洞窟を後にした俺たちは、次の街であるフローラシティへ向かう草原の道を歩いていた。ミハルはそのまま人間の姿で俺の隣を歩いている。
「それにしても、人間の姿のままって疲れないのか?」
「全然、割と負担はないよ」
ミハルは涼しそうな顔をしているが、その時ミハルの腹の虫が盛大に鳴いた
「無理しなくていいぞ。腹減ったんなら休憩しよう」
「ありがとう、ナツキ」
家から出る前に入れておいた食料があったはずだ。とりあえず今日の昼飯は適当にスープにでもしようかな。
「あれ?」
俺はリュックを開けて中身を確認する。
「やべぇ…食料忘れた」
「え?」
ミハルが驚いた顔を向ける。俺は慌ててリュックの中身を全部出してみたが、やっぱり食べ物は何も入っていなかった。
「うわー、完全に忘れてた。興奮しすぎて準備不足だったな…」
「ちょっとナツキ、どうするのさ?」
「とりあえず…何か食べられるものを探そう!」
ココドラも「ココー」と心配そうに鳴いている。
俺たちが辺りをキョロキョロしていると、ミハルが木の上を指差した。
「あそこにリンゴの木がある」
見上げると、確かに大きなリンゴの木があって、赤いリンゴがたくさん実っている。
「やったー!助かった!」
俺は木に駆け寄って登ろうとしたその時、ミハルがすっと空に浮かび上がった。
「ちょっと!人に見られたらやばいって!」
「大丈夫だって、誰も見てないから」
ミハルは軽やかに空を飛んで、リンゴを何個か採った。手には5、6個のリンゴを抱えている。
「うお〜、やっぱりすげーな!ありがとう、ミハル!」
俺は手を伸ばしたが、ミハルはリンゴを後ろに隠した。
「ちょっと待って。働かざる者食うべからず、でしょ?」
「え?」
「私が苦労して採ってきたんだから、ナツキには1個だけ後ついでにココドラの分」
ミハルはいたずらっぽく笑いながら、リンゴを2個だけ俺に渡した。
「1個ずつ!?ちょっと少なくない?」
「文句があるなら、自分で取りなよ」
「うぐぐ…」
確かにミハルの言う通りだ。俺はリンゴ1個を大事に食べながら、どうやってもっと手に入れるか考えた。
とりあえずリンゴの木に登ろう。俺の身体能力ならこれくらい楽勝だ。
意気揚々と木に登り、後少しのところでりんごに手が届きそうになった瞬間
「ん?なっ!?」
木のさらに上からはココガラの群れが現れ俺の頭を突き始めた。
「痛い!痛いって!うわああ」
ココガラたちを振り払おうとしたがバランスを崩してしまい俺は木から落ちてしまった。
「くそっまじかよ……」
その時、群れのココガラが一匹俺の前に降りて来て威嚇し始める。
「そうだ!こいつを捕まえれば取って来てもらえるんじゃないか」
俺はココドラを前に出した。
「ココドラ、頼む!ココガラとバトルだ!」
「ココー!」
ココドラが前に出ると、ココガラも警戒して羽を広げた。
「ココドラ、かたくなる!」
ココドラが身構えると全身が鈍い光を放つ、ココガラは動かないココドラに警戒しつつ「つつく」で攻撃する。
「素早いな。でもそんな攻撃じゃココガラはびくともしないぜ。今だたいあたり!」
ココガラはすばやく「つつく」を繰り出すが、その一撃は硬くなったココドラの体を弾かれ大きな隙が生まれ。
ココガラがその隙をついて「たいあたり」をぶちかます。体当たりをもろに受けたココガラは吹き飛んで地面に倒れてしまう。
「ゲットチャンスだ!モンスターボール!」
俺は体当たりを受けて動けなくなったココガラにモンスターボールを投げる。すると、モンスターボールがココガラを包み込み、3回揺れた後に止まった。
「やった!ココガラゲットだ!」
俺は早速ココガラを出した。
「ココガラ、頼む!あのリンゴの木からリンゴを取ってきてくれ!」
「ココ?」
ココガラは首をかしげたが、俺が木を指差すとすぐに理解したようで空に舞い上がって、リンゴの木に向かっていく。
「よし、これで食糧問題解決だ!」
しかし、ココガラはリンゴを1個採ると、そのまま木の上で食べ始めてしまった。
「おい!俺の分も採ってくれよ!」
ココガラは満足そうにリンゴを食べ続けている。どうやら自分の分だけで満足してしまったようだ。
「うわー、俺のこと無視かよ…」
ミハルはくすくす笑っている。
「ポケモンだって自分の意志があるんだ。命令されて何でもやってくれるわけじゃないよ」
「そんな…このままじゃ俺、リンゴ1個しか食えないじゃんか」
俺は途方に暮れてその場にしゃがみ込んだ。お腹がぐうぅ〜と鳴って、情けない気分になる。
その時、草むらの向こうから「あー、あっちになんか良さげな木の実がなってる」というのんびりした声が聞こえてきた。
「ん?誰だ?」
振り返ると、緑色の髪をした少年がふらふらと歩いてきた。赤い目でおっとりした表情をしていて、首にスカーフを巻いておりフード付きの長袖、厚手の長ズボンを着ている。
「あ、ナツキ君だ。久しぶりー」
そこには学園にいた数少ない友達の1人であるアキラがマイペースな雰囲気でにこにこ笑っていた。
「あっ!アキラ!ちょうどいいところに!」
意外な人物が現れたことに驚いていると木の上からミハルが首を傾げながら質問した。
「誰?知り合い?」
「学園に通ってた時の友達。アキラって名前だ」
「アキラだよー。ここらじゃ見ない顔だね他の地方から来たのかな?」
どうやらアキラは見かけない顔に違和感を覚えたようだ。
「そうそう、そんなところ。ここまで来る途中で出会ってさ仲良くなったんで一緒に旅をしてるんだ」
俺はミハルがミュウだとバレないように教える。それを聞いたミハルも木の上から手を振って返事をした。
「やっほーミハルだよ」
ミハルの説明が終わり早速今抱えている問題について話してみる。
「実は食料を忘れて困ってるんだ」
「食糧不足?」
アキラは俺たちの状況を聞くと、「なるほど」と頷いた。
「それは大変だね。ぼく、料理が得意だから何か作ってあげようか?」
「本当か!?」
「うん。ちょうどいい食材も見つけたし」
アキラはリュックから様々な調理道具を取り出し始めた。その手際の良さに、俺とミハルは驚いた。
「すげー、本格的だな」
「一応料理人だからね。これくらいの準備はできなくちゃ」
アキラは手慣れた様子で野草やキノコを集めてきて、簡易コンロに火をつけた。
「これとこれを合わせて…あーココガラ、そのリンゴを少し分けてもらえる?」
「頼めるか、ココガラ!」
ココガラは素直に応じて、リンゴを半分持ってきた。どうやら料理が気になるらしい。
「ありがとう〜。それじゃあ、これを使って…」
アキラは魔法のように料理を作り始めた。野草のサラダに、キノコのスープ、そしてリンゴを使ったデザートまで。
「うわー、いい匂いだ!」
「できた〜。みんなで食べよう」
「へー結構美味しそうだね」
料理が完成するといつの間にか木の上にいたミハルが俺の隣にいた。
「まだ食うのか?」
「当たり前じゃん。りんごは別腹だよ」
そう言うとミハルは早速料理を食べ始めたので俺たちも食べることにした。
アキラが作った料理は見た目も美しく、味も最高だった。
「うまい!すげーうまい!」
「ふふ、ナツキったら大げさね。でも確かに美味しいよ」
ミハルも満足そうに食べている。ココドラとココガラも、アキラが用意したポケモンフードを美味しそうに食べていた。
「アキラ、君すごいな!どこでこんな料理覚えたんだ?」
「んー、父さんがシェフだからかな。小さい頃から見て覚えたんだ」
アキラは照れくさそうに頭を掻いた。
「そうだ、アキラもポケモンリーグに挑戦するのか?」
「いやしないよ。料理の修行を兼ねて、各地の食材を探しをするんだ」
「え!?そうだっけ?」
「前にもこのことは教えた気がするけど……やっぱり忘れっぽいねー」
そう言われるとそんなことを言ってた気がするな。
「もしよかったら、一緒に旅しない?料理は任せてよ」
「本当か!?ぜひ頼む!」
こうして、俺たちの旅に新しい仲間が加わった。
アキラが仲間になった俺たちは、再びフローラシティに向かって歩き始めた。
「それにしても、君たちも面白いコンビだね〜。ナツキくんは相変わらず慌てん坊だし、ミハルちゃんは何だか不思議な感じだし」
「不思議って何?」
「んー、うまく言えないけど…普通の人とはちょっと違う感じ?」
ミハルは少し怪訝そうな表情を見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「気のせいだよ」
「そうかな〜?」
アキラはのんびりとした調子で首をかしげた。
「まぁいいや。とにかく、これからよろしくね、みんな」
「こちらこそよろしく!」
俺たちの旅は、新しい仲間を得て俺はミハルがミュウだとバレないように教えるより楽しくなりそうだった。
夕日が俺たちの影を長く伸ばす中、3人とポケモンは前に進んでいく。