兄曰く、世界は救われたらしい。   作:アンクール

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___俺たちTCGプレイヤーにとってなにより神聖なものは『説明する都合』だ。

なので1話は対戦描写多めです


第1話 『自分はチュートリアル相手らしい』

 

 

 

___俺たちTCGプレイヤーにとってなにより神聖なものは『説明する都合』だ。

 

なので1話は対戦描写多めです

 

___この世界は、『Wise』というカードゲームが流行っている。すべてを左右する程ではないが、軽い問題の解決方法……決闘の代わりくらいには定着しているそのカードゲームの歴史は古く、カードの守護獣が宿ることもある不思議な力を持つ。

これは、そんな世界の話。

 

 

 

 

薄暗い夕方、ビニール袋に詰めた数日分の食料を両手に持ち、下に尖った黒い後ろ髪を揺らしながら七色彩波は階段を登る。

そして、自分の部屋の前で一旦荷物を下ろし、鍵を開けてドアノブをぐるりと回す。

 

「ただいま〜」

 

軽くドアを開けて足を挟んで、袋を両手に持って身体を滑り込ませるように入っていくと、少し挟まれて窮屈だが、彩波は無理矢理入っていく。

そうしながら放った挨拶に、彼は返事が返ってくることはないと思っていた。

 

彩波の唯一の肉親である兄……七色烈火はWiseプレイヤー、通称ワイズマンの中でも有名人だった。

Wiseを悪用する組織に対してある時は中心に、ある時は一歩引いた立場で活躍してきた。

そんな彼は1年前に旅に出るという書き置きを残して彩波の前から消えた。未だに彼の仲間も音信不通という状況に、彩波も悪と戦い続けているのだろうと最近は諦めがつくほどの時間が経っている。

その日は、そんな矢先だった。

 

「誰だ、貴様」

 

___ただいまの返事は、突きつけられた槍だった。

 

 

銀の長髪をポニーテールにした男性に、彩波は槍を突きつけられていた。

『死』、真っ先に彩波が浮かんだのはその単語。それがレプリカと思うほど彩波は楽観的ではなく、まず若くして死ぬことを両親に悔い……先立つ事を何処かで生きているであろう兄に謝罪した、脳内で。

しかし、予想外だったのは。

 

「やめろシックス!俺の弟だ!」

 

目の前の槍使いの後頭部をしばいてツッコミを入れる懐かしい姿と声。前髪を上に立たせた青年……兄の烈火が帰ってきていたことだった。

 

「え、えーっとぉ……」

 

腰が抜けながらも彩波は部屋を見渡す。2人で暮らすには少し広い部屋の中で、知らない人物たちが4人ほど座っている。

 

「……素敵なお友達ですね?」

 

カオスな状況に、彩波はそう答えるしかなかった。

 

 

 

 

「ええと、紙コップで申し訳ありませんが」

 

彩波は紙コップになけなしの氷と烏龍茶を入れたのをテーブルに並べていく。

 

「ありがとうね、俺はパラフル。パラフル・ナースティ。」

 

軽薄そうな金髪の男がにこやかな笑みを浮かべて挨拶をする。彼が名乗ってから部屋に流れていた張り詰めていた空気がゆるみ、自己紹介をする流れになった。

思わずホッと息を立てた彩波を見て、各々話し始める。

 

「グレンだ。さっきはこのバカがビビらせて悪かったな。」

 

続けて赤髪のガラの悪そうな青年がバシバシと槍使いの男を叩きながら名乗る。

 

「……それについてはすまなかった。俺はシックスというよろしく頼む。」

 

それを払い除けながら槍使いの男……シックスは頭を下げつつ自己紹介をしたところで、気の弱そうな少女がおずおずと手を挙げて口を開く。

 

「あっ、えっと……私はグレン兄さんの妹のシンクです。よろしくお願いします。」

 

少し戸惑いながら、漫画なら汗が飛んでいるようや緊張の面持ちでシンクという少女が挨拶をする。言葉の通り、彼女はグレンと同じ赤い髪を揺らしていた。

 

「……どうも、七色彩波です。」

 

彩波は知らない人物たちが部屋にいることに少し戸惑いながらお盆を盾にした。彼は軽く挨拶をした後椅子に座ると恐る恐る兄に尋ねる。

 

「兄さん…この人たちとはどんな関係で?」

 

言外にカタギじゃねぇだろ……と烈火に視線を向ける。烈火は頬を書きながらどう説明するか思案に暮れた後、結局単刀直入に答えることにした。

 

「ええっと、シンク以外はこの間まで戦ってた組織の元幹部で……」

 

と、男性陣を紹介したところで彩波は超スピードでソファーの後ろに隠れた。

 

「危険人物じゃないですか!?」

「い、いや!こいつらにも理由があって……」

「庇わなくていい、足を洗ったとはいえ俺らが元犯罪者ってのには変わりねぇ。」

 

きっぱりと言い放つグレンの態度に、悪い人ではないと考えた彩波はカサカサと影に隠れながら少しだけ近づいて烈火に耳打ちする。

 

「……事情は詳しくは聞きませんが、僕は居ないほうがいいですかね?」

「ああ、いや……」

「ふっふっふ、今日は彩波くんに用があってきたのだよ!」

 

何か守秘義務とか言い難い話とかがあるのかと、烈火に聞いている内にいつの間にか背後に回っていたパラフルに肩を組まれる。

彼が目配せすると、グレンとシンクが彩波の方に近づいて頭を下げる。

 

「実は、シンクの対戦相手になってほしいんだ。」

 

 

 

「えーっと、つまり……シンクさんはカードがあまり強くなくて、それで人質になっていたと。」

 

構築済みデッキ付属の紙でできたプレイマットを広げながら彩波は状況を纏める。

どうもグレンとシンクという兄妹、元はカード犯罪のバウンティハンターをしていた兄の収入で暮らしていたものの、実力に目をつけた組織『反世界同盟』にシンクが人質にされて従わされていたという。

 

「まだルールも覚えきれていないレベルでな。だが初心者相手だと元幹部組でも相手できるやつがまだ釈放されてねぇんだ。」

「ついでに言えば、俺以外はガン攻めのビートダウン使いで、俺も嫌がらせ特化のデッキだから相手出来ないって理由!」

 

彩波はテーブルに対戦の準備をしていたもののグレンとパラフルの言葉に動きが止まり、不機嫌なオーラがじわじわと湧き出てくる。

 

「それって、僕が弱いと説明したんですか?兄さん……」

「い、いや!お前のデッキ、速攻じゃないし初心者泣かせるタイプじゃないから……!」

「それなら良いです。」

 

兄とはいえカードの腕を侮るのは許さないと睨みを利かせた彩波をなだめて、烈火はデッキ内容を何度も見返してどう戦うのか思い返しているシンクと見比べる。……思わず、弟と妹でこうも違うかとため息を吐いたのは言うまでもない。

 

一方その様子にシックスを含む元幹部の面々は、神妙な顔つきになった。かつては鎬を削って戦った者達のリーダー、とも言える烈火が実力を否定しなかった。それが彩波の実力を示唆しているようで……

と、そうしている内に勝負が始まるようだ。

 

「デッキの内容は、確か56枚。内6種類を対戦開始時に壁(ウォール)として決定、でしたよね。」

「そう、それが終わったらお互いの50枚のデッキと6種類の壁を個別にシャッフル。」

 

ルールブックを読みながら尋ねるシンクに答えつつ、彩波達はデッキ及び壁を交換して互いにシャッフル。視線をプレイマットに移す。

 

「Wiseプレイヤー、通称ワイズマンには3×3のフィールドと、ゲーム外・デッキ・墓地・リソースの置き場が用意されます。」

 

3×3のマスで区切られたフィールドを挟んで、左側1列がリソース置き場、右側に1段ずつ上からゲーム外、デッキ、墓地が配置されている。

シャッフルを終えたデッキを置いて、彩波はシンクから渡された6枚のカードを裏向きのまま、下を相手プレイヤーに向ける形でフィールドに並べていく。

 

「フィールドに壁カードを並べる。この配置は自由に置いていい。このカードをすべて攻撃で破壊して、ワイズマンに直接攻撃すれば勝ちです。」

 

たどたどしくも同じく壁を並べて彩波が説明した内容をシンクはルールブックで読み返す。そして、心の中で復唱して忘れないようにして、彩波へと答える。

 

「ええと……カードの種類は三種類、パワーが主に場で戦う戦士たちのカード……アーツが使い捨ての魔法や技のカード、攻撃は出来ないものの長期的に効果を使えるマテリアルぅ……」

「そう、まあ基本的にはバワーを主軸にゲームを進めていけば大丈夫。」

 

色々な単語に目を回しているシンクを落ち着かせて彩波はデッキからカードを5枚引いて、それに続けてシンクも5枚を手札にする。

じっ……とよくその内容を見る。

 

「初期手札は5枚。本当はこの後先攻後攻をじゃんけんとかコイントスで決めるけど、説明のために僕から行きますね」

「は、はい。」

 

シンクはボソボソと何度かここまでの話を復唱……覚えようとする姿はどこか必死で、カード『ゲーム』を始める前の表情ではなかった。

そんな、ここまでのルールを覚えられたか不安になっている彼女を見て、グレンはその肩に手を置いて安心させようとする。

 

「まずは、楽しむことを考えればいい。そうだな……」

 

まずはゲームとしての楽しさに没入させることが大事、と考えてグレンは考察する。そして、パラフルが盛り上げるために立ち上がって、ぐっと拳を握って熱弁する。

 

「Wiseとは、ワイズマン達の知恵比べ!その戦いに参加したパワー達の誉れ高き決戦!故に俺たちワイズマンには共通の掛け声があるっ!」

 

テンションの高い声にシンクはあわあわと焦りながらも、グレンに指さされた言葉を読む。

そこに書かれた一節に、何処か惹かれる物があったのか。深呼吸をして対戦相手……彩波を見る。

そして、発せられた言葉は示し合わせるわけでもなく同時だった。

 

「「Open your Wise!(汝の叡智を開示せよ!)」」

 

 

 

 

 

 

彩波の第一ターン。ターンの開始であるスタートプロセス、リソースやカードの状態回復を行うリブートプロセスと先行にドローは無いためドロープロセスを飛ばして、続けてリソースプロセス……カードを使うための魔力や資源となるリソースを置くステップに入る。

 

「リソースプロセスに増やせるリソースは1枚、手札から表向きに置くか、山札の一番上から裏向きで置くかです。」

 

彩波は山札の一番上を裏向きでリソースにする。

続けてカードを使うメインプロセスに入るが、使えるカードが無いためターンを終わらせる。

 

「裏向きのリソースは属性を持たない無色として扱います。特に使うカードもないので僕はこれでターンです。」

 

続けてシンクの第一ターン、ドロープロセスに1枚引いた以外は彩波と同じ動きで……手札のカードをじっくりと見た分時間は掛かったもののターンを終える。

 

「……遅いな」

「初手で1コスト出さねぇのか。」

「アイツのデッキいつもそうなんだよなぁ」

「そこー、速攻連中は黙ってくださーい」

 

速攻使いの野次を無視して彩波の第二ターン。リブートプロセスにリソースの裏向きカードに手をかける。

 

「リブートプロセス。リソース及びフィールドの壁を除く裏向きのカードは、次の自分のターンのリブートプロセスに表向きに出来ます。」

 

表向きになった彩波のリソースは、青いコストの軽い除去アーツ。それを見て彩波はリソースプロセスに手札から緑コストの中型パワーを置く。

 

「これでメインプロセス。僕は手札から【早芽吹(ハヤメブキ)】を使います。」

 

緑の王道、2コストで山札からリソースを1枚増やせるアーツ。同じく緑のカードがリソースに置かれる。

 

「これでターンエンドです。」

「青と緑、リソースの追加カード。なるほど、リソースや手札を増やして動かすデッキか」

 

グレンは烈火が対戦相手に彩波を選んだ理由に納得する。口ぶりから恐らくは妨害特化(パーミッション)ではない。推測できるデッキタイプの中に、初心者いじめのような殺意マシマシのデッキはなさそうだと感じた。あくまでもループでもない限り、と注釈がつくが。そして何よりシンクに合っているのは……

 

「わ、私のターン!私も【早芽吹】を唱えます。続けて、残り1コストで【農家フェアリー】を召喚します。」

 

シンクも同じく緑を含むリソース重視のデッキだったからだ。彼女は山札から1枚リソースを増やし、そのまま手札からフィールドに緑のパワーを出す。

【農家フェアリー】、【早芽吹】同様……緑の王道カード。ステータスこそ低くいものの、1コストで場に出せて消耗……攻撃後と同じく横向きにすればリソースとして使えるパワー。

しかし、問題なのは……

 

「シンク、そいつは最初に出した方がよかったぞ。」

「え……?あっ!?」

 

本来は初手で出して2ターン目から3コストを使えるようにするのがセオリー。運良くそれっぽく使えたものの、初心者故にシンクはプレイミスをしていた。

そのことに少し狼狽えながらもシンクはターンを返す。

 

「まぁ、フォローするなら序盤から除去してくるデッキならそのプレイはありですよ。ねぇ、に・い・さ・ん?」

「……」

 

そう除去が得意な赤のデッキ使いである兄を睨んだ後、彩波は手札を見てリソースを山札から裏向きに置く。

 

「初心者相手の手前、ここで一つお手本を見せます。まずは【朝露と新芽(スプラウト・デュー)】」

 

彩波は手札からアーツを1枚使用する。それは青と緑の両方に彩られたカード。

所謂多色と呼ばれるもの。【朝露と新芽】は青と緑を含む2コストのアーツ。その効果は、山札から1枚引いて1枚手札からリソースに置く効果。

そして、続けて彩波は増えた1枚を含むリソース3枚を使用する。

 

「【腐葉土】、墓地からカードを2枚リソースに消耗状態で置きます。」

 

墓地から【早芽吹】と【朝露と新芽】がリソースに置かれる。手札が残り3枚と少なくなるものの3ターン目でリソースが7枚となった。

 

「なるほど、小型のカードを連続で回してリソースを増やす、ターボデッキか。」

 

スムーズなカードの連鎖にシックスは得心する。これは確かに、七色烈火の弟である……と。

初心者のシンクに対してカードを使うまでの思考時間が圧倒的に短い。……ともすれば、自分達や烈火の仲間と同じ程度にはできるワイズマンだと認識する。シックスは少し心がざわめき、槍を持つ手に力が入る。

……あのプレイヤーと戦いたいと少しだけ殺気が漏れ、彩波の背筋が震える。

 

「た、ターンエンドです。」

 

その殺気当てられて、凍りつきながらもシンクにターンを返す。その様子に不思議な目で彩波を見るものの、シンクはドローの後手札を見て思案に暮れる。

 

(ええっと、相手の場にはパワーがいませんからこのターンは【農家フェアリー】で攻撃すると考えて……)

 

少し考えてシンクはリソースを山札の上から1枚置く。

そして、手札から2枚のカードを使用する。

 

「【フェアリーの鼓笛隊】を2枚召喚します。」

 

鼓笛隊は山札から後続のフェアリーを補充できるカード。シンクは手札を減らすことなく盤面に2体のフェアリーを増やした。

 

「それからアタックプロセス、【農家フェアリー】で壁を1枚攻撃!」

 

農家の攻撃で彩波の壁が1枚割れる。Wiseに置いて壁とは事前に仕組まれた妨害カードを置くのが基本。さらにそれが反壁(ウォールカウンター)を持ち条件を満たしていればコストを支払わずに使うことができる。

 

「受けます。反壁は……使いません。」

 

破壊された壁は、緑の除去アーツ。これで一体シンクの場から除去できるが……

彩波は破壊された壁のもう一つの使い道、手札に送る処理を選んだ。

 

「はえ……?」

 

何故、とシンクは思った。こちらの盤面にいるパワーは3枚、対して彩波は0。口ぶりからして反壁があると考えれば使った方が安全のはずと思った。

手加減とプレイミスがシンクの脳裏を過ぎるが、他にやれることもないためターンを終わらせる。

続けて、彩波はカードをドローすると、戸惑っているシンクに目を合わせて、彼女の疑問に答える。

 

「何故って、顔してますね。直ぐにお見せしましょう」

 

彩波は1枚のカードをシンクに見せる。それは、強く輝きを放つ……そう、それこそが。

 

「開け、ナナイロの魔力!これが僕の切り札です!」

 

彩波の切り札が手札にあったから、と周囲は理解した。ここまでリソースを伸ばして使うカードと考えて、どんな強力な効果が来るのか……と興味深く見る。

……ただ一人の肉親、烈火を除いて。

 

「【虹の精霊】をリソースにセット!」

 

その声に、烈火と彩波以外の全員がズッコケた。

 

「リソース!?切り札をリソースにですか!?」

「前口上立てるなリソース追加に!」

「ハハハハハ!!!」

 

思わずツッコミを入れるシンクとグレンのツッコミ兄妹。それを横目で烈火は悪戯が成功したように笑い転げる。

 

「えーっとぉ、それでいいのかい…彩波くん」

 

パラフルが心配そうに尋ねるも、彩波は不適な笑みを返す。

そして、そのまま対応がないことを確認してメインプロセスに入る。

 

「大丈夫です。メインプロセス、僕はリソースにある【虹の精霊】の効果を使用。このカードはリソースとして使う時、1コスト支払うことで全ての色として扱います!」

「なっ!?」

 

リソースに置いた切り札と聞いて油断していたシンクは驚く。Wiseのカードカラーは赤、青、黄、緑、白、黒、紫の7種類もある。そのすべてを追加1コストで網羅する強力な効果だったからだ。

文字通り、七色の属性を得た【虹の精霊】をコストに彩波は黄色……輝ける光のパワーを召喚する。

 

「【黄の精霊】を召喚!」

 

シトリンで作られたような天使が描かれたカードが場に現れる。【黄の精霊】の出た時効果が起動し、シンクのパワーがすべて消耗状態……行動後の動けない状態になる。

 

「【黄の精霊】の効果、相手のパワーは消耗状態となり次のリブートプロセスに回復しません。」

 

このカードが、前のターンに彩波がフェアリー達を除去しなかった理由だった。

シンクはここにきて、彩波の意図に気づく。

 

「あっ、私の場が……」

 

Wiseにおいて壁がある場所はパワーを置くことができない。つまり6枚の壁がある最初に使えるのは、3カ所のみになる。

詰まる所、軽度の盤面ロック。幸いにも【黄の精霊】は登場時にしか効果を発揮しないため次のターンには回復できるが、シンクは自らの手札を見て気を落とす。

 

「まただ……」

 

このゲームを始めてから既に3度のプレイミスを行っている。その結果、今手札にある切り札が使えなくなっている。

今の自分にこの状況を覆す手段はない、大人しく1ターン相手に与えるしかない。

そう考えていたシンクの背後から、グレンがシンクに呼びかける。

不安そうな表情で振り向いたシンクに、グレンは安心させるように笑みを浮かべる。

 

「お前はまだ初心者だ。ミスを気にするより、デッキを信じろ」

 

その言葉に、シンクは少し落ち着きを取り戻した。シンクに自信はまだないが、このデッキはシンクとグレンが共同で作ったデッキ。兄の助言なら信じられる、と1枚引く。

そのカードと、効果を見てシンクは思わず口が綻ぶ。

それは、初心者のシンクには使い道がわからなかったが、グレンに強く勧められた1枚だった。

 

「私のターン、手札からアーツ【ウォールリサイクル】を発動します!」

 

そのカードの効果は二つ、自分の壁を1枚手札に加え……次に使うカードのコストを5減らすことができる。【ウォールリサイクル】のコストが2であることを考えると合計3軽減。

 

(出したかった切り札じゃないですけど、この状況ならこの子の方が!)

 

リソースから4コストと3軽減で7コストを支払い、シンクは手札から空いたフィールドに1枚のカードを出す。

 

「【フェアリー・キャリアワーム】を召喚します!」

 

蛇のような長い身体、背中には妖精たちを乗せる座席のついた地竜が現れる。その効果は場のフェアリーの数だけリソースを増やし、リソースから同じ枚数までカードを回収する効果。

シンクは山札から3枚追加し、消耗状態のリソースからの1枚回収して続けて使う。

 

「回収したマテリアル【ジェットブーツ】を手札から発動、装備コストを追加で支払ってキャリアワームに直接装備します!」

 

そのカードはパワーに出たターンすぐに攻撃できる『軽快』の効果を与える、色を要求しない無色マテリアル。

強力なカードであるキャリアワームを攻撃可能にして準備を整える。

 

「キャリアワームで攻撃します。

この時、キャリアワームは私の消耗状態になっているフェアリー1体につき散撃横1を追加します!」

 

キャリアワームのもう一つの効果、壁への攻撃個所を追加する散撃効果により彩波の壁が3枚破壊される。

条件を満たさないカードを1枚手札に加えて、彩波は反壁を2枚発動する。

 

「反壁を使用します。緑リソースと壁4枚以下で【人喰い蔦】、青リソースと壁4枚以下で【ポンプトード】。それぞれの効果でキャリアワームをリソースに、農家を手札に送ります。」

 

壁から2体のパワーが現れて地竜と妖精を除去する。しかし、盤面こそ返されたが、彩波の場にある壁は残り2枚。対してシンクは1枚も壁を破壊されておらずキャリアワームが除去されたことで場に【ジェットブーツ】が残されている。

 

その証拠に、次のターン。彩波は手札補充のカードを使い、鼓笛隊を蔦とトードで倒して【黄の精霊】でシンクの壁を2枚破壊。返しの反壁で精霊が除去され、リソースが1枚増える。

パワーの数こそ彩波が上だが、これでシンクの切り札が出る準備が整った。

 

「私のターン、行きます!」

 

1枚リソースを増やして8枚、リソースを7コスト使用し、シンクは自らの切り札を掲げる。

 

「紅蓮の赤、真紅に染まる薔薇の化身、【ルージュレッド・フェアリーローズ】を召喚します!」

 

シンクの切り札【ルージュレッド・フェアリーローズ】。攻撃時に低コストのフェアリーを効果を無効にして3体リソースから出し、軽快を与える強力な切り札。散撃は持っていないものの、打点の上では彩波を倒せるカード。

このカード自身は軽快を持っていないが……

 

「私はコストを支払って【ジェットブーツ】をフェアリーローズに装備!」

 

フェアリーローズの攻撃によりリソースから3体のフェアリーが追従する。しかし、その瞬間を見計らっていたのか、彩波は手札から1枚のカードを使用する。

 

「追加1コストでリソースの精霊を多色化!赤のアーツ【フレイムバルカン】!」

 

低コストを指定する赤の全体除去アーツ、ステータスではなくコストを参照するが故にフェアリーローズを除く3体が破壊される。

一方で反壁が発動せず、フェアリーローズが場に残り、彩波の壁は残り一つとなる。

 

「耐えられた、でもまだ行ける……!」

 

一進一退の攻防に、熱くなっているのか興奮しているシンクの姿を微笑ましく眺めて、パラフルは自身の記憶を思い返す。

どんな手を尽くしても熱く、そして冷静に盤面と向き合ってきた烈火の姿を。

相手の力を限界を超えて引き出し、烈火本人だけでなく、敵だったパラフルさえも何処までも強く高め合うような賢者。

その面影を彩波に見て、やはり兄弟と笑っていた。

 

そして、それに応えるように盤面もまた動き出した。

 

(正直、まだ耐えることは出来ますが……ここはフィニッシャーが引けた方が、熱いでしょ!さぁ、来い!)

 

そう願いを込めて彩波は山札から引いた1枚を見て、思わず微笑みが溢れる。

 

「行きます、まずは3コストで【ゲギョッチ】を出して効果で1ドロー。追加1コスト使って多色化。計7コストで【赤の精霊】を召喚します!」

 

彩波はルビーで作られた龍の像を召喚する。その効果で彩波のパワー全てに『軽快』と『散撃縦1』が追加されステータスが上昇する。

 

アタックプロセスに入り、まずは蔦が壁を2枚破壊、反壁は低ステータスのパワーを指定する全体除去。シンクは慌てて使用するも不発に終わる。

続くトードの攻撃に反応した反壁が【赤の精霊】を除去するものの……

 

「1枚、足りない!?」

 

【赤の精霊】の効果は登場時に起動するもの、そのため精霊が除去されてもその効果は残り続ける。その力を纏った【ゲギョッチ】が攻撃出来る状態だった。

 

「これでダイレクトアタック!」

 

水を纏うアロワナのような怪物のカードで直接攻撃を決める。

それでWiseが終わり、急に疲れが一気に来たシンクは力が抜ける。

立ち上がろうとするとふらついて、グレンに支えられた。

 

ターン数としてはそこまで長いものでは無かったが……シンクは緊張とゲームへの熱中で汗をかいており、初心者の彼女が始める前の実力以上のプレイングを徐々に発揮していたことが伺える。

 

 

「どうだった、久しぶりのWiseは」

 

息を整えて、シンクは兄を見て微笑む。普段の気の弱さが何処かにいったように、楽しさを抑えられず拳を握って震わせる。

 

「すっっっごく楽しかった!」

 

その様子を優しく眺めるパラフルたちに、彩波は何処か疎外感を感じるも、思わず頬が緩んでいた。Wiseのために人質にされていたシンクには、少なかれこのゲームに嫌な思いもあったのだろうと思い、シンクが楽しめるか彼自身不安だったからだ。

 

その心配が外れたことが嬉しくなり、彩波は楽しげに話をするシンク達のもとに向かった。

 

「こっちも楽しかったです。まさか1枚しか入れられない【ウォールリサイクル】をあのタイミングで引き当てるなんて……」

「え?」

 

きょとんとしたシンクの反応に空気が凍る。

グレンは咄嗟にシンクのデッキを取ると、中身を確認し始める。

顔を真っ赤にして恥ずかしがるシンクをかわしつつ彼がデッキを見終えると力なく膝をつく。

 

「【ウォールリサイクル】が4枚ィ……」

「グレンが四積みしてた【パワーリサイクル】が1枚になってるね。入れ替えちゃった?」

 

後ろからパラフルが覗き見して、シンクの思考を考察する。

彼女は無言でコクコクと頷くと、恥辱に耐えられないような表情でグレンを潤んだ目で見る。

 

「兄さんがぁ……選んだカードだからいっぱい入れたくてぇ……」

「あー、わかりますその感覚っ!」

「うんうん、初心者だもんね仕方ないよね!!ルールちゃんと説明しろよグレェェン!」

「ちゃんと説明したわ!!」

 

シンクの言葉に彩波とパラフルが共感し、責任がグレンに転嫁される。

久々の騒がしさに、彩波はどこか温かさを感じて……ようやくこの時、兄が帰ってきたのだと喜んでいた。

 

ボケどもにツッコむグレンの大声が、新しい日常の始まりを告げる鐘だった。

 

 

……のかもしれない。

 

 

 




今回の最強カード紹介

【ルージュレッド・ローズフェアリー】緑 7コスト
ステータス4000     種族:フェアリー/プラント
このパワーが攻撃する時に発動できる。リソースからコスト2以下のフェアリーを3体まで効果を無効にして場に出し、『軽快』を与える。この効果で出たフェアリーはターン終了時に山札の一番下に送られる。

環境デッキ【緑単フェアリー】の切り札。本編同様キャリアワーム、ジェットブーツを組み合わせてワンショットキルを狙うコンボデッキのイメージです。
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