マリア視点だとさらっと流された1年前の全米選手権についての補完です。
マリア・ハワードという少女は、史上最強の全米チャンピオンと呼ばれていたキース・ハワードが失踪した後に台頭したデュエリストだ。
あのキース・ハワードの姪という続柄という理由から
彼女が台風の目として注目されたいた去年のマジック&ウィザーズ全米選手権決勝トーナメントの開催数日前。決勝トーナメントに出場予定のデュエリストの多くが天馬太陽という名前だけジャパニーズっぽい男に集められた。
「正体隠す気あんのかお前」「よく俺たちの前に顔を出せたな」など罵声を浴びまくってるし、何人かはパンチを放ってもいたが、いったい奴はどこのクロフォードなんだろうな。かく言う俺も暴言暴力には及ばなかったが、かなり苛立ってはいた。
「彼女の快進撃を止めるのを手伝ってくだサイ」
彼女は予選を全試合1ターンキルという異常な成績で通過していた。それは1セット目で先攻を取られた時点で負けが確定するのも同義ということ。まだ叔父の方がマシだと言う奴までいる。
「もちろん勝つのが望ましいデスが、無理なら1セットでいいデス。あの子を無傷のままチャンピオンにしてはいけマセーン。キース・ハワードの二の舞にだけは絶対にしてはならないのデース」
キース・ハワードが失踪した本当の理由は誰も知らない。しかし、ここ集まった全員が『自分がキース・ハワードと対等な実力のあるデュエリストだったなら、奴が失踪することはなかったかもしれない』という考えを共有していた。
俺たちにとってキース・ハワードという男は偉大過ぎるチャンピオンだ。世間じゃ鎬を削り合っているなんて言われていたが、俺たちはキース・ハワードという刃物をより鋭く削るための研磨剤にしかなれていない自覚があった。
「よろしくお願いします」
「よろしくな」
俺がマリア・ハワードと対戦したのは決勝トーナメント準決勝だった。それまでの1回戦から3回戦まで彼女は1セットも落としていない。1ターンキルを阻止した奴はいたが、彼女はいまだ無傷の女帝のままだった。
コイントスの結果は裏。彼女の先攻になった。俺はこの時点で負けを予感していたが、それでも諦めるという選択肢はなかった。ジャパンのバスケットを題材としたコミックに出てくる監督も「諦めたらそこで試合は終了ですよ」と言っていたしな。
「ドロー、スタンバイ、メインフェィズ。発動するカードはありますか?」
「ない」
年齢不相応に丁寧な優先権の確認。そして歴戦のデュエリストのような威圧感。パチパチと慣れた手つきで手札をシャッフルしているのは手癖だろうか。ちょっとカッコいいから今度練習してみよう。
「《苦渋の選択》を発動します。チェーンはありますか?」
「ない」
「《処刑人マキュラ》2枚《混沌の黒魔術師》2枚《カタパルトタートル》から1枚選んでください」
「《カタパルトタートル》にしよう」
《苦渋の選択》は相手に苦渋を強いるブラック・ユーモアしかないカードだ。おそらく何を選んでも《手札抹殺》や《天使の施し》で捨ててくるだろう。
「《天使の施し》を発動します。チェーンはありますか?」
「ない」
「3枚ドローして《カタパルトタートル》と《混沌の黒魔術師》を捨てます。《苦渋の選択》を発動します。チェーンはありますか?」
「ない」
「《魔導サイエンティスト》3枚《昇霊術師ジョウゲン》《クリッター》を選びます。1枚選んでください」
「《昇霊術師ジョウゲン》だ」
これでマリアが《死者蘇生》を引いていれば負けだ。そしてマリアはこの手のキーカードを引き込むのが異様に上手い。おそらく手札増強カードを温存しているはずだ。
「《強欲な壺》を発動します。チェーンはありますか?」
「ない」
「カードを1枚セットして*1から《混沌の黒魔術師》を対象に《死者蘇生》を発動します。チェーンはありますか?」
「ない」
「特殊召喚した《混沌の黒魔術師》の効果で《死者蘇生》を手札に加えます。チェーンはありますか?」
「ない」
「《混沌の黒魔術師》を対象に《死者蘇生》を発動します。チェーンはありますか?」
「ない」
「特殊召喚した《混沌の黒魔術師》の効果で《死者蘇生》を手札に加えます。チェーンはありますか?」
「ない」
「《混沌の黒魔術師》を対象に《死者蘇生》を発動します。チェーンはありますか?」
「ない」
「特殊召喚した《混沌の黒魔術師》の効果で《死者蘇生》を手札に加えます。チェーンはありますか?」
「ない」
「《カタパルトタートル》を対象に《死者蘇生》を発動します。チェーンはありますか?」
「ない」
「《カタパルトタートル》の効果を使用します。コストは《混沌の黒魔術師》です。チェーンはありますか?」
「ない」
「《カタパルトタートル》の効果を使用します。コストは《混沌の黒魔術師》です。チェーンはありますか?」
「ない」
「《カタパルトタートル》の効果を使用します。コストは《混沌の黒魔術師》です。チェーンはありますか?」
「ない。俺の負けだ」
《カタパルトタートル》の効果による1ターンキルの成立。それが彼女の常套手段であることは調べがついていたし、これまでの試合と同じなら2セット目は【八咫ロック】や【変異カオス】のギミックを混ぜた型にスイッチしてくるはずだ。
気を取り直して2セット目。初手に《月の書》を2枚引いてしまったこと以外は理想的な手札だ。あわよくば《光の護封剣》や《王宮の弾圧》などのロックカードを引いておきたかったな。
「ドローからメインフェイズまで。何かあるかな?」
「ないです」
「モンスターをセット。カードを1枚セット。セットモンスターを対象に《太陽の書》を発動する。チェーンはあるかな?」
「ありません」
「《メタモルポット》のリバース効果を発動。チェーンはあるかい?」
「ありません」
「なら私はチェーンして《メタモルポット》を対象に《月の書》を発動する」
「チェーンはありません」
「手札を全て捨てて5枚ドローするよ」
「手札を全て捨てて5枚ドローします」
カードの同時処理は原則としてターンプレイヤーから行う。あまり気にするデュエリストはいないけれど、どうやら彼女は違うようだ。しかし、今のドローで《王宮の弾圧》と《光の護封剣》を引き込むことが出来た。
これさえあればワンキル出来なくても問題なく次のターンが回ってくるはず──だった。
「相手のカードの効果で墓地に送られた《ネコマネキング》の効果を発動します。チェーンはありますか?」
「なんだって?」
「ですから《ネコマネキング》の効果を発動します。チェーンはありますか?」
「効果を確認してもいいかな?」
「もちろんです」
《ネコマネキング》を手に取って効果を読み理解した時、俺はゾッとした。まさか俺の【デッキ破壊】の対策としてこんなカードがあったなんて知らなかったんだ。おそらくは《いたずら好きの双子悪魔》のようなハンデスの対策も兼ねたカードなんだろう。
「チェーンは、ない」
「ではエンドフェイズを始めてください」
「ターンエンドだ」
幸いにして俺のセットカードは2枚目の《月の書》だ。
1ターン凌げればチャンスはある。
「ドロー、スタンバイ、メインフェィズ。《天使の施し》を発動します。チェーンはありますか?」
「ない」
彼女がチェーン確認をするたび、俺の首がコットンのような何かで締め付けられているような気がするな。このプレッシャーがリトル・エンプレスという異名の由来なのかもしれない。
「3枚ドローして《処刑人マキュラ》と《聖なる魔術師》を墓地に送ります。墓地の《処刑人マキュラ》と《昇霊術師ジョウゲン》を除外して《混沌帝龍-終焉の使者-》を特殊召喚します」
「墓地を確認させてもらっていいか?」
「いいですよ」
「ありがとう。《混沌帝龍-終焉の使者-》が特殊召喚したとき《混沌帝龍-終焉の使者-》を対象に《月の書》を発動する。チェーンはあるか?」
「ありません」
彼女の墓地に闇属性モンスターはもういない。これで一旦は攻勢を凌ぐことが出来た──そう思っていた。
「《混沌帝龍-終焉の使者-》を生け贄に《モンスターゲート》を発動します。チェーンはありますか?」
「なっ、ない」
「……《カタパルトタートル》を特殊召喚します。墓地の《混沌帝龍-終焉の使者-》と《聖なる魔術師》を除外して《混沌帝龍-終焉の使者-》を特殊召喚します。カードを1枚セット。《王宮の号令》を発動します。チェーンはありますか?」
「ない」
《王宮の号令》はリバースモンスターの効果を無効にする永続罠だ。《ネコマネキング》といい彼女は俺のデッキを完全に封じる気だったらしい。
「バトルフェイズに入ります」
その宣言はさながら処刑宣告のようだった。
「《カタパルトタートル》でセットモンスターに攻撃します」
「《メタモルポット》だ。効果を発動するが──」
「《王宮の号令》の効果で無効になります」
「《混沌帝龍-終焉の使者-》でダイレクトアタック」
「残りライフは1000だ」
「メインフェィズ2。1000ポイントのライフを支払い《混沌帝龍-終焉の使者-》の効果を発動します。チェーンはありますか?」
「ない。対戦ありがとう。見事な戦術だった」
「ありがとうございます。また戦いましょう」
「そうだな。来年またここでやろう」
その後、マリア・ハワードは決勝戦で天馬太陽を降してマジック&ウィザーズ最後の全米チャンピオンの座に就いた。あの男のしたことは今でも許していないが、あの子から唯一セットを奪い完全無欠の女王として君臨させなかったことだけは感謝している。
これは余談だが天馬太陽もといペガサス・J・クロフォードはインダストリアル・イリュージョン社との『公式大会に出てはならない』という契約を破ったことで多額の賠償金を支払ったらしい。出場した理由は黙秘を貫いたらしいが、まぁ沈黙は金というやつだろう。
※マークのせいで本作のあらすじ(とプロット)を書き直すことになりそうです。数日内に修正するので許してください。全部ダイスの愉悦神って奴が悪いんです。
マリア・ハワード
自分に付けられた呼び名に頓着しないタイプのデュエリスト。厨二病は前世で卒業した気でいる。フリー対戦では結構セットを取られているが、公式戦でセットを落としたのは未だに天馬太陽戦とシェパード戦のみ。
インダストリアル・イリュージョン社からのメディア出演依頼を全て断っているため不仲説が囁かれている。叔父を悪し様に言う奴らと仲良くするわけがないんだよね。
シャカパチは呼吸。手札が0枚でも手札を持っているかのように手を動かすくらい身体に染み付いている。
マーク
本作のバグ。ぽっと出のオリキャラのはずだった男。
シャカパチの練習で指を切った。
ペガサス
実はこれまでも後書きに透明文字で動向が書かれていた男。マリアの事情を転生なども含めあらかた把握している。
前年の全米選手権では天馬太陽の偽名で出場していた。偽名はGBAの『遊戯王8』に登場する大邪神レシェフに洗脳されたペガサスが名乗った名前から。ちなみにマリアは天馬太陽をペガサスのコスプレイヤーだと思っています。
天馬太陽が使用したデッキは?
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【トゥーン】
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【サクリファイス】
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マリアのコピーデッキ