マイコ・カトウがマリエ・カトウやマリア・カトウになってる誤字表記を確認しました。現在修正中です。もし見つけたらそっと脳内変換してください。
大会会場最寄りの病院に到着し、マークの様子を伺いに病室を訪ねると警察官とすれ違った。どうやら意識を取り戻してすぐに事情聴取を受けたようだ。
「こんにちは。撃たれたと聞きましたけど、いったい何があったんですか?」
「ああ、チャンピオンか。八百長を依頼されて断ったら背中からZAP*1だ。それと犯人にデッキを奪われたみたいでな。2回戦はどうやっても出れそうにない。約束を守れなくてすまなかったな」
「謝ることではありません。どう考えても襲撃者が悪いんですよ」
「ああ、ぶち殺してやる」
私もマークを襲い、デッキを奪った犯人のことは絶対に許せない。もし見つけたら精霊たちにお願いして地獄すら生温い責め苦を味あわせてやる。
『呼んだー?』
一応確認しておくけど、精霊ぱわーでマークやアイカワのデッキの現在地がわかったりしない?
『するよー! 同じところにあるー!』
するの!? 凄いな精霊ぱわー
『どやぁ!』
私の精霊が可愛くて困る。
『カッコいいがいいなー』
とはいえ「スピリチュアルパワーでマークとアイカワのデッキの現在地が分かります」なんて言い出せば頭の病院を勧められるだろう。単独行動は論外。対人戦闘を経験したことのない華奢な身体は精霊ぱわーを借りない限りは荒事になった瞬間に詰む。
デュエルマッスルを鍛えていればワンチャンあった?
「急に黙ってどうしたんだ?」
「…………マーク、ちょっと待ってて」
「?」
おそらく彼とほぼ同時刻に襲われたアイカワ選手もデッキを奪われている。アイカワ選手はシェパードと同じサイバー流の師範だ。師範のデッキが暴力によって奪われたと知れば、きっと門下生一同ブチギレてることだろう。
「うん、他に手は思いつかない。ひとまずデッキだけでも見つける。もし犯人を見つけたら人相書きを作ってサイバー流に渡す」
前世は中学から大学まで美術部だった。人物画は得意な方だ。今世の記憶力と併せれば一度見た相手の人相書きくらい余裕だろう。
「おい、おまっ、それはダメだろ!」
「デッキを奪う奴に人権とか要らなくない?」
「それはそうだが」
しかし、この13歳の華奢な体躯では荒事以前に長距離の移動すら難しい。誰か頼れそうな大人の協力が欲しいところだ。シェパードなら与太話に付き合ってくれるだろうか。彼はまだアイカワの病室にいるはずだ。私はマークに別れを告げてから早足でアイカワの病室へと向かった。
「おや、リトル・エンプレスまで来てくれたのかい?」
「アイカワ、シェパード。いきなりで悪いんだけど、私にはマークとアイカワのデッキを取り戻せる可能性に心当たりがあるの。絶対に取り戻せる保証はないけど、協力してくれませんか」
「マリアちゃん、それは本当かい?」
「私にはカードに宿った精霊が見えるの。その精霊がデッキの場所が分かるって言うのよ」
《ダーク・アームド・ドラゴン》の咆哮をその身に浴びたシェパードなら信じてくれるかもしれない。信じてもらえなければ、明日の試合を最短で終わらせてから自重を捨てて単独行動する。
「カードの精霊? んな馬鹿な」
「……その精霊、もしかして《ダーク・アームド・ドラゴン》かな?」
「そうよ。試合中に咆哮で相手を威嚇するヤンチャな子だけど、絶対に嘘だけは言わないわ」
「分かりました。協力しましょう」
「おい、シェパード。子どもの与太話だぞ?」
『ここ吹き飛ばせば信じてくれるかなー?』
それはやめてね。アイカワが今度こそ死んじゃう。
『ざんねーん』
自分で持ち掛けておいて言うのもなんだけど、アイカワの反応が正常なんだよ。むしろシェパードが簡単に信じてくれるとは思わなかった。
「カードの精霊、実に夢のある話じゃないですか。それに彼女は子どもである前にチャンピオンですよ。カードのことで嘘は言わないでしょう」
「はぁ……動けない俺が何を言っても無駄か。危ないと感じたらすぐに引くんだぞ?」
「ありがとうございます」
と言うわけで私とシェパードは《ダーク・アームド・ドラゴン》に導かれるまま病院から車で15分くらいの距離にある倉庫街まで移動した。
「警察? 嫌な予感がするのだけど……」
「奇遇だね。私もだよ」
《ダーク・アームド・ドラゴン》が示した倉庫の入り口はブルーシートで覆われ、近くには数台のパトカーと警察官、そして十数名の野次馬と思われる人たちがいた。
「ここで何があったんですか?」
「殺しだよ、殺し。どうも若い女性が殺されていたらしい」
「そうですか……ありがとうございます」
マークとアイカワに八百長を持ち掛けた自称インダストリアル・イリュージョン社の人間と同一人物だろうか。口封じのために殺されたのかもしれない。
「シェパード? 何処に行ってたんですか?」
「ああ、警察官に
「あ、はい」
後で聞いたのだけど、どうやらシェパードはサイバー流の門下生全員の顔と名前と職業を把握しているらしい。シェパード、有能過ぎって言われない?
「マリアちゃんは明日も試合なんだから早くホテルに戻らないとね。送ってあげるよ」
「ありがとうございます」
2人の元にデッキが返還されるのならデッキを奪った女性が死んでいたことは些事だ。殺された経緯に興味はない。私は泊まっているホテルまでシェパードに送ってもらった。
そして翌日。3回戦のステージに車椅子に乗った老婆が姿を見せた。何となく察してはいたけれど、本物のマイコ・カトウだ。この貴婦人然とした佇まいとプレッシャーを偽物が出せるとは思えない。
つまり1回戦で偽物扱いしてしまったウィラー・メットも本物である可能性が高いということだ。偽物扱いしたことを後で謝りにいくべきだろうか。*2
(リンクモンスターのいない【剣闘獣】か。動きはほぼ前世で世界大会を優勝した時のそれと変わらないと思うけど、たぶん炎星のような獣戦士族サポートとか入ってるよね。相性悪いなー)
マークから聞いた話によれば、カード・プロフェッサーたちが使っている未来のカードは、ペガサスが私の記憶を元にデザインしたものを天馬夜行が持ち出したものらしい。
私が「ペガサスに会ったことはない」と言ったら、去年の全米選手権決勝で対戦したペガサスのコスプレイヤー"天馬太陽"がペガサス本人だったと教えてくれた。私の目は節穴だったようだ。
「あなたに勝ったら懸賞金で孫たちに何を買ってあげようかしら……悩んじゃうわね」
「懸賞金? 私に?」
「そうよ。この大会の優勝賞金と同じ100万$の懸賞金があなたに賭けられているの」
遊戯王Rで武藤遊戯に10万$の賞金が掛けられていたことを考慮すれば、私に100万$の価値はない。元全米チャンピオンという肩書きがあっても城之内に掛けられたのと同じ200$がせいぜいだろう。
「ふぅん。その【剣闘獣】ってペガサスのところから盗まれたカードなんだってね。
「──っっ!」
遊戯王Rで武藤遊戯から敬意を向けられていた彼女だけど、私は彼女に敬意を払おうとは思わない。何故なら、人の命や尊厳を傷つけて手に入れたお金で孫にプレゼントを買うという発想を口に出してしまうところに生理的な嫌悪感を覚えるからだ。発想そものもの大概だけどね。
「……先攻は私からのようね。まずは《炎舞-「天璣」》を発動。デッキから《剣闘獣ラクエル》を手に加え召喚! カードを2枚セットしてターンエンドよ」
「ドロー、スタンバイ、メインフェイズまでに発動するカードはありますか?」
「ないわ」
「メインフェイズに入ります。モンスターをセット。カードを4枚セットしてターンエンドです」
マイコ・カトウのセットカードを予想してみよう。彼女は私がモンスターをセットした時に何も反応せず、エンドフェイズにもカードを発動させることはなかった。これによって直接攻撃を通しやすくするために採用される《強制脱出装置》《サンダー・ブレイク》《鳳凰の爆風》の可能性が消えた。
次に私がカードをセットした時、彼女は反射的に自分のセットカードに意識を向けた。私のデッキが《死のデッキ破壊ウイルス》を主軸に組まれていることは分かっているだろうから、目を落とした先のカードはそれに対抗できるカードなのだろう。【剣闘獣】に採用されるカードの中では《魔宮の賄賂》《神の宣告》が該当する。あとは採用している可能性は低いけれど《パリィ》とかかな?
もう1枚は判断材料が足りない。ただ前述のカウンターという可能性は低いだろう。もしカウンター罠を2枚セットしているのであれば、私がカードを伏せた時に1枚のセットカードにだけ意識を向けるなんてことはしないはずだ。
「ドロー! モンスターをセットして──「モンスターをセットした時に《黒蠍-棘のミーネ》を生け贄にして《死のデッキ破壊ウイルス》を発動します。チェーンはありますか?」──《魔宮の賄賂》を発動するわ」
「チェーンして《魔宮の賄賂》を発動します。チェーンはありますか?」
「っ、そういえば入れていたわね」
セットカードが私の予想通りなら通るはずだ。2枚目のセットカードが《魔宮の賄賂》《神の宣告》なら不利をを背負うことになるけれど、そもそも相性が良くないんだ。これくらいの賭けをしなくては勝てない。
ちなみに私の【ミーネウイルス】には《魔宮の賄賂》が1枚と《神の宣告》が3枚入っている。決勝トーナメントではこれまで使っていなかったけど、ウィラー・メット戦でデッキリストを公開しちゃったからな。それを把握しているんだろう。
「──ないわね」
「セットされたモンスターは《剣闘獣ベストロウリィ》と《剣闘獣ラクエル》ですね。どちらも攻撃力1500以上なので破壊されます。手札は《禁じられた聖杯》《剣闘獣ディカエリィ》《剣闘獣ウェスパシアス》2枚ですか。《剣闘獣ディカエリィ》と《剣闘獣ウェスパシアス》の攻撃力は1500以上ですから破壊されますね」
私なら《剣闘獣ベストロウリィ》を通常召喚して、相手に融合をチラつかせることで相手のセットカードに《奈落の落とし穴》が伏せられてないか確認する。確かに《剣闘獣ガイザレス》はフィールドにセットされたモンスターを融合素材に出来るからたらればの話になっちゃうけどね。
「カードを1枚セットしてターンエンドよ」
「ドロー、スタンバイ、メインフェイズまでに発動するカードはありますか?」
「ないわね」
「メインフェイズに入って《増援》を発動します。チェーンはありますか?」
「ないわ」
「《増援》の効果で《黒蠍-罠はずしのクリフ》を手札に加えます。《黒蠍-罠はずしのクリフ》を召喚。何かありますか?」
「カードのテキストを確認させていただけるかしら」
「どうぞ」
《黒蠍-罠はずしのクリフ》は準制限カードだから効果を知らないなんてことはないだろう。本当に確認したいのはテキストではなく、意外と忘れられやすい攻撃力かな。だとしたらセットカードに《落とし穴》か《奈落の落とし穴》がありそうだ。
「ありがとう。何もないわ」
セットカードの1枚は《奈落の落とし穴》だな。《黒蠍-罠はずしのクリフ》に《落とし穴》を使わない理由がない。
「バトルフェイズに入ります。《黒蠍-罠はずしのクリフ》でダイレクトアタック。戦闘ダメージを与えた《黒蠍-罠はずしのクリフ》の効果を発動。チェーンはありますか?」
「ないわ」
「《黒蠍-罠はずしのクリフ》で先ほどセットしたカードを破壊します」
「《禁じられた聖杯》ね」
「《黒蠍-棘のミーネ》を対象に《リビングデッドの呼び声》を発動します。《黒蠍-棘のミーネ》でダイレクトアタック。戦闘ダメージを与えた時に《黒蠍-棘のミーネ》の効果を発動します。チェーンはありますか?」
「ないわ」
「《黒蠍-棘のミーネ》の効果でデッキから《黒蠍-罠はずしのクリフ》を手札に加えます。メインフェィズ2に入ります。何かありますか?」
「ないわよ」
「カードを1枚セットしてターンエンドです」
これでマイコ・カトウの残りライフは1800。私のセットカードには《はたき落とし》がある。こちらの《魔宮の賄賂》を無効にしなかったことから《魔宮の賄賂》や《神の宣告》が伏せられていないことら分かっている。そして《死のデッキ破壊ウイルス》のドロー公開処理と《はたき落とし》のコンボの凶悪性は語るまでもない。
「ドローフェイズ。ドローしたカードは《剣闘獣ホプロムス》よ。攻撃力は700だから《死のデッキ破壊ウイルス》の効果では──「ドローフェイズのドローに対して《はたき落とし》を発動します。チェーンはありますか?」──ないわ。サレンダーよ」
「ありがとうございました」
3回戦、マイコ・カトウとの1セット目は私が勝利した。2セット目に向けてサイドデッキから何を入れようか。ひとまず《王宮の弾圧》は確定かな。
マリア・ハワード
遊戯王Rを読んだ時からマリエ・カトウの発言にモヤっとしていた転生者。前年の全米選手権三次予選で《森の番人グリーン・バブーン》《暗黒マンティコア》を使うマリエ・カトウをワンキル×2している。
天馬太陽に対するコスプレイヤー疑惑やカード・プロフェッサーに対する偽物疑惑がようやく晴れた。
ウィラー・メット
メンタルが回復したカード・プロフェッサー。傷口に塩を塗り込まれる運命が待ち受けている。可哀想を超えた可哀想。これもひとえに対戦相手の身内をトラッシュトークのネタにしたお前が悪い。
アイカワ
デッキが戻って来てニッコリ。
カードの精霊に関しては懐疑的。
マーク
デッキが戻って来てニッコリ。
デッキケースが血で汚れていてドン引き。
画面外でマリアにペガサスとのやりとりを全て白状した。
マイコ・カトウ
遊戯王Rでも武藤遊戯に掛けられた懸賞金に関して同じ内容の発言をしているお婆ちゃん。【剣闘獣】がペガサスの元から盗まれたものだと初めて知った。
ペガサス
現在はラスベガス発ニューヨーク行きの飛行機の中。そろそろニューヨークに到着する。
某世界的企業P
送り込んでいた産業スパイのお馬鹿な行動が原因でインダストリアル・イリュージョン社の株価が暴落した。仕方ないからタイミングで資金援助を申し出て影響力を強めようと考えている。
天馬太陽が使用したデッキは?
-
【トゥーン】
-
【サクリファイス】
-
マリアのコピーデッキ