白い壁に囲まれた研究室。プラチナブロンドの長髪にメガネをかけた白衣の少女と、灰色でツンツンしたロングヘアーと額に着けた黒いライダーゴーグル、そして深緑色のライダースーツの上に白衣を着た男が向かい合って座り、資料を手に真剣な表情を浮かべている。
「フユネ君!君を呼んだのはある頼みがあるからだ!」
クオンツ博士の突然の大声に、フユネは苦笑いを浮かべた。
「頼みですか?」
「ああ!ある調査を君にお願いしたいと思っている!」
博士は机の上に小さなブレスレットを置いた。それは美しい青い石が埋め込まれた、シンプルなデザインのアクセサリーだった。
「これは『オーラストーン』を加工して使いやすくしたアイテム『オーラリング』!今更説明などいらないかな?」
「『オーラストーン』とはポケモンのオーラを吸収し、他のポケモンに分け与えることでそのポケモンを強化する石。そして必要以上のオーラが出てしまわないように加工したものが『オーラリング』でしたよね?」
「うむ、しっかりと理解できているようだな」
クオンツ博士はそう言うと、ドラオム地方に関する資料をフユネに手渡した。
「実は私の研究を手伝って欲しくてね。流石の私でも少し手が足りないんだ」
「博士の行動力ならなんとかなりそうな気が……」
フユネは博士が前の授業の途中で急用ができたと言い、教室を飛び出してフィールドワークに行ったことを思い出す。
「はははっ!近場なら自分でどうとでもなるのだがブラスタウンのような遠方だと学園に迷惑がかかるからね。しかもブラスタウンはオーラストーンの原産地!必ず調査しておきたいんだ」
博士は前のめりになって語り始める。
「迷惑は今更ですよ……わかりました。その調査に参加させてもらいます。個人的に調べたいこともありますから」
フユネはそう言うと手元にあるお守りを見つめてぎゅっと握りしめる。
「いい返事だ!そういえばもう一つ頼みがあるんだが、このオーラリング、実はナツキ君が忘れていったものなんだ」
「え?ナツキが?」
「そうだ。彼はとても急いでいたからね」
フユネにとってナツキは学園での友達だ。慌ただしくて何かと忘れ物も多いイメージがあるので彼らしい。
「分かりました。必ず渡します」
「ちなみに、私はいつでもこの学園で講師をしている!もし何か困った時はいつでも連絡してくれ!」
クオンツ博士のいつも通りの熱さに、フユネは慣れた様子で頭を振った。
*
「見慣れた場所でも旅の途中だからか、少し新鮮に感じる気がするな」
俺はフローラシティのよく通っていた通学路を歩いていた。隣にはミハルとアキラが一緒にいる。
「学園に忘れ物を取りに行くんだっけ?」
ミハルが俺に確認する。
「ああ、オーラリングっていう大事なものを忘れちゃったんだ。それがないと本格的なバトルができないからさ」
「オーラリング?」
「これのことだよー」
アキラは首に巻いているスカーフに付いている宝石のようなものをミハルに見せた。
「こいつを使えばポケモンを強くすることができるんだぜ!」
「へー、面白い使い方するんだね」
「扱うのは簡単だけど使いこなすのは結構難しいんだよね――なんか騒がしくない?あそこ」
俺たちが街の中央広場を通りかかった時、大きな騒ぎが起こっていた。
「やめて!コリンクを放して!」
広場で、一人の少女が必死に叫んでいる。彼女の前には、黒と紫のジャンプスーツを着た2人の男女が立っていた。胸にはEのロゴが光り、ゴーグル型のデバイスを装着している。
「うるせー、黙ってろ!このコリンクは俺たちがもらっていくぜ」
ヤンキーのような風貌をした男性が、ケージに入ったコリンクを抱えている。コリンクは弱々しく鳴いていた。
「終わった?騒ぎになる前にトンズラしないと後が面倒だよユウヤ」
白衣を着た女性が冷静にアドバイスする。
「おい!何をやってるんだ!」
俺は我慢できずに前に出た。ポケモンを苦しめる連中を見過ごすことはできない。
「あ?なんだガキ、邪魔すんな」
ユウヤは面倒くさそうに俺を睨む。
「ポケモンは仲間だ!勝手に奪っていいもんじゃない!」
「はっ、仲間だって?笑わせんな。ポケモンなんて力を発揮するための道具にすぎねーんだよ」
その言葉に、俺の怒りが爆発した。
「ふざけるな!ココガラ、出てこい!」
ココガラが勢いよく飛び出し、エボル団の前で身構える。
「チッ、面倒なことになったな。マナ、お前も手伝えよ」
「えーめんどくさ。コダック任せたよ」
ユウヤはヤンチャムを、マナはコダックを繰り出した。
「アキラ、手伝ってくれ!」
「うん、わかった。コジオ、お願い」
アキラも参戦し、2対2のバトルが始まった。
「コジオ、『いわおとし』!」
コジオは岩を目の前に生成すると、ヤンチャムに向かってそれを放つ。
「ヤンチャム、『つっぱり』で迎え撃て!」
「コダック、『ねんりき』で叩きつけて!」
ヤンチャムは飛んできた岩にツッパリを放ち粉々に砕き、コダックは隙ができたコジオを『ねんりき』で持ち上げて地面に叩きつける。その衝撃で砂埃が舞い上がる。
「まずは一匹だな……む?」
砂埃が晴れるとそこには、少し傷はついているがなんともなかったかのように佇むコジオがいた。
「な!?あんま聞いてねぇじゃねぇかマナ!」
「やっぱり岩タイプは硬いね……⁉︎ココガラがいない――後ろ!」
「ココガラ!そのまま全速力で『つつく』んだ!」
コジオが2体の相手をしている内に背後に回り込んだココガラは、ヤンチャムに向かって全速力で突っ込みながら『つつく』。ヤンチャムは大きく吹き飛び、そのまま戦闘不能になる。
「ヤンチャム――!」
「ぐっ!コダック、『みずでっぽう』!」
「ココガラ、よけながらコジオを持ち上げろ!」
ココガラはコダックの『みずでっぽう』を避けながらコジオの方に向かい、足で掴んで上空に連れて行く。
「ココガラ、コジオをコダックにぶん投げろ!」
「なるほど。コジオ、『たいあたり』!」
ココガラはコダックに向けてコジオを投げると、コジオはそのまま『たいあたり』の姿勢に入る。
「速くて避けきれない!コダック、『ねんりき』で受け止めて!」
コダックは高速で飛んでくるコジオを『ねんりき』で受け止めようとしたが少し減速するだけに終わり、そのまま顔面にコジオの『たいあたり』がクリーンヒットする。そして、コダックは戦闘不能になった。
「ナイスコンビネーションだぜアキラ!」
「即興でもなんとかなるもんだねー」
二人でハイタッチして勝利に喜ぶ一方、エボル団の2人は歯噛みしていた。
「クソ、やられちまった…」
「でも、まだ終わりじゃないんだよね」
マナが不気味な笑みを浮かべながら、ゴーグルのサイドについているスイッチを押した。
「さあオーバーリンク発動!ポチッとな」
ケージの中のコリンクが突然立ち上がった。しかし、その様子は明らかにおかしい。体の周りにドス黒いオーラが渦巻き、目が真っ赤に染まっていく。
「これがオーバーリンク。強制的にポケモンの限界を超えさせる技術」
「そんな…ポケモンが苦しんでる!」
心配したミハルが駆け寄ろうとしたが、オーバーリンクしたコリンクの『でんきショック』が襲いかかる。その威力は通常の何倍もあり、ミハルを守ろうと前に出たココガラもコジオも一撃で吹き飛ばされた。
「ミハル!ココガラ!」
「コジオ!」
「無駄だよ。オーバーリンクしたポケモンに、普通のポケモンが勝てるわけない」
マナが冷酷に言い放つ。コリンクは制御を失い、周囲に電撃を撒き散らしている。
俺は二匹と一緒に吹き飛ばされたミハルに駆け寄る。
「大丈夫か!ミハル!」
「私は大丈夫、当たってないよ。それよりもコリンクがこのままだと自分の電撃に耐えられない」
「それにこのままだと街に被害が出そうだよー」
「くっ……ココドラ!出てきてくれ!」
俺はとりあえず暴走するコリンクを対処するためにココドラを出して、どうするか必死に考えたが、打つ手が見つからない。
「ナツキ!」
突然、聞き覚えのある声が響いた。振り返ると、プラチナブロンドの髪に黒縁眼鏡をかけた少女が走ってくる。あいつはもしかして……フユネ!?
「フユネ!なんでここに!」
「説明は後よ!これを使って!」
フユネはオーラストーンがついたブレスレットを俺に投げ渡した。
「俺のオーラリング!?」
「クオンツ博士から預かったの!私のミニリュウのオーラを入れてるからすぐに使える!」
俺はブレスレットを右手首にはめた。その瞬間、石が温かく光り始める。
「ココドラ、俺を信じろ!」
「ココー!」
ココドラは俺を真っ直ぐ見つめた。
「限界の向こう側へ!オーラリンク!」
俺とココドラの心が完全に同調した瞬間、オーラストーンが眩い光を放った。美しい紺色のオーラがココドラの体を包み込む。
「すげー…」
アキラとミハルは息を呑んだ。ドス黒いオーラに包まれたコリンクとは対照的に、ココドラのオーラは美しく神々しい輝きを放っている。
「うわぁ……もしかして逆転される流れ?」
マナが驚愕する。
「行くぞ、ココドラ!」
「ココォォォ!」
ココドラが気合を入れて吠えるとそれに反応したコリンクが『たいあたり』でココドラに突っ込んでくるが、ココドラが手を振り上げると3本の鋼でできた爪が伸び、コリンクを切り裂く。
「新技『メタルクロー』か!いいぞココドラ!そのまま『たつまき』だ!」
ココドラがオーラリンクの力で出せるようになったミニリュウの技『たつまき』を繰り出し、コリンクを巻き込む。
「コリ…」
そのままコリンクは吹き飛び、ドス黒いオーラが消え、赤い目も元の優しい色に戻る。そして、安らかな表情で眠りについた。
「マジか!オーバーリンクまで……てか『たつまき』がこっちに来るぞマナ!」
「やな感じ〜ってやつ?」
ココドラの『たつまき』がユウヤとマナを大空へと吹き飛ばす。
「「覚えてろ――!!!」」
二人はベタな捨て台詞を吐くと大空へと消えていった。
「やったー勝ったぞ!」
俺はココドラを抱きしめた。ココドラも嬉しそうに「ココー」と鳴く。
「ナツキ、すごかったよ」
アキラが感心したように言う。
「フユネのおかげだ。ありがとう」
俺はフユネに向き直った。
「ふふっ、それはオーラを分けてくれたミニリュウに言ってあげて」
フユネは微笑み、ミニリュウを持ち上げながら答えた。
「それより、このコリンクは大丈夫?死んだりしないよね」
ミハルがコリンクの様子を見ている。コリンクは静かに眠っているが、息はしっかりしていた。
「きっと大丈夫よ。オーバーリンクの影響が消えれば、元に戻るはず」
フユネが診断する。
「よかった…」
コリンクの飼い主だった少女が、涙を流しながらコリンクを抱きしめた。
「ありがとうございました!」
コリンクは無事飼い主に連れられてポケモンセンターに向かい、事件は一件落着した。
「それで、フユネはなんでここにいたんだ?」
「実は、クオンツ博士からナツキにオーラストーンを渡すように頼まれていたの。それに、『ドラオム地方でのオーラリンクによるポケモンの変化』を調査するフィールドワークでドラオム地方を回っているところだったから」
「そうだったのか。本当に助かったよ」
「私も久しぶりにナツキに会えて嬉しい。ふふ、ココドラとも相変わらず仲良しね…私?…見ての通りよ」
ちょうどその時、フユネの肩からミニリュウが顔を出して、俺たちに挨拶するように鳴いた。
「あ、可愛い!」
ミハルがミニリュウに微笑みかける。
「それにしてもエボル団、ポケモンを道具扱いするだけじゃなくてオーラストーンを悪用するなんて」
フユネは怒りを露わにして手を握りしめる。
「そういやあのオーバーリンクってなんなんだ?」
あのコリンクの異様な様子は明らかにヤバかった。
「あれはオーラリンクの暴走状態みたいなもの。本来オーラストーンには、オーラリングとかに加工する時に必要以上のオーラが出ないようにリミッターをつけるの。多分エボル団が使うオーラストーンにはリミッターがついていないんだと思う」
ミハルはそれを聞いて嫌そうな顔をして、愚痴をこぼす。
「そんなことを……それは看過できないね」
「ええ、だからこそオーラストーンについてもっと研究して世間に広めて危険性を教えていかないと。そのために私はこの旅でオーラストーンがどこから来ているのかを解き明かす」
フユネはそう言いながら右手につけた指抜き手袋のオーラストーンを見せる。
「そうだ、もしよかったら一緒に旅しない?いいよねナツキ」
「ああ、フユネが良ければ」
ミハルの提案に、フユネは少し考えてから頷いた。
「博士の調査も兼ねられるし、お願いします」
「やったー!これで仲間が4人になったな」
アキラも嬉しそうに手を叩く。
「よろしくね、フユネ」
ミハルも微笑みかける。
「こちらこそ、ミハル」
フユネも笑顔で応えた。
*
夕日が街を染める中、4人は宿屋で今後の予定を話し合っていた。
「明日はメノウジムに挑戦だな」
「ついに最初のジム戦だね」
ミハルが楽しそうに言う。
「フユネも挑戦するの?」
「私はいいかな。ナツキのバトルを見てみたい」
「じゃあ、3人でナツキのバトルを観戦だねー」
アキラがのんびりと微笑む。
「任せろ!このオーラストーンがあれば怖いもんなしだ!」
俺は手首のオーラストーンを見つめた。今日実戦で初めて体験したオーラリンクの力。ココドラとの絆が形になった、特別な力だった。
「明日からが本当の冒険の始まりだな」
俺たちは、明日への期待に胸を膨らませながら眠りについた。