兄曰く、世界は救われたらしい。   作:アンクール

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____おい、執筆しろよ
と、内なる蟹が囁くので2話です。



第2話『兄は最強らしい』

 

 

 

___ある日、パラフルから呼び出された彩波はあるビルのフロアにいた。目の前には新しく塗られた壁と、看板……ポップが並んでいる。

 

「すみませーん、パラフルさん?」

 

少しの逡巡の後ドアを開けて声をかけると、奥から走る音が響き金髪をオールバックにしたパラフルがひょこっと顔を出す。

 

「待っていたよ彩波クン!ささっ、こっち来て」

「あ、こんにちは」

 

手招きをするパラフルの元について行って、事務室に入る。彩波は彼からエプロンと名札の入った袋を貰い、渡されたタイムカードを切る。

 

「よし、それじゃあ開店準備を始めようか。我がカードショップ『カードパーラー』の!」

 

えいえいおーと同時に拳を掲げて掛け声をする。

……今日から彩波はパラフルの元でアルバイトをすることになっていた。

というのも、それは彼らが出会った次の日に起きたある事件が原因だった。

 

 

 

 

 

 

朝、彩波は久々に悪い寝起きだった。彼は遅くまで兄やグレン達とWiseに興じていたため、まだ眠気がある中でスマホアプリを確認してみる。

通知が一つ……飲食物の宅配サービスの依頼だ。

 

「ふぁ、朝から……か」

 

幸い店もお届け先も彩波の家に近いため、床に寝転がっている面々を起こさないようにこっそりと着替え、メッセージアプリで兄に書き置きだけを残して外に出る。

 

その後彩波は近所の店で、牛丼と豚汁を買い……お届け先に持っていった。

インターホンを押すと、中から嫌味そうな糸目の男が出てきて、内心クレームの心配をするが……存外に男は笑顔で出迎えた。

 

「Cberイッヌです。牛丼と豚汁お持ちしましたー」

「早いですねぇ。はい、ありがとうございます。ああ、それと」

 

受け取り処理の直後、糸目の男はスプレーのようなものを取り出すと彩波に吹きかける。

思いがけない攻撃に彩波は口を押さえるも遅く、眠りに落ちていく。

 

「……まさか、こんなにあっさり確保できるとは思いませんでしたよ。『七色彩波』くん?」

 

最後にその言葉だけが、彩波の耳に響いた。

 

……そして、次に彩波の意識が戻った時、彼は古い廃工場の天井から降りた縄に縛られ、吊るされていた。薄暗く、湿っぽい工場に足音が響く。その主は先ほど牛丼を注文した男。

 

「貴方は……一体何の目的です。家に大金はありませんよ」

「クックック……私の目的は君ですよ。『七色彩波』くん?」

 

怪しい口調で笑いかける男に、彩波は青ざめる。

彼の言葉に彩波は一発でその正体に気づいた、恐らく……その正体は。

 

「まさか、変態ですか!?やめてください、千切りますよ!」

「違います!千切るってなんですか!?」

 

恐らく自らの尻を狙う変態、そう思い彩波は必死に抵抗しようとするが……男は否定する。

彩波がしばらくしてようやく落ち着いた頃、荒い息を整ようと深呼吸……しようとして埃を吸い男はむせる。

 

「げほっ、私の名はロード。ロード・ハーミット。貴方を誘拐したのは貴方の兄に用があるからです。」

 

糸目の男、ロード・ハーミットは髪を整えながら彩波を誘拐した理由を語り始める。

この時、彩波はロードの着ている服の襟に、牛丼のタレが染み込んだ米粒が付いていることがあまりにも気になりすぎて話を聞いていなかったため要約すると……

 

ロードは今は壊滅した『反世界同盟』の残党であり、特別なカード群『臨界神秘(クリティカルエンシェント)』を賭けたWiseを挑むために攫ったとのこと。

 

「もうすぐ来るはずですよ、ククク……目の前で貴方の兄が負ける姿を目に焼き付けなさい!」

 

高らかにロードが笑い声を上げた直後、倉庫のドアが開く。

不機嫌そうな表情で立っていたのは、七色烈火。彩波の兄一人だった。

 

「……やっぱりお前か、ロード!」

「遅かったですねぇ、七色烈火!今日こそ貴方のカードを頂きますよぉ!」

 

出会い頭に、両者ともに腕を振るう。すると眼前に魔法陣のようなもの……Wiseのフィールドが現れる。

それを見て、彩波は目を見開いた。

 

「「Open your Wi…「何ですかそれ!?」」」

 

掛け声に割り込んだ彩波の声に2人は手を止めて振り向く。

彩波の目がキラキラと輝き魔法陣を見つめていた。

 

「Wiseのフィールドですよね、それ!どこでも出来るやつじゃないですか!いいなー!」

「ええい、黙ってなさい!」

「あ、お前!」

 

足をバタバタさせながら騒ぐ彩波を、リモコンを操作し回転させて、ロードは改めて烈火に向き直る。

そして、改めて掛け声をしようと二人は息を整えようとするが、埃っぽくてむせる。ロードにとっては2回目のことだった。

 

「うぇっほん!Open…」

「げほ……your!」

「「Wise!」」

 

改めて対戦が始まった。序盤から赤のパワーを召喚し、アドバンテージを稼ぎながら攻撃する烈火に対して、ロードは相手のターンにも使える【瞬発】効果を持った黒のアーツを使いそれを捌いていく。

 

この対戦の中で、何より彩波の目を輝かせたのは、幻覚でも対戦台のホログラムでも無く、本物のパワーやアーツが現実に出てきていることだった。

 

彩波の目の前で、炎の獣戦士が駆け抜け、巨大な骸骨の腕に冥府へと引きずり込まれる。

ゾンビ軍団の攻撃を、燃え盛る炎の弾丸が焼き払う。幻想的な光景に彼は見とれていた。

そして、中盤に入り……リソースの回復を図る烈火の隙を突いてロードは動き出した。

 

「まずはこのカード、【ゾンビシャドウ!】、このターン墓地からゾンビのパワーを出した時、そのコピートークンを出しますよぉ!」

 

続けて墓地から1コストで蘇生出来るカード【腐りかけゾンビ】を2体召喚する。

その効果でコピートークンが2体湧き出る。

そのプレイングを見て、烈火はロードの手の内を思考する。

 

(【腐りかけゾンビ】はターンの終わりに破壊されるカード。それを4体出したということは生贄系のコスト……いや、確か奴の切り札は!)

 

即座にロードの切り札を思い出して、烈火はその真意に気づく。

その予想通り、ロードは意気揚々と自らの切り札を掲げる。

 

「冥国の影、邪神の隠遁者をここに!【『臨界神秘』幽世の隠者(プルートゥ・ハーミット)】!」

 

そのカードが召喚された時、一気に空気が変わる。それは、ローブを纏った骸骨の修験者。

ゾンビ達の中心に立ったそれが、杖で地面を打ち鳴らすとおどろおどろしい瘴気の霧に包まれる。

 

「私のパワーを全てブランク化します。これで貴方は次のターンまで私のパワーを破壊できない!」

 

ロードのパワーが全て裏側になる。

Wiseにおいてカードが裏側になる場合は凡そ3種類。

カードの下を相手に向けてセットする初期壁、横向きで置かれる追加の壁、そして第三の状態『ブランク』。

全ての情報をないものとして扱い、ブランク状態のみを指定する特殊なカード以外の干渉を受けない。例外として無色リソースとして使う裏側リソースはあるが……

 

閑話休題この状態では【腐りかけゾンビ】及びその効果が発動しない、かつ次のターンの始めに表向きにすることで召喚してすぐの行動不可ルールが解消される。

 

「これが貴方の得意なパワー除去に対抗するために編み出したコンボです!さぁ、どうしますか?」

「……」

 

七色烈火は考えた。ブランク状態のカードを除去するカードはデッキには入っていない。そして、ハーミットの効果はコストを支払うことで再使用出来る。全体除去はおおよそ封印されたようなものだ。

 

普通のプレイヤーなら焦る盤面。しかし、烈火は笑う……ここでこそ笑う。

相手がコンボを決めた時、追い詰められた時……その時こそ七色烈火の真価は発揮される。

 

「俺のターン、ドロー。」

 

見える光明、相手のパワーが全てブランク状態ということは、ルールによって  許されたパワーによる防御も出来ないということ。

……七色烈火の結論は、このターンで残る3枚の壁を破りロードをぶっ倒すことだった。

 

「緋炎の獣王、赤の新星王者!【火獅王ブレイオン】を召喚!」

 

両手に炎の拳を持つ獣戦士が現れる。薄暗い倉庫がその炎に照らされ光に包まれる。

これこそが七色烈火の相棒『ブレイオン』。その効果はシンプルながら強力。

 

「アタックプロセス!ブレイオンで攻撃、その時連撃1を発動。ブレイオンはこの攻撃の後続けて一回攻撃が出来る!」

 

第一の能力、連撃。文字通り連続攻撃を可能とする能力。その過程で除去をされれば途中で止まるデメリットはあるものの、反壁が反応しづらくなるという点で散撃と差別化された力。

そして、同時に第二の能力が発動する。

 

「さらに、もう一つの効果!ブレイオンが消耗状態になった時、ターンの終わりまで耐性1を得る!」

 

ブレイオンの肉体が炎そのものに変化する。一度だけあらゆる除去に耐える効果『耐性1』の取得。アタッカーとしてのシンプルな強さがブレイオンの本質。

その攻撃がロードの壁を破壊、続けて攻撃した2枚目の壁の反壁が発動した。

 

「ひ、ヒヤヒヤしましたがこれで終わりです!【復讐のスカルクロー】!【従獣破サイ】を破壊します!」

 

刺々しいスケルトンが現れて、破城槌を持ったサイの獣人が破壊される。

烈火の場に残った攻撃可能なパワーは一体。カバの看護師という奇妙な姿のパワー。

対してロードの場にはスカルクローが残り、壁が1枚残っている。

 

「【従獣リカーバ】、破壊された時に味方の消耗状態を回復するカード。スカルクローで守ればリカーバの効果でブレイオンが回復。なかなか考えたようですが、惜しかったですねぇ」

 

その攻撃を通せば、火獅王は蘇らない。所詮子供の戦略とロードほくそ笑む。

そうすれば次のターン……ブレイオンを破壊し、烈火の残る2枚の壁も壊してとどめを刺せる。

 

烈火がよく使う全体除去の反壁はすでに見えている。奇跡的に耐えても、ロードの最後の1枚は条件を満たした無慈悲な全体除去。

 

「無駄な抵抗はやめて、降参し…「リカーバで攻撃」なさ……!?」

 

烈火はリカーバでの攻撃を選択、ロードの内心で動揺が走った。無駄な攻撃をする相手ではないと、曲がりなりにもロードは烈火を認めている。

 

だからこそ勝利の美酒に酔いしれかけた。しかし、烈火の行動は間違いなく冷や水。手にしたと思った勝利が幻想と突きつけてくる現実。

 

「アーツ【誤爆特攻】、全てのプレイヤーは自分のパワーを一体選び破壊する!」

 

烈火は当然のごとくリカーバを破壊する。そして、ロードはスカルクローを破壊するしかなかった。

そう、『自らの盾(スカルクロー)』を失い、『烈火の切り札(ブレイオン)』が回復する。ロードの目の前に、ブレイオンが再び立ち上がった。

 

「これで終わりだ。ブレイオン、連撃!」

「バカなァァァ!?」

 

反壁による破壊すらも乗り越えて、ブレイオンがロードに拳を叩き込む。炎に巻かれて彼は天井を突き抜けて、空の彼方に消えていく。

 

「やっぱり強いですね、兄さんは……」

 

ロードのリモコンを拾った烈火が彩波を降ろす。

目が回り吐きつつも、彩波は兄の対戦を見て満足気に笑っていた。

それを見て少し気恥ずかしそうに、あるいは吐瀉物の匂いに顔を背けつつ烈火は笑い返して、二人で帰路につく。

 

こうして、彩波の誘拐事件は終わった。……筈だったのだが。

 

 

 

 

「兄さーん!?」

「フハハハ、貴様の弟は預かっ「焼け、ブレイオン!」タァァァァ!?」

 

この手法が広まったのか、彩波はCberイッヌで宅配をする度に悪の組織の残党に攫われるようになってしまい、続けられなくなってしまった。

 

「と、言うわけで丁度カードショップを建てる折に合わせてパラフルさんに雇ってもらったわけです」

 

彩波はテーブルを拭きながら事の経緯をグレンとシンクの2人に話していた。その後ろでは『俺ってば親切!』とドヤ顔でパラフルが腕を組んでニヤついていた。

 

「つーかなんでお前はこんなもん開いてんだよ」

「フッフッフ……男なら誰しもダウナー系のバイトと経営する寂れた店に憧れるものさ」

「しょうもねぇ……」

 

変なポーズを決めながら語るパラフルにため息を吐き、グレンは彩波に目を移す。

彩波はパラフルに並んでポーズを決めており、二人は妙に波長が合ってるようだった。

 

「仕方ない、研修の成果を見せ給え彩波クン!」

「店長、お客さん来ませんしこのままじゃ潰れちゃいますよぉ?」

「やるなやるな、お前も千円札握らせるな!!」

 

パラフルは財布(リソース)から彩波に1000円のコストを支払い、雇い主の権限を発動させて演技をさせる。

その様子にツッコミを入れながらグレンは呆れる。Wise一直線のカードバカである烈火に対して、彩波の場合同じくカードバカに守銭奴がついていた。

 

「筋金入りだな、これは治らねぇ。……っと、そうだ彩波、バイト終わったら面貸せ」

「いいですけど、何をするんですか?」

 

彩波の疑問にグレンは眼前に赤い陣を出現させて答える。

 

「烈火からの頼みだ、お前に修行をつけてやる。」

 

 

 

 

 




今回の最強カード紹介
【火獅王ブレイオン】赤 7コスト
ステータス9000  種族:ビースト/ウォリアー
軽快:このパワーは出たターンに攻撃ができる。
連撃1:このパワーは攻撃後、続けて1度攻撃する。
このパワーが消耗状態になった時、ターンに終わりまで『耐性1(このカードは一度だけ場を離れない)』を得る。

第一弾SR、ボルシャックドラゴン的なイメージ。ライオンモチーフなのはこの手の赤い主人公はドラゴンが多いので、変わり種にしつつ同じ立ち位置の生物はライオンかなと。
サポートテーマの【従獣】は従者の獣+ジュージュー(火と生き物で焼肉の音)から
初弾環境では赤緑構築のフィニッシャーとして活躍。連撃を活かすデッキの切り札としてはかなり優秀のため、息の長いカードのイメージ。
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