兄曰く、世界は救われたらしい。   作:アンクール

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ボクサーなコアラにチェストされながらなんとか書きました、三話です。



第3話『師匠によってはヤバいらしい』

 

 

グレンの家、バイクが隅に置かれたガレージにシンクと彩波はいた。

目の前にはグレンがホワイトボードに図を描いて、説明を始めようとしている。

 

「まず、差異はあれどある程度熟練したワイズマンはお前達の知っている通り、パワーやアーツを現実に呼び出す事が出来る。」

「そんな常識みたいに言われても兄さん」

「わりと有名ですよー、よく知らないですけど」

 

原理について彩波はちんぷんかんぷんだったが要約すると、カードに刻まれたイラストやデータはある種の魔術的なプログラムとして機能している。そしてワイズマンの持つ魔力や霊力、気などの『すごいエネルギー』を使うことでこれを現実に使う事ができるらしい。

シンクの場合はこの神秘的なエネルギーが、彩波の場合はワイズマンとしての実力が足りているためこの技術の習熟が可能のようだ。

 

「はえー、すっごいファンタジー。これでどこでもWiseが出来るってことなんですね?」

「感想がそれかよ、もっとビビれ。」

「これ危なくないですか……兄さん」

「お前はビビりすぎなー?それじゃ早速…」

 

余裕があるのか呑気なのか。本来の目的とは別のところに目を輝かせる彩波はと対照的に、不安げにしているシンク。

グレンが早速2人に方法をレクチャーしようとした時、ドアが切り裂かれる。

 

「フッ、間に合ったか」

「ドアぐらい普通に開けろ!」

 

そこから侵入して来た男の名はシックス。グレンと同じく元反世界同盟の幹部であり、物理的にも戦闘能力の高い男。

冷静沈着の面持ちをしたボケの登場にグレンは怒りを隠さずにガンを飛ばす。

 

「何の用だ、弁償しろ。テメェの出番はねぇぞ?」

「才のある者がチンピラに鍛えられては可哀想だからな、弁償はする。貴様の代わりに賢者の極意を教えに来た。」

 

とても賢者とは思えない二人の言動に彩波は呆れながらも、シックスの持つ謎の戦闘能力に得心が入った。

あれはワイズマン同士の戦いで、パワーを捌くための技術。後天的に知ったグレンや自分達とは違いワイズマンとしての力を前提とした修練を受けていると推測したのだ。

 

……同時に、シックスの手にかかるとなれば同様の、恐らく過酷な修行を課せられることになる。それだけは嫌だと思い、彩波がグレンにジェスチャーするとその意図を受け取り……あるいは妹のシンクを守るために二人を背中に隠す。

 

……予想外だったのは、それをかわしてシンクが嬉々としてシックスのもとに行ったことだった。

 

「私っ、シックスさんに教えて貰いたいです!」

「「正気か!?」」

 

グレンと彩波は思わずショックを受ける。兄としての敗北感にグレンは打ちのめされた。

彩波は周囲の変人達の中(彼にとって自分はそうでないらしい)で、珍しく常識的なシンクが珍しく積極的に動いたと思えば、非常識Tier1のシックスへの弟子入りと宣ったことに恐怖を感じていた。

 

その事実を只事ではないと考えた彩波は、ひしひしと感じる恐怖を堪えつつもシンクの様子を見る。

シンクは、シックスのことを頬を赤く染めて見ていて、カタカナ一文字で例えるとホ……の一言が合いそうな表情だった。マジか、と彩波は思いつつもグレンと顔を寄せて小声で話し合う。

 

「もしかして、ホの字ですか」

「ああ、腹立たしいことにな。だが……そうは行くか!」

 

彩波と少しだけ会議をしたグレンは、再びシックスに向き直るとデッキを構える。

それを見たシックスも銃の早抜きのような速度で同じく構える。

 

「お手本ついでだ、俺が勝ったらシンクは俺がレクチャーする。『兄として!』」

「兄さん!?」

「いいだろう、その代わり俺が勝ったら烈火の弟『も』弟子としていただく!」

 

その様子を見て、彩波はなんて自然な流れなんだと思っていた。そして何やかんやで勝手に自分の進退を決められて戦慄する。

 

「グレンさん頑張ってください!!主に僕の命のために!」

「それはどうでもいいが、行くぞシックス!」

「「Open your Wise!」」 

 

グレンとシックスの陣……それぞれ錆色と黒が展開される。

二人とも攻撃的なデッキ……ビートダウンの使い手であるため、それぞれ第一ターンから動き始める。

 

「俺のターン、赤リソースをセットしマテリアル【ゲキアツ着火剤】を配置!」

 

グレンのフィールドに1枚のカードが置かれる。粘っこいゲル状の着火剤が入ったボトルだ。

今後への布石、それに対抗してシックスも自分のターン、1枚のカードを配置する。

 

「こちらもマテリアル【崩れる鉱山】。この効果は知ってるな?」

「あれは……!」

 

彩波は不味いことになったと思考する。

グレンのマテリアル【ゲキアツ着火剤】は墓地に送ることで、5コスト以下のパワー一体に軽快を与えターンの終わりに破壊するカード。裏技的な使い道もあるが大方攻めのために使うカードだ。

対してシックスの【崩れる鉱山】、これは自分の壁が破壊された時、山札から1枚をリソースにするカード。

 

つまり、グレンが狙い通り次のターン出したパワーに着火剤を使い攻撃すると、シックスは空いたフィールドの数、手札に加えてリソースのアドバンテージを得られる。

 

「兄さんが不利で、シックスさんが有利ってことですね!」

「そうですけど、露骨に態度違うなぁ……」

 

兄のピンチというのにも関わらず想い人の勇利に顔を綻ばせるシンク。兄が自分のために戦っているのに何とも不憫だと思いながら彩波は目を対戦に戻す。

 

「お前はこれが苦手だったな。さぁ、どう仕掛けてくる。」

「何時までも昔の俺と思うな。俺のターンだ!」

 

早々に動き出すかと思われたグレンは、手札を交換するアーツを使用、カードを1枚墓地に送り2枚ドロー。

状況の突破を目指すグレンに対して、シックスは小型の黒属性パワー【土塊の足軽】を召喚し攻勢に出るも、返しの第三ターン……グレンの繰り出したマテリアルを破壊するパワー【古株のショベル】によって、鉱山を破壊される。

 

その後数ターンの間お互いに攻めないまま、ボード・アドバンテージを奪い合いシックスのターン。改めて盤面を整理すると、グレンの場には【古株のショベル】と【ゲキアツ着火剤】…シックスの場には【土塊の足軽】が1体のみ。ショベルのステータスは足軽を上回っており、このタイミングで攻撃してもショベルにガードされて破壊されるのみだ。

 

「フン、ならばこちらも場を整えるまで。【ウェポンブースター】を発動!」

 

シックスは山札の上から3枚を見て、全てを表向きにする。【鋼の竹槍】【銀の兜】【金の鎖帷子】どれも低コストで使い、装備のできるマテリアル。

しかし、【ウェポンブースター】を使ったのはただ武器を揃えることが目的ではない。

 

「さらなる効果。ブースターを持つアーツは使用後リソースに送られる」

 

リソースの追加、鉱山が破壊されたことで得られなかった恩恵を手札アドバンテージの確保とともに得たのだ。

シックスは即座にリソースに送られた【ウェポンブースター】をコストとして使用し、手札から【鋼の竹槍】を場に出す。

 

「これでターンエンドだ。」

 

お互いビートダウン使いとしては静かな立ち上がり。次のターンにシックスが大きな動きをすることを見越して、グレンは作戦を変えて先んじて圧力をかけることにする。

 

「俺のターン、5コストで【液漏れクラシック】を召喚!自分の壁を2枚まで手札に加え、場に【フューエルトークン】を同じ数召喚!」

 

壁を犠牲に空き領域を増やしながら、縦1列にゲーム外から出すパワー…『トークン』を展開するグレン。そして、グレンは【ゲキアツ着火剤】を墓地に送り、効果を発動する。

 

「【ゲキアツ着火剤】の効果で【液漏れクラシック】に『軽快』とターンの終わりの自壊効果を付与!さらにこいつは、【フューエルトークン】がいれば連撃1を得る!」

 

アタックプロセスに入り、錆びついた2台のマシンがシックスに襲いかかる。

彼は目の前に展開された3枚の壁を槍に突き刺すと振り回して、盾のように受ける。

 

少し後退はしたものの、圧倒的な力で襲い来るパワーの攻撃を簡単に受け流す姿はとても人間とは思えない動きで……彩波は少し青褪めて引くがシンクは目を輝かせる。

 

「反壁、発動。」

 

反壁で現れたのは、二枚の装備マテリアル……【闇討ちの小刀】と【死神の鎌】。登場時と装備パワーの攻撃時に相手のパワーを破壊する効果を持つ強力な二枚がクラシックとショベルを破壊する。

 

「グレン。勝負を焦る癖は治らないな」

「言ってろ、ここからトップギアで捲ってやるよ!」

 

剣呑な雰囲気の中、グレンのターンが終わりシックスはデッキから一枚引く。

そして、不適な笑みを浮かべて手札から一枚のカードを掲げる。

 

「数多の武器を使いこなす古今無双の武神!【鉄塊アシュラベンケイ】を召喚!」

「あれがシックスさんの切り札!……あれ?」

 

シックスの切り札、機械混じりの鉄像…アシュラベンケイが場に召喚される。

盤面を見て、シンクに疑問が発生する。シックスのリソースは6枚……しかしアシュラベンケイの必要コストは9。召喚できないのでは、と脳裏によぎり視線を彩波に向けて解説を促す。

 

「シックスさんのデッキは恐らく装備能力を持ったマテリアルでパワーを強化する『装備ビート』の系譜です。恐らく、あの切り札の効果は場の装備マテリアルの数のコスト軽減……!」

 

最近シンクが図太くなってきたなと思いつつ彩波は説明する。そして、ただ軽減するのではなく恐らくまだ効果があると考えて、彩波は額に汗をかく。

その想像通り、シックスはアシュラベンケイのさらなる効果を発動した。

 

「アシュラベンケイが場に出たとき、手札からコスト5以下になるように装備マテリアルを場に出し、場の装備マテリアルを全て装備することができる。」

「来るか……!」

「更に【ジェットブーツ】を召喚し、アシュラベンケイに【ジェットブーツ】、【鋼の竹槍】、【闇討ちの小刀】、【死神の鎌】を装備!」

 

アシュラベンケイの全身に武装が装着される。比較的大型のショベルやクラシックを上回る巨体がシンクを睨み、鋭い眼光を光らせた。

 

「アタックプロセス、一気に蹴散らせ……!アシュラベンケイ!」

 

【ジェットブーツ】の効果で軽快を得たアシュラベンケイが攻撃を仕掛ける。そして、【闇討ちの小刀】、【死神の鎌】の効果でグレンのフューエルトークンが破壊される。

邪魔となるトークンを破壊したアシュラベンケイはグレンに接近し、一撃で二枚の壁を破壊。

 

「【鋼の竹槍】の効果。これを装備したパワーのステータスが8000以上なら散撃縦1を追加する。」

 

2体のトークン、二枚の壁を破壊したアシュラベンケイ。しかし、その進軍は止まらない。

再び武器を振り上げて、グレンに再び攻撃を仕掛ける。

 

「アシュラベンケイの効果、このカードは装備しているマテリアルの半分だけ連撃を得る。阿修羅破斬!」

 

残る四枚が破壊される。発動した反壁で【土塊の足軽】を破壊し、グレンはこのターンの敗北を回避し、残る3枚を見る。

彼の手に、逆転のルートは揃った。

 

「見てろシンク、壁にはこんな使い方もあるのさ!反壁、【フューエルパニック】【高級化合物】!」

「何…!」

 

パニックの効果でグレンの場に5体のフューエルトークンが現れ……その姿が黄金に変わる。

これが【高級化合物】の効果、フューエルトークンをより上級の存在、【ハイオクトークン】に進化させるカード。

打つ手が無くなったシックスのターンが終わり、グレンのターンに戻る。彼はドローカードを見ることすらなく、先ほど壁から手札に加えた最後の一枚を出す。

 

「調子に乗ったなシックス、てめぇはワンショット狙いが露骨なんだよ!」

「壁に仕込んでいたか……!」

「さぁ、捲るぜ!すべてを焼き尽くす戦車よ、黒き煙と鋼を走らせ焼き払え!」

 

炎と黒い排ガスを纏い、馬のないエンジンで出来た戦闘用馬車を機械の騎士が駆ける。一瞬のうちに周囲の空気が熱くなり、炎に照らされる。

 

「【『臨界神秘』突撃する戦車(ラッシュ・チャリオッツ)】!」

「これが、兄さんの切り札……なんで壁に!?」

「戦術の一つです……!ダメージコントロールを要求され、デッキから引ける確率も下がりますが……!」

 

内心彩波は膝を打つ。相手のデッキを知っているからこその戦術にはなるが、先に攻め込まれることを読んで逆に利用したのだ。

チンピラ地味た言動に対して、クレバーな動きと、現れたパワーに彩波は注視していた。

 

(そして、何より『臨界神秘』というテーマ。あれはヤバい。)

 

一度その力を目の当たりにしていた彩波は、突撃する戦車に少し身震いしていた。

コストが高いからか、あるいはあのカードの力が幽世の隠者の力を超えていると感じているのか、思わず強く拳を握る。

 

「戦車は軽快を持つ、そのまま攻撃時効果を起動!」

 

機械の騎士が黒い鎖をハイオクトークンに投げつける。鎖を絡みつかれた高純度の燃料達を、口を開いた戦車にぶち込んで爆音とともに炎と排ガスをぶちまける。

 

「自分の他のパワーを全て破壊し、そのコスト合計5につき相手の壁を墓地に送る!」

 

『このパワーがいる限り自分の他のパワーは攻撃できず、このパワーの攻撃後ターンを終了する』掲げられたグレンの切り札に書かれたその他のテキスト……所謂デメリットの効果だが今この状況にて意味はなかった。

 

「戦術が同じワイズマンが戦う時は、どちらが先にデッキの強さを押しつけるかの勝負になる。しかし___」

 

グレンはそれを逆手に取った。装備マテリアルの多いシックスは、数の勝負には強くない。だから先に軽く攻め込むことでシックスのワン・ショットキルを誘った。……その攻撃を、反壁でカウンターすることを狙って。

その結果、シックスの壁が一瞬で焼き尽くされる。その中には、戦車の攻撃を止められるカードがあった。しかしそれは無に帰した。

 

「ぐっ……!」

 

戦車の攻撃によりシックスが轢き飛ばされる。槍で受け止めて威力を抑えたものの、地面を転がり埃が舞い上がる。

 

「しまった…あの辺掃除してなかったわ」

「っしゃあ!生き残った!!お礼に僕後で掃除しておきますよグレンさん!」

「きゃああああ!シックスさぁん!?」

 

がっしゃんと積んでいた箱に埋もれるシックスにシンクが駆け寄る。

無情にも地獄の特訓を回避した彩波は歓喜に飛び跳ね、グレンに媚を売っていた。

頼りにならない2人を無視してシンクはシックスを抱き起こそうとするが、彼女の想像よりも軽く保たれかかってくる。

 

「オウフ…シックスさん大丈夫……で……!?」

 

しかし、シンクはその感触に喜ぶと同時に違和感を感じた。

 

(この感触、筋肉質ではあるものの柔らかい……?鍛えた筋肉は力をいれないと柔らかいと聞いたことがあるけれどここまで?というか思ったよりも小さ……)

「ってぇ、んなわけあるかぁ!」

「うわっ、びっくりした。」

 

シンクは思わずシックスを放り投げる。そして、ゴロゴロと彩波の足元まで転がり止まる。

驚いた彩波が下がりつつも見ると、先ほどよりも小柄な印象を受けた。

身長が長く、まつ毛が長く感じた。そして何より、重力に従い形を変えている丸い部位。

それから彩波が導き出した答えは一つ。

 

「シックスさんはヒラムシのハーフだった……!?」

「ちげーよ、こいつがおん…「グェ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛聞きたくない聞きたくない!!」」

 

混乱し理解しうる知識から珍回答を導き出した彩波、冷静にツッコミつつ真実を告げようとするグレン、脳が破壊され叫ぶシンク……混沌とした状況で話が進む訳もなく、その日の特訓は無くなったのだった。

 

 

 




今回の最強カード紹介

【鉄塊アシュラベンケイ】黒 9コスト
ステータス9000  種族:武人/人形
散撃・縦1
このパワーを召喚する時、自分の場にある『装備マテリアル』1枚につき1コスト軽減しても良い。
このパワーが場に出た時、手札からコスト5以下になるように装備マテリアルを場に出す。その後、自分の場の装備マテリアルを全て装備してもよい。

中堅デッキ【ベンケイワン・ショット】の切り札。見た目イメージは某グラップラーなカイザー。効果は龍覇なサムライが近いイメージ。

【『臨界神秘』突撃する戦車】赤黒 6コスト
ステータス10000  種族:機人/古きもの
軽快
このパワーがいる限り自分の他のパワーは攻撃することができず、このパワーの攻撃後ターンを終了する。
このパワーが攻撃する時、自分の他のパワーを全て破壊する。そのコスト合計5につき相手の壁を墓地に送る。

環境デッキ【フューエルビート】の切り札。見た目イメージは某覇道。効果的にはプレイスなアガペリオス。
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