あとカクヨムでも投稿始めました。
眼前にそびえる迫力、はたから見るのとは全く違う光景。空間を歪め顕現する巨体はまさしく怪物。それを認識した彩波の顔に汗が流れ出す。それは間違いなく恐怖心で、状況はあまりにも最悪。
しかし、その目は何処までも真っ直ぐに前を見て輝いていた。彩波が負けられない理由は色々とある……お金と、ワイズマンとしてのプライド、そしてポチ袋を手渡された時にパラフルに囁かれた彼の真意。何よりもそれに応えたいと彩波は思った。
そんな彼を前に、無慈悲にアイギスは動き出す。
「アイギス、石化せよ!」
切り札、【アイギスの眼】の召喚である。その効果は登場時の相手パワー全ての消耗、そして……
「2コストを支払い、効果を発動。パワーを一体消耗と次のリブートプロセスに彩波くんのパワーは回復しません」
ターン開始時の回復を封じる効果、神話のゴルゴンによる石化を再現した力。軽いコストで相手の行動を封じる効果を毎ターン使えるのが【アイギスの眼】。相手のデッキによっては完全に封殺してしまうカード。
続けざまにナインは【がらんどうの騎士】を装備させる。
「装備カードとしての【がらんどうの騎士】は、効果で除去される装備先の身代わりになります」
「耐性もバッチリってことですか……」
たった一枚、【アイギスの眼】だけで彩波は追い詰められる。パワーを出せば出すほどに悪化していく呪いのようなロック効果は、彼のデッキにとって猛毒だ。おまけに時間が経てば経つほどに、あのナインの切り札は装備を増やし強化していく。
「……リソースを足して【朝露と新芽】、ドローと再度リソース追加、【アゲオーン】を召喚して再度ドロー、ターンエンド」
しかし、今の彩波の手札では下手に動けない。ただリソースを増やし、ドローをしてターンを終えた。
……ナインからすればそれは勝算があってのことで準備を進めているのは明白。事実、リソースにしれっと置かれたカードは2枚目の【虹の精霊】。
これにより彩波はターンに2度、好きな色のカードが使えるようになった。
「2コストで【アイギスの眼】の効果起動、【アゲオーン】を消耗させてロックは継続します。さらに【シールドエンジェル】を2体召喚!」
ナインは確実に盤面を封じつつ攻める。下手に時間をかけすぎると解決札を引かれてしまう。
そして、さらに序盤で手札に加えた優秀な小型パワーを展開して防御を固める。
「散撃せよ、アイギス!」
散撃横1を持つアイギスが動き出し、彩波の壁を破壊する。身を守る壁が破壊され、余波が彩波に襲いかかって……その額や頬を切り裂いた。
それを見た瞬間、ナインは一気に肝が冷えるような感覚に襲われる。熱に浮かされて、加減が効かなくなっていた。想像以上の強さを彩波が持っていたが故に思考能力を対処に奪われていた……そんな言い訳が脳裏に走りながらも、思わず駆け寄ろうとしてしまう。しかし……
「動くなっ!」
雄たけびのような声を発した彩波に、駆け寄ろうとしたナインもパラフルも制止される。
「続けよう、これで終わるのはつまらない。」
そう言いながら捲ったのは【ポンプトード】、彩波は【がらんどうの騎士】の効果を思い出しつつ一瞬だけ逡巡……裁定を考えて直ぐに使用する。
「効果は【青の精霊】に……」
がらんどうの騎士の耐性効果は身代わりになる能力、つまりポンプトードで手札に戻しても再度使われれば無意味だと判断した。
顔から血を流し、戦いに心臓が沸き立ちながらも彩波の打つ手はあくまでも冷静。思考と感情を乖離させた打ち手、あるいは平穏な日常にいた筈の少年が放つ、得体のしれない一面……あるいは狂気にナインは警戒心を強める。
「……なら、2コストでアイギスの効果を使用。その【ポンプトード】を止めてターンエンド」
このターンに召喚した天使2体は攻撃ができないかわりに、効果で選ばれない力を持つ。今は完全に盤面を抑えていて、焦る必要はない……そう思考したナインはゆっくりと彩波を見る。
「ターンもらって、ドロー!」
あ、終わった。目が合った瞬間ナインは薄々確信じみたものを感じた。ナインを落としうるであろうそれは、ずっと握っているであろうカード除去……ではない。
除去一枚でで終わらせるには、アイギスに耐性が生まれた時点であまりにも要求値が高い。であれば応えは一つしかない。
(ここから、盤面を返せるカード……いや、コンボか!)
彩波のデッキが持つ特徴にナインは薄々気づいていた。カードの色という縛りを、虹の精霊と用意した豊富なリソースで踏みつぶすcip(登場時効果)を主軸にしたコントロールデッキ。
一方で、あのデッキに主軸となる切り札は存在しないように見える……というより、たった1枚の切り札に依存しない構築をしている。複数枚のカードを使ったコンボで相手を倒しに行くデッキだろう、お。
(だから、ナインのアイギスによる盤面の固定は、彩波くんにとってもつらいはずだが。)
アイギスは強力なカード。ナインの残り壁は5枚……とはいえナインはアイギスとのシナジーを考慮して、消耗系の反壁を使っている。
このターンだけで破れるわけがない、気になるといえばさっきから彩波は何度も手札を補充している……しかしそれだけだ。使い回せたであろうタイミングで【青の精霊】ではなく繰り返しドロー系のカードを……
「……なるほどね」
ナインが気づいたのは、同じ答えにたどり着いたであろうパラフルと同時だった。
彩波の狙いは逆転の札を引くこと、それと……『デッキ圧縮』。自らのデッキをひたすら削り、欲しいカードが集まるよう駆使するカードゲームの基本的な動作。そしてそれは、既に功を成していた。
眼前には獰猛な笑顔、虹彩が文字通り虹色に輝き……瞬きの一瞬、烈火の姿が一瞬重なったのをナインは幻視する。
「デッキトップをリソースに置いて、【アゲオーン】と【緑の精霊】を召喚!」
更に手札を補充し、デッキを圧縮する。そして彩波が新たに繰り出した精霊、その効果は……
「【緑の精霊】はリソースの王、消耗状態のリソースを全て回復させる!」
「リソース回復効果っ!でもそれだけでこの状況は……!」
「知ってますよ、だから【無に帰す世界】を発動!」
【無に帰す世界】、彩波がずっと温存し続けていた全体除去。壁を除くお互いのカードをすべて破壊する効果、しかしそれを使っても彩波の残りリソースではこのターンで返しきれない。
……筈だった。
「二枚目……これを狙っていましたかっ!」
「【コールリゲイン】」
紫の波動がすべてを焼き尽くす直前、精霊が破壊され再度顕現する。戦場にアイギス1枚のみが残る中、彩波のリソースは全快……さらにカードを使ってなおも彼の手札には余裕があった。
「【火獅王ブレイオン】、【黒の精霊】。自壊させて【黒の精霊】以外のパワーを蘇生……対象は【緑の精霊】」
現れたのは、彩波の兄……烈火と同じ切り札。
さらにナインの知らない新たな精霊を繰り出し、再びリソースが回復する。
先ほどまでのコントロール寄りのプレイングから、一転して攻撃的なコンボを決める。
「これは……(この攻撃的なコンボは、烈火くんの……)」
「【赤の精霊】を召喚!」
続けて現れるはシンクに引導を渡した彩波の愛用カード。そして何よりこの状況……ブレイオンへの散撃追加はナインの天敵とも言えるコンボだった。
(残った反壁……は、除去1枚と複数体消耗が数枚。確実に壁は割り切られますか。しかし……これは……!)
「アタック、入りますよ」
エクスリカバーで増やした壁は当てにならない。
攻撃位置の調整で【赤の精霊】がその1枚だけを破壊していく。反壁は……発動しない。
そして、壁を割るだけでこのターンは終わらないと、ナインは苦々しく思いながら確信する。
「これで最後です。ブレイオンの攻撃とその時に……アーツ、【緋獅王連撃拳】の使用を宣言!」
「っ!」
【緋獅王連撃拳】、ブレイオンのサポートカードの1枚。『ブレイオン』を持つパワーが攻撃するときに半分のコストで唱えられるアーツ……効果は連撃回数の追加というシンプルな効果。……つまり
「三連撃!」
格ゲー地味たコンボムーブでブレイオンがナインに連撃を叩き込む。壁から出た反壁が彩波のパワーを封じていきたいな、ブレイオンを切り裂くも耐性によってその動きは止まらない。
しかし、それでも___
「【矛敵の盾】でガード」
最後の一撃を、反壁から現れたパワーが防いだ。
「は、ァッ!?」
「このままやられるかと、思いましたよ……!」
虎の子の連撃コンボ、それを防がれて彩波の心に動揺が走る。流れは既にナインに切り替わり、ターンを終えた瞬間彩波には彼女のドローが輝いたように見えた。
「正直加減できるほどの余裕もないのでっ、全力で止めさせてもらいます!」
「いや、イベントに出るくらいで……」
「それに陣を持ち出した貴方が言うなっ!」
彩波の反論を封殺し、ナインは【生剣エクスリカバー】を2枚、【がらんどうの騎士】を1枚アイギスに装備させる。
「お覚悟を、終わったら説教です。」
「お手柔らかに……!?」
アイギスが動き出し……ナインの壁を再生させながら彩波を襲う。ここからの反撃は既に、間に合う余地はなかった。
結論からすると、彩波は負けた。顔の治療を受けた後、パラフル共々ナインの前に正座させられる。
「……で、ただ金のためってわけじゃあないんでしょう、このチャラ男に何を吹き込まれました?」
「後から開放される仲間のために副賞の旅行券欲しかったみたいですよ。あと、僕を女装させて賭け事してたのはマジっぽいすね。汚い大人ですよ全く」
ナインに問い詰められあっさりとパラフルを売り渡す彩波、しかし彼の予想とは裏腹にそれを聞いたナインの表情は怒りではなく……口角をつり上げて生暖かい目でパラフルを見ていた。
「ふっぅぅぅぅぅんぅぅ!」
「見るなっ!そんな目で俺を見るなっ!」
その様子を見て彩波は疑問に思う、正直ここからタコ殴りにされてご破算になるものと思っていたが、どうも一転して事情が変わったらしい。
そして、恋愛に興味のない彩波もナインの表情を見て大まかな事情を察する。
「……コレですか?」
小指を立てる。
「ソレですね」
キラキラとした笑顔でナインが小指を立てて返す。もはやパラフルは無言で床に頭を何度も打ち付けていた。
「えっ、ちょ、あれすかあれすか、片思い……?」
「うん」
「うはぁ…!まっじか意外……」
「しかも、パラフルったら回りくどくて、相手に全然伝わって無いんですよ」
「うっははぁ、あとでシンクにも教えないと」
「やめてね」
「やめねぇ!」
「やめて!!」
ひとしきりパラフルが珍しく狼狽えるのを楽しんだ後、落ち着いた彼らは本題に映る。
「うん、そういうことならいいですよ。彩波くんと私も力になります。ですが……」
ナインは事情を知って了承するものの、一つ疑問があった。彩波が少し浮かない顔をしている、というよりどこか不安を感じているように見えた。
「やっぱり女装は嫌ですか?」
「いや、それじゃなくて……」
腕を組んで、うんうんと彩波は唸って考える。時折指折り数えて何処か考察しているようだった。
そして、一つ呼吸をした後……二人に振り向く。
「これ、無理ですね。優勝できませんよ」