まのさば少女の掲示板   作:宝石梟

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法の悪魔 4

98:かわいい字幕の魔法少女

住宅街に着いたのは、そろそろ陽が沈む頃だった。

 

99:かわいい字幕の魔法少女

あの民家はまだ燃えていない。

 

100:かわいい字幕の魔法少女

火事になるまで待つか、それともこっそり侵入するか。

いろいろシミュレーションしてみたが、やはり真正面からいくべきだろう。

チャイムを鳴らして、もし、エマが出てきたら……それで解決するのだから。

 

101:かわいい字幕の魔法少女

私の目的はエマだ。

あの雄牛など、究極的にはどうでもいい。

まだ火事になっていないのなら、あの化け物と遭う前に、エマを連れ出せるかもしれない。

 

102:かわいい字幕の魔法少女

……もちろん、そんな都合よくいくはずもなく、またあの化け物に鉢合わせして、無様に屍を晒すことになるかもしれない。

だがこんな異常事態、正解など分かりはしないんだ。

ならあとは覚悟の問題。

……それなら、一年前からできている。

 

103:かわいい字幕の魔法少女

息を整え、目的の家に近づく。

 

104:かわいい字幕の魔法少女

家屋が内側から爆発した。

 

105:かわいい字幕の魔法少女

「……はあ?」

 

106:かわいい字幕の魔法少女

素っ頓狂な声が漏れた。

咄嗟に物陰に隠れて様子をうかがう。

冗談みたいに弾け飛んだ一軒家から、瓦礫をまとってあの化け牛が姿を現した。

 

107:かわいい字幕の魔法少女

やはり大きい。周囲の民家の二階部分に、あの巨大な頭部が位置している。

その金属の両腕を振り回して、化け物は周囲に破壊を撒き散らしていた。

いや、なにかを攻撃している?

 

108:かわいい字幕の魔法少女

目を凝らせば――化け物の足元を、少女が二人、駆け回っていた。

 

109:かわいい字幕の魔法少女

「聞いてませんわ聞いてませんわ聞いてませんわー!? 何なんですのコイツー!?」

「おっきい牛さんですね! カッコイイ!」

「呑気なこと言ってる場合じゃねーんですのよ! ふーみーつーぶーさーれーるー!?」

「ハンナさん、ちょっと離れていてください! てえええいっ!」

 

110:かわいい字幕の魔法少女

青い髪の少女が、両手につけた巨大なグローブを打ち鳴らし、真鍮の足に殴りかかった。あんな華奢な体で、なんて無謀な。思わず上げかけた静止の声を、私は飲み込んだ。

 

111:かわいい字幕の魔法少女

どおん、と大砲のような音がして、化け牛の足がわずかにひしゃげる。

とても少女一人が殴ったものとは思えない。

化け牛はバランスを崩してたたらを踏む。

その隙に、もう一人の金髪少女は箒のようなものにまたがって――ふわりと空中に浮かびあがった。

 

112:かわいい字幕の魔法少女

「わたくしは! 戦闘なんて、まるーっきり専門外なんですからね!」

「私だって専門外ですよー」

「そんな馬鹿力しておいて無理がありませんこと!?」

 

113:かわいい字幕の魔法少女

かしましく叫んで、小柄な少女は化け牛の周囲をジグザグに飛び回った。箒が何らかの補助具なのか、ジェットエンジンのように火を噴いて、目にも留まらぬ速さで空を疾走する。化け牛は鬱陶しそうに腕を振るうも、空飛ぶ少女には当たらない。

 

114:かわいい字幕の魔法少女

なにが……一体何が起こっている?

 

115:かわいい字幕の魔法少女

特撮か何かかと疑うが、悪いことに、私はあの化け牛が『本物』なのだとこの身をもって知っている。ならばあの非現実的な光景も、真実戦いなのだろう。

化け物と少女たちが、こんな何の変哲もない住宅街で戦っている。

 

116:かわいい字幕の魔法少女

「こわっ! いまかすったんですけど!?」

「ハンナさん、そのまま囮お願いします!」

「さっさとしてー!?」

「もういっぱあーつ!」

 

117:かわいい字幕の魔法少女

「――ファラリスさん、燃えてください」

 

118:かわいい字幕の魔法少女

途端。

真鍮の雄牛が白く輝き、ごう、と全身から炎が勢いよく噴き出した。

熱波に炙られ、箒の制御を失った少女が危険な軌道を描いて墜落する。

 

119:かわいい字幕の魔法少女

「きゃっ!?」

「ハンナさん!」

 

120:かわいい字幕の魔法少女

墜ちてきた少女を、青髪の少女が間一髪抱きとめる。

その時、崩れた廃墟の中からさらに一人、シスター服の少女がおずおずと姿を現した。

 

121:かわいい字幕の魔法少女

「本当にごめんなさい……でも、こうしなくちゃいけなくて。だから、申し訳ないんですけど……」

泣きそうな、心底申し訳ないという表情で、無慈悲な結論を口にする。

「死んでください」

 

122:かわいい字幕の魔法少女

ファラリスと呼ばれた真鍮の雄牛が咆哮する。

先ほどまでは戯れていただけだというのか。空気が一段重くなり、圧し潰されてしまいそうになる。

 

123:かわいい字幕の魔法少女

私は――

 

124:かわいい字幕の魔法少女

(……ふざけないでほしい)

 

125:かわいい字幕の魔法少女

どうでもいい。

至極どうでもいい。

こいつらの事情など心底どうでもいい。

殺し合い? 知るか。勝手にやってくれ。光の巨人でも巨大ロボットでも何なりと呼べばいい。

 

126:かわいい字幕の魔法少女

だがあのシスター服の少女は別だ。

彼女は明らかにあちら側だ。あの異物、あの異形、あの化け物の同類だ。

それに彼女は、あの家屋から出てきたのだ。エマを見かけたあの家から。

 

127:かわいい字幕の魔法少女

アレは、この一年探し求めて、ようやく掴んだ手がかりなのだ。

この異常事態の原因。

そして――いなくなったエマに至る、たった一つの道しるべ。

 

128:かわいい字幕の魔法少女

エマ。

君は、こんな異常な連中と関わっていたのか?

だから連絡も取れなかったのか?

それなら仕方ない。納得はできないが理解はしよう。

言いたいことは山ほどあるが、いいさ、全部呑み込んでやる。

だから……あと少しだけ待っていてくれ。

 

129:かわいい字幕の魔法少女

私は背中のリュックをそっと下した。

防火手袋をはめた手で、武骨なバールを握り込む。

馬鹿なことをしようとしている。

それでも。

胸の奥に燃え残った熾火がごうごうと音を立てて、私の身体を駆り立てるのだ。

 

130:かわいい字幕の魔法少女

見つからないよう道を戻り、ぐるりと路地を回りこむ。

炎をまとった化け牛に守られるように、後方に控えるシスター服。ちょうど、その無防備な背後をとる位置で、私はそろりと立ち止まった。

 

131:かわいい字幕の魔法少女

最後に一度、深呼吸。

 

132:かわいい字幕の魔法少女

駆け出す。

 

133:かわいい字幕の魔法少女

最初に気づいたのは、小柄な金髪の少女だった。

 

134:かわいい字幕の魔法少女

「へ……? な、なあ!? だ、誰!?」

「……っ!?」

 

135:かわいい字幕の魔法少女

シスター服が振り返る。

怯えた顔が、驚愕に目を見開く。

整った、あどけない少女の顔。庇護欲をくすぐる容貌。善人然としたその風貌。

 

136:かわいい字幕の魔法少女

何ひとつ考慮に値しない。

これは魔女だ。

性質が悪い食虫花だ。

でなければ、どうして、私を殺したあの化け牛を従えて、いままた少女二人に向かって、のうのうと「死んでください」などとのたまうのか。

掲げたバールを振り下ろす。

躊躇はなかった。

そうしなければならないと、私の本能は理解していた。

 

137:かわいい字幕の魔法少女

「ひっ!?」

「――――」

 

138:かわいい字幕の魔法少女

――止まった。

 

139:かわいい字幕の魔法少女

右肩を砕くつもりで力任せに振るったバールは、差し込まれた真鍮の腕によって、いとも容易く止められていた。

 

140:かわいい字幕の魔法少女

主を攻撃された怒りか、化け牛は炎を噴きだして大きく吠えた。

反射的に、歯を食いしばってバールを前に盾のように突き出す。

衝撃。

ごみのように吹き飛ばされた己の身体を知覚した直後、私は石塀に背中から叩きつけられた。

 

141:かわいい字幕の魔法少女

肺の空気が押し出される。

うまく息ができない。

何度かあえぎ、ようやく咳き込むことに成功した。呼吸が痛い。明滅する視界。口からごぼりと血が溢れる。

 

142:かわいい字幕の魔法少女

バールは、壁にもならなかったか。うまく拳に合わせられたのはいいものの、あまりの衝撃に握っていられず、手からすっぽ抜けてどこか遠くにいってしまった。

 

143:かわいい字幕の魔法少女

だが、まだ生きている。

 

144:かわいい字幕の魔法少女

ならまだ動ける。奇襲こそ失敗したが、まだ、何か。

 

145:かわいい字幕の魔法少女

「一般人!? ハンナさん、結界は張ったのでは!?」

「張りましたわよ!? そのはず……わ、わたくし、わたくしは、言われた通りちゃんと起動を……!」

 

146:かわいい字幕の魔法少女

「……びっくり、しちゃいました」

 

147:かわいい字幕の魔法少女

シスター服の少女は、まばたきをして、困ったような微笑みを私に向けた。

 

148:かわいい字幕の魔法少女

「まさか、いきなり襲われるだなんて。

 やっぱり島の外の人たちは野蛮です。怖いです。うぅ……嫌だよぉ。

 だから……ファラリスさん。

 怖いので、あの人、排除してください」

 

149:かわいい字幕の魔法少女

「させません!」

 

150:かわいい字幕の魔法少女

「あ、あなたはこっちに……って動けませんわよね。酷い怪我……。

 ああもう、なんでこんなところに一般人が! 初任務でこれって想定外が重なりすぎですわ! なんなんですのよ、もおー!」

 

151:かわいい字幕の魔法少女

己の不安を和らげるためか、小柄な少女はぷりぷりと不満を叫ぶ。

それでも気づかわし気にこちらに駆け寄り、怪我の具合を見ておろおろしていた。

 

152:かわいい字幕の魔法少女

「そこの人、大丈夫ですよ! 任せてください。私たち、正義の魔法少女なんです! 絶対助けてあげますからね! ……まあ、今日が初任務なんですけど!」

 

153:かわいい字幕の魔法少女

何度も化け物の殴打を受けて、青髪の少女は全身に傷を作っていた。

だのに不平不満を微塵も漏らさず、こちらを安心させるように、明るい笑顔を向けてくる。

 

154:かわいい字幕の魔法少女

彼女たちはきっと善人だ。

底抜けに優しいお人好しだ。

少なくとも、死地にふらふらと迷い込んだ赤の他人を、身を挺して守るくらいには。

 

155:かわいい字幕の魔法少女

ああ、だが。

それでも、私にとっては。

 

156:かわいい字幕の魔法少女

「わた、し……、は……っ」

声が出ない。痛みでうまく息が吸えない。

私の声は、少女たちには届かない。

 

157:かわいい字幕の魔法少女

「さぁ、あなたはこっちへ!」

「安全なところに、逃げてください!」

 

158:かわいい字幕の魔法少女

私を遠ざける、その声が。

……邪魔でしかなかった。

無関係な一般人は逃げてほしい、そんな優しい心遣いは――私にとって、邪魔だから引っ込んでいろと言われているに等しかった。

 

159:かわいい字幕の魔法少女

あまりの屈辱に、頭の中が真っ白になる。

 

160:かわいい字幕の魔法少女

「…………ッ」

 

161:かわいい字幕の魔法少女

奥歯が軋むほど強く噛む。

 

162:かわいい字幕の魔法少女

……ああ、分かっている。お荷物は私だ。足手まといは私だ。邪魔者なのは私の方だ。

私には、戦う力などないのだから。

 

163:かわいい字幕の魔法少女

戦闘はいよいよ激しさを増す。

魔法少女たちは傷つきながら、それでも懸命に戦っている。

無力な守るべき一般人を、必死に遠ざけようとするかのように。

 

164:かわいい字幕の魔法少女

――首吊り縄。

 

165:かわいい字幕の魔法少女

――行方不明の張り紙。

 

166:かわいい字幕の魔法少女

また。

私が何より大切なものが。

私の意志を無視して、私のいない間に、勝手に赤の他人に無茶苦茶にされようとしている。

また私は、この手から、大事なものを取りこぼすのか。

 

167:かわいい字幕の魔法少女

「冗談じゃない……」

 

168:かわいい字幕の魔法少女

これは私のものだ。

この戦いは私のものだ。

 

169:かわいい字幕の魔法少女

戦えば私は死ぬだろう。なにもできぬ間に死ぬだろう。

バールで殴ろうが何をしようが、あの化け物には傷一つ付けられないだろう。

 

170:かわいい字幕の魔法少女

だがそれがなんだ。

 

171:かわいい字幕の魔法少女

関係ない。まったくもって関係ない。

 

172:かわいい字幕の魔法少女

これは私の戦いだ。

私だけの戦いなんだ。

 

173:かわいい字幕の魔法少女

どいてくれ。

それは、私のものだ。

それはようやく見つけた、エマにつながる手掛かりなんだ。

 

174:かわいい字幕の魔法少女

エマが私を待っているんだ。

あの壊れた瓦礫の中で、うずくまって泣いているかもしれないんだ。

 

175:かわいい字幕の魔法少女

そこをふさぐな。

視線を隠すな。

私の道をさえぎるな。

私の目からエマを隠すな!

邪魔をするな。邪魔をするな。邪魔をするな。邪魔をするな!

 

176:かわいい字幕の魔法少女

後からしゃしゃり出てきたくせに、私の邪魔をするんじゃない……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

177:かわいい字幕の魔法少女

――まあ、ヒロ。なんて顔をしているんですか。

 

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