Fate/firstborns wish 作:お兄ちゃん
「ゲホっ、ガハっ!」
一歩、また一歩と進むたびに、疲労と痛みに襲われる。
それも当然だろう、歩む青年の身体には、己から突き出た刃に蝕まれているのだから。
「が、ア……」
歩けない、歩きたくないという思いが支配する。
恐怖心など、未練など。
捨てたと思っていた、
なのに、だと言うのに
「なんで……何でだっ!」
この足は、動かない。
手も震えている。
「ハハ、それで良いんだよ」
「ッ !?」
声が、した。
誰よりも気に食わなくて、そして誰よりも……。
「……
「よ、散々な状態だなァ士郎」
お前が言うのか、と言いたくなら衝動を飲み込んで、男を見据える。
なぜなら、この男の身体の方が明らかに死に体であるからだ。
至る所に刻まれた火傷が、それを証拠付けている。
「お互い様って顔してんな」
「……何しに、来た」
「何って、そりゃお前決まってんだろ」
「お前を助けに来たんだぜ」
「ッ……!」
嗚呼、
どうして、この男はここまで俺に味方する。
「信用、できるかっ」
「酷えなァ……ま、信用されまいが関係ねぇか」
そう言うと、火傷の男は俺の横を通り過ぎて、その先へと足を進める。
「んな……」
「ハ、聖なる杯ってのも、汚染されてりゃこのザマか。報われねぇな」
「ま、待てっ!」
引き止めようとする己の声を、男は気にも留めていない。
……何かの光景と、男の後ろ姿が重なって、ぼやける。
「っ」
「……足が竦むんなら帰れ、テメェには過ぎた役目だったってことだ」
「セイギノミカタを捨てた男には、な」
その声音は、どこか嬉しそうに聞こえる。
……この声を、俺はっ。
「ライダー」
男の合図と共に、一度は別れた筈の存在が、己を抱き抱える。
「あなたの言葉に従うのは癪ですが、これも桜の為です」
「それで十分だ」
不遜なライダーの物言いに、カラカラと笑い返す男。
……お前はっ、あんたは一体!
「で、お前の方は何にも言わなくて良いのか。チビ」
「は……?」
「……何よ。人が折角、家族水入らずの空間ってものを尊重してあげたのに」
そう、男に言い返すのは。
俺が、
「イ、リヤ……?」
「ええ、そうよシロウ」
イリヤだった。
白い衣服に身を包むその姿からは、ある種の神聖さすら感じられる。
「人相最悪の火傷男が兄って、相当アレなんじゃないかしら」
「ハ、その言葉そっくりそのまま返してやろうか」
「は、な、どう、して……」
妹のように感じていた少女と、ともすればアーチャーよりも気に食わないと感じていた男。
そんな2人が、並んでいる。
……男と、遥か昔の、思い出が、重なって……。
「なんだ、不思議か?」
「元々協力関係にあったんだから、そこじゃないでしょ」
「あぁ? あー……」
「……黙ってたってしょうがないだけじゃないかしら」
なんで、どうしてという言葉が、浮かんでは声にならないまま消えていく。
何より、己がこの男に対して感じているこの感情、は……!
「
「それとも……いや、時間もねぇから省く」
「俺たち……いや俺か、俺がお前を助ける理由……」
「そんなもん、決まってる」
男が今一度、こちらを見る。
「ぁ……」
「 俺は、お前のお兄ちゃんだからなァ」
兄。
あの、大火災の時に、己を守って焼けた筈の
「兄貴は、弟を助けるもんだろ?」
「『一度でもお兄ちゃんなんて呼ばれたら、兄貴なんだ』か……良い言葉だ、使わせて貰う」
「衛宮士郎、お前はお前の為に生き延びろ。これは願いじゃない、命令だ」
「私も、ね? あなたのお姉ちゃんなんだから」
「結局割り込むのかよ……ほら、ライダー。さっさと連れて行け」
「……ええ」
その言葉と共に、己が彼等から遠ざかって行く。
「待っ……てくれ……!」
己を、俺を見つめるその表情は
どこまでも、優しい、微笑みだった。
「ぁ……」
「兄さん!」
「なんだ?」
「何で兄さんは、俺のことを守ってくれるんだ?」
「はあ? そんなのわかりきったことじゃねーか」
「一度でもお兄ちゃん、なんて呼ばれたらもう兄貴だろ?」
「それで、兄貴ってのは弟を守る存在だからな!」
「……安心しろよ、お兄ちゃんはずっとお前の味方だ」
そうして後に。
弟はセイギノミカタに拾われて、それ以前の記憶を失うこととなり。
兄はハラグロシンプに拾われて、それなりの生活を送ることとなる。
「感動の再会なのに、泣かなくて良かったのかしら」
「わざと言ってんだろ。……お前こそ、こっちに来て良かったのかよ」
「それこそわざとらしいって言うんじゃない」
ほんとに同い年とは思えんくらいちっせぇ癖によく言うよ。
ま、それくらいドライな方が別れとしちゃ丁度いい。
「弟の不始末を片付けるには、ちと過剰な気もするが」
「ほんとに壊すつもりだったの?」
「当然、二言はねぇ……が、火力に不安はあったなァ」
ああやって言ってきたが俺だって燃え滓だ。
俺の全てを薪に焚べて燃やし切れるか……ってとこか。
「……じゃあ」
「あん?」
「もっと、良い方法があるんだけど、一緒に来る?」
「へぇ」
……聖杯の型を作ったとか言うアインツベルンならではの方法か。
「いいね、乗った」
「聞かないの?」
「聞こうが聞かなかろうが、結末はもう変わんねぇよ」
俺は燃え滓で、こいつは寿命僅かな死に体だ。
有効活用は大事だろ?
「ん」
「あ?」
手を差し出してくる。
何の真似だぁ?
「手、繋いでくれる?」
「……汚ねえが」
「あら、そんなの気にしないわ」
「そうかい」
向けられた真っ白な手に、俺の真っ黒な手を合わせる。
「……ざらざらね」
「ほっとけ、ほとんど焼けてんだ」
「ふふ、でもあったかい」
「……燃え残りだからな」
そうして、ボロボロの兄と小さな姉は、歩みを進める。
「真っ直ぐ歩いて、手を繋いでいる間は大丈夫だから」
「あいよ。……ってか、どれくらいかかりそうだ?」
「中に入って、聖杯を閉じるだけ。やることは簡単よ」
「……でも、その後は……」
「そうかい」
「……この先、どうなっても」
「……手、握っててくれる?」
「ハ、それしかもうできねぇみてぇだからな。離せって言われても握っといてやるから覚悟しな」
「そっか」
光の方へと、歩いて行く。
こいつとは、戦争前から手を組んでたな。
……さっさと裏切るつもりが、それなりに長い付き合いになったもんだ。
「そうだな、小さい頃の弟の話でもしてやるよ」
「! ほんと?」
「ああ、あんな正義マシーンになる前の 」
「それは 」
「 」
世界から、2人分の声が掠れて行く。
彼等は、長い旅に出る。
されど彼等に、その旅路に後悔はないのだろう。
「取引がしたい?」
「あぁ、お前の聖杯戦争に協力してぇんだ」
それは、いつかの光景。
「わざわざアインツベルンに、そんな話を持ちかけるなんて……どういうことかしら」
「簡単だよ」
古い城にて出会った、2人の長子の物語。
「 俺の目的は、とある男の幻想を打ち砕くこと」
「……」
「その為ならどんな命令でも従ってやる」
「……それは、私に利があるの?」
「あるだろうさ、きっとな」
「 衛宮、切嗣」
「!」
「奴が遺した
「何のために?」
「さて、何のためだと思う?」
「復讐か、はたまた不快だったからなのか。そこら辺はご想像に任せるよ」
「……で、どうする。必要なら契約だってしていい」
「……」
……士郎、お前には悪いが、お兄ちゃんとしてその夢は追わせられない。
だから、お前が衛宮である限り俺はお前と対峙するよ。
思いつくままに結末書いちゃったので、続きは未定。
ただこのお兄ちゃんをプリヤとかHF以外のルートに突っ込ませたシーンを書いてみたいとも思う、悩みどころ。