踏み台になりたい転生者のお話   作:一 八重

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ペガサス視点の話になります。


月と太陽と決闘盤(はじめての親子喧嘩)(1/X)

 

 私がニューヨークの空の玄関口の1つ、ジョン F. ケネディ国際空港に到着したのは全米選手権大会決勝トーナメントの3回戦が終わったという報告を聞いた直後でした。

 

 

「お待ちしておりました。ペガサス様」

 

 

 プライベートジェットから降りた先に手配していた人員はおらず、代わりに天馬月行の姿がありました。彼らが私の側近を懐柔していたことは既に見抜いていました。この状況はおおよそ目論見通りの状況です。

 

 

「今回の全米選手権に関するトラブル。一部を除いて全て貴方が仕組んだことだとは分かっていマース。自分が何をしたのか、このままだとどうなるのか本当に理解しているのデスか?」

 

「もちろんです。しかし、いくら僕の心を読んだところでペガサス様はご納得いただけないでしょう」

 

「インダストリアル・イリュージョン社の評判を意図して貶める真似を繰り返しているのは、パラディウス社*1と繋がっている役員を合法的に排除するため。マリア・ハワードが不利になるようルールやトーナメント表を操作したのはデュエル・モンスターズを守るため。私を監禁したのはそれらの容疑者から外すためなのも分かっていマス」

 

「そこまで理解してくださっていながら、どうしてニューヨークに来てしまったのですか!?」

 

 

 世界経済のあらゆる市場の数%を支配する超巨大コングロマリット『パラディウス社』の手がインダストリアル・イリュージョン社に伸びていることは以前から分かっていました。

 

 その手が経営陣にまで及んでいることを承知していながら放置していたのは、パラディウス社と明確な敵対関係になれば常識的に考えてインダストリアル・イリュージョン社に勝ち目はないからです。この事はインダストリアル・イリュージョン社の次期役員としての教育を受けていた夜行や月光も承知していました。

 

 そして私がキース・ハワードに負けた頃から、パラディウス社の息の掛かった役員たちから私の退任やマジック&ウィザーズのカードデザインをライセンス化を提案する声がポツポツと出るようになりました。これを知ったペガサスミニオンたちは私にも内密にインダストリアル・イリュージョン社からパラディウス社の影響力を削ぐ計画を立て始めたようです。

 

 

「それは私がミニオン(子ども)たちの父親だからデース。私は子どもに守られるような恥知らずな(シンディアに顔向けできない)親になるつもりはありません。既にパラディウス社と敵対する覚悟も備えもはじめています。貴方たちが犠牲になる必要はないのデース」

 

「だとしても! 今日、夜行がマリア・ハワードに勝たなくては、私たちのデュエル・モンスターズが終わってしまうのです!」

 

 

 マリア・ハワードは上位世界の集合知をベースにしたデッキの構築論、ミレニアムアイに匹敵する観察眼、前世を含めて20年以上のキャリアを活かせる頭脳、相手の心理状態や思考ルーチンすら利用して勝利をもぎ取ろうとする貪欲な精神性を備えたデュエリストです。

 

 そんな彼女の実力の一端を理解できてしまったデュエリストから引退者が出てしまうのは、バンデット・キースの例からしても当然の流れでした。私は昨年、彼女が排斥される未来を回避するために偽名を使って全米選手権にエントリーしたのです。

 

 しかし、結果として私は彼女に敗れました。これによってマジック&ウィザーズの売り上げは低迷が予想され、ついにはルールの整備と改訂に伴ってマジック&ウィザーズをデュエル・モンスターズに改名することを余儀なくされました。

 

 これらを目の当たりにしたミニオンたちは、デュエル・モンスターズに改名されてから初めて開催される全米選手権でマリア・ハワードが優勝すれば、デュエル・モンスターズも終わってしまうかもしれないと危機感を抱いたようです。

 

 そしてミニオンの中でも特にマジック&ウィザーズと家族を深く愛していた天馬月行は、インダストリアル・イリュージョン社からパラディウス社の影響力を削ぐ計画と並行してマリア・ハワードに敗北を与えるための謀略を巡らせ始めました。

 

 パラディウス社と繋がっている役員を言葉巧みに誘導して私を軟禁させることでミレニアムアイによる計画の漏洩を防ぎ、双子の兄弟である夜行が責任を負わされることがないよう彼には「マリア・ハワードを倒さなければデュエル・モンスターズは生産中止になり、ペガサス様も助けられない」「ペガサス様からカードを託された私たちがマリア・ハワードに負けることは許されない」などと吹き込んだようです。夜行や他のミニオンを『月行の計画に巻き込まれた被害者』とすることで守ろうとしているようですね。

 

 

「彼女が全米チャンピオンになったとしてもデュエル・モンスターズが終わることはありません。今大会の彼女は去年のように圧倒的ではなく、相応の苦戦を重ねて勝ち上がっていマース。それに下がった人気は取り戻せばいいのデース」

 

「そんなものは希望的観測に過ぎないではありませんか!」

 

「そんなにも彼女を負かしたいのなら、月行が勝ち上がれば良かっただけの話デース」

 

「それは、彼が私の知らないカードを使ったからであって──」

 

「未発売のカードを使った身でそれを言うのはいかがなものかと思いマース」

 

 

 私は軟禁される前にマリア・ハワードの知識の中から《未来融合》《オーバーロード・フュージョン》《冥府の使者》《無幻泡影》《ライオウ》《皆既日蝕の書》などを公認大会の参加賞として配布されるパックの中に混ぜるよう指示を出しました。

 

 少なくない枚数が世に出回っている以上、それらを知らなかったから負けたというのは言い訳にすらなりません。

 

 

「では月行、私と1つゲームをしましょう」

 

「いったい急になにを……」

 

「月行にはこれを貸してあげマース」

 

「それは……?」

 

 

 私がキャリーバッグから取り出したのはデュエルフィールドと一体化した籠手のような機械。近い将来、デュエリストの必需品とまで呼ばれるようになる本来ならこの時代には存在しないアイテムです。

 

 

決闘盤(デュエル・ディスク)と呼ばれる何処でもデュエル・モンスターズで遊ぶことが可能になる画期的な発明品デース。今から、これを使って私とデュエルして貰いマース」

 

「あの、取り扱い説明書などは」

 

「ありまセーン! でも壊した際には2000万米$*2の賠償金が科せられるので気をつけて取り扱ってくだサーイ」

 

「にせんまっ……」

 

 

 未来のテクノロジーの結晶ともいうべき決闘盤の賠償金が2000万米$程度というのは破格ともいえる安さです。借りた決闘盤3機の内1機は賠償金を払う前提で解析に回しています。近い将来、海馬コーポレーションが開発するものよりも優れた決闘盤を売り出すことも可能でしょう。

 

 私は海馬瀬人のことを将来的にデュエル・モンスターズの発展に寄与するという点を鑑みても好意的には見れません。世界に4枚しかない《青眼の白龍》のうちの1枚を破り捨て、三幻神を盗難品だと知りながら大会の副賞同然に扱い、それらに対して何ら罪悪感を抱いていないところが気に入りません。

 

 

「ペガサス様?」

 

「準備は出来ましたか?」

 

「はい。しかし、デュエルをしてどうするのですか?」

 

「月行が勝てば私は素直にラスベガスに戻りましょう。しかし、私が勝てば月行の企みは全て私の発案だったことにしマース」

 

「そ、それはっ」

 

「それが嫌なら勝ちなさい。先攻はあげます」

 

 

 月行のデッキが【魔導書】であることは分かっています。決勝トーナメントの1回戦でアイカワに負けたのは、知識不足とアイカワの【魔導書】対策がハマったからです。

 

 

「ドローフェイズからメインフェイズまで進めます。《魔導書士パテル》を召喚し効果を発動。デッキから《グリモの魔導書》を手札に加えます。《魔導書の神判》を発動。《グリモの魔導書》を発動。デッキから《セフェルの魔導書》を手札に加えます。手札の《ルドラの魔導書》を公開し、墓地の《グリモの魔導書》を対象に《セフェルの魔導書》を発動。《セフェルの魔導書》の効果で《魔導書廊エトワール》を手札に加えます。《魔導書廊エトワール》を発動。《魔導書士パテル》を墓地に送り《ルドラの魔導書》を発動。デッキから2枚ドローします。カードを4枚セットしてエンドフェイズに入ります」

 

「ノーリアクションデース」

 

「《魔導書の神判》の処理を行います。デッキから《グリモの魔導書》《アルマの魔導書》《魔導書の神判》《ゲーテの魔導書》を手札に加え、デッキから《教導の聖女エクレシア》を守備表示で特殊召喚します。特殊召喚された《教導の聖女エクレシア》の効果を発動。デッキから《教導の騎士フルルドリス》を手札に加えます。ターンエンドです」

 

 

 淀みない動きから察するに相当量の研究を重ねたのでしょう。あっという間に生半可な未来のデッキよりも強固な盤面を作り出して見せました。

 

 それにしてもソリッド・ヴィジョンに映し出された《教導の聖女エクレシア》はシンディアには劣りますがキュートです。彼女を今から破壊しなければならないと思うと心が痛みマース。

 

 

「ドローフェイズ、スタンバイフェイズ、メインフェイズ。私は手札から《アンデット・ワールド》を発動します。チェーンはありますか?」

 

「効果を教えてください」

 

「お互いのフィールドと墓地のモンスターの種族をアンデット族に変化させ、お互いにアンデット族モンスター以外は生け贄召喚出来なくなる効果を持ったフィールド魔法デース」

 

 

 ここで【魔導書】で最も警戒すべき《ゲーテの魔導書》を使わせます。仮に使わなかった場合は《ゲーテの魔導書》の発動条件を満たせなくなります。

 

 

「くっ、……《ゲーテの魔導書》を発動します。墓地の《ルドラの魔導書》《グリモの魔導書》《セフェルの魔導書》を除外してフィールドのカード1枚を除外します。チェーンはありますか?」

 

「ありまセーン」

 

「《アンデット・ワールド》を除外します」

 

「ではデッキ側のセットカードを対象に《ナイトショット》を発動しマース! このカードの対象となったカードはこのカードにチェーンできまセーン。何もなければ対象となったカードを破壊しマース。チェーンはありますか?」

 

「……チェーンはありません。《ドラグマ・パニッシュメント》が破壊されました」

 

「では《ライオウ》を召喚しマース」

 

「効果を教えてください」

 

「このカードが表側表示で存在する限り、お互いのプレイヤーは効果でデッキからカードを加えられなくなりマース。チェーンにならない特殊召喚が行われようとした時、このモンスターを生け贄に捧げることで特殊召喚を無効にして破壊できマース」

 

 

 このデッキはマリア・ハワードが前世で【魔導書】と戦うために作ったデッキを再現し、この世界の禁止制限に合わせて調整したものになります。かつて相手のメタデッキを用意して戦うことを常としていた私にとっては非常に扱いやすいデッキです。

 

 

「バトルフェイズに入りマース。《ライオウ》で《教導の聖女エクレシア》に攻撃デース」

 

「《教導の聖女エクレシア》は戦闘破壊されます」

 

 

 ソリッド・ヴィジョンに映し出された《ライオウ》の放つ眩い雷撃が《教導の聖女エクレシア》を飲み込み破壊します。

 

 

「メインフェイズ2。カードを2枚セットしてターンを終わりマース」

 

 

 月行の手札には既に《ライオウ》を除去できる《ゲーテの魔導書》が握られていますが、墓地の「魔導書」カードは今は1枚しかありません。スタンバイフェイズに《王宮の鉄壁》を発動することで止めてさせて貰いマース。

 

 

「ドローフェイズからメインフェイズまで進めます。その間に発動するカードはありますか?」

 

「スタンバイフェイズに《王宮の鉄壁》を発動しマース。このカードが表側で存在する限り、お互いのプレイヤーはカードをゲームから除外出来まセーン」

 

「……メインフェイズ。手札の《ゲーテの魔導書》《魔導書の神判》《アルマの魔導書》を公開することで《魔導法士ジュノン》を特殊召喚します。チェーンはありますか?」

 

「ノープロブレム!」

 

 

 《魔導法士ジュノン》の自身を特殊召喚する効果は起動効果に分類されるため《ライオウ》では止められません。しかし《王宮の鉄壁》の効果で《魔導法士ジュノン》の効果は発動できない状況にあります。このままバトルフェイズに入って《ライオウ》の戦闘破壊を狙ってくるでしょう。

 

 

「バトルフェイズに入ります。何か発動するカードはありますか」

 

「ありまセーン」

 

「では《魔導法士ジュノン》で《ライオウ》を攻撃です」

 

「ダメージステップまでに発動するカードは?」

 

「ありません……まさかっ!?」

 

「まさかデース! ダメージステップに《禁じられた聖槍》を《魔導法士ジュノン》を対象に発動しマース。これによって攻撃力が800ポイントダウンした《魔導法士ジュノン》の攻撃力は1700。攻撃力1900の《ライオウ》には敵いまセーン」

 

 

 ソリッド・ヴィジョンで空中に投影された《魔導法士ジュノン》の放った魔法攻撃と《ライオウ》の放った雷撃が空中で衝突し、一瞬の硬直の後に雷撃が魔法攻撃と《魔導法士ジュノン》を焼き払った。ド派手なエフェクトは私好みではありますが、アニメーションのせいでデュエルのテンポが悪くなっているようにも感じますね。

 

 

「《魔導法士ジュノン》は戦闘破壊され200ポイントの戦闘ダメージを受けます。私はメインフェイズ2は行わずターンを終了します」

 

 

 このターン、最初のターンにセットしたカードを使う素振りはありませんでした。つまりは私のアクションに依存した発動条件を持ったカードなのでしょう。手札に残された情報のない2枚のカードも気になります。

 

 私はこのデュエルでマインドスキャンを使用するつもりはありません。子ども相手にズルをして勝ってはシンディアに呆れられてしまいますからね。

*1
初代遊戯王世界において、あらゆる市場の数%を支配する超巨大複業企業。あの海馬コーポレーションですら足元に及ばない資本力を持っている。詳しくはドーマ編をチェック!

*2
2000年当時の為替レートは1米$=だいたい109円80銭なので約21億9600万円。数十年は先の未来である5Dsのデュエル・ディスクであることを考えると破格の安さ。




対戦描写の途中ですが区切りました。

マリア・ハワード
無自覚にやらかしていた人。
王国編に参加するために全米選手権に出場したわけですが、既にバンデット・キース以上に多くのデュエリストの心をへし折って再起不能にしている。彼女からすれば敗北は緩やかな死を受け入れるのと同義であるため城之内克也戦以外で手加減出来ないという事情もある。

天馬月光
全米選手権編の裏で暗躍してた人その1
目的は『潜在的敵対企業と内通している役員たちの排除』と『デュエル・モンスターズを存続させるためにマリア・ハワードに敗北を与える』の2点です。前者に関しては実現は時間の問題ですが、後者にマリアの【ミーネウイルス】対策を万全にしてトーナメントに参加したのにアイカワの【未来オーバー】に負けた。
全米選手権の大会運営責任者でもある。持ち場は部下に任せてペガサスが会場入りするのを止めに来た。

ペガサス
全米選手権の裏で暗躍してた人その2
軟禁されてたはずなのに暗躍してた人。
全米選手権に関する活動の主目標は『マリア・ハワード1強状態の解消』と『子どもたちのしでかしたことの責任を取ること』の2つ。前者はシェパードやカイルが対等と言える実力を発揮したので解決した(とペガサスは思っている)が、後者に関しては大会責任者でもある月光を説得しなければ介入すら難しい。
月光の心を覗くまでは月光たちの目的を『私に勝ったマリアへの復讐』だと誤認していた。誤解してなければ共闘路線もあった。

天馬夜行
月光とは本来の時間軸より数年早く和解している。
月光からは『マリア・ハワードに勝てなければデュエル・モンスターズは販売中止になる』『このままではペガサスミニオンはバラバラになる』『私たちはペガサス様からデュエル・モンスターズの未来を託された』と聞かされていた。
マリコからカードの盗難に関する話を聞かされ、月光が夜行を『月光に騙されていた被害者』という立場に追いやることで守ろうとしていることに気がついた。月光を破滅させないためにはマリア・ハワードに勝つしか手段は残されていないと考えている。

インダストリアル・イリュージョン社(上層部)
ネゴシエーション最強格な名誉会長におんぶに抱っこな会社の重役たち。経営者としては優秀なのだが、長い物には巻かれろを信条とする者が多く、パラディウス社からの介入を歓迎している節がある。
ここ2年間の度重なる不祥事の責任を問われることが確定している。

天馬太陽が使用したデッキは?

  • 【トゥーン】
  • 【サクリファイス】
  • マリアのコピーデッキ
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