兄曰く、世界は救われたらしい。   作:アンクール

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亀更新すぎてタップ時にターンが飛んでました。
アンタップしたので投稿します。


既存の話に加筆修正を加えサブタイトルを変更しました。
また、一部カードの効果を強化しました。


第4話『6を返せば9らしい』

 

 

 

 

「え、と……シックス・コイン改め、本名『ナイン・シルディア』です。よろしくお願いします……」

 

物腰丁寧に……というよりは及び腰に挨拶をする目の前の女性。己に槍を向けた男と同じ人物に見えない、と彩波は神妙にその様子を見た。

シックスと同じ銀の髪を一本の三つ編みにしてサイドに垂らしており、少女らしくスレンダーなシンクとは違いメリハリのついた体型……見るからにお姉さんといった印象の姿。

 

年頃の男子なら本来見惚れるような容姿に、薄い反応のまま、彩波はため息を吐く。

結局禄に話もできないままあの後帰り、数日放置されてやっと話があるとカードパーラーに呼び出されていた。

この不思議体質を持つ目の前の相手について、果たして性別はどちらなのか……あるいは『ない』のか。それがわからない限りはやった美人とお話でラッキー、などと思えるほど呑気ではなかったのだ。

 

「つーかなんでバイトもないのにパーラーなんですか、グレンさんちのガレージじゃ駄目なんですかー?」

「ちょっと彩波クンに俺から用があってねー!まあそれは後で良いんだけどね」

 

パラフルからの用、という言葉に何か嫌な予感を感じつつ彩波はナインと向き直る。

当事者のシンクはまだ破壊された脳が治っておらず、グレンがその看病しているのもあって会うに会えない状態らしい。

 

南無……と内心手を合わせつつ、いい加減この気まずい状況を彩波は一人で打破しなければならなかった。どうしたものか、と彼が考えているとナインが彩波の話しかける。

 

「……その、私から話しますね。」

 

ナインはそこから自らの素性を話していく。某国でワイズマンの名家に次期当主として生まれたこと。

政敵に嵌められて没落したこと……家の再興のために『強い男』であるもう一人の自分……シックスを作り出し、それに変身することで素性を隠していたこと。

……そして、巡り巡って『反世界同盟』のエージェントになったこと。

 

「なんというか、遠い世界の話ですね」

「はは…ですよね。」

 

シックスは『本当の自分(ナイン)』を知らない、だが彼を作り出したナインはシックスのすべてを知っている。だからこそ、彼を作り出したナインはシックスが襲いかけた彩波に謝りたいと感じていた。

 

ただそう話されても兄の存在があるとはいえ、平和にただの一般人として生きてきた彩波にとっては馴染みが薄い話ではある。少しの逡巡の後、彩波は頭を掻きながら思ったことを答える。

 

「クソやべーやつですけど、シックスさんはいい人……ってのは僕も感じましたから。謝るとかはナシでいいです。」

「……ありがとうございます。」

 

世界の危機と戦ってこなかった彩波には、難しいことはよく分からない。しかし、人一人の印象について話すことはできた。

ありふれた意見だったが、ナインにとっては少し救いになり2人の間にあった緊張がほどける。

そのまま軽く話していた頃に、戻ってきたパラフルが二人に紙コップに入ったコーヒーを渡してきた。

 

「打ち解けたようで良かったよ。それじゃあ俺からも少しいいかな?」

 

パラフルは1枚のチラシを2人に見せる。そこには商店街主催のWiseの大会とあり、じっと彩波は隅々まで読んでみる。しかし……

 

「美女限定大会。ナインさんは兎も角なんで僕に?」

「規定を見てみて、性別は問わないと書いてる」

「ええ……」

 

これが最近流行りの配慮というものか……と思いつつパラフルを見る彩波。つまるところ自分に出ろ、と言われているのだ。しかし、それを口に出す前にパラフルが続きを話し出す。

 

「主催者の趣味でね、この間一緒に呑んだ時に『本物の女装男子を見せてあげますよ』って言っちゃったんだ。それで彩波クンしかいない!って思ってね」

「おいこら店長こら」

「……ちょっと酷いよそれ」

 

明かされる背景にジトと目線を向ける彩波とナイン。はっはっはっと誤魔化すように笑い、パラフルはポチ袋を彩波にそっと握り込ませる。

流石の彩波もその中身の重さから、出来ないと判断し押し返す。

……少しの沈黙の後、もう3袋渡されて彩波はパラフルの手を取った。

 

「できらぁっ!当日までに完璧な女装をしてみせます!」

「えっ」

 

立ち上がり拳を握る彩波にナインは彼が『あちら(ボケ)側』の人間だということを思い出す。

そして、少し目を伏せて思考した後、彩波とパラフルの間に割って入る。

 

「__いや、駄目ですよ」

「ナインさん?」

 

衣装を選び出していた彩波は、ナインの言葉に固まる。それは、どこか冷たく氷……というよりは真冬の金属に触った時のような冷たさを感じる声だった。

 

「普通に考えて、学生がそういうことでお金を稼ぐのは……良くないです。」

「くっ、正論だ……だとしても!」

 

彩波はデッキを取り出して陣を発生させる。彼の苗字と同じく七色の魔法陣。

それを見てナインは目を見開く。まだ正式に教えてもらっていないはずの、Wiseの魔法陣だ。

 

「それは……!」

「なんか力んだら出るようになりました!正論で勝てる気がしないので、これで決めましょう!」

 

そんな理由で出すな、と思いながらもナインもデッキを取り出し魔法陣を出現させる。

空の白と大地の黒、その2つが混ざった灰色の魔法陣だ。

 

「「Open your Wise!」」

 

明らかな正論を踏み倒すために、誰が何と言おうと自然な流れで始まった彩波とナインのWise。

先攻を取った彩波はターボデッキとしては有利な状況ではあるものの、キーカードの【虹の精霊】、【腐葉土】の2枚が引けず、代わりに【ゲギョッチ】を召喚して手札を補充する。

対するナイン【ウェポンブースター】を使用。手札の補充とリソースの追加を図る。

 

「捲れたのは【シールドエンジェル】2枚と【がらんどうの騎士】、この2枚はパワーと装備マテリアル両方の性質を併せ持つ…」

「装備パワー……!ならこちらは【朝露と新芽】を発動。1ドロー手札から1ブースト、で【アゲオーン】を召喚し効果で2ドロー」

 

お互いに攻防を交えつつリソースを着実に溜めていく。少しして、先に動いたのはナインだった。

彼女は盤面を見て一拍考えて……プランを組み立て直す。

この状況で切り札が通るとは思っていなかったが、それで得られる情報アドバンテージを優先して……手札から1枚のカードを掲げる。コストは6、白と黒の混色カード。

 

「装備マテリアル、【アイギスの眼(アイ・オブ・アイギス)】を召喚……!」

「『瞬発』【かすみ目】、ナインさんの切り札は『妨害』……通しませんよ」

 

だが、それは対応して彩波が使用したカードに止められる。『妨害』……所謂打ち消し効果、コストは重いものの問答無用で封殺する効果のカードでナインの切り札が墓地に送られる。

 

しかしそれは、実のところナインの予想通り。彼女は不敵な笑みを一瞬浮かべて、続けざまに発動したカードで墓地の【アイギスの眼】を回収する。

 

「おおー、いい応酬だねぇ」

 

その様子を見てパラフルが感嘆の声を上げる。彩波のターボデッキは、マナを伸ばしてパワカを叩きつける構築のため『妨害』を持つカードが少ない、それを読んでナインは後半への備えとして妨害を使わせた。

 

パラフルの予想通りなら両方とも長期戦に長けたデッキ……手札で損をしたのは彩波だが、ビッグアクションのできるコスト域で、余裕を持って行動できるのは大きなアドバンテージだ。

ビデオカメラを回しながらそんな解説をパラフルは言葉に出した。

 

「あの、パラフルは何でカメラを……?」

「ああ、シンクちゃん用の資料にね。あの子、こういう戦いはまだ知らないから」

「納得ぅ〜、ということならお手本のようなプレイをさせてもらいますね!このカードを壁として『セット』」

 

彩波はリソースを使い手札から1枚を壁に重ねる。Wiseにおいて、一部のカードはコストを支払うことで壁に重ねる能力を持つ。これを『セット』と言い、基本的には残りのコストを支払うことが条件の反壁効果を持つ。

 

このタイミングで特に使うことが必須というわけではなかったが……しかし手札のもう1枚を見てよりアドバンテージを稼げるルートを容赦なく、笑顔で彩波は選択した。

 

「続けて【青の精霊】!すべてのワイズマンは手札と墓地をデッキに加えてシャッフル、5枚ドローします。」

 

彩波は手札と墓地のリセット効果を持つ【青の精霊】を召喚、これにより彼は手札のリセットによる補充と妨害、そして先ほど使用した妨害カードをデッキに戻すアドバンテージを得る。

 

事実、それにより【アイギスの眼】はナインの手からデッキへと消えていたため、彼女はプランを変えることを余儀なくされて目を細める。

 

「なら、【がらんどうの騎士】を召喚、【生剣エクスリカバー】を装備します!」

 

その状況に歯噛みしつつもナインは、返す刀で装備パワーを召喚しさらに重ねた。

 

(ナインの使う装備パワーはパワー、マテリアルと使い方によって効果を変える。これを完璧に使いこなすナインは強いよ、彩波クン。)

「攻撃に入って【青の精霊】の散撃……壁を2枚壊します!」

 

カードを使わずに攻撃へ移った彩波がナインの壁を2枚破壊する。反壁は2枚とも条件を満たしていない。……内心スラングを吐きそうになったのを抑えて返しのターン、ナインが【がらんどうの騎士】にさらに装備マテリアルを重ねる。

 

「【複刃の刀】を追加コストを支払い直接装備、騎士のステータスを上げて『散撃横1』を追加。残りのコストで【バインド・チェーン】、【アゲオーン】に装備して消耗とその回復を封じます!」

 

ステータスを上げ、攻撃時に散撃を付与する装備パワーを重ねる。これにより、騎士のステータスは【青の精霊】を上回った。さらに、妨害型の装備マテリアルが精霊を守るために待機していた巨大魚を捕獲する。

 

しまった…と少しだけ彩波の心が揺れ動く。

そして、その隙にナインの騎士による凶刃が精霊へと襲いかかる。

 

「【がらんどうの騎士】で【青の精霊】に攻撃、消耗時にエクスリカバーの効果で山札の一番上を壁に、これ以上攻撃はさせませんよ!」

「『瞬発』っ!【ゲギョッチ】を召喚して効果でドロー、そのまま防御!」

 

しかし、その攻撃は彩波の手札から現れた小魚に止められる。代わりに切り裂かれた【ゲギョッチ】が墓地に送られる。

 

少し焦り気味のプレイだったが、どちらにせよこのターンの終わりに使う予定だったカード。それが早まっただけと彩波は思考を切り替える。

 

「ターン終了時、【がらんどうの騎士】の効果。このカードはマテリアルを装備していれば消耗状態を回復します。」

 

状況としては、事実上ナインが1枚壁を失った程度。さらにターンの終わりに消耗状態から回復する【がらんどうの騎士】がいる限り、次のターンにはその差は逆転する。

 

(さらに、ターン終了時の回復効果で殴り返しも無理……なら)

 

彩波は手札の内容を見て、騎士を除去できるカードが1枚あることを確認する。しかしそれは『カードの全体除去』。本来は【アイギスの眼】などの切り札を除去するために残さなければならないカードだ。

『紫単色8コスト、壁を除くカードをすべて破壊する。』強力だが色と効果が使いにくいため、デッキに2枚だけ。

 

(ここじゃない、騎士を割れるカードは他にもある。なら……)

 

彩波は一度思考を放棄する。どうせ今はドローソースがない、引いてみてから考えたほうがマシだと山札から1枚引くが、欲しいカードではない。

 

「1枚手札からリソースに足して、【コールリゲイン】を使用。パワーを一体破壊して、墓地から再召喚!」

「リアニメイト……!?」

 

彩波は【アゲオーン】を破壊して再度召喚。これにより登場効果が再起動し、【バインド・チェーン】から解放される。……そして2ドロー、その2枚を見てほっと息を吐く。

 

「【ポンプトード】を召喚、【がらんどうの騎士】を手札に。続けて【青の精霊】で攻撃」

「マテリアルの維持はエクスリカバーのみで、ロングアームは墓地に送ります。その攻撃はエクスリカバーで防御」

 

手札送りは軽快を持たない【がらんどうの騎士】に対しては及第点、と判断して彩波は攻撃を仕掛ける。対してナインは残りコストでエクスリカバーを残し、防御した。

 

(捌かれた。この流れは不味い……!)

 

彩波の背筋に、どこかゾクリと冷たいものが走る。そもそも騎士はナインの切り札ではない、その1枚にリソースも手札も使いすぎた。

今この瞬間、彩波は完全に無防備だった。そして、ナインの戦略は準備が整っていた。

 

「蝕み固める魔獣の盾、ゴルゴーンの首にひれ伏すがいい!」

 

それは、ゴルゴンの首を中心に備えた巨大な盾。生命を持つそのパワーは何本もの蛇を触手のようにうねらせて彩波の前に立ちはだかる。

 

「【アイギスの眼】召喚!」

 

ナインの切り札が、重く着地した。

嵐のような圧倒的な脅威が、動き出す。

 

 




今回の最強カード紹介

【コールリゲイン】青 4コスト
アーツ
『瞬発』―このカードは任意のタイミングで使用することができる。

パワーを一体破壊する。その後、墓地から場に出す。



つまり◯ォース・アゲイン。
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