へ倒れ込んだ。

 

「腕が上がらねぇ……!」

 

 全身が悲鳴を上げている。

 

 剣を振るだけならまだいい。

 

 問題は、その前後に行われる基礎訓練だった。

 

「立て」

 

 モードレッドさんが木剣を肩へ担ぎながら俺を見下ろす。

 

「まだ終わってねぇぞ」

 

「いやいや! 十分やりましたって!」

 

「まだ半分だ」

 

「えぇぇぇっ!?」

 

 俺が叫ぶと、モードレッドさんは豪快に笑った。

 

「ははっ!」

 

「弱音吐く元気があるならまだ動けるな!」

 

「理不尽だぁぁぁ!」

 

 そんな俺を見ながら、木場は汗を拭う。

 

「兵藤君」

 

「諦めたら本当に終わらないよ」

 

「木場はまだ余裕そうじゃん!」

 

「余裕じゃないよ」

 

 木場は苦笑する。

 

「僕も腕はかなりきつい」

 

「ただ……」

 

 木場は木剣を構え直した。

 

「モードレッドさんの剣は勉強になる」

 

「力任せじゃない」

 

「相手を崩すための剣だ」

 

「そう!」

 

 モードレッドさんは嬉しそうに笑う。

 

「そこは分かってきたな!」

 

「でもまだ考え過ぎだ!」

 

「頭で剣を振るな!」

 

「身体で覚えろ!」

 

 言うなり木剣が走る。

 

 木場は反応するものの、防ぎ切れず一歩後退した。

 

「くっ……!」

 

「今のだ!」

 

「今みたいな一瞬を逃すな!」

 

 木場は深く息を吐き、真剣な表情で頷いた。

 

「……はい」

 

 その様子を少し離れた場所から見ていた練矢が静かに口を開く。

 

「木場」

 

「はい」

 

「踏み込みは悪くない」

 

「だが、剣先を見過ぎだ」

 

「相手の肩と腰を見ろ」

 

「……!」

 

 木場の表情が変わる。

 

「ありがとうございます」

 

 モードレッドさんも笑う。

 

「さすがマスター」

 

「そこなんだよ」

 

 俺は二人の会話を聞きながら首を傾げた。

 

「肩と腰?」

 

「兵藤」

 

 今度は俺の名前が呼ばれる。

 

「は、はい!」

 

「踏み込みが浅い」

 

「だから拳が死ぬ」

 

「もっと踏み込め」

 

「……はい」

 

 短い一言なのに、不思議と納得できた。

 

 もう一度構え直し、今度は意識して一歩深く踏み込む。

 

 拳を突き出す。

 

「そうだ」

 

 練矢先輩はそれだけ言うと、それ以上何も言わなかった。

 

 けれど、それだけでさっきまでとは身体の動きがまるで違っていた。

 

「すげぇ……」

 

 俺が呟くと、モードレッドさんはニヤリと笑う。

 

「だからマスターなんだよ」

 

「たった一言で変わる」

 

「経験が違うんだ」

 

 一誠side out

 

 リアス side

 

「もう一度です」

 

 咲夜の落ち着いた声が響く。

 

 私は掌の上へ魔力を集める。

 

 放たない。

 

 圧縮する。

 

 それだけに集中する。

 

 けれど。

 

 パァンッ! 

 

 魔力が霧散した。

 

「また失敗……」

 

 私は小さく息を吐く。

 

「焦りは禁物です」

 

 咲夜は表情を変えない。

 

「魔力は力任せに押さえ付けるものではありません」

 

「流れを感じてください」

 

「流れ……」

 

 簡単に言うけれど、それが難しい。

 

 今まで私は、魔力は放つものだと思っていた。

 

 圧縮するなど考えたこともない。

 

 隣では朱乃も雷を指先へ集めていた。

 

 以前より細く、鋭く。

 

 咲夜の指導を受け、無駄な放電を抑える訓練を続けている。

 

「朱乃様」

 

「はい」

 

「今の制御は良くなっています」

 

「ですが、最後の一瞬だけ力みがあります」

 

「もう少し自然に」

 

「……はい」

 

 朱乃は柔らかく微笑みながら頷いた。

 

 その時だった。

 

 練矢がこちらへ歩いて来る。

 

 咲夜は一歩下がり、その場を譲る。

 

 練矢は私の掌へ視線を向けた。

 

「リアス」

 

「はい」

 

「魔力を押さえ付けるな」

 

「……え?」

 

「握り潰そうとするから逃げる」

 

「閉じ込めるんじゃない」

 

「寄せるんだ」

 

 私はその言葉を反芻する。

 

 寄せる……。

 

 押さえ付けるのではなく。

 

 集める。

 

 私はもう一度目を閉じた。

 

 呼吸を整える。

 

 ゆっくりと魔力を掌へ集めていく。

 

 すると先ほどまでとは違い、紅い魔力が少しだけ安定して留まった。

 

「……できた」

 

 思わず呟く。

 

 ほんの数秒。

 

 それでも、初めて魔力が散らなかった。

 

 咲夜が静かに微笑む。

 

「それで結構です」

 

「ようやく第一歩ですね」

 

 私は小さく笑みを浮かべた。

 

 たった数秒。

 

 それでも確かな前進だった。

 

 こうして数日が過ぎ、それぞれが少しずつではあるが成長を重ねていった。

 

 ライザーとのレーティングゲームは、もう目前まで迫っていた。

 

 リアスside out

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