(何の予告もなく動画が始まる)
(真っ暗な部屋で、白い少女がひらひらと手を振り、口元で指を立てて微笑む)
(静かに、と誰とも知れぬ視聴者に伝えたいらしい)
(白く大きな魔女帽の少女は、妙に楽し気に、ベッドで眠る少女の寝顔を覗き込んだ)
(桜色の少女はうなされており、寝苦しそうに眉をひそめていた)
(頬には涙が伝った後が残っている)
1:字幕の魔法少女
エマ、エマ。起きてください。
2:字幕の魔法少女
ぅ……。
……え? ぁ……ユキちゃん?
3:字幕の魔法少女
はい、ユキです。おはようございます、エマ。
4:字幕の魔法少女
う、うん。ふぁ……おはようユキちゃん
え? あれ? ユキちゃんがいる
ユキちゃん、もう人形劇の中でしか会えないんじゃ……
5:字幕の魔法少女
実は私、お化けなんです。だから化けて出たんですよ
6:字幕の魔法少女
ええ……?
7:字幕の魔法少女
まぁまぁ、細かいことはいいじゃないですか。
月がきれいな夜ですし、お化けくらい出ても不思議じゃありません。
8:字幕の魔法少女
……いま何時?
9:字幕の魔法少女
夜の2時です
10:字幕の魔法少女
……えっと?
11:字幕の魔法少女
星を見にいきませんか? エマ
12:字幕の魔法少女
さ、エマ。こっちです
13:字幕の魔法少女
あ、うん。……こんなところに階段なんてあったかな
14:字幕の魔法少女
秘密ですよ?
15:字幕の魔法少女
あ、内緒なんだ。……ふふ。うん、分かった。
でも暗いから足元気を付けてね、ユキちゃん
16:字幕の魔法少女
実は私、幽霊だから足がないんです。だから転ぶなんてことは……あ
17:字幕の魔法少女
わ! だ、大丈夫!?
18:字幕の魔法少女
……おかしいです。昔から何度も行き来してきた道なのに。
19:字幕の魔法少女
階段を後ろ向きに昇るからだと思う
20:字幕の魔法少女
前を向いているとエマの顔が見えません
21:字幕の魔法少女
……手、つなぐ?
22:字幕の魔法少女
はい
23:字幕の魔法少女
ん……扉、重いね
24:字幕の魔法少女
ずっと使っていませんでしたから、蝶番が錆びていますね。
んっ……、ああ、開きました。
25:字幕の魔法少女
風が冷たい……
ここって、牢屋敷の屋根の上?
26:字幕の魔法少女
エマ、ここに腰かけましょう。ここなら空がよく見えますよ
27:字幕の魔法少女
うん、ありがとうユキちゃん。
わあ……! 星、いっぱい見えるね。綺麗……
28:字幕の魔法少女
エマは、星をよく見るんですか?
29:字幕の魔法少女
どうだろう。最近は、全然空を見上げたことなんてなかった気がする。
そんな余裕なかったから
30:字幕の魔法少女
そうですね……
31:字幕の魔法少女
でも、なんだか懐かしいな。
ほら、覚えてる?
中学の頃、こうやって学校の屋上で並んで夕日を眺めてたよね。
32:字幕の魔法少女
そうですね、エマ。あなたはよく、私を屋上に誘ってくれました。
はぐれ者の、おぞましい魔女の私を。
33:字幕の魔法少女
だって、友だちだもん。
ユキちゃんが友だちになろうって言ってくれて、
ボク、本当に嬉しかったんだ!
34:字幕の魔法少女
……私もです
35:字幕の魔法少女
本当?
36:字幕の魔法少女
ええ。……本当に。
37:字幕の魔法少女
そっか。……えへへ、嬉しいな
38:字幕の魔法少女
あなたと過ごした日々は、私の宝物です。
こうして屋上に腰掛けて、たくさんお話しをしましたね。
エマが社会の教科書を忘れたこと、
貸そうとした私の教科書が捨てられていたこと……
39:字幕の魔法少女
うぅ……
40:字幕の魔法少女
数学の授業が全然わからなかったこと、
音楽の授業で聴いた素敵な曲を、2人で一緒にハミングしたこと、
体育の授業で私のでんぐり返しがとてもすばらしかったこと……
ああ、近所にできたコロッケのお店が美味しかったと、私を買い食いに誘ってくれたこともありましたね。
41:字幕の魔法少女
うん。覚えてる。……全部覚えてるよ。
42:字幕の魔法少女
それに……あの頃は、ヒロがいましたから
43:字幕の魔法少女
――覚えていてくれたのは光栄だが。
まったく、こんな夜中に2人で何をしているんだ。
44:字幕の魔法少女
え? ひ、ヒロちゃんっ!?
45:字幕の魔法少女
盗み聞きは趣味が悪いですよ、ヒロ
46:字幕の魔法少女
私はエマと同室なんだ。気づくに決まっているだろう。
ほら、ホットココアだ。熱いから気を付けるように。
47:字幕の魔法少女
わあ……! ありがとう、ヒロちゃん!
48:字幕の魔法少女
ありがとう、ヒロ。よく場所が分かりましたね
49:字幕の魔法少女
秘密にしたいのなら、扉を開けたままにはしないことだ。
それに行先の見当はついた。
あの頃はよく、屋上に集まっていたからな。
50:字幕の魔法少女
そうですか。……あちゅっ
51:字幕の魔法少女
ああもう……相変わらずだな、君は
52:字幕の魔法少女
ユキちゃん、ふーっ、ふーって
53:字幕の魔法少女
ふー……っ、ふー……っ。……甘いです
54:字幕の魔法少女
うん。
……こんな場所があったのか。
空気が澄んでいるからか、星空がよく見えるな。
55:字幕の魔法少女
ね。ユキちゃんの秘密の場所だって。
すごいなあ、星ってこんなにたくさんあったんだ
56:字幕の魔法少女
エマ、あの星は知っていますか?
57:字幕の魔法少女
え? どの星?
58:字幕の魔法少女
北の空の、一番明るい星です
59:字幕の魔法少女
北極星、だっけ。
……ごめん、ボク、あんまり理科の成績がよくなくて
60:字幕の魔法少女
大正解です。よくできましたね、エマ。
そこからすぐ近く、こうやって線を結んだのが北斗七星で……
61:字幕の魔法少女
……待てユキ。私には本当に星同士が線でつながっているように見えるんだが。
君、何をしたんだ。
62:字幕の魔法少女
【星を結んで星座を見せる魔法】です
63:字幕の魔法少女
またピンポイントな……
64:字幕の魔法少女
あ、でも分かりやすいね。
65:字幕の魔法少女
エマ、星座の勉強です。
北斗七星がしっぽになって、このあたりにおおぐま座――
66:字幕の魔法少女
え!? 空にくまの絵が!?
67:字幕の魔法少女
ひときわ眩い星を結んでみましょう。
アークトゥルス、スピカ、レグルスを結んで春の大三角形。
デネブ、アルタイル、ベガで夏の大三角形。
こちらは秋の四辺形といって……
68:字幕の魔法少女
いや待ってくれ。
この季節には見えない星座が何故見え――
星がぐるぐる異常な速度で動いているように見えるんだが!?
まさか本当に星の位置をいじったんじゃないだろうな!?
69:字幕の魔法少女
うるさいですよ、ヒロ。夜は静かに、です。
70:字幕の魔法少女
誰のせいだと……!
71:字幕の魔法少女
本当は、あの頃にもしてあげたかったのですが、普通のか弱い学生を装っていたので、できませんでした。
いまは、魔法解禁です
72:字幕の魔法少女
すごい……! プラネタリウムみたい!
73:字幕の魔法少女
無茶苦茶すぎる……。どんな魔法なんだ
74:字幕の魔法少女
【エマに星座を教える魔法】です
75:字幕の魔法少女
絶対適当に言ってるだろうそれ
76:字幕の魔法少女
とっても素敵ですよね? ほら、オリオン座とさそり座の因縁の一騎打ちですよ
77:字幕の魔法少女
星座の絵が戦いだした……!?
78:字幕の魔法少女
……ポップコーンでも用意した方がよかったか
79:字幕の魔法少女
あははは! はは……楽しい……楽しいなあ
80:字幕の魔法少女
……エマ? 泣いているんですか?
81:字幕の魔法少女
え?
82:字幕の魔法少女
……大丈夫か?
83:字幕の魔法少女
う、ううん。ごめんね。変だよね?
ただボク、楽しくて……楽しく、てぇ……ぐすっ
84:字幕の魔法少女
……
(泣き笑いで肩を震わせるエマに、ヒロはそっと寄り添い背中をさする)
(ユキはおずおずと遠慮がちに、エマの手に指を絡めた)
(しばらく3人は無言で星空を眺め、ぽつぽつと声を交わした)
(冷めきったココアを飲み干した頃に3人は別れた)
(また明日、と穏やかに告げて)