そんな彼女だったがドクターから「尻尾を撫でさせてほしい」と頼まれ…?
執務室の静けさを破ったのは、ドクターのためらいがちな声だった。
「……ラップランド、少し頼みたいことがあるんだが。」
ソファに腰かけ、双剣を無造作に背もたれに立てかけていたループスの少女はそれを聞いて口角を上げた。
「フフッ、ボクに頼みごと?もちろん構わないよ。今度はどこに行って誰を殺ればいいのかな?」
自分の力を振るえるのが嬉しくてたまらない――とばかりに笑うラップランド。
だが返ってきたのは彼女の期待とは全く違う答えだった。
「いや……そういうことじゃなくて。」
ドクターは言葉を探すようにしばし黙り込み、一呼吸置いて言った。
「君さえ良ければなんだがその……尻尾を……少し撫でてもいいだろうか?」
しばしの沈黙。次いで、きょとんと目を瞬かせていたラップランドから軽やかな笑い声が溢れ出した。
「アハハ!……なにそれ。キミってホント変わってるよね。ボクにそんなお願いをしてくるの、ドクターくらいだよ。」
彼女は身を乗り出すと鋭い銀の瞳で相手を覗き込む。
「尻尾を触らせろ、か。ハハッ、キミといると退屈しないね。」
「……嫌なら断ってくれて構わない。」
「フフッ、嫌ってわけじゃないけど呆れたよ。ボクの尻尾を触りたがるなんて物好きもいいとこだね。」
ラップランドは瞳を楽しげに細めながら背もたれに大きく体を預け、尻尾をソファの上に広げてみせた。
そしてからかうようにひと振りしてみせる。豊かに揺れる白銀の毛並みは光を反射してきらめいていた。
「まあいいさ。キミの頼みだし、退屈しのぎにもなる。……さあ、どうぞ?」
ドクターは恐る恐る指を伸ばして豊かな毛並みをひとなでする。
尻尾の毛は驚くほど滑らかで、撫でるたびにさらさらと流れて温もりを返してくれる。
それを眺めるラップランドは片肘をつき、余裕ある笑みを見せていた。
「どう?毛並みは悪くないんじゃないかな。ちゃんと手入れしてるからね。」
二度、三度と撫でるうちに、尻尾が小さく揺れる。
ラップランドは肩をすくめ、わざとらしくため息を吐いた。
「くすぐったいだけだよ。そんな顔して何を期待してるのさ?」
だが撫でる手が尻尾の付け根…敏感な場所に近づくにつれ、彼女の笑みにわずかな影が差す。
「……ん、フフ……そこはっ……、変なとこ触るね、ドクター……!」
声はまだ軽い調子を保っているものの尻尾は無意識にぴんと張り、反射的に揺れてしまう。
彼女はソファの背もたれに身を沈め、片手で額を押さえた。
「はぁ……やれやれ。ボクをからかってるつもりなら大した度胸だよ……。でも……」
言葉の途中で、再び撫でられた感触に小さく息を呑む。優しい手つきに、根本から背筋まで甘い痺れが突き抜けるのを止められない。
「っ……も、もう十分じゃないかな?ドクター……。そろそろ手を離して……」
掠れた抗議の言葉は最後まで続かなかった。尻尾の付け根を掬うように撫でられると、喉の奥から勝手に漏れ出す声を抑えきれない。
「……っあ……!な、なんだろうね、これは……ハハッ……ボクらしくもないなぁ……」
自分でもよく分からない感覚に呑まれていき、混乱と快さに襲われる。
「ほら、いい加減やめないと……。ケガすることになっちゃうかもよ?」
そう言いながらもドクターを簡単にねじ伏せられるはずの手は、ソファを掴んで爪を立てるばかりで力が入らない。
笑みを作っては崩し、呼吸の端から甘い吐息が漏れる。
普段は相手を屈服させて楽しむ彼女が、今は逆の立場に立たされている。
それが悔しいはずなのに、どうしようもなく心地良い。
ドクターの手が再び付け根を撫で上げると彼女は喉の奥から甘い声を漏らし、堪えきれずに身を捩る。
彼女の尻尾はもはや制御できずにびくびくと揺れていた。
「……アハハハハッ!キミってばほんっと最ッ高だね……!でも、覚えておきなよ……!これは寵愛を与えてるのと同じだ。ハハハ……ボクはキミの中で、ますます特別になっていく……。」
ラップランドはソファの背にぐったりと身を預けながら手で顔を覆い、尻尾でドクターの腕を絡め取った。
覆っている手の隙間から、細められた銀の瞳がのぞく。
「ねえ……もっとしてよ、ドクター……。せっかくキミに触られるなら、最後まで……楽しみたいんだ……」
その声は普段より低く掠れた、狂気と甘さがないまぜになった囁きだった。
鋭い牙を隠そうともせず、けれど差し出される尾と視線はひどく縋り、恥じらい、甘えるようで――。
しばらくの間、執務室には紙の擦れる音もキーボードの打鍵もなく、ただ柔らかな毛並みを撫でる音と乱れた息遣いだけが響いていた。