踏み台になりたい転生者のお話   作:一 八重

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幾千幾万と繰り返した行為は思考を置き去りにした。
from先攻ドローでジャッジキルを受けたデュエリスト


プロローグ

 

 私の名前はマリア・ハワード。端的に自己紹介するならば初代遊戯王の世界に転生してしまったメアリー・スーだ。名前から想像がつくかもしれないが、あのキース・ハワード(バンデット・キース)の姪だ。

 

 私にとって叔父は実質的な育ての親だ。共働きで世界中を駆けずり回っている両親に代わり、それこそ"親より見た顔"と言っても過言ではない頻度で私に会いに来てくれた。私がエレメンタリースクールに進学する前は週に3日から5日は泊まっていたほどだ。

 

 

「闇の量産工場を発動、墓地のキラー・マシン2枚を手札に加える。前のターンに発動した血の代償の効果でキラー・マシンを召喚。何もなければ2枚目のキラー・マシンを通常召喚するぜ」

 

「えっと、だ、大丈夫です」

 

「おい、その()()()()()()()()()()()()()()()()と睨めっこしてないで対戦相手と場を見やがれ」

 

 

 そして現在、テレビの向こう側では叔父の原作におけるターニングポイント──バンデット・キースvsペガサスから虎の巻を渡されたトム少年──が繰り広げられている。本来ならば叔父はトム少年に惨敗し、名誉も栄光も失うことになるのだが、それは今の私にとって許しがたい運命だ。

 

 だから私は、叔父がペガサスの策謀によって狂わされるその運命を捻じ曲げるために1つの策を用意した。ミレニアムアイの性能は不明な点も多いが、いくら彼でも認知していない相手の心は読めない以上、この策が有効に働く自信はあった。まさか、ここまで上手くハマるとは思ってなかったけど。

 

 

『もしもペガサスに対戦を希望した時、そのための条件としてペガサス以外との対戦がセッティングされたら、互いが席に着いたタイミングでこの手紙を読んで欲しい』

 

 

 手紙の内容は『その対戦相手はきっとペガサスが用意したメタデッキを使ってくるはずです。私を信じて使用デッキを変更して欲しい』とだけ書いた。このようなお願いをした理由は、ペガサスがトム少年に渡したデッキはバンデット・キースが最近の大会で使用しているデッキを徹底的にメタったものだと予想できるからだ。そうでもなければ原作でああも呆気なく全米チャンピオンが初心者に負けるわけがない。

 

 ハッキリと言って叔父のマジック&ウィザーズにおける全盛期()の強さは異常だ。デッキの構築能力やプレイングスキルが高いのはもちろん、その知識量は尋常じゃないし、ピンチの時は引きたいカードが引けるらしい。デュエルリンクスのキャラクタースキルの類かな?

 

 

「バトルフェイズだ。キラー・マシーンで飛行エレファントに攻撃、攻撃宣言時に何か発動するカードはあるか?」

 

「えっと、あ、ありません」

 

「なら()()()()()()()()()手札から突進を発動する。チェーンはあるか?」

 

「あ、ありません!」

 

「ならダメージステップ時に手札からリミッター解除だ。何もないようなら俺の場の機械族モンスターの攻撃力は2倍になる」

 

 

 変更されたデッキに同じ対策が有効かは、テレビ中継に映り込んだペガサスの苦虫を噛み潰したかのような表情が雄弁に語っている。ペガサスはおそらく誰よりも早くトム少年の敗北を確信出来てしまったのだろう。

 

 

「倍っ!?」

 

「突進で攻撃力が700アップしたキラー・マシンの攻撃力は2550。リミッター解除の効果で5100になる。飛行エレファントの攻撃力との差分、3250ポイントの戦闘ダメージを受けて貰うぜ」

 

「は、はぃ」

 

「最後にキラー・マシンでダイレクトアタックだ。何かあるか?」

 

「ありません」

 

「俺の勝ちだな。グッドゲーム、初心者にしては中々だったぞ」

 

 

 テレビの向こう側から全米チャンピオンの順当な勝利とトム少年は健闘を讃える万雷の拍手が響く。トム少年のプレイングも悪かったわけじゃない。どう考えてもデッキを用意したペガサスのミスだ。初心者にも使いやすい【装備ビート】あたりならば、お互いのドロー次第ではもっと良い勝負になったかもしれない。

 

 

「やっとだ。やっと戦えるなぁ……マクシミリアン・ペガサス!*1

 

「……っ、いいでショウ。受けて立ちマース!」

 

 

 ペガサスはテレビ中継の前でトゥーンやサクリファイスを易々と使用するわけにはいかない。何故ならアメリカ人の多くは富裕層による不公平な行為を知った時、まるで自分がその被害に遭ったかのごとくキレ散らかす国民性を持っているからだ。

 

 

「トゥーンは現在開発中の新しいカードたちデース! 今回は特別に皆さんに公開しマース!!」

 

 

 もしペガサスが多くの観衆と視聴者の前で自分だけが使えるパワーカードによる塩試合なんて披露すれば、それはもう酷いことになるのが目に見えている。それでもトゥーンやサクリファイスを使うのならば相応の言い訳が必要だった。

 

 おそらく『あまりにも強すぎてゲームバランスを崩壊させる危険性があるため発売は見送ることになった』とか後で発表するんだろう。

 

 

「トゥーン・ヂェミナイエルフでセットモンスターに攻撃!」

 

「ファイバー・ポットだ。リバース効果にチェーンはあるか?」

 

「トゥーンは無敵の生命体デース!モンスターの効果も受けまセーン」

 

「そうか、ならテキストを確認させてくれ

 

「What?!」

 

「おいおい、カードの効果を確認できるのはマジック&ウィザーズのルールだろうが」

 

 

 マインドスキャンで叔父の心を読んでいたはずのペガサスに失敗(ガバ)があったとするならば、テキストの確認を要求したのが思考の末の発言ではなく、デュエリストとしての反射的な発言だったことだろう。

 

 

「おい、ジャッジ! トゥーンモンスターやトゥーンワールドのテキストには魔法や罠、モンスター効果の耐性に関して一切書かれていないが、ファイバー・ポットの効果処理はどうなる?」

 

「えっと、ですね……」

 

「まさかトゥーンモンスターにはテキストに書かれていない耐性効果があるなんて言わなねぇよな?」

 

 

 叔父の非難の声が大会会場に響き渡ったのだろう。テレビ中継の実況と解説も黙った。まるで永遠とも思える10秒が過ぎた後、叔父はペガサスに対して深い失望と侮蔑の表情を浮かべながら何も言わずに退席した。

 

 

「えー、エキシビジョンマッチはキース選手の試合放棄によりペガサス・J・クロフォードの勝利です!」

 

「BOO! BOO!」

 

 

 バンデット・キースとペガサスよるエキシビジョンマッチは全米チャンピオンの試合放棄によってペガサスの勝利となったが、この勝負でペガサスが不正行為を働いていたのは誰の目から見ても明らかだった。

 

 

「マリア。これをお前にくれてやる」

 

「え、ちょっと待ってよ。叔父さん、まさかマジック&ウィザーズをやめちゃうの!?」

 

「ああ、あのクソ野郎のせいで冷めちまった」

 

 

 あのエキシビジョンマッチの翌朝、私を訪ねて来た叔父はまるで魂が抜け落ちたかのようだった。

 

 

「ねぇ、一緒に暮らそう? また一緒にマジック&ウィザーズで遊んでよ」

 

「悪いな」

 

「叔父さん!」

 

 

 それ以降、私は叔父と会っていない。

 原作のように落ちぶれたという噂も聞かない。

 結局、私は叔父を救えなかったのだ。

 

 

*1
英語圏でのペガサスの名前。本作ではマクシミリアン・ペガサスを本名、ペガサス・J・クロフォードをビジネスネームとして扱う。




・キースが突進をバトルステップで発動させた理由
当時まだ採用率がそれなりにあったマジック・ジャマーを警戒したプレイングです。

・キースがペガサス戦で使用したデッキ
キースがトム少年戦で使おうとしていたグッドスタッフ。魔法や罠による除去を多めに採用しているため、飛行エレファントなどの破壊耐性を持ったモンスターや除去を無効にするカードは苦手。

・ペガサスの特大のガバ
当人は大会勢ではないため、フェイズの宣言やチェーンの確認、公開情報の精査が反射条件となっている大会勢の業の深さは思慮の外にあった。

キースside(vsイリアステル編)の話は──

  • 要る。
  • 要らない。
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